World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,329 / 1,646

揺らぐ気持ちを巡る旅

しおりを挟む
 息を切らしながら走る早朝の街中。まだ朝日が彼らを照らし出す前の静かな光景の中、足音を響かせ駆け抜ける姿が一つだけあった。追手の足音は既になく、その者の荒い息遣いだけがはっきりと聞こえる。

 そのままフラッシュバックした光景は途切れてしまったが、レオンはそれを皮切りに昨日の事件について思い出すことができた。

 「そうだ・・・俺は確か、フェリクス先生の家で警備隊に・・・」

 「思い出せたの?」

 「あぁ、俺はなんでこんな大事なことを忘れていたんだ・・・?けど全部じゃない。大司教の事件については思い出せたけど、やっぱり昨日の行動については曖昧なままだ」

 「それでも上出来よ。良かった・・・私だけの勘違いではないのよね?」

 レオンが記憶を取り戻したことに安堵したのか、ジルは思わずその場で膝を折り畳んでしまう。心配したレオンが手を差し伸べるが、彼女は一息ついた後大丈夫とレオンに伝え自力で立ち上がる。

 「街じゃ誰も大司教が死んだなんて知りもしない。警備隊もその手の話題には敏感になっている。鍵を握るのは宮殿にいた人物って事になる・・・で、いいんだよな?」

 「えぇ、そうよ。それで私達は宮殿の中での出来事について探ろうと、私達でも怪しまれずに行動できる学校や教会で情報を集める事にしたの。そこでカルロスに出会った」

 「カルロス?」

 「彼、私達と同じようにこの状況に疑問を持っていて、二クラス教会で牧師の人達を問いただしていたの。警備隊に嗅ぎつけられるからすぐにやめさせたけど、どうやら彼もその状況に疑問を抱いていたらしくて、私達は彼に事情を説明したの」

 ジルは教会で出会った、現状に疑問を抱く同胞に何があったのかを説明したとレオンに伝えると、信じられないといった様子で彼は応えた。

 「話たのか!?アイツが俺たちの事、他の奴に話さないとも限らないだろ?それにそんな話、アイツは信じたのか?」

 「元々疑問に思ってたみたいだし、そこまで疑っていなかったわ。それに彼に話す事については貴方も賛成していた。余裕がなかったのよ・・・心に・・・」

 「そっそうか、悪い・・・。じゃぁカルロスを探さないか?アイツなら俺よりも何か知っているんじゃないか?」

 「残念だけどそれは無理よ」

 レオンの提案に、がっくりと肩を落として溜息をついたジルは、何故カルロスを探す事ができないのかを、全て忘れてしまったレオンに説明する。

 彼らだけが知るアルバで起きた事件。その由々しき事態に何故解散し自宅で眠りについていたのか。それはある意味で争いようのない事態に無力さを感じてしまっていたからだった。

 「彼は私達の代わりに宮殿へ抗議に向かったの」

 「抗議?例の事件について教えろってか?」

 「えぇ、そしたら宮殿の警備の人達、血相を変えて彼を宮殿の方へと連れていってしまったわ・・・。やっぱりこの件については触れない方がいいのかもしれない。そう思って昨日、私達は解散したの」

 「そんな・・・じゃぁカルロスは宮殿で一体何を・・・」

 「そんなの分からない。きっとその情報をどこで聞いたのかとか、尋問されているんじゃないかしら。もし彼が私達の事を喋ったら・・・」

 「・・・・・」

 カルロスを疑う訳じゃなかった。ただ、自分がもし彼の立場で厳しい尋問を受けていたとしたら、それを信じて教えてくれた仲間達の事を黙っていられるだろうか。そんなことをレオンは想像してしまっていた。

 「それじゃ結局、昨日と何も変わらないんじゃないか・・・?」

 「そうね。一層のこと、私も全て忘れられたのならこんな思いもせずに日常を送れたのかしら・・・」

 珍しく弱音を漏らすジルに、掛ける言葉が見つからないレオン。二人の間に僅かな沈黙が訪れる。だがレオンの中で、取り戻した記憶の中のフェリクスが、警備隊に取り押さえられながら彼を逃すことに全力を尽くしてくれた姿が蘇る。

 フェリクスやカタリナが何故彼らを逃してくれたのか。この件には拘るべきじゃないと判断した二人は、レオンとジルを無関係のままでいさせる為、つまり守る為に犠牲になってくれたのだ。

 その思いは二人の思惑とは反してしまったが、それでもレオンとジルを前向きにさせる為の原動力となった。

 フェリクスと別れる前の最後の場面を思い出し、レオンの瞳に光が戻る。

 「先生やカタリナさんは、俺達に託したんじゃないのか?」

 「・・・託すって、何を?」

 「大司教の事件については宮殿の中で情報を閉じ込めている。きっと中にいる人達も、外の様子は分からない筈だ。宮殿の外で事件のことを知っていて、自由に行動できるのは俺達しかいないんだ」

