1,330 / 1,646
昨夜の真実
しおりを挟む
二クラス教会からの帰り道を思い出したレオンは、来た時とは少し違ったルートで自宅を目指した。その道中では、これまでのフラッシュバックほどではないものの、当時の光景が視界に映るといった現象を体験し、徐々に記憶を取り戻していった。
帰り道こそジルに報告するほどの出来事はなかったが、自宅が見えてきた頃からレオンの記憶にとある人物の姿が映り出したのだ。
「これは・・・!」
「何か思い出したの?」
「カルロスだ・・・俺がアイツと一緒に歩いてる」
それを聞いてジルは不可解だという表情を浮かべて彼を問いただした。それもその筈。彼女の記憶では、カルロスは宮殿へ抗議しに向かい、そのまま中へ連れて行かれてしまったのだから。
「カルロスと?そんな筈ないわ。だって彼は宮殿へ連れて行かれてしまったんだもの。それとも、私と会うよりも前の話?」
「いや、お前と教会で解散した後だ。間違いない」
「それじゃぁカルロスは宮殿から出て来られたってこと?一体どうやって?私は彼とは会ってないわ」
質問攻めになるのも無理もない。正しい記憶を保有しているジルにとっては、カルロスの行方というのは宮殿で途絶えている。その後彼がどうやって宮殿から出てきたのか、どうしてレオンの前に現れたのかなどは、全く新しい情報だったのだ。
だが肝心なところを思い出せずにいるレオンは、自宅へ到着する事によって昨夜の出来事を全て思い出す事になる。
レオンが部屋で外から聞こえてくる音楽に浸っていると、突如カルロスが彼の自宅へやって来たのだとジルに伝える。説明を求められると、レオンは当時カルロスに投げかけた質問内容を思い出し、振り返るようにその時のカルロスの言葉を口にした。
「カルロスの奴、宮殿からクリスが出てきたって言ってた・・・」
「クリス?あのマティアス司祭の・・・」
言葉を詰まらせるジル。どうやら言葉を選んでいるようだった。確かにクリスは音楽学校でもマティアス司祭の腰巾着や媚び売りなどと、あまり良い印象はなく成績も良い方ではなかった為、ジルの印象にもあまり強くは残っていなかった。
言葉に困っているジルを見て、レオンは彼女の代弁をしながら話を続ける。
「あぁ、そのマティアス司祭の雑用係のクリスさ。何でもクリスは宮殿内から吉備隊と一緒に出てきたって言ってた。カルロスも実際宮殿へ抗議には行ったものの、捕まったわけではないらしい」
「どういうこと?私の記憶が間違っているの?それともそれも貴方の記憶違い?」
「俺達はカルロスが宮殿へ抗議しに向かった事しか知らない。だが実際は、宮殿の前まで行ったカルロスは、中から警備隊に連れられて外に出てきたらしい。すぐに駆け付けると怪しまれるっていうんで、そのままクリスの動向を窺ったんだって言ってた」
ジル自身も、カルロスは宮殿内へ連れて行かれてしまったと思い込んでいたようだ。ジルhレオンのように記憶をうっしなった訳ではない。しかし彼女らが置かれている状況や精神状態から、誤った記憶を真実だと思い込んだり、真実をありもしない事だと切り捨て忘れてしまうといった状態にあったようだ。
「じゃぁカルロスは実際に宮殿内へは入っていないってこと?」
「そういうことだ」
「それでクリスは?彼はとカルロスはどうなったの?」
レオンはカルロスから聞いた尾行の話をジルに伝えた。クリスは二クラス教会へ向かうと、教会の者達に宮殿内での出来事について報告すると、彼らから鍵を受け取り教会の奥へと消えていったのだという。
だがそれっきりクリスが戻ることはなく、そこでクリスの行方がわからなくなってしまったカルロスは、ことの顛末を伝える為にレオンの自宅を訪れたのだった。
「それからどうしたの?」
「俺達は街で聞こえてた妙な音楽の出所を探る事になって、それで・・・」
「それで?」
ふと、レオンはジルにとある質問をした。あの時街に流れていた不思議な音楽。彼女はそれを聞いていなかったのだろうか。そこにレオンとジルの記憶の違いが生じた手掛かりはないかと考えたのだが、ジルもその音楽については聞こえていたと語ったのだ。
「それなら私も聞いていたわ」
「お前も!?妙だとは思わなかったのか?あんな演奏、先生達でも難しい・・・。一体誰が演奏してるんだって」
「確かに心地の良い演奏だったけど、その日は疲れてたし余計なことは考えないようにして早めに眠ってしまったの。それに音楽なら毎日のように流れてるじゃない?たまに衝撃を受けるようなものもあったし、その演奏だけが特別だとは・・・思わなかったかしら・・・」
レオンからの話を聞いて昨夜のことを語るジルだったが、言われてみれば確かに耳に残る素晴らしい演奏であったと思い始める。彼女の言うように、昨夜はジルもアルバのあちこちへ赴き、肉体的にも精神的にも憔悴していたことは確かだろう。
そのことも相待ってか、疲労した彼女を癒すような心地の良い音色に導かれるように、彼女はすんなりと眠りについてしまったようだ。だがそれでも、一流の音楽家でも難しいと思わせる演奏をする人物が誰なのか、何故その時に疑問に思わなかったのかと、当時の自分の行動と思考に疑問を抱き始めた。
「俺とカルロスは、その音楽が聞こえてくる方へ向かって、演奏がグーゲル教会から聞こえていたことを突き止めたんだ」
「教会から?でも真夜中だったんでしょ?いくら何でも教会の楽器を演奏するのは・・・」
「俺達もそう思った。だから中を覗いたんだ。そしたら、教会の椅子にびっしりと人が座ってて、みんな大人しくその演奏を聞いてたんだ。あんな心地の良い演奏とは真逆に、その光景はすごく不気味だった・・・」
レオンはカルロスと共にグーゲル教会まで赴き、音の出所を調べることまでは成功したものの、それからのことに関しては激しい眠気に誘われて意識を失ってしまい、気がついたら自宅で寝ていたと語る。
帰り道こそジルに報告するほどの出来事はなかったが、自宅が見えてきた頃からレオンの記憶にとある人物の姿が映り出したのだ。
「これは・・・!」
「何か思い出したの?」
「カルロスだ・・・俺がアイツと一緒に歩いてる」
それを聞いてジルは不可解だという表情を浮かべて彼を問いただした。それもその筈。彼女の記憶では、カルロスは宮殿へ抗議しに向かい、そのまま中へ連れて行かれてしまったのだから。
「カルロスと?そんな筈ないわ。だって彼は宮殿へ連れて行かれてしまったんだもの。それとも、私と会うよりも前の話?」
「いや、お前と教会で解散した後だ。間違いない」
「それじゃぁカルロスは宮殿から出て来られたってこと?一体どうやって?私は彼とは会ってないわ」
質問攻めになるのも無理もない。正しい記憶を保有しているジルにとっては、カルロスの行方というのは宮殿で途絶えている。その後彼がどうやって宮殿から出てきたのか、どうしてレオンの前に現れたのかなどは、全く新しい情報だったのだ。
だが肝心なところを思い出せずにいるレオンは、自宅へ到着する事によって昨夜の出来事を全て思い出す事になる。
レオンが部屋で外から聞こえてくる音楽に浸っていると、突如カルロスが彼の自宅へやって来たのだとジルに伝える。説明を求められると、レオンは当時カルロスに投げかけた質問内容を思い出し、振り返るようにその時のカルロスの言葉を口にした。
「カルロスの奴、宮殿からクリスが出てきたって言ってた・・・」
「クリス?あのマティアス司祭の・・・」
言葉を詰まらせるジル。どうやら言葉を選んでいるようだった。確かにクリスは音楽学校でもマティアス司祭の腰巾着や媚び売りなどと、あまり良い印象はなく成績も良い方ではなかった為、ジルの印象にもあまり強くは残っていなかった。
言葉に困っているジルを見て、レオンは彼女の代弁をしながら話を続ける。
「あぁ、そのマティアス司祭の雑用係のクリスさ。何でもクリスは宮殿内から吉備隊と一緒に出てきたって言ってた。カルロスも実際宮殿へ抗議には行ったものの、捕まったわけではないらしい」
「どういうこと?私の記憶が間違っているの?それともそれも貴方の記憶違い?」
「俺達はカルロスが宮殿へ抗議しに向かった事しか知らない。だが実際は、宮殿の前まで行ったカルロスは、中から警備隊に連れられて外に出てきたらしい。すぐに駆け付けると怪しまれるっていうんで、そのままクリスの動向を窺ったんだって言ってた」
ジル自身も、カルロスは宮殿内へ連れて行かれてしまったと思い込んでいたようだ。ジルhレオンのように記憶をうっしなった訳ではない。しかし彼女らが置かれている状況や精神状態から、誤った記憶を真実だと思い込んだり、真実をありもしない事だと切り捨て忘れてしまうといった状態にあったようだ。
「じゃぁカルロスは実際に宮殿内へは入っていないってこと?」
「そういうことだ」
「それでクリスは?彼はとカルロスはどうなったの?」
レオンはカルロスから聞いた尾行の話をジルに伝えた。クリスは二クラス教会へ向かうと、教会の者達に宮殿内での出来事について報告すると、彼らから鍵を受け取り教会の奥へと消えていったのだという。
だがそれっきりクリスが戻ることはなく、そこでクリスの行方がわからなくなってしまったカルロスは、ことの顛末を伝える為にレオンの自宅を訪れたのだった。
