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神代 コウ

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三件目の事件

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 「はッ離せ!離してくれッ!ここにいたら“殺される“ッ!!」

 「何を言ってるんだ!?部屋に戻れッ!」

 その男は部屋を飛び出し廊下を不恰好に駆け抜けていた。それを追いかける教団の護衛と外で待機していた警備員。オイゲンが現場の廊下へ辿り着くと、奥の方で丁度逃げ回る男が取り押さえられている場面だった。

 激しく暴れ回る男をは壁に押し当てられ、必死に抵抗するもその場で倒れ遂にその動きを止める。腕を押さえ込み床に倒す護衛が男の上に乗り、身動きを封じて男を落ち着かせようと説得を試みる。

 「我々はお前を守っているんだ。事件の関連性から教団の関係者であるお前が次のターゲットに選ばれる可能性が高いッ!だから匿っているんじゃないか!」

 「うッ嘘だ!そうやって私を殺すつもりなんだろ!?貴方達は初めからそのつもりでアルバへッ・・・!?」

 と、そこで男は突然動きを止める。かと思えば今度は、悶え苦しむように暴れ始めたのだ。上に乗る護衛からはその男の顔が見えないのか、ただ再び暴れ出したのかと思い、今度は更に強めに床へと押し付けているようだった。

 「マティアス!おいッ!押さえつけ過ぎだ!様子がおかしい」

 「オっオイゲン殿!?この男が突然暴れ出しまして・・・」

 「いいからその男から離れろ!あとは私がッ・・・!?」

 駆けつけたオイゲンが、床にマティアス司祭を押さえつける護衛を退かし、胸を抑えるようにして苦しみ始める彼の様子を見ながら声を掛ける。しかし、マティアス司祭は床で激しく転げ回るだけで、オイゲンの言葉に返事をしない。その様子からはとても他のことに意識を割いている余裕などない、切羽詰まった様子が窺える。

 「マティアス!私の声が聞こえるか!?おいっマティアス!?返事をしろ!!」

 次第に落ち着きを取り戻していくマティアスの動きは、まるで生き絶える寸前の生き物のように弱まっていった。もがいていた力はみる影もなくなり、最早押さえつけていなくとも、一人で起き上がることすらできないと思わせるほどだった。

 「あっ・・・あぁ・・・」

 「マティアス!何があった。何でもいいから話してくれ!」

 辛うじて口を動かし、何かを伝えようとするマティアスにオイゲンは彼の口元に耳を近づけ、その微かに発せられる音の振動を拾おうと意識を集中させる。だが、彼が最後に残した言葉は事件に関係のある手掛かりなどではなく、実に聖職者らしいものだった。

 「・・・神よ・・・憐れみを・・・」

 絞り出した言葉を最後に、マティアスの身体から全ての力が抜ける。上体を抱き起こすように支えていたオイゲンには、彼がそこで事切れたのが腕を伝って確認できた。

 「オ・・・オイゲン殿」

 「・・・呼吸と心音が止まった。すぐにカールと回復班を呼べ。手遅れかも知れないが最善を尽くす」

 オイゲンの指示により、すぐにその場に集められた回復班と呼ばれる、教団が連れて来ていた魔術による回復や蘇生を担当する部隊が、マティアスの様子と身体をそのままに保ちながら触れずに再起を図る。

 何度か魔法を掛けていような淡い光がマティアスの身体を包み込んだが、彼が再び動き出すことはなかった。オイゲンの見立て通り、マティアスの心臓は止まってしまっているようだ。

 遅れてアルバの街医者であるカールと数人の助手による医療班が到着し、マティアスの容態を調べる。医学的な蘇生術を図るも、これも魔術による蘇生と同様にその行動に対する成果は得られなかった。

 「駄目です・・・亡くなっています」

 「そうか・・・。すまないが、彼を大司教とルーカス司祭と同じ安置所へ運んでおいてくれ。カール、あとは頼んだ」

 「承知しました」

 「警備隊は鑑識を呼んでくれ。現場と彼の取り調べを行なっていた部屋を調べる。他の者は現場に誰も近づけないように」

 各部隊にそれぞれ指示を出し、手際よくマティアス司祭の死因と現場の調査を開始し始めたオイゲン。立て続けに起きた事件により、人手不足に陥ってきた現状から、安置所へ彼の遺体を運び終わった者達が戻るまで、自身が現場の保存に立ち合い誰も近づかないように封鎖作業を行った。

 宮殿で調査を行う者達が危惧していた通り、犯人は順番に教団の関係者を狙っていった。ルーカス司祭の死因に関しては犯人がいるかどうかは判断できないものだったが、暫くしてマティアス司祭の死因が伝わるとそれも不自然な突然死に思えてくる事になる。

 カールらの調査によるマティアス司祭の死因は“心臓麻痺“として判断された。原因については分かっておらず突発性のものだったらしいが、こうもタイミングよく心不全による死因が重なるものだろうか。

 魔力による痕跡や外傷もなく、誰かが手を下したような痕跡や証拠は一切見つかっていない。しかし、偶然と呼ぶにはあまりに出来すぎている。宮殿で起きた三つの事件には必ず犯人がいる。

 そしてその者は、何らかの方法で直接手を下さず犯行を行なっている。だがここで、捜査を行う彼らの前に新たな疑問が浮かび上がる。それは犯人の次なるターゲットだった。

 教団に属する役職持ちの三人は既に死亡している。一応オイゲンやニノン、他にも教団の護衛はいるものの、先程の三名に比べると次のターゲットになり得るのか怪しいものだった。

 尚且つ、三つ目のマティアス司祭の事件で、これまでの犯行の法則性が一つ崩れ去ってしまった。それは犯行が深夜から早朝に行われるというものだった。

 これにより犯人は特定の時間を狙った、皆が寝静まる頃合いを見計らって犯行を重ねていた訳ではない事が証明されてしまった。明け方や日の出ている間の犯行は今までに一度もなかったが、日が沈み夜になる頃から、犯人は犯行に移せるという条件にも当てはまるような特徴が浮かび上がった。
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