1,369 / 1,646
脱出する者と救援に向かう者
しおりを挟むしかしケヴィンの話では、街へ向かわせたカメラは何らかの妨害を受けて引き返させるを得なかったと言っていた。彼自身もそれを何かしらの妨害電波ではないかと予想していたようだが、それなら何故今になって通信が届いたのだろうか。
「ちょっと待てよ。シンが何だって?アンタさっきは電子機器も宮殿の外へは行けなかったって言ってなかったか!?」
「私だって分かりませんよ。でもシグナルはありました。犯人は電子機器を破壊することはしていないようです。つまり妨害できる範囲には限りがあるのか、または例外があるのか・・・」
これまで宮殿の外に向かった警備員や護衛は戻って来ていない。しかし、ケヴィンが受け取ったというシグナルは確実に街の方から来ている。つまり二人は無事にアルバの街へと向かえた事になる。
宮殿を取り囲む謎の人物達を退ける実力があるのなら、宮殿から街へ向かうことはできるようだ。問題はその後。壁を一つ乗り越えても、その先にある何かによって彼らは先へ進むことも戻ることも許されない状況に陥ってしまうのか。
「じゃぁアタシも行く。アンタ、戦えないんだろ?」
「ですが、アカリさんやツバキ君は・・・」
「あの二人には私が付いてます。それに貴方がここへ私達を連れてきてくれたのは、宮殿で最も安全な場所だからでしょ?ミアもこっちのことは任せてくれていいからね」
ツクヨの後押しもあり、ミアはケヴィンの後に付いていく事になる。ケヴィンはオイゲンの方を見ると、勝手な行動を取ることを容認してくれるかどうかを目で訴える。
「既に何人か宮殿を出ていってしまっている。最早ここに止まらずとも、お前達が犯人であるとは思っていない」
「感謝します、オイゲン氏。ニノンさんの事は任せて下さい」
オイゲンの信頼も得たところで、ケヴィンとミアもまた宮殿を飛び出し、街の方から送られてきたシグナルを辿り、街の方へと向かう。だが予想していた通り、宮殿から街へ向かおうとすると、シン達の時と同様に謎の人物達が行くてを阻むように二人の前に現れた。
「やっぱりそう簡単にはいかねぇか・・・」
「思っていた以上に数が・・・。あの二人もこれを乗り越えられたという事でしょうか」
ミアとケヴィンの前に現れた謎の人物は、シンとニノンが宮殿を出る時に戦った数の倍以上の人数で、二人の前に立ち塞がる。何故襲い掛かってきた数が違うのか。犯人はどこからかこの状況を見ているのだろうか。
「いくら貴方でも、この数を相手には・・・」
「無理だな。道を切り開いて突破する。覚悟はいいか?」
自信があるようには見えなかったが、ケヴィンもあれだけ啖呵を切って飛び出してきたからには、今更安全策だけを選んでのんびりもしていられないと、固唾を飲んで頷く。
「ウンディーネ、力を貸して」
すると、彼女の周りに水飛沫が上がり始め、水を纏った妖精のようなものが姿を現す。
「構わないけれど、あの時の海でのようにいかないわ」
「十分。そこの男を奴らの攻撃から守ってやって」
ミアは銃に魔力が込められた弾を込めていく。錬金術における四大元素の内の一つである水を司るウンディーネ。大海原での戦いでは、ミアを助ける大きな力として活躍していたが、彼女曰くそれは海という途方もない程の量の水が側にあったからこその力だったようだ。
陸地であり、尚且つ海や川にも面していないここアルバにおいて、ウンディーネの本来の力は発揮されないという事らしい。しかし今、ミアが頼れるのは彼女しかいない。
それに彼女も、守るだけならそう難しい話ではなさそうな口振りでもあった。
ゆっくりと距離を縮めてくる謎の人物達に、ミアは魔弾を込めた銃口をむけて撃ち放つ。
一方、時間は少し遡り、宮殿から派手な脱出劇を繰り広げたブルース一行。彼らもまた、宮殿の外で街に向かおうとしたところ、ミア達と同じように複数の謎の人物達に行くてを阻まれていた。
「へ!何だよ、雑魚が一丁前に俺達を止めようってのかぁ!?」
「さっさとコイツらを退かしてくれ、バルトロメオ」
「あぁ!?オメェもちったぁ手伝えよ、“ゾルターン“」
ブルースの護衛で、バルトロメオと共に宮殿を抜け出したもう一人の男。彼は何者かに襲われたブルースの身体を支えながら、治療のような行為を行なっていた。
「俺は今手が離せない。見て分からんのか?それにお前のその能力なら、数がいようと関係ないだろ」
「あのなぁ~・・・俺のこの力だって無尽蔵じゃぁねぇんだぞ?」
「そうか。ならお前の存在価値そのものが揺らいでしまうな」
「あぁ!?んだとコラァッ!!」
二人が言い合っている間に、謎の人物達が彼らを取り囲み一斉に襲い掛かる。触れられれば一気に戦力を削がれてしまう謎の手段を用いる敵に、バルトロメオは再び自身の周りに魔力で作り出したかのような無数の腕を出現させると、襲い掛かる敵を一辺に払い退ける。
「鬱陶しいんだよッ!」
バルトロメオが暴れている内に、ゾルターンはブルースを連れて街の方へと向かう。全くベルトロメオの事など意に介せずといった様子でブルースを連れていくゾルターンに、バルトロメオは少しでも彼に戦闘の労力を分らせようと、本気を出せば助けに向かえるのに、二人に襲い掛かろうとする敵を敢えて見過ごした。
背後から飛び掛かろうとする謎の人物に、ゾルターンの後ろ髪の奥からキラリと光る何かが覗いている。そして謎の人物の腕が彼らに触れようかというその刹那、突如謎の人物は空間に吸い込まれるようにしてその姿を消したのだ。
「・・・バルトロメオ。手を抜くんじゃぁないぞ。これは大将を守る為だと言っただろ?」
「お前もしっかり“仕込んでる“じゃねぇか。チッ・・・しょうがねぇなぁ」
バルトロメオはゾルターンがしっかり防衛策を準備していたことにがっかりした様子を見せると、諦めたのか周囲の謎の人物達を無数の腕で握り潰すと急いで二人の跡を追った。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる