World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,337 / 1,646

本当の友人

しおりを挟む
 昨日、レオンらが聞いた演奏はアルバのどんな教師らの演奏と比べても見劣りすることのない、寧ろそれを上回らんとする程の実力であったことは確かだったはず。

 それが音楽の街として名高いアルバの音楽監督に就任しようとする人物が、それ程でもなかったと判断するとは、到底信じられない。彼が音楽家として有名なのは三人とも知っている。

 それだけ持て囃されていれば、当然実力も伴っていなければ評判だけでアルバのカントルに選ばれるはずがないのだから。考えれば考えるほど、何故あの音楽の虜にならなかったのか分からなくなってくる。

 唖然とするレオンとカルロスに代わり、ジルがアルミンの聞いたという音楽について質問をする。実際ジル自身もその音楽については、レオンやカルロス程近くでハッキリとではないものの、自室で聞いていたらしい。

 もしアルミンが違う曲のことを指しているのならその評価も納得がいくのだが、しかし彼の口から語られたアルバの街に流れていた心地のいい音楽の正体は、三人の聞いたものと同じものだった。

 「すみません。失礼ですがその時聞いた音楽とは何だったのですか?」

 「幾つか聞こえていたのは覚えてるけど、まぁ印象的だったのは“マタイ受難曲“かな?あの曲だけは他の演奏に比べてよく覚えているよ」

 「同じだ!やっぱり“マタイ受難曲“じゃねぇか!」

 「しかし何故、聞く者によって演奏の良し悪しが違う?俺達がグーゲル教会で聞いたのは、間違いなく超一流の演奏だった・・・」

 レオンとカルロスは自分達の記憶と感性が間違っていないことを確かめるように、当時の記憶とその時感じた感想を思い出す。

 「この街の者なら彼の曲を知らない者はいないだろうね。何たってあの音楽の父とも呼ばれる“ヨルダン・クリスティアン・バッハ“の曲なんだから。・・・あれ?でも夜の教会で?そんな事していいのかい?」

 「本来は関係者以外立ち入り禁止になってるはずなんですが・・・」

 「あぁ・・・あの時の教会には多くの観客が席を埋め尽くしていた」

 信じられない光景について思い出しながら語るレオンに、アルミンはそんな事などあり得ないといった様子で話を切り上げ席を立ってしまう。

 「ははは、それこそあり得ない話じゃないか。もういいかい?そろそろ作業に戻らないと。後学校で教える立場にもなるから、教材を見直しておかないといけないから」

 「あっ!アルミンさん!」

 「グーゲル教会だったかな?私もこの後立ち寄る用事があるから、その時にでも話を聞いといてあげるよ。それじゃぁね」

 食器をトレーにまとめると、それを食堂のカウンターへ持って行き調理人達と軽い挨拶を交わして、アルミンは三人の前から立ち去っていった。カルロスは二人に、彼を止めなくていいのかと言っていたが、ひとまず聴取はこの程度でいいとレオンとジルも自分達の席へ戻り、食器を片しに向かった。

 二人を追うようにカルロスも片付けをした後、この後のことについて二人に意見を乞う。

 「で?どうするんだ、この後」

 「取り敢えず、日が沈む前にグーゲル教会に行って話を聞いてみよう」

 「それと教会自体も調べておかないとね」

 「調べるって?」

 アルミンの話からも、日が沈み始めた頃にアルバに流れる心地のいい音楽の正体が、バッハの“マタイ受難曲“である事と、音楽が流れ始める大凡の時間帯、そして聞く者によってその演奏の感想が違ってくる事を確認できた。

 後はその仕組みについて調べれば、レオンとカルロスが記憶を失った原因や、グーゲル教会で見たという俄には信じ難い光景の秘密について分かるかも知れない。

 「貴方達が見たっていう観客の話。それだけ多くの人が居たのなら、何か痕跡とか証拠みたいなものがあってもおかしくないでしょ?」

 「なるほどなぁ。あ!それならよぉ、教会の楽器も調べてみようぜ?」

 「最初からそのつもりよ」

 「カルロス・・・足を引っ張るなよ?」

 「んだとコラぁ!?」

 レオンから先程の食堂での件を咎められる。アルミンを見つけるや否や、考え無しに突っ込んでいく姿を見て二人とも余計なことを口走らないかとヒヤヒヤしたと、その時の心境を彼に伝え行動を見直すように促す。

 「だが、お前の行動力に期待している事もある。それは俺達にはないものだからな。俺はお前を憐れんでなんていない。俺に出来ないこと、足りないものをお前は持っているんだから・・・」

 「何だよ急に、気持ち悪りぃ・・・」

 「お前が言ったんだろうが」

 いがみ合うように話をする二人の様子を見て、まるで無関心な表情で思ってもいないような言葉を送るジル。

 「貴方達、仲良かったのね」

 「・・・・・」
 「・・・・・」

 ジルも友情というものには疎かった。優秀で才能があるということは、周りから特出するということ。それ故に彼らのような者達の気持ちを理解できる者も少ない。

 自分の立場や他者との有益な関係を利用せんとする取り巻きにしか囲まれてこなかったジルには、今のレオンとカルロスの関係性こそが本当の友人と呼べるべきものなのだと考えていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました ★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★ ★現在三巻まで絶賛発売中!★ 「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」 苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。 トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが―― 俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ? ※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...