World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,334 / 1,646

足取りと発言の真偽

しおりを挟む
 捜査といってもそれほど大袈裟なものではない。まずはグーゲル教会の写真を見せ、その敷地内の様子や見取り図などを見せていく。カルロスは差し出されたものを次々に目に映していくと、徐々にその顔にも生気のようなものが戻って来たのだ。

 「そうだ・・・そうだよ!俺、確かここで気を失って。その時側に誰か・・・?」

 「俺だよ、覚えてるか?カルロス。一緒に教会で演奏を聞いたんだ」

 レオンが彼の記憶に蘇る人物として名乗りを上げる。すると二人の口からは、まるで記憶をすり合わせるように当時の状況が次々に飛び出していく。

 「思い出したぜ!俺ぁレオンと一緒に演奏してんのが誰なのか突き止めに行こうとして、グーゲル教会に入ったところで眠気に襲われたんだ。・・・あれ?でもなんで俺がレオンと?一体どんな流れで?」

 「お前が宮殿に向かってからの出来事を、俺に報告しにきたからだろ」

 そういって今度は、宮殿の写真とレオンの自宅があるであろう位置を、テーブルに広げられたアルバのマップに指差した。先程まで宮殿の写真を見てもピンと来ていなかったのは、まず最初に思い出すべきものを思い出していなかったからだったようだ。

 「そうだそうだ、俺ぁ確か事件のことで宮殿へ・・・」

 「事件?」

 カルロスが記憶を取り戻したのはよかったが、三人が交わした約束については忘れてしまっていたらしい。宮殿の事件について知るジルとレオン、そしてカルロスはこの危険な調査に他者を巻き込まない為に、事件については他言しないようにと決めていた。

 クリスは宮殿内から出てきた人物なので、当然事件については知っているだろうが、三人が事件のことを知っているということを知られないようにすることに越したことはない。

 テーブルの下でジルが彼の口を止めようと、足先でカルロスの足を強めに蹴る。

 「痛ッ!!何すんだ・・・?」

 蹴られた角度的にジルしかあり得ない。カルロスは思わず彼女の方を向くと、ジルは鋭い目つきで凝視しながら首を小さく横に振っていた。

 「どうしたの?カルロス」

 「あっ・・・あぁ、何でもねぇ。丁度お前を探しててよぉ。でも寮に戻っても帰ってねぇって言われるし、それを俺が勝手に事件だぁ~って言ってただけだ」

 「そっそうだったんだ。ごめん、マティアス司祭に手伝いを頼まれてて・・・」

 「そっか、ならしょうがねぇか」

 何とか話を誤魔化し、クリスにも納得してもらえた様だが、それを聞いていたレオンとジルは二人の会話に違和感を感じていた。今アルバの街で事件という単語が指すものは、宮殿での事件と結び付けるのが妥当だろう。

 レオンが自宅で母親と見ていたニュースにも、他に事件らしい事件も起こっていない。ケヴィンが依頼されて行っている失踪事件も、一般的には公表されているものの進展がない為、今ではほとんど報道されていない。

 そして、その事件現場である宮殿にいたとされているクリスがそれを知らない筈がない。それを意図していなかったとはいえ、宮殿の外にいたカルロスが事件と口走った事に対し、追求してこないものなのだろうか。

 それともクリスにも解放する条件として、事件のことに関しては他言無用と言われていたのだろうか。

 「でもこれで事件のことも、演奏のことも思い出せた様だね」

 「あぁ、助かったぜクリス!でもよ、宮殿内でずっと手伝いさせられてたのかよ?」

 カルロスは先程ジルに注意されたことに気をつけながら、クリスが話せる範囲の情報を聞き出そうと質問を始める。だが、ジルやレオンの想像していたように事件に関する有力な情報については、彼の口から語られることはなかった。

 「うん、式典とパーティーの片付けが忙しくてね」

 「でも、それにしたって戻らない人達が多くねぇか?クリスがさっき言ってた司祭様もそうだけどよぉ、医者のカールさんもだろ?何か他にあったんじゃねぇのか?」

 「それはどうなんだろう・・・。僕も詳しいことは分からないんだ。ただマティアス司祭の手伝いをしていたら遅くなっていて、手伝いが終わったら先に帰ってなさいって言われたから戻っただけなんだよ」

 どこまでが本当のことなのかは分からない。上手く話を誤魔化されたような気もするが、クリスがそこまで器用な人間かと言われると、三人とも彼にそんな印象は持っていないというのが正直なところだった。

 「でも確かに誰も戻っていないのはおかしな話だね・・・」

 すると、疑問に思ったレオンが二人の会話に割って入る。彼の質問は、宮殿から返された後のクリスの行動についてだった。記憶を取り戻したカルロスだが、彼が宮殿の前でクリスが解放されているところを目撃し、その後尾行していたという話はまだ本人であるクリスにはしていない。

 つまり、この質問に対する答え方次第でクリスの置かれている状況や、彼が嘘をついているかどうかなどが分かってくる。

 「人ごとのように言ってるが、お前は宮殿から出た後どうしたんだ?」

 「ぼっ僕?僕はその後すぐに二クラス教会へ行ったよ。そこで作業の進行状況と、ルーカス司祭の帰りも遅くなるってことを伝えて、マティアス司祭に頼まれていたものを確認する為に、教会の奥の部屋に通してもらったんだ」

 「頼まれたもの?」

 するとクリスは突然周囲を警戒し始め、顔をテーブルの方へ寄せると小声で三人にルーカス司祭のとある噂について語った。それはルーカス司祭がジークベルト大司教と同期だったという事だった。

 これはシン達がルーカスに、ジークベルトの調査を依頼される時に聞かされた話で、アルバでこの話について知る者はいなかったようだ。それこそ同じ司祭であるマティアスですら知らなかったこと。

 宮殿内でルーカスのその話を聞いたマティアス司祭は、クリスにそれが真実であるかどうかを確かめさせる為、宮殿内から出ることの出来ない自分に代わり、クリスに頼むことにしたのだという。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...