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災いを呼ぶ音
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初めは食堂から出たことで、いつもの賑わいを取り戻したアルバの街に溢れる音楽が聞こえてきたのだと思った一行だったが、昨日よりも聞こえてくる楽器の音や歌声が少ないように感じた。
いや、少ないのではなく他の音がその心地の良い音楽に飲まれているのだろう。それほど素人が聞いても違いが分かるものだったのだ。
「昨日と同じ人かな?すごく良い曲だね。でもどこかで聞いたことのあるような・・・」
ツクヨが聞こえてくる音楽の感想を口にする。昨日は皆疲れており、自室で各々が聞いて心の中で感想を抱いていたに過ぎなかった。なので心地の良いというフレーズも、各々がそう思っただけで皆が共通している感情だとは思ってもみなかっただろう。
彼の発言により、一行は他の者も同じ感覚なのだと確認することができた。それは子供であっても大人であっても変わらない、等しく抱く感情だった。
「なんて曲なんだ?ケヴィン」
「すみません、私もあまり詳しい方ではないのですが、これは確か“マタイ受難曲 憐れみたまえ わが神よ“と言う曲だったかと・・・」
シン達にとってはあまり聞き馴染みのない曲だったが、ケヴィンはアルバでの調査の上で何かしらの資料から音楽に関しての知識を蓄えていたようだ。うろ覚えながらも、これかも知れないと言う曲名をシンに伝えると、それを聞いていたオイゲンが彼の解答を後押しするように口を開く。
「式典で披露されていた曲だな。マタイ受難曲は教会でも馴染み深い曲で、教団勤めをしているとよく耳にする」
「そうだったかしら?」
「・・・君はもう少し周りに気を・・・」
オイゲンの話に対し否定的な反応を示すニノン。同じ教団勤めでも、ニノンにはあまり馴染みのない曲だったようだ。だが今はそこで意見を割らなくてもいいと、ニノンの悪いところをオイゲンが指摘しようとしたところで、宮殿の下の階で何やら大きな物音がし始めた。
「ん?何の音だ?」
「下の階から聞こえなかったか?」
ツバキとミアは大きな物音の出所について口にする。何か大きなものが転がったり、扉が蹴破られたかのような音に、一行は周囲を見渡し異変の有無と音の続きに意識を集中させる。
どうやらミアの予想通り、下の階からドタドタと複数人の走り回るような足音と、騒がしい声が聞こえてくる。しかし距離があるせいか何を言ってるのかまでは聞き取れない。
「ニノン、すまないが君は彼らと一緒にいてくれ。私が様子を見てくる」
「えぇ、それは勿論だけど貴方も単独行動を禁止されていることを忘れないでね!?」
急ぎ音のした方へ向かい走り出したオイゲンは、ニノンの注意に無言のまま手を一度だけ挙げて応えると、一行がその背中を見送る中、廊下にいた警備の者を一人捕まえ一緒に下の階へと降りる階段の方へと姿を消した。
「さぁ、皆さんは自室へ戻りましょう」
「戻るってッ・・・あんな騒ぎを聞いた後でかぁ!?」
「だからこそです。宮殿内には監視カメラもいくつもあります。皆さんが身の潔白を証明する為にも、自室で事の顛末を待っていた方がよろしいかと。まぁそれ以前に、皆さんを自室に留めておく事こそが私の仕事なのですが・・・」
ツバキの反応も至極真っ当なものだろう。自分が宿泊している施設で大きな騒ぎがあれば、落ち着いて自室に篭っていられるかとなるのも頷ける。一体何事かと知りたくなる欲求もあったが、ニノンの言う通りここで大人しく自室に入れば、もしこの物音が捜査に大きな進展をもたらす出来事であったのなら、有力なアリバイを作り出す良い機会ともなる。
「ここは素直に部屋で待ちましょう。余計なことをして疑いを持たれるのは避けた方がいいです・・・」
「妙に冷静だな・・・。アンタとは深い仲じゃないが、いつもの調子ならお構いなしに向かってそうなものだが?」
「私一人ならそうしていたかも知れません。ですが今は、皆さんと行動を共にするチームメイトです。その辺りの分別はついていますよ。それに、彼女の迷惑にもなりますしね?」
ミアがケヴィンに向けた疑いは、シンも言葉にはしなかったものの同じ疑いをケヴィンに抱いていた。パーティーの時の大胆な行動力や、その後宮殿の外から情報を得る為に忍び込もうとする行為など、危険を顧みず真実を追おうとする姿こそ探偵のケヴィンに相応しい。
しかし、今のケヴィンは妙に聞き分けがいいようにも感じた。だがあくまでそれはシンやミアが個人的に抱いていた彼に対する印象に過ぎない。ケヴィンの異端な行動を知らない他の者達からすれば、ケヴィンの言葉は実に理にかなっている正しい判断に見える事だろう。
「・・・分かった、今はそれでいいさ」
「まぁまぁ!ケヴィンの言っている事も一理ある事だし、ここは大人しく従っておこ!ね!?」
慌ててミアのフォローに入るツクヨ。対立というほどでもないが、その場の衝突を収めた一行は、その後も聞こえていた物音や声に惑わされる事なく、自室へと歩みを早めた。
急ぎ騒動の現場へと向かったオイゲンは、次第に鮮明となる声に違和感を感じていた。彼はその声の主に心当たりがあったのだ。多くの者達に事情聴取を行なっていた彼は、それだけ多くの者達の声を聞いていた。
故に特徴的なものであったり、容疑が掛かっている者の声は印象的に残っていた。聞こえてくる声はその、印象に残る声のうちの一つだったのだ。
いや、少ないのではなく他の音がその心地の良い音楽に飲まれているのだろう。それほど素人が聞いても違いが分かるものだったのだ。
「昨日と同じ人かな?すごく良い曲だね。でもどこかで聞いたことのあるような・・・」
ツクヨが聞こえてくる音楽の感想を口にする。昨日は皆疲れており、自室で各々が聞いて心の中で感想を抱いていたに過ぎなかった。なので心地の良いというフレーズも、各々がそう思っただけで皆が共通している感情だとは思ってもみなかっただろう。
彼の発言により、一行は他の者も同じ感覚なのだと確認することができた。それは子供であっても大人であっても変わらない、等しく抱く感情だった。
「なんて曲なんだ?ケヴィン」
「すみません、私もあまり詳しい方ではないのですが、これは確か“マタイ受難曲 憐れみたまえ わが神よ“と言う曲だったかと・・・」
シン達にとってはあまり聞き馴染みのない曲だったが、ケヴィンはアルバでの調査の上で何かしらの資料から音楽に関しての知識を蓄えていたようだ。うろ覚えながらも、これかも知れないと言う曲名をシンに伝えると、それを聞いていたオイゲンが彼の解答を後押しするように口を開く。
「式典で披露されていた曲だな。マタイ受難曲は教会でも馴染み深い曲で、教団勤めをしているとよく耳にする」
「そうだったかしら?」
「・・・君はもう少し周りに気を・・・」
オイゲンの話に対し否定的な反応を示すニノン。同じ教団勤めでも、ニノンにはあまり馴染みのない曲だったようだ。だが今はそこで意見を割らなくてもいいと、ニノンの悪いところをオイゲンが指摘しようとしたところで、宮殿の下の階で何やら大きな物音がし始めた。
「ん?何の音だ?」
「下の階から聞こえなかったか?」
ツバキとミアは大きな物音の出所について口にする。何か大きなものが転がったり、扉が蹴破られたかのような音に、一行は周囲を見渡し異変の有無と音の続きに意識を集中させる。
どうやらミアの予想通り、下の階からドタドタと複数人の走り回るような足音と、騒がしい声が聞こえてくる。しかし距離があるせいか何を言ってるのかまでは聞き取れない。
「ニノン、すまないが君は彼らと一緒にいてくれ。私が様子を見てくる」
「えぇ、それは勿論だけど貴方も単独行動を禁止されていることを忘れないでね!?」
急ぎ音のした方へ向かい走り出したオイゲンは、ニノンの注意に無言のまま手を一度だけ挙げて応えると、一行がその背中を見送る中、廊下にいた警備の者を一人捕まえ一緒に下の階へと降りる階段の方へと姿を消した。
「さぁ、皆さんは自室へ戻りましょう」
「戻るってッ・・・あんな騒ぎを聞いた後でかぁ!?」
「だからこそです。宮殿内には監視カメラもいくつもあります。皆さんが身の潔白を証明する為にも、自室で事の顛末を待っていた方がよろしいかと。まぁそれ以前に、皆さんを自室に留めておく事こそが私の仕事なのですが・・・」
ツバキの反応も至極真っ当なものだろう。自分が宿泊している施設で大きな騒ぎがあれば、落ち着いて自室に篭っていられるかとなるのも頷ける。一体何事かと知りたくなる欲求もあったが、ニノンの言う通りここで大人しく自室に入れば、もしこの物音が捜査に大きな進展をもたらす出来事であったのなら、有力なアリバイを作り出す良い機会ともなる。
「ここは素直に部屋で待ちましょう。余計なことをして疑いを持たれるのは避けた方がいいです・・・」
「妙に冷静だな・・・。アンタとは深い仲じゃないが、いつもの調子ならお構いなしに向かってそうなものだが?」
「私一人ならそうしていたかも知れません。ですが今は、皆さんと行動を共にするチームメイトです。その辺りの分別はついていますよ。それに、彼女の迷惑にもなりますしね?」
ミアがケヴィンに向けた疑いは、シンも言葉にはしなかったものの同じ疑いをケヴィンに抱いていた。パーティーの時の大胆な行動力や、その後宮殿の外から情報を得る為に忍び込もうとする行為など、危険を顧みず真実を追おうとする姿こそ探偵のケヴィンに相応しい。
しかし、今のケヴィンは妙に聞き分けがいいようにも感じた。だがあくまでそれはシンやミアが個人的に抱いていた彼に対する印象に過ぎない。ケヴィンの異端な行動を知らない他の者達からすれば、ケヴィンの言葉は実に理にかなっている正しい判断に見える事だろう。
「・・・分かった、今はそれでいいさ」
「まぁまぁ!ケヴィンの言っている事も一理ある事だし、ここは大人しく従っておこ!ね!?」
慌ててミアのフォローに入るツクヨ。対立というほどでもないが、その場の衝突を収めた一行は、その後も聞こえていた物音や声に惑わされる事なく、自室へと歩みを早めた。
急ぎ騒動の現場へと向かったオイゲンは、次第に鮮明となる声に違和感を感じていた。彼はその声の主に心当たりがあったのだ。多くの者達に事情聴取を行なっていた彼は、それだけ多くの者達の声を聞いていた。
故に特徴的なものであったり、容疑が掛かっている者の声は印象的に残っていた。聞こえてくる声はその、印象に残る声のうちの一つだったのだ。
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