World of Fantasia

神代 コウ

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ブルース・ワルターという人物

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 シンのクラスとスキルについて、アルバに派遣された教団の護衛部隊の中でも実質次席に位置する権力を持つニノンと会話をしたシン。その会話の最中、まだシン達の知らない、宮殿で足止めを食らっている音楽家達について、彼女から話を聞く事ができた。

 宮殿にいるのは主に四人の音楽家。アンドレイとベルヘルムについては面識はあったが、残りのリヒトルとブルースについてはパーティーでジークベルト大司教と会話をする風景をカメラ越しに眺める程度だったので、どんな人物なのか詳しくは知らないシン達。

 リヒトルに関しては四人の中でも最も高齢であり、ベルヘルムの軍人のような威厳とは違った厳格さを持つ男性である印象を持っていた。そして本人よりも護衛の方が悪目立ちしているブルースは、やや若めではあるもののこれといった挙げられる特徴は、印象に残っていない。

 ただ宮殿でのバルトロメオの騒ぎ方から、あまり素行の良くない護衛を従える何を考えているか分からない人物といった印象が新たに付け加えられた。未だ全容の見えぬブルース・ワルターだが、今朝のベルヘルムが遺体で発見された騒ぎでは、ケヴィンが彼らと話をつけたことで騒動は収束を迎えた。

 あれほど手のつけようのなかったバルトロメオを大人しくさせられるのは、主人であるブルースだけであるのは想像するに難くない。しかし、ブルースに護衛を大人しくさせるように話をつけられるほどの手札をケヴィンは持っていたのだろうか。

 だが当の本人は、はぐらかすばかりで肝心なところは語らない。ニノンの持つ情報によると、ブルース・ワルターはその出生から嫌がらせや殺害予告などを受ける壮絶な過去を過ごしていたようで、教団に関わるようになってからは名前も変え、これまでの凄惨な過去から逃れることができたのだという。

 それでも彼のような人種的差別は止まる事はなく、どこからか噂を聞きつけた者が彼の楽屋などを襲撃するような事件も起きていたそうだ。一時は姿を消し、死亡説まで流れるようになっていたようだが、ブルースは身を潜めながらも音楽家としての活動に尽力していたのだという。

 「人種差別?ブルースを見た時は、そんな差別を受けるような感じはしなかったが・・・」

 「同じ種族であっても、生まれや違いが受け入れられないなんて事は良くある話よ。私達の教団も、今となっては受け入れられているけど、その昔は酷い差別や弾圧を受けていたそうよ」

 現代を生きるシンやミア達には、あまり馴染みのない事柄だったのかもしれない。パーティーでケヴィンのカメラを使いVIPルームを見ていた時も、人間以外の種族もいたがそこに良し悪しといった感情は全く抱かなかった。

 多様性という考え方が広まった事により、差別的な行動や発言は少なくなったものの、知性を持つ生き物は須く、自分より弱い者や違う者を探したがるものだ。

 それは容姿や仕草だけに留まらず、ブルースのように生まれや思想でも嫌悪の対象にしたがる。WoFの世界においてもそういったものは変わらず存在し、現代以上に過激な嫌がらせや壮絶な派閥争いへと発展する事もあるのだとニノンは語った。

 「けど、音楽家として活動する以上、彼は幾度となく名前を変えては活動を続け、多くの人々の心を救ってきた。そういった彼の姿勢が、多くの者達の心を動かした事により、いろんな人の助けはあったものの自身で逆境を跳ね除ける偉大な巨匠とまで呼ばれるようになった。それが“ブルース・ワルター“という人物」

 「・・・・・」

 想像していた人物像とは全く別人だった。それが一行の感想だった。どうやらブルースもまた、音楽界隈に多大なる功績を残した偉大な人物であることが彼女の話から窺える。

 バルトロメオのような暴れ馬の如く手のつけようのない者を護衛に選んだのも、彼のそういった過去があったからなのだろう。

 ここで思い出されるのが、ケヴィンがブルースを説得できた理由だが。ふとシンの脳裏に過ぎったのは、ブルースの出生について知っていた彼が、その話をタネにブルースを脅したのではないかという推察だった。

 今でも差別というものが色濃く残る世界において、命を狙われる程の出生とは何なのだろう。そしてそこまでして過去を消そうとしてきたブルースの、本当の過去を知るケヴィンは一体何者なのだろうか。

 不審に思いつつもケヴィンの方へゆっくりと視線を向けるシン。だが彼は後ろめたいような様子もなく、ただ黙って一行と同じようにニノンの話を聞いていた。

 ニノンの話に夢中になっていたせいか、外がすっかり暗くなり始めていることに漸く気づいた一行は、未だオイゲンが戻らないことに疑問を抱いていた。彼らが時間の経過に気が付かなかったのは、部屋の照明が自動で暗さを検知し、一定の明るさを保つように点灯していたからだった。

 皆が時間に意識を持っていかれたのは、例の音楽が耳に入ってきたのが一番の理由だろう。

 「すっかり話し込んでしまいましたね。もうこんな時間になっていようとは・・・」

 「それにしてもオイゲン氏、遅いですね。データのコピーだけならこんなに掛からないはずなのですが・・・。何か急用でもできてしまったのでしょうか?」

 「いや、それなら私の方にも連絡が来る筈だ。それにまたこの曲だ・・・。妙ではあるが何故か聞き入ってしまうな」
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