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神代 コウ

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探偵の仕掛けた罠

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 「犯行の手口って何だ?おいケヴィンッ・・・!?」

 意味深な言葉を放ったケヴィンにその真意を問おうとしたところで、宮殿内に大きな衝撃が走る。爆発音と共に廊下の方から瓦礫が崩れるような音がし始めた。

 「なっ何だなんだ!?」

 突然の事態に困惑するツクヨ。物音に目を覚ましたミアやニノンも駆け寄り、状況を確認しつつツクヨとミアでそれぞれツバキとアカリを起こしに行った。

 すぐに廊下で何が起きているのかを確かめに向かったシン達は、そこで大きな人の腕のようなものが部屋の壁を貫いているところを目撃する。

 不思議な光に身を包んだその腕は、誰かの部屋へと引き下がっていく。扉ごと壁を破壊した穴から姿を現したのは、音楽家ブルース・ワルターのところの護衛であるバルトロメオだった。

 「どこだぁ!?隠れてないで出てきやがれッ!!ぶちのめしてやるッ!」

 「何だ!何事だ!?」

 廊下で待機していた警備隊や教団の護衛が彼の元へと集まり出す。どうやらバルトロメオの話によると、突然ブルースが胸を押さえて苦しみだしたのだという。これは他の事件の時と同じ犯行だった。最早ここまで状況が同じだと、偶然であると言う方が難しいだろう。

 明らかに何者かの手によって、これまで殺された者達と同様の手段でブルースが襲われたと判断するのも納得がいく。部屋の奥からブルースの名を呼ぶ声がする。襲われてからまだ間もないのだろう。

 犯人が近くにいると思ったのか、バルトロメオはあの異形の力で障壁となる壁を破壊し、部屋から飛び出し今に至る。すると、シンとニノンと共に廊下に飛び出していたケヴィンが、二人に手伝ってもらえるかと、何かの指示をし始めた。

 「シンさん!ニノンさん!この騒ぎこそ犯人の足取りを掴むチャンスです!急ぎ部屋に戻って、私の仕掛けてきたカメラを使って宮殿内を見て回りましょう!」

 「何を言っている!?それどころではないだろ!先ずはバルトロメオの奴を大人しくさせないとッ・・・」

 「騒ぎの鎮圧ならオイゲンさんが来るはずです。それにニノンさんは我々の見張り役でしょ?それよりも、この騒ぎの中で不審な行動をしている人物を探しましょう」

 「不審な行動だと?犯人は既にブルースを手に掛けたのだぞ?」

 ニノンの言うように、犯人の目的は既になされている。ここから犯人の不審な行動を探すなど不可能に近い。恐らく犯人は何食わぬ顔でどこかに潜んでいるか、演技に徹しているはず。

 しかしここで、ケヴィンはブルースがまだ死んでいないと言い始めたのだ。それは死ぬまでの間の僅かな猶予のことを言っているのだろうか。それにしたって数分と持ち堪えることは出来ないはず。

 なのにケヴィンの表情からは、まるでブルースは死なないと言わんばかりの自信が伺えたのだ。

 「私の思っていた通り、犯人はベルヘルム氏の次にブルース氏を選んだ。彼らは教団に対し特に関わりのある人物です。ベルヘルム氏はアルバへバッハの残した貴重な遺物、月光写譜を持ち込み、ブルース氏は生涯でその命を教団に救われています」

 教団で役職を持っていた者達の始末を終えた犯人は、今度は教団に関わりの深い音楽家達を狙い始めたのではないかとケヴィンは推察していた。だが教団との密接な関わりで言えば、ベルヘルムよりもブルースの方がより深い関係だった筈だ。

 その二人についての犯行が前後した理由については、犯人の個人的な思考が入り混じったのではないかとケヴィンは語る。

 「先にベルヘルム氏が狙われたのなら、私の推察通りなら次にブルース氏が狙われると思いました。そこで今朝、彼とある取引をしていたのです。申し訳ないのですが、その取引の際に契約を結び詳しくは話せないのですが、彼は“今の“犯人による何らかの犯行では死にません。つまり犯人は我々の“罠“に掛かったのです」

 「罠だって?」

 「犯人が目標の死をどうやって確認するのかは分かりませんが、現場に向かった警備隊や教団の護衛、それにそこに集まった野次馬の方に混ざっているのなら、そちらはオイゲンさんと彼の信頼する同胞達に任せ、我々は遠隔から目標の死を確認できるであろう犯人の行方を追うのです」

 現場に直接訪れ、ターゲットとなった人物の生死を確認するのなら、犯人は今バルトロメオの騒ぎに乗じて集まった人だかりの中にいる。そして犯人が遠くから何らかの方法によってターゲットの生死を確認できる場合、ケヴィンの話を信じるのならブルースが死んでいないことに困惑しているはずだと言うのだ。

 その様子を確認する為にも、ケヴィンは自身が仕掛けたカメラや宮殿に取り付けられているカメラを使い、あらゆる場所の散らばった人物達の様子を観察すると言い出したのだ。

 「シンさんはパーティーの時に渡したカメラを使って貰います。その際は部屋の通気口からカメラの存在を隠したまま観察するようお願いします」

 「こちらの動きを悟られない為か」

 「その通りです!ニノンさんには、こちらのタブレットで宮殿内の監視カメラを確認して欲しいのです」

 そういって取り出したタブレットには、既にどこかの部屋の映像が映し出されていた。

 「いつの間に宮殿のカメラを・・・」

 「これはオイゲンさんに協力して頂いたのです。宮殿のカメラの映像を確認できるように細工して欲しいと。条件として、私が妙な使い方をするのを避ける為、必ず宮殿のカメラはニノンさんに確認させるという条件でしたが・・・」

 ケヴィンはオイゲンとの約束通りタブレットをニノンに預ける。状況を飲み込んだ二人はケヴィンの指示に従い、部屋に戻ってカメラの映像を確認する。

 どこの部屋でも、先程の大きな音に対して混乱している者達の様子が見てとれる。警備隊や教団の護衛に関しては無線などで状況の説明がされているのか、落ち着いた様子で宮殿のスタッフや客人を落ち着かせるよう説得している。

 シンは部屋の通気口からケヴィンに貰った蜘蛛型のカメラを送り込み、遠隔操作にて狭い通路を進みながら下の階へと降りると、そこから廊下の様子を覗き見ていた。

 そこで彼は、今まで宮殿内で見たことのない格好をした人物を目撃する。思わず視線を奪われるその人物の元に、近くにいた警備隊の者が近づいて行く。何やら身元を確認しているようだが、ふと警備隊の者が視線をズラした隙に、なんとその人物は警備隊の者を、袖に隠していた仕込み刀で突き刺したのだ。
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