World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,358 / 1,646

適任者と敵対者の対策

しおりを挟む
 名前を挙げられたシンも、ニノンについていくのなら自分だろうとは考えていた。他の仲間に事情を説明したところで、情報を持ち帰るという任務を安全に実行できそうな人物はシンしかいない。

 何よりもシンは、仲間を危険な目に合わせたくないという思いの方が強く、危険と分かっているのなら尚更自分が行かなければという使命感のようなものもあった。

 「分かった。俺が一緒に街へ向かう。ミア達にはケヴィンから伝えておいてくれ」

 「それは勿論。でも意外ですね・・・。私はてっきりもっと渋るものだと思っていましたが」

 「こんな時にそんな事言ってる場合じゃないだろ」

 ケヴィンの指摘に少し動揺を見せるシン。口の回りが悪くなったことや顔が少し赤らんだところから、ケヴィンはシンの胸の内を悟ると、実に誘導しやすい素直な性格をしていると、僅かに口角を上げる。

 何かしらを企んでいるのもそうだろうが、純粋に仲間思いであるシンと親しくなれたことに、ケヴィンは運命を感じると同時に彼に対し敬意を払っていた。

 故に彼らを利用するのではなく、彼らにとっても最善の選択をするように努めることを心に誓った。

 「宮殿の方は我々にお任せください。それに他の要人達の護衛方もいらっしゃいます。戦力的には申し分ない、いやこれ以上ない程頼れる方々が集中しておりますので、こちらの心配は入りませんよ」

 「それについては私からも補償しておこう。先程は不甲斐ない報告こそあったが、オイゲンを始め彼の周りの者達は粒揃いだ。それこそ、こと戦闘における防衛に関しては教団随一の部隊だ」

 キングのシー・ギャング然り、このWoFの世界に大きな組織を形成する者達との関係は優良であることに越したことはないというのは、こういった事態の時にも頼れるものとなるからだ。

 自分が行動を起こして救えた命、救えなかった命があったのならまだ後悔や悔いることも出来るだろう。だが、自分の手の届かぬところで大事な命が奪われてしまうと言うことは、自身では抱えきれない憎しみや憎悪を生み出すことにも繋がる。

 そして当然、それらの負の感情は自分ではない他者に向けられ、人の道を逸脱した外道へと落ちていくことになりかねないのだから。

 「二人のお墨付きがあるなら心配なさそうだな。して、街の様子を見てくるとは具体的に何をするんだ?」

 「大まかには街で何が起きているのか、だな。これだけ宮殿が騒ぎになっているのに、宮殿の外から誰も救援に来ていないのもおかしい。まず間違いなく街でも何か異変が起こっていると見て間違いないだろう」

 「加えて私からもお願いが。機器の妨害をしている原因を突き止めていただきたいのです。勿論街の様子を見るついでで構いませんが、それを解除できれば犯人にも何かしらの動きがあるはずです」

 「それで犯人を炙り出すってわけか?」

 突発的な反抗ではなく、以前から計画的に練られていたであろう計画的犯行。そして数名の犠牲者を出した今、現場となっている宮殿ではターゲットが誰なのか分からないほどの無差別な攻撃が行われている。

 街に出ようとすれな謎の人物達に襲われ、カメラのような精密機械も妨害を受け街へは出られない。となれば、犯人は既に宮殿内にはおらず、街中に逃げ込んでいる可能性が高い。

 ケヴィンは、街へ出向けばもしかしたら今回の事件の犯人と出会す可能性も十分にあると二人に話す。街がどのような様子になっているかは分からないが、少なくとも宮殿内はパニックに近い状態に陥っている。

 緻密に練り込まれた計画が思い通りに進んでいる時ほど、犯人には油断というものが生まれるはず。その僅かな違和感を見逃さないように、街の人物達に注目してくれとケヴィンはシン達に言い渡す。

 「真偽を見抜くのは得意分野だ。私に任せてくれ。時間が惜しい、すぐにでも出発したいが、シンとやらの準備はどうだ?」

 「大丈夫だ、いつでも行ける」

 「よし!それでは探偵はオイゲンに協力してやってくれ。シンは私のアシストを頼む」

 「了解です」
 「分かった!」

 シンとニノンはその後すぐに部屋を飛び出すと、廊下で依然として繰り広げられる宮殿側の人間達と謎の人物達の戦場を切り抜け一階へ向かう。より建物の構造に詳しいニノンを戦闘に最善のルートを進む中、シンは戦闘の様子を観察していた。

 これから敵対するであろう者達の情報を少しでも拾っておこうとしていたのだ。しかし、そんな戦場を駆け抜ける中で、シンは一つ疑問に思うところがあった。

 これ程様々な場所で様々な手段を用いた戦闘が繰り広げられているにも関わらず、敵味方双方に大きな外傷や血の跡が見当たらなかったということだ。それは武器を構える腕、魔法を唱える者の衣服、床や壁、天井に至るまでどこにもそれらしきものの痕跡が見当たらなかったのだ。

 そしてシンが見つけた戦闘中の情報の中で、これは何か裏があるのだろうと思う極め付けなものがあった。それは戦闘を行なっている双方の攻撃が、物理的に命中していなかったのだった。

 「攻撃がッ・・・」

 「え?何か言った?」

 「いや、彼らの戦闘を見ていて気づいたんだが、どちらの攻撃も当たっていないように見える」

 するとニノンは、なるほどと言った様子でシンの情報から謎の人物達の性質について分析する。彼女も戦闘に対する負傷度合いに疑問を抱いていたようだ。だが触れられないということは、そこに奴らを攻略する糸口があると語った。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

処理中です...