1,320 / 1,646
親睦会
しおりを挟む
「部屋を出ていない?どういう事ですか?」
「言葉の通りだ。元々彼らには数日の間、アルバに滞在する予定になっていた。故に初日の疲れを癒し、翌日から行動できるよう早くから休んでいたのだろう」
宮殿で宿泊していた事からも、彼らの部屋の前には警備や見張りがいたであろうことは既に証明されている。しかしリヒトルの部屋の前には、他の者達ほど印象に残る護衛は立っていなかった。
通路の移動の際に、必ず部屋の前を通っているはずなのだが、不思議なことにシン達の印象には全く残っていなかったのだ。
事件が起きたことで、各自の身辺調査が行われたこともあり、オイゲンやニノンはリヒトルの護衛についても調べており、どんな人物であるのかは把握していたようだ。
故にシン達の印象に残らなかったという言葉を聞いて、納得いたような反応を見せていた。
「外室したのであれば護衛や警備に見られる筈ですよね?そもそも彼の部屋の前にいた護衛は、専属の護衛だったのですか?」
「それは間違いない。我々も事件が起きてから何度も彼らの身辺調査に加え、事情聴取も行っている。そこから何も異常や違和感が見受けられなかったということは、つまりそういう事だ」
リヒトルの部屋から誰かが出てくるということはなく、食事や他に用事があった際は全てルームサービスを利用していた。その様子は宮殿内に取り付けられた監視カメラからも確認できたと、オイゲンらは語った。
「リヒトルらと共に宮殿内に入った護衛は一人。“マイルズ・アーカート“という人物だ。服装などに関しては特に指定もなかったので、宿泊時にはそれぞれ動きやすい格好へと着替えていたようだが、彼だけはそのままだったようだな。だからか、あまり他の者達と比べて印象に残りづらかったのかもしれない」
「確かに鎧やローブ姿であればすぐに目がいく筈ですしね・・・。式典やパーティーでスーツ姿に慣れてしまっていたせいか、特に気に留めることもなかったのかもしれません」
「盲点だったな。木を隠すなら森の中とは、よく言ったものだ」
「ブラウン神父の童心ですね!私も読んだことがありますとも」
「?」
ふと口にしたシンの諺に、ケヴィンは目を輝かせて反応した。何がなんだか分からなかったが、その後のケヴィンの熱い語りから、それがとある小説家の推理小説“ブラウン神父の童心ー折れた剣“というものから由来する諺だったことが分かった。
「問題を起こすようなタイプにも見えないですもんね」
「寧ろ一番、厳粛な雰囲気すらある。あの手の手前は全く色を出さないから、調べても何も出ないだろうな・・・」
こっそりと視線を向けながら話していたツクヨとミア。その様子に気が付いたのか、リヒトル夫婦は手にしていたフォークとナイフを置き口を拭うと、静かに席を立った。
「どうやら我々がいたら気が散ってしまうようだ。そろそろ部屋へ戻ろうかイーリス」
「・・・・・」
音を立てないまま席を立ったリヒトル夫妻は、そのままシン達の方を向くこともなく、シェフと軽い会話を交わした後に食堂を後にした。シェフはそのままウェイターに指示を出し、料理を運ばせる。
食欲を誘ういい香りが近づき、リヒトルらについて話し合っていた彼らの興味は、すぐに料理の方へと移り変わった。
「あぁ~いい匂い。すげぇ美味そうだ!」
「あまり動いていなくとも、お腹は減るものですね!」
難しい話に口を閉ざして大人しかったツバキとアカリが、まるで眠りから目を覚ましたかのように動き出した。かく言うシン達もお腹を空かせていたのも事実。テーブルに出された食欲を誘う香りと立ち上る湯気に、それまでの会話は中断されてしまった。
「どちらにせよ、調査が行われているのなら私達はただ待つことしかできませんし、今は食事を満喫するとしましょう。リヒトル夫妻には申し訳ないことをしてしまいましたが・・・」
「大丈夫だろう。もし満足に食事を堪能できていなかったのなら、ルームサービスもある。彼らなら寧ろそっちの方が寛げるかもしれんしな」
料理は順番に出されるコース風のもので、テーブルが食器で埋め尽くされていくと言うことはなかった。どうやら事前にニノンがシェフと打ち合わせをしていたらしく、大人数での食事ならこの方がいいと言うことで、シェフも腕に寄りをかけて考えてくれた品々だそうだ。
