World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,344 / 1,646

事件と騒動

しおりを挟む

 ベルヘルムの死の報告がシン達の部屋に届けられて間も無く、近くの部屋で大きな物音と共に言い争う声が廊下に響き渡る。宿泊していた者達は、その声を聞いてすぐに誰が暴れているのか想像がついた。

 これまでも幾度となく警備隊や教団の護衛らと口論を繰り広げてきた、ブルース・ワルターの護衛バルトロメオだ。

 だがいつもの口論と違ったのは、他にも捜査に進展のない時間を過ごしていた警備隊や教団にうんざりしていた者達が声を上げたのだ。特に今回、主人の側にいながら犯人によってその主人を殺害されてしまったベルヘルムの護衛らだった。

 「お前らが部屋にいろと指図してきたからだぞ!だからベルヘルム卿は最期までお前らの指示に従ったんだ!僕はもうお前らが犯行の手助けをしているとしか思わないッ!!」

 ベルヘルムの部屋の前で騒いでいたのは、彼の護衛であるドミニクという青年だった。以前、ベルヘルムの部屋を訪れた際に、教団の護衛と共に部屋の前でミア達と会話をしていた人物の一人である。

 少しいい加減な様子もあったが、ベルヘルムに対する忠誠や尊敬といった感情は確かなものだったらしい。

 そして彼の側にはもう一人、執事のように立派なスーツに身を包んだ初老の男が立っていた。彼については、シンとケヴィンがベルヘルムと対談をしていた場面で共に同じ部屋で話を聞いていた人物だったらしく、その風貌から護衛というよりも宮殿側の使用人と勘違いしてしまうほど、風景に溶け込んでいたことでシンの印象には残っていなかった。

 「失礼ながら、私もドミニクの意見には賛成です。主人を守りきれなかった事に関しては私の不徳であるのは認めます。しかし、この状況を作り上げていたのは他ならぬ貴方達だ。しっかり落とし前はつけて頂きたい」

 「“オルヴェル“さんの言う通りだ。僕達もただ殺されてしまいましたじゃ帰れない・・・。この事は教団本部に報告させてもらう」

 「・・・できる限りのことは尽くします。まずは遺体の捜査を・・・」

 警備隊と教団側の護衛達は彼らの言い分を聞いたと、遺体の調査を行いたいと申し出るも、部屋の中へ歩みを進めようとしたところをドミニクが眼前に立ち塞がる。

 「いらないんだよ、そんなの。それとも、何か処分しなきゃならないものでも?」

 挑発を繰り返し、立ち入りを拒否するベルヘルムの護衛達。調査は任せられない。それどころか遺体を引き渡したら、大切な証拠をもみ消されかねないと、ベルヘルムの遺体は自分達で保管し、現場への立ち入りすら断っていた。

 すると、別の部屋の前でもその様子を見ていた者達がいた。それが例のバルトロメオだったのだ。

 「へ!テメェらを不甲斐ねぇと思ってんのは、俺達だけじゃねぇみてぇだなぁ!これで決定だ。もうテメェらの指示に従う義理はねぇ!何せ、テメェらの方が俺らより怪しいんだからなぁ」

 バルトロメオは教団の護衛を突き飛ばし、これ以上宮殿に留まる必要はないと暴れ出したのだ。大人しくできないのなら実力行使に出るしかないと、教団側も抗戦する姿勢を見せると、バルトロメオは嬉しそうな表情を浮かべて臨むところだと一触即発の空気になる。

 周りにいた警備隊や教団の護衛も集まりだし、一気に険悪なムードに包まれる中、騒ぎに耳を立てていたケヴィンが話をしてくると部屋を飛び出していってしまう。慌ててその様子を見に行ったシンは、部屋の扉を開けると廊下にいるはずの警備の者達がいなくなっていた。

 部屋から身を乗り出し、左右へ首を振ったシンは廊下を確認すると、騒ぎに集まる人だかりを目にする。それを掻き分けるように中へ入っていくケヴィン。様子を見に後を追おうとするも、ミアにその腕を掴まれる。

 「よせ、シン」

 「けどケヴィンが・・・」

 「奴は奴だ。アタシらは関わらず、このまま様子を見た方が身の為だ」

 「身の為って・・・どう言う事だよ?」

 「相手は得体のしれない組織。それもバックにはあのキングの組織すら手が出せないっていうアークシティの連中が関与してるんだ。下手に刺激して教団も目に留まれば、今度こそ本当に命を狙われ兼ねない」

 ミアはシンよりもずっと冷静で周りが見えていた。とても昨晩、晩酌をしていた者とは思えないアドバイスに、シンも返す言葉がなかった。

 もし自分達だけが狙われるのなら、百歩譲っても自分達の責任だと割り切れるが、今はツバキやアカリもいる。何よりもシンは一度、仲間達に内緒でケヴィンと共に宮殿内への潜入という、危険な行為をしてしまっている。

 その事もあり、シンは彼女の言葉に従い今回は大人しくその様子を見ているだけに留めた。だがこれだけ多くの人間を集めるくらいの挑発行為を行ったバルトロメオが大人しく引き下がるのだろうか。

 警備隊と教団の護衛はすっかりブルースとベルヘルムの部屋の前に人員を割かれていた。しかし、他の宿泊している音楽家や護衛達も、騒ぎの様子を部屋から眺めるだけで誰も今のうちに逃げ出そうとはしていなかった。

 そしてアンドレイの陣営からは、シアラとアンドレイ自ら騒ぎの様子を眺めており、シン達に気が付くと笑顔で手を振るなど余裕が伺えた。バルトロメオの騒ぎを目の当たりにし、周りの野次馬達の視線に気が付いたのか、ベルヘルム陣営は頭を冷やし何やら教団の護衛らと会話を始めると、暫くして彼らを部屋の中へ招き入れた。

 恐らく何かしらの条件をつけて、調査に協力する運びとなったのだろう。騒ぎの発端となった事件は、漸く落ち着きを取り戻し、事件の解決へと動き始めたようだが、飛び火した火種の方は未だ鎮火する様子はない。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界に飛ばされたら守護霊として八百万の神々も何故か付いてきた。

いけお
ファンタジー
仕事からの帰宅途中に突如足元に出来た穴に落ちて目が覚めるとそこは異世界でした。 元の世界に戻れないと言うので諦めて細々と身の丈に合った生活をして過ごそうと思っていたのに心配性な方々が守護霊として付いてきた所為で静かな暮らしになりそうもありません。 登場してくる神の性格などでツッコミや苦情等出るかと思いますが、こんな神様達が居たっていいじゃないかと大目に見てください。 追記 小説家になろう  ツギクル  でも投稿しております。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。 けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。 というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない? そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。 小説家になろうでも掲載しております。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...