World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,333 / 1,646

渦中の二人

しおりを挟む
 ジルは職員から二人の奇妙な様子だったという話を聞き、昨日のカルロスの様子からは想像も出来ない変化に、何か状況や状態に異変が起きたのではと急ぎ資料室へと向かう。

 音楽学校内にある資料室とは、学校や音楽に関する資料やアルバで起きた改革などに関する記事などが多く集められている場所のようだ。他にも歴史的に重要な書物なども置かれているが、それらは実物のレプリカとして模造されたものであり、本物は博物館や別の国などによって保管されている物も多い。

 古い物は移動させることすら困難になってしまっている物が多く、それらは考古学者のクラスに就く者や、複製・再現などの技術を用いて様々な国や人々の目にも触れやすいようにレプリカや電子書籍などという形で、後世に残されて来たようだ。

 そんな多くの書物を保管しているという資料室に訪れると、中は校内とは違い静まり返っていた。図書室や筆記などの勉強をするような部屋と同じように、ここでも大きな音を立てたり話し声を立てる事は禁止されているようだ。入り口の壁や周囲にも注意書きが多く貼られている。

 空調は特に書物の保管に適した温度に保たれており、この時期だとかなり過ごしやすい温度に設定されている。周囲を見渡しながらクリスとカルロスを探すジル。足音を立てないよう気を使いながら探していると、部屋の奥の方にある窓際の席に探していた二人の姿が見えた。

 彼らはテーブルのある席に座り、書物を広げながら指を刺して何かを確認しているような様子に見える。早速歩み寄っていくジルの姿に気がついたクリスは、こちらへ向かってくる彼女の姿を見て少し驚いた後、萎縮してしまう。

 「クリス、カルロス。よかった、探していたのよ貴方達を」

 「さ、探してた?どうして?」

 「そうね、まずは貴方に・・・?」

 ジルが全く声を掛けてこないカルロスに気がつき、彼の様子を見るとエントランスの職員が言っていたように普段の彼とは様子が違っていた。荒々しい口調で話していた彼の姿はなく、まるで別人のように大人しく席に座りテーブルに広げられたアルバの各所にある施設などのマップを見つめていた。

 「彼、どうしちゃったの?それにこれは何?」

 「あっえっと・・・どこから話せばいいのかな。彼、昨日の記憶がなくなっちゃったみたいですごく不安定というか・・・悩んでたんだ。だから何か思い出すきっかけになればと思って、街のマップや写真を見せていたんだよ」

 「記憶を!?」

 思わず大きな声が出てしまったジルの方に、周囲からの視線が集まる。口を塞いで周囲に頭を下げた彼女は、恥ずかしそうに席につき、やはりレオンと同じ症状に見舞われていたカルロスの様子について、クリスに詳しく尋ねる。

 「記憶を失ったって・・・昨日の事だけ?」

 「そうみたい。朝はすごく気持ちよく起きられたみたいだし、身体に違和感はないようなんだけど、ふと昨日のことを思い出そうとすると、不自然なほど何も思い出せないんだって」

 クリスの話を聞く限り、カルロスの症状はレオンと同じだったことが窺える。だがレオンは性格までは変わっていなかった。寧ろ何事もなかったかのように優雅に過ごしていた程だ。そこに何か記憶を失った事と関係する要因でもあるのだろうか。

 「それで?パンフレットや写真で記憶は思い出せたの?」

 「少しずつって感じかな。昨日の行動を断片的に思い出していってるところ。実はまだ彼の記憶を思い出す作業に乗り出したばっかりだったんだ。ここにくるまでは話を聞いてどうするか迷ってたから・・・」

 「そう。それなら私も手伝うわ」

 すると彼女は、どこまでカルロスにマップや写真を見せたのかと、すっかり彼らの一員になったかのように記憶捜索の手伝いに混ざり始めた。

 「え!?でもジルは用事があって僕らを探してたんじゃなかったの?そっちはほったらかしでいいの?」

 「私の用事はその“失われた記憶“の中にあるの。いいから早く進行状況を教えなさい」

 まどろっこしい質問を重ねるクリスに、うんざりとした様子で答えるジル。そんな彼女の姿に怖気付いたのか、クリスは慌てて資料からカルロスに見せた施設の写真を選び、そこから何を思い出したのかを説明していった。

 暫くカルロスの記憶を思い出す作業に耽っていると、そこへ次の客人が訪れる。その人物はジルと別れ学生寮の方を調べていたレオンだった。

 「ジル!それにカルロスまで!?見つけたのなら何故伝えに来なかった!?」

 「ちょっちょっとレオン!?なんで君まで!?」

 「静かにして!場所を弁えてよ!」

 一行の騒ぎに再び周囲の視線が集まる。慌てて空いていた席に腰を下ろしたレオンは、小声でジルとクリス、そしてカルロスに状況の説明を要求する。

 「昨日の記憶がない?俺と同じだ・・・。やっぱりあの音楽が・・・」

 「?」

 レオンの発言に頭を傾げるクリス。ジルはそれを掻き消して、今はカルロスの記憶を取り戻すことに専念するよう二人を嗾ける。レオンが来たことで、昨夜宮殿へ向かった後のカルロスと行動を共にしていたというレオンの記憶と擦り合わせ、答え合わせができるようになった。

 重要となる施設は主に三つ。アルバにある二つの教会と、大司教が死亡するという事件が起きた現場の宮殿の三ヶ所。レオンの記憶では、クリスが宮殿から二クラス教会へ向かい姿を消した後、レオン宅へ向かい街に響く謎の音色の演奏者が誰なのか探る為、カルロスとレオンの二人はグーゲル教会へ誘われ、そこで記憶が途絶えた、ということになる。

 そして恐らく、カルロスがこれから思い出すであろう記憶も彼と同じものになる筈だ。唯一違うところがあるとすれば、レオンとジルの二人に宮殿へ向かうと告げた後から、レオン宅で彼と合流するまでの記憶ということになる。

 カルロスから話を伺っていたが、それが本当であるかもここで確認できる。カルロスへの質問は既に、宮殿と二クラス教会までが完了していた。

 初めに見せた宮殿のマップと建物の写真では、ぼんやりとした記憶こそあるものの、はっきりと何があったのかまでは思い出すことはできなかったようだ。

 そして二クラス教会の方では、レオンが昨夜のカルロスに聞いた話通り、そこでクリスを見かけた事と、その後何処かへ向かったという記憶までは取り戻せていた。

 ジルが二人に合流し、レオンがやって来るまでの捜査はそこまで。役者が揃ったところで、レオンとカルロスが記憶を失った場所であるグーゲル教会についての捜査がついに行われる。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

だらだら生きるテイマーのお話

めぇ
ファンタジー
自堕落・・・もとい楽して生きたい一人のテイマーのお話。目指すのはスローライフ!

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

処理中です...