World of Fantasia

神代 コウ

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戦いの前の下準備

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 彼もそれに気がつき、無駄な心配をさせまいといつもの様子で強がって見せていた。当の本人が大丈夫だと気丈に振る舞うのを見せられたら、これ以上の心配は無粋だとバルトロメオとブルースも、彼の調子に合わせ境界へ向かう決意を固める。

 「なぁ、どうせ誰もいねぇんだったらよぉ。店で使えそうなモンでも貰っていこうぜ」

 「よせよ、窃盗になるだろうが」

 「大丈夫だって!どうせ誰も見てねぇしいねぇからよ。それにわざわざ足を運んだってのに、客人をこんな目に合わせてんだ。それなりの“お詫び“を頂かねぇとな!」

 返事も聞かずにアイテムショップへと駆け込んでいくバルトロメオ。ブルースもこの状況なら構わないだろうと、ゾルターンを宥めバルトロメオの後を追って店へと入っていく。

 建物の中も外と同じで、普通の人間の姿は勿論、気配すら感じられない。無人の店舗で必要なアイテムを物色していくバルトロメオ。何食わぬ顔で物色する彼の姿を見て、全く何も持っていかないのも、これから起こる戦いの準備と思い少しは手にしておかないと不安に感じたのか、二人も謎の人物らとの戦いに備え道具を揃えることにした。

 ある程度準備を整えた二人と、たんまりアイテムを袋に詰め込んだバルトロメオ。そんなに沢山何に使うんだと問われ、あれこれ起こりもしないような事を並べ連ねる彼に、荷物になるから少量に留めるよう促すゾルターン。

 それならこの場で使っていくと、あれこれアイテムを服用するバルトロメオの勇ましさというか無神経さが羨ましいといった様子で、ゾルターンは頭を抱える。

 十分に道具を揃えた一行が店の外へ出ると、そこである変化が訪れたことに気がつく。ブルースとゾルターンはすぐにその変化に気がつき、入店前との違いについて周囲を確認しながら周りに敵がいないかを探し始める。

 「ん?どうした、二人とも」

 「馬鹿、周りを見てみろ・・・」

 「あぁ?何だってんだぁ?一体」

 周りを気にして道中を移動して来なかったバルトロメオには、アルバの街の建造物が全部同じに見えていたようでその変化には気が付かなかったようだ。

 「街の景色が変わってる・・・?いや、店の周りの雰囲気が入店前と違っている・・・」

 店に入る前と出た時とで、周りの建物や街並み、道路や街灯の位置など目に見える範囲の景色がごっそり入れ替わっていたのだ。変化を指摘されてもイマイチピンときていない様子のバルトロメオだったが、周りを見渡す段階で後ろを振り替えた時に、突如として大きな声を出して驚いた。

 「ぅおッ!?店がッ・・・!?」

 彼の声に驚かされた二人が後ろを振り返る。するとそこには、先程まで一行がいた店がなくなっており、代わりにアルバの街並みで飽きるほど見てきたような、どこにでもある民家がそこにあった。

 「どどどっどういうこったコレは!?」

 「ゾルターンッ!」

 ブルースの声で建物の屋上へと飛び上がっていったゾルターンは、そこから周囲を見渡し見えてきた景色の様子を二人に伝える。

 「教会だ!教会が見える・・・!しかし何故・・・?」

 「俺達は既に敵の術中にいる。向こうの都合のいいように状況が書き換えられているのだろう」

 「都合のいいようにって・・・こんな規模で変わるのかぁ!?」

 「要するにここは術者の世界だ。とっとと教会に来いとでも言いたいのだろう。ゾルターン!教科の方向を。お望み通り行ってやろうじゃないか。期待通りの展開にはならないだろうがな・・・」

 不穏な空気感にブルースの額に汗が浮かぶも、彼は不敵な笑みを浮かべながら血湧き肉躍るといった様子を見せるブルース。元々の人間の肉体を失ってから戦闘も行えるようになった彼は、その性格にも僅かながら依代の影響を受けているようだ。

 すると、建物の屋上から教会の様子を眺めていたゾルターンが、教会で起きている出来事に目を止める。そこではまるで、中で何かが激しく動いているかのような、内部の灯りの揺らめきを捉えていた。

 「ん?・・・何だ?」

 暫くその様子を眺めていると、なかなか降りてこないゾルターンを心配したブルースが声を掛ける。教会の中に誰かがいると答えると、バルトロメオはそれを謎の人物達ではないのかと問いかけるも、窓の明かりに注視しているとたまに何度か光を強めるような点滅が見られる。

 まるで中で戦いでも起きているのかという想像が脳裏に過ぎると、それを読み取ったかのように、何かの衝撃が教会の一枚の窓を割った。

 「いやッ!教会の中で誰かが戦っているぞ!」

 ゾルターンの言葉に驚きを見せたのはブルースだった。彼は自分達だけが何らかの術中にハマっているものとばかりに思っていたようだが、もしゾルターンの言葉の通り別の何者かが教会で謎の人物や霊体のバッハと戦っているのだとしたら、やはり自分達だけが特定の空間に閉じ込められている訳ではなくなるからだった。
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