「それからどうしたの?」
「俺達は街で聞こえてた妙な音楽の出所を探る事になって、それで・・・」
「それで?」
ふと、レオンはジルにとある質問をした。あの時街に流れていた不思議な音楽。彼女はそれを聞いていなかったのだろうか。そこにレオンとジルの記憶の違いが生じた手掛かりはないかと考えたのだが、ジルもその音楽については聞こえていたと語ったのだ。
「それなら私も聞いていたわ」
「お前も!?妙だとは思わなかったのか?あんな演奏、先生達でも難しい・・・。一体誰が演奏してるんだって」
「確かに心地の良い演奏だったけど、その日は疲れてたし余計なことは考えないようにして早めに眠ってしまったの。それに音楽なら毎日のように流れてるじゃない?たまに衝撃を受けるようなものもあったし、その演奏だけが特別だとは・・・思わなかったかしら・・・」
レオンからの話を聞いて昨夜のことを語るジルだったが、言われてみれば確かに耳に残る素晴らしい演奏であったと思い始める。彼女の言うように、昨夜はジルもアルバのあちこちへ赴き、肉体的にも精神的にも憔悴していたことは確かだろう。
そのことも相待ってか、疲労した彼女を癒すような心地の良い音色に導かれるように、彼女はすんなりと眠りについてしまったようだ。だがそれでも、一流の音楽家でも難しいと思わせる演奏をする人物が誰なのか、何故その時に疑問に思わなかったのかと、当時の自分の行動と思考に疑問を抱き始めた。
「俺とカルロスは、その音楽が聞こえてくる方へ向かって、演奏がグーゲル教会から聞こえていたことを突き止めたんだ」
「教会から?でも真夜中だったんでしょ?いくら何でも教会の楽器を演奏するのは・・・」
「俺達もそう思った。だから中を覗いたんだ。そしたら、教会の椅子にびっしりと人が座ってて、みんな大人しくその演奏を聞いてたんだ。あんな心地の良い演奏とは真逆に、その光景はすごく不気味だった・・・」
レオンはカルロスと共にグーゲル教会まで赴き、音の出所を調べることまでは成功したものの、それからのことに関しては激しい眠気に誘われて意識を失ってしまい、気がついたら自宅で寝ていたと語る。
0
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説
Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~
神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!!
皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました!
ありがとうございます!
VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。
山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・?
それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい!
毎週土曜日更新(偶に休み)
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。
転移先は勇者と呼ばれた男のもとだった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
人魔戦争。
それは魔人と人族の戦争。
その規模は計り知れず、2年の時を経て終戦。
勝敗は人族に旗が上がったものの、人族にも魔人にも深い心の傷を残した。
それを良しとせず立ち上がったのは魔王を打ち果たした勇者である。
勇者は終戦後、すぐに国を建国。
そして見事、平和協定条約を結びつけ、法をつくる事で世界を平和へと導いた。
それから25年後。
1人の子供が異世界に降り立つ。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった
ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。
しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。
リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。
現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる