World of Fantasia

神代 コウ

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揺らぐ気持ちを巡る旅

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 息を切らしながら走る早朝の街中。まだ朝日が彼らを照らし出す前の静かな光景の中、足音を響かせ駆け抜ける姿が一つだけあった。追手の足音は既になく、その者の荒い息遣いだけがはっきりと聞こえる。

 そのままフラッシュバックした光景は途切れてしまったが、レオンはそれを皮切りに昨日の事件について思い出すことができた。

 「そうだ・・・俺は確か、フェリクス先生の家で警備隊に・・・」

 「思い出せたの?」

 「あぁ、俺はなんでこんな大事なことを忘れていたんだ・・・?けど全部じゃない。大司教の事件については思い出せたけど、やっぱり昨日の行動については曖昧なままだ」

 「それでも上出来よ。良かった・・・私だけの勘違いではないのよね?」

 レオンが記憶を取り戻したことに安堵したのか、ジルは思わずその場で膝を折り畳んでしまう。心配したレオンが手を差し伸べるが、彼女は一息ついた後大丈夫とレオンに伝え自力で立ち上がる。

 「街じゃ誰も大司教が死んだなんて知りもしない。警備隊もその手の話題には敏感になっている。鍵を握るのは宮殿にいた人物って事になる・・・で、いいんだよな?」

 「えぇ、そうよ。それで私達は宮殿の中での出来事について探ろうと、私達でも怪しまれずに行動できる学校や教会で情報を集める事にしたの。そこでカルロスに出会った」

 「カルロス?」

 「彼、私達と同じようにこの状況に疑問を持っていて、二クラス教会で牧師の人達を問いただしていたの。警備隊に嗅ぎつけられるからすぐにやめさせたけど、どうやら彼もその状況に疑問を抱いていたらしくて、私達は彼に事情を説明したの」

 ジルは教会で出会った、現状に疑問を抱く同胞に何があったのかを説明したとレオンに伝えると、信じられないといった様子で彼は応えた。

 「話たのか!?アイツが俺たちの事、他の奴に話さないとも限らないだろ?それにそんな話、アイツは信じたのか?」

 「元々疑問に思ってたみたいだし、そこまで疑っていなかったわ。それに彼に話す事については貴方も賛成していた。余裕がなかったのよ・・・心に・・・」

 「そっそうか、悪い・・・。じゃぁカルロスを探さないか?アイツなら俺よりも何か知っているんじゃないか?」

 「残念だけどそれは無理よ」

 レオンの提案に、がっくりと肩を落として溜息をついたジルは、何故カルロスを探す事ができないのかを、全て忘れてしまったレオンに説明する。

 彼らだけが知るアルバで起きた事件。その由々しき事態に何故解散し自宅で眠りについていたのか。それはある意味で争いようのない事態に無力さを感じてしまっていたからだった。

 「彼は私達の代わりに宮殿へ抗議に向かったの」

 「抗議?例の事件について教えろってか?」

 「えぇ、そしたら宮殿の警備の人達、血相を変えて彼を宮殿の方へと連れていってしまったわ・・・。やっぱりこの件については触れない方がいいのかもしれない。そう思って昨日、私達は解散したの」

 「そんな・・・じゃぁカルロスは宮殿で一体何を・・・」

 「そんなの分からない。きっとその情報をどこで聞いたのかとか、尋問されているんじゃないかしら。もし彼が私達の事を喋ったら・・・」

 「・・・・・」

 カルロスを疑う訳じゃなかった。ただ、自分がもし彼の立場で厳しい尋問を受けていたとしたら、それを信じて教えてくれた仲間達の事を黙っていられるだろうか。そんなことをレオンは想像してしまっていた。

 「それじゃ結局、昨日と何も変わらないんじゃないか・・・?」

 「そうね。一層のこと、私も全て忘れられたのならこんな思いもせずに日常を送れたのかしら・・・」

 珍しく弱音を漏らすジルに、掛ける言葉が見つからないレオン。二人の間に僅かな沈黙が訪れる。だがレオンの中で、取り戻した記憶の中のフェリクスが、警備隊に取り押さえられながら彼を逃すことに全力を尽くしてくれた姿が蘇る。

 フェリクスやカタリナが何故彼らを逃してくれたのか。この件には拘るべきじゃないと判断した二人は、レオンとジルを無関係のままでいさせる為、つまり守る為に犠牲になってくれたのだ。

 その思いは二人の思惑とは反してしまったが、それでもレオンとジルを前向きにさせる為の原動力となった。

 フェリクスと別れる前の最後の場面を思い出し、レオンの瞳に光が戻る。

 「先生やカタリナさんは、俺達に託したんじゃないのか?」

 「・・・託すって、何を?」

 「大司教の事件については宮殿の中で情報を閉じ込めている。きっと中にいる人達も、外の様子は分からない筈だ。宮殿の外で事件のことを知っていて、自由に行動できるのは俺達しかいないんだ」

 「私達しか・・・」

 「俺達にしか調べられないもの、見えないものがある。いつ先生やカタリナさんと話せる機会がやってくるか分からないけど、それまでの間何もせず待ってるだけでいいのか?」

 レオンの言葉に、ジルも博物館でのカタリナの姿を思い出していた。彼女は一切ジルがその場にいるような素振りも見せず、警備隊の指示に従い彼らに連れて行かれてしまった。

 それはただ彼女の身を案じていたからだけだったのだろうか。そう考えた時にジルの中に芽生えた感情は、自分を信じて逃してくれたというものだった。

 「そうよね、こんな私を見たらきっとカタリナさんもガッカリするに違いないわ」

 「探そう、手掛かりを。すぐに何かを掴もうとしなくてもいい。それでも少しずつ前に歩み続けよう。きっと二人もそんな俺達の姿を見たい筈だろ」

 落ち込んだマイナスの気持ちや思考を振り払い、前を向くことができた二人は、何かすぐに行動を起こさなくとも情報を少しずつ探ることで、大きな情報へ繋がる手掛かりになるのだと信じ、再び立ち上がることができた。

 「事件の記憶に関しては思い出せた。だが、お前と別れた後の記憶がまだ曖昧になったままなんだ。きっと何かまだ忘れてる・・・。俺がなんで昨日のことも思い出せなくなってるのか、その原因が忘れている記憶の中にあるかもしれない。ジル、お前には悪いがもう少し俺の都合に付き合ってくれないか?」

 「勿論。今のところ手掛かりらしい手掛かりはないのだもの。その中で私だけ覚えていて貴方が覚えていないこの現象・・・。きっと何か裏がありそうだわ」

 忘れている記憶に関連する場所に向かうことで、レオンの記憶は蘇った。ジルと解散した後の記憶は本人にも分からない。だがジルの記憶の中にある会話の脈略から、彼も自宅へ向かったであろうことが分かる。

 二人はまず、解散した場所からレオンの家へ向かう道を辿る事にした。
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