 「私達しか・・・」

 「俺達にしか調べられないもの、見えないものがある。いつ先生やカタリナさんと話せる機会がやってくるか分からないけど、それまでの間何もせず待ってるだけでいいのか?」

 レオンの言葉に、ジルも博物館でのカタリナの姿を思い出していた。彼女は一切ジルがその場にいるような素振りも見せず、警備隊の指示に従い彼らに連れて行かれてしまった。

 それはただ彼女の身を案じていたからだけだったのだろうか。そう考えた時にジルの中に芽生えた感情は、自分を信じて逃してくれたというものだった。

 「そうよね、こんな私を見たらきっとカタリナさんもガッカリするに違いないわ」

 「探そう、手掛かりを。すぐに何かを掴もうとしなくてもいい。それでも少しずつ前に歩み続けよう。きっと二人もそんな俺達の姿を見たい筈だろ」

 落ち込んだマイナスの気持ちや思考を振り払い、前を向くことができた二人は、何かすぐに行動を起こさなくとも情報を少しずつ探ることで、大きな情報へ繋がる手掛かりになるのだと信じ、再び立ち上がることができた。

 「事件の記憶に関しては思い出せた。だが、お前と別れた後の記憶がまだ曖昧になったままなんだ。きっと何かまだ忘れてる・・・。俺がなんで昨日のことも思い出せなくなってるのか、その原因が忘れている記憶の中にあるかもしれない。ジル、お前には悪いがもう少し俺の都合に付き合ってくれないか?」

 「勿論。今のところ手掛かりらしい手掛かりはないのだもの。その中で私だけ覚えていて貴方が覚えていないこの現象・・・。きっと何か裏がありそうだわ」

 忘れている記憶に関連する場所に向かうことで、レオンの記憶は蘇った。ジルと解散した後の記憶は本人にも分からない。だがジルの記憶の中にある会話の脈略から、彼も自宅へ向かったであろうことが分かる。

 二人はまず、解散した場所からレオンの家へ向かう道を辿る事にした。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

アルカディア・クロニクル ゲーム世界にようこそ! 

織部
ファンタジー
 記憶を失った少年アキラ、目覚めたのはゲームの世界だった!  ナビゲーターの案内で進む彼は、意思を持ったキャラクターたちや理性を持つ魔物と対峙しながら物語を進める。  新たなキャラクターは、ガチャによって、仲間になっていく。    しかし、そのガチャは、仕組まれたものだった。  ナビゲーターの女は、誰なのか? どこに存在しているのか。  一方、妹・山吹は兄の失踪の秘密に迫る。  異世界と現実が交錯し、運命が動き出す――群像劇が今、始まる!  小説家になろう様でも連載しております  

╣淫・呪・秘・転╠亡国の暗黒魔法師編

流転小石
ファンタジー
淫 欲の化身が身近で俺を監視している。 呪 い。持っているんだよねぇ俺。 秘 密? 沢山あるけど知りたいか? 転 生するみたいだね、最後には。 これは亡国の復興と平穏な暮らしを望むが女運の悪いダークエルフが転生するまでの物語で、運命の悪戯に翻弄される主人公が沢山の秘密と共に波瀾万丈の人生を綴るお話しです。気軽に、サラッと多少ドキドキしながらサクサクと進み、炭酸水の様にお読み頂ければ幸いです。 運命に流されるまま”悪意の化身である、いにしえのドラゴン”と決戦の為に魔族の勇者率いる"仲間"に参戦する俺はダークエルフだ。決戦前の休息時間にフッと過去を振り返る。なぜ俺はここにいるのかと。記憶を過去にさかのぼり、誕生秘話から現在に至るまでの女遍歴の物語を、知らないうちに自分の母親から呪いの呪文を二つも体内に宿す主人公が語ります。一休みした後、全員で扉を開けると新たな秘密と共に転生する主人公たち。 他サイトにも投稿していますが、編集し直す予定です。 誤字脱字があれば連絡ください。m( _ _ )m

初めての異世界転生

藤井 サトル
ファンタジー
その日、幸村 大地(ゆきむら だいち)は女神に選ばれた。 女神とのやり取りの末、大地は女神の手によって異世界へと転生する。その身には女神にいくつもの能力を授かって。 まさにファンタジーの世界へ来た大地は聖女を始めにいろんな人に出会い、出会い金を稼いだり、稼いだ金が直ぐに消えたり、路上で寝たり、チート能力を振るったりと、たぶん楽しく世界を謳歌する。 このお話は【転生者】大地と【聖女】リリア。そこに女神成分をひとつまみが合わさった異世界騒動物語である。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

ちょっと神様!私もうステータス調整されてるんですが!!

べちてん
ファンタジー
アニメ、マンガ、ラノベに小説好きの典型的な陰キャ高校生の西園千成はある日河川敷に花見に来ていた。人混みに酔い、体調が悪くなったので少し離れた路地で休憩していたらいつの間にか神域に迷い込んでしまっていた!!もう元居た世界には戻れないとのことなので魔法の世界へ転移することに。申し訳ないとか何とかでステータスを古龍の半分にしてもらったのだが、別の神様がそれを知らずに私のステータスをそこからさらに2倍にしてしまった!ちょっと神様!もうステータス調整されてるんですが!!

処理中です...