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本当の友人
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昨日、レオンらが聞いた演奏はアルバのどんな教師らの演奏と比べても見劣りすることのない、寧ろそれを上回らんとする程の実力であったことは確かだったはず。
それが音楽の街として名高いアルバの音楽監督に就任しようとする人物が、それ程でもなかったと判断するとは、到底信じられない。彼が音楽家として有名なのは三人とも知っている。
それだけ持て囃されていれば、当然実力も伴っていなければ評判だけでアルバのカントルに選ばれるはずがないのだから。考えれば考えるほど、何故あの音楽の虜にならなかったのか分からなくなってくる。
唖然とするレオンとカルロスに代わり、ジルがアルミンの聞いたという音楽について質問をする。実際ジル自身もその音楽については、レオンやカルロス程近くでハッキリとではないものの、自室で聞いていたらしい。
もしアルミンが違う曲のことを指しているのならその評価も納得がいくのだが、しかし彼の口から語られたアルバの街に流れていた心地のいい音楽の正体は、三人の聞いたものと同じものだった。
「すみません。失礼ですがその時聞いた音楽とは何だったのですか?」
「幾つか聞こえていたのは覚えてるけど、まぁ印象的だったのは“マタイ受難曲“かな?あの曲だけは他の演奏に比べてよく覚えているよ」
「同じだ!やっぱり“マタイ受難曲“じゃねぇか!」
「しかし何故、聞く者によって演奏の良し悪しが違う?俺達がグーゲル教会で聞いたのは、間違いなく超一流の演奏だった・・・」
レオンとカルロスは自分達の記憶と感性が間違っていないことを確かめるように、当時の記憶とその時感じた感想を思い出す。
「この街の者なら彼の曲を知らない者はいないだろうね。何たってあの音楽の父とも呼ばれる“ヨルダン・クリスティアン・バッハ“の曲なんだから。・・・あれ?でも夜の教会で?そんな事していいのかい?」
「本来は関係者以外立ち入り禁止になってるはずなんですが・・・」
「あぁ・・・あの時の教会には多くの観客が席を埋め尽くしていた」
信じられない光景について思い出しながら語るレオンに、アルミンはそんな事などあり得ないといった様子で話を切り上げ席を立ってしまう。
「ははは、それこそあり得ない話じゃないか。もういいかい?そろそろ作業に戻らないと。後学校で教える立場にもなるから、教材を見直しておかないといけないから」
「あっ!アルミンさん!」
「グーゲル教会だったかな?私もこの後立ち寄る用事があるから、その時にでも話を聞いといてあげるよ。それじゃぁね」
食器をトレーにまとめると、それを食堂のカウンターへ持って行き調理人達と軽い挨拶を交わして、アルミンは三人の前から立ち去っていった。カルロスは二人に、彼を止めなくていいのかと言っていたが、ひとまず聴取はこの程度でいいとレオンとジルも自分達の席へ戻り、食器を片しに向かった。
二人を追うようにカルロスも片付けをした後、この後のことについて二人に意見を乞う。
「で?どうするんだ、この後」
「取り敢えず、日が沈む前にグーゲル教会に行って話を聞いてみよう」
「それと教会自体も調べておかないとね」
「調べるって?」
アルミンの話からも、日が沈み始めた頃にアルバに流れる心地のいい音楽の正体が、バッハの“マタイ受難曲“である事と、音楽が流れ始める大凡の時間帯、そして聞く者によってその演奏の感想が違ってくる事を確認できた。
後はその仕組みについて調べれば、レオンとカルロスが記憶を失った原因や、グーゲル教会で見たという俄には信じ難い光景の秘密について分かるかも知れない。
「貴方達が見たっていう観客の話。それだけ多くの人が居たのなら、何か痕跡とか証拠みたいなものがあってもおかしくないでしょ?」
「なるほどなぁ。あ!それならよぉ、教会の楽器も調べてみようぜ?」
「最初からそのつもりよ」
「カルロス・・・足を引っ張るなよ?」
「んだとコラぁ!?」
レオンから先程の食堂での件を咎められる。アルミンを見つけるや否や、考え無しに突っ込んでいく姿を見て二人とも余計なことを口走らないかとヒヤヒヤしたと、その時の心境を彼に伝え行動を見直すように促す。
「だが、お前の行動力に期待している事もある。それは俺達にはないものだからな。俺はお前を憐れんでなんていない。俺に出来ないこと、足りないものをお前は持っているんだから・・・」
「何だよ急に、気持ち悪りぃ・・・」
「お前が言ったんだろうが」
いがみ合うように話をする二人の様子を見て、まるで無関心な表情で思ってもいないような言葉を送るジル。
「貴方達、仲良かったのね」
「・・・・・」
「・・・・・」
ジルも友情というものには疎かった。優秀で才能があるということは、周りから特出するということ。それ故に彼らのような者達の気持ちを理解できる者も少ない。
自分の立場や他者との有益な関係を利用せんとする取り巻きにしか囲まれてこなかったジルには、今のレオンとカルロスの関係性こそが本当の友人と呼べるべきものなのだと考えていた。
それが音楽の街として名高いアルバの音楽監督に就任しようとする人物が、それ程でもなかったと判断するとは、到底信じられない。彼が音楽家として有名なのは三人とも知っている。
それだけ持て囃されていれば、当然実力も伴っていなければ評判だけでアルバのカントルに選ばれるはずがないのだから。考えれば考えるほど、何故あの音楽の虜にならなかったのか分からなくなってくる。
唖然とするレオンとカルロスに代わり、ジルがアルミンの聞いたという音楽について質問をする。実際ジル自身もその音楽については、レオンやカルロス程近くでハッキリとではないものの、自室で聞いていたらしい。
もしアルミンが違う曲のことを指しているのならその評価も納得がいくのだが、しかし彼の口から語られたアルバの街に流れていた心地のいい音楽の正体は、三人の聞いたものと同じものだった。
「すみません。失礼ですがその時聞いた音楽とは何だったのですか?」
「幾つか聞こえていたのは覚えてるけど、まぁ印象的だったのは“マタイ受難曲“かな?あの曲だけは他の演奏に比べてよく覚えているよ」
「同じだ!やっぱり“マタイ受難曲“じゃねぇか!」
「しかし何故、聞く者によって演奏の良し悪しが違う?俺達がグーゲル教会で聞いたのは、間違いなく超一流の演奏だった・・・」
レオンとカルロスは自分達の記憶と感性が間違っていないことを確かめるように、当時の記憶とその時感じた感想を思い出す。
「この街の者なら彼の曲を知らない者はいないだろうね。何たってあの音楽の父とも呼ばれる“ヨルダン・クリスティアン・バッハ“の曲なんだから。・・・あれ?でも夜の教会で?そんな事していいのかい?」
「本来は関係者以外立ち入り禁止になってるはずなんですが・・・」
「あぁ・・・あの時の教会には多くの観客が席を埋め尽くしていた」
信じられない光景について思い出しながら語るレオンに、アルミンはそんな事などあり得ないといった様子で話を切り上げ席を立ってしまう。
「ははは、それこそあり得ない話じゃないか。もういいかい?そろそろ作業に戻らないと。後学校で教える立場にもなるから、教材を見直しておかないといけないから」
「あっ!アルミンさん!」
「グーゲル教会だったかな?私もこの後立ち寄る用事があるから、その時にでも話を聞いといてあげるよ。それじゃぁね」
食器をトレーにまとめると、それを食堂のカウンターへ持って行き調理人達と軽い挨拶を交わして、アルミンは三人の前から立ち去っていった。カルロスは二人に、彼を止めなくていいのかと言っていたが、ひとまず聴取はこの程度でいいとレオンとジルも自分達の席へ戻り、食器を片しに向かった。
二人を追うようにカルロスも片付けをした後、この後のことについて二人に意見を乞う。
「で?どうするんだ、この後」
「取り敢えず、日が沈む前にグーゲル教会に行って話を聞いてみよう」
「それと教会自体も調べておかないとね」
「調べるって?」
アルミンの話からも、日が沈み始めた頃にアルバに流れる心地のいい音楽の正体が、バッハの“マタイ受難曲“である事と、音楽が流れ始める大凡の時間帯、そして聞く者によってその演奏の感想が違ってくる事を確認できた。
後はその仕組みについて調べれば、レオンとカルロスが記憶を失った原因や、グーゲル教会で見たという俄には信じ難い光景の秘密について分かるかも知れない。
「貴方達が見たっていう観客の話。それだけ多くの人が居たのなら、何か痕跡とか証拠みたいなものがあってもおかしくないでしょ?」
「なるほどなぁ。あ!それならよぉ、教会の楽器も調べてみようぜ?」
「最初からそのつもりよ」
「カルロス・・・足を引っ張るなよ?」
「んだとコラぁ!?」
レオンから先程の食堂での件を咎められる。アルミンを見つけるや否や、考え無しに突っ込んでいく姿を見て二人とも余計なことを口走らないかとヒヤヒヤしたと、その時の心境を彼に伝え行動を見直すように促す。
「だが、お前の行動力に期待している事もある。それは俺達にはないものだからな。俺はお前を憐れんでなんていない。俺に出来ないこと、足りないものをお前は持っているんだから・・・」
「何だよ急に、気持ち悪りぃ・・・」
「お前が言ったんだろうが」
いがみ合うように話をする二人の様子を見て、まるで無関心な表情で思ってもいないような言葉を送るジル。
「貴方達、仲良かったのね」
「・・・・・」
「・・・・・」
ジルも友情というものには疎かった。優秀で才能があるということは、周りから特出するということ。それ故に彼らのような者達の気持ちを理解できる者も少ない。
自分の立場や他者との有益な関係を利用せんとする取り巻きにしか囲まれてこなかったジルには、今のレオンとカルロスの関係性こそが本当の友人と呼べるべきものなのだと考えていた。
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