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神代 コウ

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宮殿側の動き

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 事件の起きた日から、今日この日まで変わらず起きていることを振り返るとアルバという音楽の街にとってあまりにも日常的であり、他所の国や街に住む者達にすら周知の事実であった音のシャボン玉と、宮殿にも届いていた謎の演奏だった。

 式典の当日は街全体が音楽を控え、演奏自体は街から消えていたが音のシャボン玉というものは消えることなく、その数を減らしてはいたものの漂っていた。

 そして事件で動揺する宮殿内部の者達の心すら落ち着かせるように聞こえていた音楽は、式典の翌日から流れていた。その音楽だけは、その日から今までアルバにいる者達の日常の一部として当たり前のように馴染んでいた。

 音楽家の者達曰く、犯行現場となっていた宮殿からは距離のあるところで演奏されていたものであったらしく、犯人との繋がりがあるかどうかは怪しいものだったが、ブルースが狙われた事により犯人が音に関する何らかの方法で犯行を行っていたことが明らかになった為、決して無視できない要素となった。

 音とは空気の振動によるもの。そして何より、ベルヘルムが殺害されたという現場に訪れていたケヴィンが仕掛けたカメラにより、映像を分析したところ微かな振動が記録されていた事が分かった。

 そこで宮殿側では、演奏の場所を突き止める為音楽家達の力を借りようとしたのだ。現状、ベルヘルムは死亡しブルースらは単独でアルバの街へ。宮殿に残っているのは、協力を要請すれば応じてくれそうなアンドレイ一行と、それとは反対に説得が一筋縄ではいかないであろうリヒトル一行だけだった。

 元々独自に宮殿で起きた殺人事件について調べを行っていたアンドレイは、オイゲンから話を持ち掛けられると、新たに判明した事柄と宮殿の外を調査できる事もあり、二つ返事でこれを承諾。

 最早教団側の監視も必要ないと判断され、アンドレイは自身の護衛達だけを連れてアルバの街へと調査に向かったようだ。

 もう一人の音楽家であるリヒトルの方は、依然として大きな動きを見せる様子はないようで、協力を持ちかけた際も何故我々が事件の解明に協力しなければならないのか、勝手に監禁紛いの指示を出しておいて必要になれば力を貸せなど都合が良過ぎるのではないかと、教団側の人間を一蹴し当初の予定通り、式典の後は数日間の休息をアルバで過ごした後、自国へ帰るとだけ言い残し宮殿に居座っているといった状態らしい。

 現在、身勝手な行動を取られぬよう教団側の護衛に見張らせてはいるものの、リヒトルらの協力は得られないだろうと判断したオイゲンらは、他に音感に優れた者を探したところ、宮殿へ助けを求めに来た音楽学校の学生はどうかという話になり、クリスに演奏が聞こえてくる場所の特定を頼む。

 そもそもクリスは、レオンらと共に演奏が行われている現場を一つ知っている。それがグーゲル教会であった。他の場所に心当たりはないかと尋ねるも、彼は自分には優等生であるレオンやジル達のような絶対音感や、音だけで距離を当てられるような才能はないと、自分では演奏がどこで行われているのかを特定できないと話した。

 街に事態を把握している学生が三人いると伝えるクリスだったが、彼はマティアス司祭に合わせてくれと言い出し、オイゲンは何も知らないであろう彼に親同然であるマティアスの身に何が起きたのかをその場で告げることができず、自分の目で事実を受け入れて欲しいと、教団の者を使わせ留置所として使っている一室へクリスを連れて行かせた。

 それ以来、クリスは彼らの前に姿を見せていない。だが彼から演奏している場所を突き止められる人物の情報を得たオイゲンらは、そんなクリスの願いでもある友人の救出の為、いくつかの部隊を編成し街へと送り出した。

 その部隊の編成の中に、ツクヨとアカリもいたのだ。元々戦力として心強いツクヨはアカリと共に、先に向かったシンやミアを心配し、本来の目的である学生らの捜索に加え仲間の安否を確認するといった裏の目的を抱えて街へと繰り出していった。

 しかしそうであれば、ツクヨ達が向かうべきはシン達の向かったグーゲル教会の方ではないのだろうか。今彼らがいるのは、グーゲル教会とは反対の方角にある二クラス教会。一体彼らは何を思って、仲間達のいるであろう方角と逆の方へやって来たのか。

 それは幸か不幸か、宮殿を出てすぐに出会す事となった人物による影響だった。
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