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心地の良い夢の中で
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場面は変わり、ルーカス司祭とマティアス司祭が殺害された日の朝へと戻る。宮殿の外では依然、何事もなかったかのような日常が送られている。
式典やその後の来客をもてなすパーティーも終わり、街には普段通りの音が溢れる癒しの音色がそこら中から聞こえていた。だがそれらが聞こえていたのはあくまで街の中だけであり、防音などの仕様もあり宮殿内からでは窓を開けなければ音が聞こえてくる事はない。
マティアス司祭が務めていたグーゲル協会にて、謎の演奏を耳にしていたレオンとカルロス。二人は夜の教会で繰り広げられる演奏を耳にし、内部に侵入したところで眠気に襲われ意識を失ってしまった。
いつの間にか多くの観客を集め夜な夜な開かれていた演奏。訪れていた客も、地元のアルバの者達とは装いが違っていた。それ以前から街中を移動していた二人だったが、そのような服装をした人物を一度も見かけていない。
だが教会の席がいっぱいになる程の人間を、一人も見かけなかったと言うのも妙な話だ。どちらにせよ、人の多さと眠気に邪魔されてしまい、アルバの街を心地の良い音楽で満たし包み込む演奏をしていた者が誰なのか、その正体を目にする前にレオン達の奇妙の一日は過ぎ去ってしまった。
翌朝レオンが目を覚ますと、自室のベッドの上でしっかりと肩まで毛布を被り熟睡していたのだった。鳥の囀りと朝日の眩しさに、重たい瞼をこじ開けて上体を起こす。
「あれ・・・俺、なんでここに・・・?」
レオンが目を覚ましたところで、彼を起こしにきた使いの者が扉をノックする。レオンが返事をすると扉が開き、使いの者が頭を下げて用件を述べながら中へと入って来た。
「なぁ、俺は昨日確か外に出掛けてたんじゃなかったか?」
レオンを起こす為にやって来た使いだったが、既に彼が起きていた為、別の仕事へと戻ろうとしたところ、レオンが昨晩のことについて尋ね彼を止める。
「いえ、昨晩のレオン様は自室にて夜風に当たっておいででしたよ?私が知る限りではそれが最後。その後レオン様の部屋の扉は、今まで開いていないかと・・・」
「そう・・・だったか?誰か来客が来たとかは?」
「レオン様への来客はございませんでした。何か良からぬ夢でも?」
「いや、それなら良いんだ。引き止めて悪かったな」
「いえいえ、滅相もございません。それでは私はこれにて」
どうやらレオンは、昨晩はどこへも出掛けていないようだった。本人の記憶も曖昧になっているようで、昨日の出来事が断片的にしか思い出せず、何故自身が昨晩に外へ出て行ったと思ったのかさえ思い出せずにいた。
それこそまさに、夢で見たことを鮮明に思い出せないような感覚だった。ただ身体が軽く、良い夢を見ていたようにも思える。しかし、事細かに思い出そうとしてもその詳細が思い出せないように、何かモヤモヤとしたもどかしさだけがレオンの中に残っていた。
ベッドからでたレオンは顔を洗い目を覚まさせると、部屋を出てリビングへと向かう。そこではレオンの母親が優雅に紅茶を飲みながら、壁に取り付けられたモニターで各地で起きている事柄や出来事を眺めていた。
「あら?おはようレオン。今朝は随分とゆっくりだったのね」
「あぁ、何だか良い夢でも見ていたみたいで、身体も軽いんだ」
「調子が良いようで安心したわ。一体どんな夢だったのかしらね?身体が軽くなるなら、私も是非その夢を見てみたいものだわ」
冗談混じりに一人屈託のない笑顔を浮かべる母親にレオンは、先程家の使いの者にした質問と同じ質問を母親に聞いてみた。しかし、母親の回答も全く同じものであり、レオンは昨晩外出していないのだという。
やはり昨晩、妙な体験をしたように感じていたのは自分の勘違いなのかと、レオンはキッチンへ向かいコーヒーを入れると、母親と同じ大きなテーブルの席へ着き一緒に朝のニュースを眺めていた。
「あら、コーヒーでいいの?昨日美味しい紅茶を頂いたのだけど」
「ん、朝はこっちの方が良い」
「そう?飲みたくなったら言ってね」
他愛のない会話をしながら朝のひと時を過ごしていると、家の呼び鈴が鳴る。彼の家で雇っている使いの者が出ると、どうやら彼の家を訪れたのはジルだったらしい。
「バルツァーさんのところのお嬢さんが来るなんて珍しいわね。先日のパーティーで何か約束でもしたの?」
「いや、そんな筈は・・・」
彼女が呼び出したのはレオンらしく、使いの者が用件を彼に伝えると代わりにレオンが玄関へと赴き扉を開ける。
「どうしたんだ?ジルが来るなんて・・・」
彼が扉を開けて彼女の顔を見ると、何か差し迫ったかの表情を浮かべたジルがそこにいた。思わず言葉を止めると、間髪入れずにジルが昨晩の出来事について尋ねてきた。
「ねぇ!昨日の夜、何か不思議な演奏が聞こえてこなかった!?」
「不思議なって・・・どうしたんだ?随分と抽象的な言い方だな」
「何を呑気なッ・・・場所を変えましょう。今から出れる?」
「あっあぁ、それは構わないが・・・。準備するから少し待っててくれ」
「えぇ、急いでね」
「?」
訳のわからないまま、急かされるレオンは飲み掛けのコーヒーを少し口に含み残りを流しに捨てると、そのまま身支度を整える為一度部屋へと戻る。途中、母親に出掛けるのかと尋ねられそうだと答えると、いつの間にジルと仲良くなったのかと変な誤解を受けてしまう。
そんなんじゃないと言いつつも、しっかりと準備をするレオンに彼の母親は微笑ましく温かい視線を送る。レオンの成績は決して悪くなく、寧ろ音楽学校の中でもトップクラスの才能に恵まれており、なんら心配するようなことはなかったのだが、当の本人があまり浮かない様子だったことが母親の気掛かりでもあった。
感情表現が苦手という評価に、母親はレオンの学校での様子を心配していたが、同じ同級生であり首席のジルと親しくしている様子を見てホッとしているようだった。
直ぐに部屋を飛び出し家を出ていったレオンは、ジルと共に宮殿の方へと向かって歩き出した。その道中、彼は思いもしなかったとても信じられない事件を耳にする。
それはジークベルト大司教が昨日の早朝に亡くなっていたという、宮殿内で起きたであろう事件の事だった。
式典やその後の来客をもてなすパーティーも終わり、街には普段通りの音が溢れる癒しの音色がそこら中から聞こえていた。だがそれらが聞こえていたのはあくまで街の中だけであり、防音などの仕様もあり宮殿内からでは窓を開けなければ音が聞こえてくる事はない。
マティアス司祭が務めていたグーゲル協会にて、謎の演奏を耳にしていたレオンとカルロス。二人は夜の教会で繰り広げられる演奏を耳にし、内部に侵入したところで眠気に襲われ意識を失ってしまった。
いつの間にか多くの観客を集め夜な夜な開かれていた演奏。訪れていた客も、地元のアルバの者達とは装いが違っていた。それ以前から街中を移動していた二人だったが、そのような服装をした人物を一度も見かけていない。
だが教会の席がいっぱいになる程の人間を、一人も見かけなかったと言うのも妙な話だ。どちらにせよ、人の多さと眠気に邪魔されてしまい、アルバの街を心地の良い音楽で満たし包み込む演奏をしていた者が誰なのか、その正体を目にする前にレオン達の奇妙の一日は過ぎ去ってしまった。
翌朝レオンが目を覚ますと、自室のベッドの上でしっかりと肩まで毛布を被り熟睡していたのだった。鳥の囀りと朝日の眩しさに、重たい瞼をこじ開けて上体を起こす。
「あれ・・・俺、なんでここに・・・?」
レオンが目を覚ましたところで、彼を起こしにきた使いの者が扉をノックする。レオンが返事をすると扉が開き、使いの者が頭を下げて用件を述べながら中へと入って来た。
「なぁ、俺は昨日確か外に出掛けてたんじゃなかったか?」
レオンを起こす為にやって来た使いだったが、既に彼が起きていた為、別の仕事へと戻ろうとしたところ、レオンが昨晩のことについて尋ね彼を止める。
「いえ、昨晩のレオン様は自室にて夜風に当たっておいででしたよ?私が知る限りではそれが最後。その後レオン様の部屋の扉は、今まで開いていないかと・・・」