調理などは他のスタッフに任せ、途中からシェフにもいくつか質問を始めるケヴィン。ルーカスの件があった後も、彼らは宮殿内で働く者達の為に料理を作っていた。
このような状況においても捻くれる事なく、いつも通りの仕事を行っていたのは、特別給与が与えられていたからと言うのもあったのだ。無論、一件目のジークベルトの死因に毒殺が挙げられた事から、彼らや厨房の食材には厳しいチェックや調査が入るものの、教会やそれぞれの国や都市からやって来た音楽家達の財力は大きく、普段とは比べ物にならない特別な手当がつくと言うことで、料理人達も進んで協力してくれる人材は少なくなかった。
シン達やリヒトルらが食堂へ来る前にも、ランチの時間にアンドレイらが訪れたり、早朝のルーカスの件で騒がしくなっていた時にはベルヘルムらや、ブルース一行もやって来たのだとシェフは語る。
その時はブルース本人もいたらしく、荒れ狂う護衛のバルトロメオを留めることもなかったが、ベルヘルムがやって来たことで事は大事にならずに済んだのだそうだ。
「またアイツらが騒いでたのか。いい加減閉じ込めておくなら、アイツらじゃねぇのか?」
「実際我々も手を焼いていてね・・・。我々が大袈裟に言っている注意勧告には、強制的に行動を制限させるだけの権限はなく、あくまで大事を避けながら今回の一件を済ませるよう言われている」
「大事って・・・。アルバの街にこの事が漏れないようにしようってのか?そんなの無理に決まってるだろ。いずれ疑問に思った連中が抗議しにやってくるぞ?」
「その為に教団の者やその関係者、並びに各国の護衛達に協力を仰いでいる。今アルバの街が日常を取り戻し、何事もなく生活が送られているのは、宮殿の外の者達の働きがあってこそだ。・・・だが、君の言う通り残された猶予は短い。最悪の場合、何らかの形で事件を締め括らねばならん・・・」
ミアの問いに表情を曇らせるオイゲン。確かに教団の力があれば問題をもみ消すことは難しくないのかもしれない。だがそれにもリスクは伴うようで、何よりそんなことをケヴィンは許さないだろう。
「言葉の通りだ。元々彼らには数日の間、アルバに滞在する予定になっていた。故に初日の疲れを癒し、翌日から行動できるよう早くから休んでいたのだろう」
宮殿で宿泊していた事からも、彼らの部屋の前には警備や見張りがいたであろうことは既に証明されている。しかしリヒトルの部屋の前には、他の者達ほど印象に残る護衛は立っていなかった。
通路の移動の際に、必ず部屋の前を通っているはずなのだが、不思議なことにシン達の印象には全く残っていなかったのだ。
事件が起きたことで、各自の身辺調査が行われたこともあり、オイゲンやニノンはリヒトルの護衛についても調べており、どんな人物であるのかは把握していたようだ。
故にシン達の印象に残らなかったという言葉を聞いて、納得いたような反応を見せていた。
「外室したのであれば護衛や警備に見られる筈ですよね?そもそも彼の部屋の前にいた護衛は、専属の護衛だったのですか?」
「それは間違いない。我々も事件が起きてから何度も彼らの身辺調査に加え、事情聴取も行っている。そこから何も異常や違和感が見受けられなかったということは、つまりそういう事だ」
リヒトルの部屋から誰かが出てくるということはなく、食事や他に用事があった際は全てルームサービスを利用していた。その様子は宮殿内に取り付けられた監視カメラからも確認できたと、オイゲンらは語った。
「リヒトルらと共に宮殿内に入った護衛は一人。“マイルズ・アーカート“という人物だ。服装などに関しては特に指定もなかったので、宿泊時にはそれぞれ動きやすい格好へと着替えていたようだが、彼だけはそのままだったようだな。だからか、あまり他の者達と比べて印象に残りづらかったのかもしれない」
「確かに鎧やローブ姿であればすぐに目がいく筈ですしね・・・。式典やパーティーでスーツ姿に慣れてしまっていたせいか、特に気に留めることもなかったのかもしれません」
「盲点だったな。木を隠すなら森の中とは、よく言ったものだ」
「ブラウン神父の童心ですね!私も読んだことがありますとも」
「?」
ふと口にしたシンの諺に、ケヴィンは目を輝かせて反応した。何がなんだか分からなかったが、その後のケヴィンの熱い語りから、それがとある小説家の推理小説“ブラウン神父の童心ー折れた剣“というものから由来する諺だったことが分かった。
