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神代 コウ

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犯行手口

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 謎の人物を束ねる親玉の正体に、動きが鈍るブルースの姿を見たゾルターンは、目の前の敵を適当にあしらうとすぐブルース側へと向かい彼の援護を行う。

 「大将!しっかりしてくれよ。コイツがあの“バッハ“だってのは驚きだが、ならコイツも霊体なのか?」

 「いや、そんな筈はない。もし彼が本物なら、もう数十年も前に亡くなっている。魂が現代にまで生き続けているなどということは・・・。それにあの姿・・・妙だ・・・」

 ブルースはチェンバロと共に現れたバッハによく似た何者かの姿に疑問を抱いているようだった。だがゾルターンにはそれが分からず、戦地で呆けてしまう程の衝撃を受けているブルースに、考え事なら後にしてくれと言いながら取り巻きの謎の人物達を蹴散らしていく。

 しかしここで、グーゲル教会にて行われていた戦闘と同じ展開が訪れる事になる。三大海賊でもあるチン・シー海賊団の主戦力筆頭でもあるハオランの武術に引けを取らない程の戦闘力を見せたニノンが、容易く無力化されてしまうほどの攻撃がゾルターンを襲ったのだ。

 ブルースを庇うように戦っていたゾルターンは、突如心臓に走る微かな違和感に気がつく。その直後、彼もまた胸を抑えながら倒れてしまった。

 「ッ!?」

 謎の人物の親玉の姿に疑問を抱いていたブルースだったが、目の前でバランスを崩し倒れるゾルターンの姿を見て我に帰る。倒れるゾルターンに群がる者達を一蹴し、その身体を抱えて後退するブルース。

 「ゾルターン!?どうした、しっかりしろ!」

 「し・・・心臓がッ・・・!」

 「心臓・・・ッ!?」

 何か心当たりでもあるのか、ブルースはゾルターンを抱えたまま走り出し、教会の入口から外へと飛び出していった。外では依然、バルトロメオが群がる謎の人物達を退けていたが、その数の前に流石の威勢もなくなっていた。

 「バルトッ!一時撤退だ!着いてこいッ!」

 「お・・おぉッ!?一体中で何があったんだぁ!?」

 理由を語ることなく街中へと消えていったブルース一行。道中、謎の人物に襲い掛かられるも、ブルースは後続のバルトロメオを信用し目もくれずに二クラス教会から離れていく。

 そして後を追うバルトロメオが、他の者達に二人を追わせないように殿を務め謎の人物達を次々に始末していく。

 ある程度離れたところで、ブルースはゾルターンの容態を見ながら物陰へと入り姿を隠す。教会で謎の攻撃を受けたゾルターンだったが、今は落ち着きを取り戻していた。

 そこへ遅れてやって来たバルトロメオが、教会で一体何があったのかとブルースに問う。

 「突然驚いたぜぇ。大将はピンピンしてるし、ゾルターンの野郎は死にそうな顔してるしよぉ~。一体何があったんだぁ?」

 「間接的な心臓への攻撃・・・。俺を殺そうとした時と同じだ」

 「はぁッ!?んじゃぁあの教会に犯人がいたってのかぁ!?」

 「あれが本当に本人だというのであれば・・・。その可能性は高いだろうが・・・」

 はっきりとしない物言いに、あまり賢い方ではなかったバルトロメオには何が言いたいのか伝わっていなかった。だが分からないのはブルースも同じことだったのだ。

 現在のブルースのように、霊体だけとなってしまったのなら、生前の意識を保ったまま現世に留まるには依代となる入れ物が必要になる。

 簡単に言うところの、魂だけとなってしまった生物は、何かしらの魂の入れ物を得なければ自我を保てず成仏するか、モンスターとなってしまうとWoFの世界では広まっているからだ。

 これはブルースが霊体となって生きることを決めた教団の教えでもあった。剥き出しの魂は、物と同じように入れ物から取り出され外気に放置されることで劣化や損傷してしまうという。

 故に数十年前に亡くなっているバッハが、依代となる実体もなく長期に渡り現世に留まり続けているなどあり得ないのだ。しかし、教会で見たバッハの姿からはモンスター化しているようには見えなかったのだ。

 それこそ、これまで何かしらの依代を経て現世に留まっていたかのように、その姿は生前の人の姿を保っていた。そして何よりブルースを悩ませたのは、その人物がアルバで最も有名な、“あの“バッハであるのかどうかという点だった。

 彼の銅像や肖像画はアルバの街にいくらでもあり、この世界で音楽家を目指すのであれば教材でもその顔や姿は何度も目にするはず。しかしそれらは年齢もバラバラであり、想像で描かれた紛い物すら多く存在するほど。

 尚且つ、バッハという一族は現代でも複雑な家系であり、同名の人物も存在していた為、どれが誰の遺品であるのかさえはっきりとしないものが多く存在していた。

 故に現代の有名な音楽家であるブルース・ワルターであろうと、あの人物が本当にアルバで最も有名な、音楽の父と知られるバッハであるのか確証が持てなかったのだ。

 「何だよ、結局犯人かどうかは分からねぇってことか?」

 「だが手口は同じだった。犯人は“音“で殺人を行なっていた。音とは振動であり、摩擦や衝突によって発生する。どうやっているのかは知らないが、犯人はその音の振動を利用し、対象の心臓に対し死に至る程の負荷を与えていたことになる」

 「だから教会から逃げてたのか!音の届かない場所へ!」

 「あぁ。だがそれも賭けだったがな。何しろ音なんてものは、人間が感知できる範囲に限界がある。それに宮殿の奴らの魔力感知にすら掛からなかったってことは、スキルや能力で確かめる術も無いって事になる。つまり、どこまでが犯人の攻撃範囲か分からないって事だ・・・」

 少なくともゾルターンが今無事であることから、先程の攻撃の範囲から抜け出している事だけは確かだ。しかし、いつの間に攻撃をされていたのかさえ判断できないとなると、非常に厄介な能力の持ち主が相手という事になる。

 「俺の判断で・・・すまなかった。すぐに宿にいる護衛達と合流してアルバを出発しよう。これ以上こんなところには居れん」

 「よっしゃ!じゃぁ俺が一走りして迎えを寄越すよう伝えて来てやる。どうせゾルターンもすぐには動けねぇんだろ?

 朦朧とする意識の中、バルトロメオの挑発に応えようと強がるゾルターンだったが、身体の内側を直接攻撃されるダメージは、想像以上に身体に堪えていたらしく起き上がることも叶わなかった。

 「無理をするな。今はバルトロメオの言う通り、大人しくしておけ」

 「すぐに戻ってくるから待ってろ!」

 そう言ってその場を離れていったバルトロメオを目で追いながら、ブルースは他にも不可解なことがあると頭を悩ませていた。

 「しかしそれにしても、何故街にまで人がいない・・・?夜中とはいえ明らかに不自然だ・・・」

 ブルースにとってアルバがどうなろうと知ったことではなかったが、ここまで宮殿以降誰一人まともな人間を見かけないことに疑問を抱いていた。街全体に異変が起きていたのなら、自分達が連れてきた護衛達が何の行動も起こさなかった事にも疑問が残る。
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