「そう・・・だったか?誰か来客が来たとかは?」
「レオン様への来客はございませんでした。何か良からぬ夢でも?」
「いや、それなら良いんだ。引き止めて悪かったな」
「いえいえ、滅相もございません。それでは私はこれにて」
どうやらレオンは、昨晩はどこへも出掛けていないようだった。本人の記憶も曖昧になっているようで、昨日の出来事が断片的にしか思い出せず、何故自身が昨晩に外へ出て行ったと思ったのかさえ思い出せずにいた。
それこそまさに、夢で見たことを鮮明に思い出せないような感覚だった。ただ身体が軽く、良い夢を見ていたようにも思える。しかし、事細かに思い出そうとしてもその詳細が思い出せないように、何かモヤモヤとしたもどかしさだけがレオンの中に残っていた。
ベッドからでたレオンは顔を洗い目を覚まさせると、部屋を出てリビングへと向かう。そこではレオンの母親が優雅に紅茶を飲みながら、壁に取り付けられたモニターで各地で起きている事柄や出来事を眺めていた。
「あら?おはようレオン。今朝は随分とゆっくりだったのね」
「あぁ、何だか良い夢でも見ていたみたいで、身体も軽いんだ」
「調子が良いようで安心したわ。一体どんな夢だったのかしらね?身体が軽くなるなら、私も是非その夢を見てみたいものだわ」
冗談混じりに一人屈託のない笑顔を浮かべる母親にレオンは、先程家の使いの者にした質問と同じ質問を母親に聞いてみた。しかし、母親の回答も全く同じものであり、レオンは昨晩外出していないのだという。
やはり昨晩、妙な体験をしたように感じていたのは自分の勘違いなのかと、レオンはキッチンへ向かいコーヒーを入れると、母親と同じ大きなテーブルの席へ着き一緒に朝のニュースを眺めていた。
「あら、コーヒーでいいの?昨日美味しい紅茶を頂いたのだけど」
「ん、朝はこっちの方が良い」
「そう?飲みたくなったら言ってね」
他愛のない会話をしながら朝のひと時を過ごしていると、家の呼び鈴が鳴る。彼の家で雇っている使いの者が出ると、どうやら彼の家を訪れたのはジルだったらしい。
「バルツァーさんのところのお嬢さんが来るなんて珍しいわね。先日のパーティーで何か約束でもしたの?」
「いや、そんな筈は・・・」
彼女が呼び出したのはレオンらしく、使いの者が用件を彼に伝えると代わりにレオンが玄関へと赴き扉を開ける。
「どうしたんだ?ジルが来るなんて・・・」
彼が扉を開けて彼女の顔を見ると、何か差し迫ったかの表情を浮かべたジルがそこにいた。思わず言葉を止めると、間髪入れずにジルが昨晩の出来事について尋ねてきた。
「ねぇ!昨日の夜、何か不思議な演奏が聞こえてこなかった!?」
「不思議なって・・・どうしたんだ?随分と抽象的な言い方だな」
「何を呑気なッ・・・場所を変えましょう。今から出れる?」
「あっあぁ、それは構わないが・・・。準備するから少し待っててくれ」
「えぇ、急いでね」
「?」
訳のわからないまま、急かされるレオンは飲み掛けのコーヒーを少し口に含み残りを流しに捨てると、そのまま身支度を整える為一度部屋へと戻る。途中、母親に出掛けるのかと尋ねられそうだと答えると、いつの間にジルと仲良くなったのかと変な誤解を受けてしまう。
そんなんじゃないと言いつつも、しっかりと準備をするレオンに彼の母親は微笑ましく温かい視線を送る。レオンの成績は決して悪くなく、寧ろ音楽学校の中でもトップクラスの才能に恵まれており、なんら心配するようなことはなかったのだが、当の本人があまり浮かない様子だったことが母親の気掛かりでもあった。
感情表現が苦手という評価に、母親はレオンの学校での様子を心配していたが、同じ同級生であり首席のジルと親しくしている様子を見てホッとしているようだった。
直ぐに部屋を飛び出し家を出ていったレオンは、ジルと共に宮殿の方へと向かって歩き出した。その道中、彼は思いもしなかったとても信じられない事件を耳にする。
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