「問題を起こすようなタイプにも見えないですもんね」
「寧ろ一番、厳粛な雰囲気すらある。あの手の手前は全く色を出さないから、調べても何も出ないだろうな・・・」
こっそりと視線を向けながら話していたツクヨとミア。その様子に気が付いたのか、リヒトル夫婦は手にしていたフォークとナイフを置き口を拭うと、静かに席を立った。
「どうやら我々がいたら気が散ってしまうようだ。そろそろ部屋へ戻ろうかイーリス」
「・・・・・」
音を立てないまま席を立ったリヒトル夫妻は、そのままシン達の方を向くこともなく、シェフと軽い会話を交わした後に食堂を後にした。シェフはそのままウェイターに指示を出し、料理を運ばせる。
食欲を誘ういい香りが近づき、リヒトルらについて話し合っていた彼らの興味は、すぐに料理の方へと移り変わった。
「あぁ~いい匂い。すげぇ美味そうだ!」
「あまり動いていなくとも、お腹は減るものですね!」
難しい話に口を閉ざして大人しかったツバキとアカリが、まるで眠りから目を覚ましたかのように動き出した。かく言うシン達もお腹を空かせていたのも事実。テーブルに出された食欲を誘う香りと立ち上る湯気に、それまでの会話は中断されてしまった。
「どちらにせよ、調査が行われているのなら私達はただ待つことしかできませんし、今は食事を満喫するとしましょう。リヒトル夫妻には申し訳ないことをしてしまいましたが・・・」
「大丈夫だろう。もし満足に食事を堪能できていなかったのなら、ルームサービスもある。彼らなら寧ろそっちの方が寛げるかもしれんしな」
料理は順番に出されるコース風のもので、テーブルが食器で埋め尽くされていくと言うことはなかった。どうやら事前にニノンがシェフと打ち合わせをしていたらしく、大人数での食事ならこの方がいいと言うことで、シェフも腕に寄りをかけて考えてくれた品々だそうだ。
調理などは他のスタッフに任せ、途中からシェフにもいくつか質問を始めるケヴィン。ルーカスの件があった後も、彼らは宮殿内で働く者達の為に料理を作っていた。
このような状況においても捻くれる事なく、いつも通りの仕事を行っていたのは、特別給与が与えられていたからと言うのもあったのだ。無論、一件目のジークベルトの死因に毒殺が挙げられた事から、彼らや厨房の食材には厳しいチェックや調査が入るものの、教会やそれぞれの国や都市からやって来た音楽家達の財力は大きく、普段とは比べ物にならない特別な手当がつくと言うことで、料理人達も進んで協力してくれる人材は少なくなかった。
シン達やリヒトルらが食堂へ来る前にも、ランチの時間にアンドレイらが訪れたり、早朝のルーカスの件で騒がしくなっていた時にはベルヘルムらや、ブルース一行もやって来たのだとシェフは語る。
その時はブルース本人もいたらしく、荒れ狂う護衛のバルトロメオを留めることもなかったが、ベルヘルムがやって来たことで事は大事にならずに済んだのだそうだ。
「またアイツらが騒いでたのか。いい加減閉じ込めておくなら、アイツらじゃねぇのか?」
「実際我々も手を焼いていてね・・・。我々が大袈裟に言っている注意勧告には、強制的に行動を制限させるだけの権限はなく、あくまで大事を避けながら今回の一件を済ませるよう言われている」
「大事って・・・。アルバの街にこの事が漏れないようにしようってのか?そんなの無理に決まってるだろ。いずれ疑問に思った連中が抗議しにやってくるぞ?」
「その為に教団の者やその関係者、並びに各国の護衛達に協力を仰いでいる。今アルバの街が日常を取り戻し、何事もなく生活が送られているのは、宮殿の外の者達の働きがあってこそだ。・・・だが、君の言う通り残された猶予は短い。最悪の場合、何らかの形で事件を締め括らねばならん・・・」
ミアの問いに表情を曇らせるオイゲン。確かに教団の力があれば問題をもみ消すことは難しくないのかもしれない。だがそれにもリスクは伴うようで、何よりそんなことをケヴィンは許さないだろう。
0
お気に入りに追加
310
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界に飛ばされたら守護霊として八百万の神々も何故か付いてきた。
いけお
ファンタジー
仕事からの帰宅途中に突如足元に出来た穴に落ちて目が覚めるとそこは異世界でした。
元の世界に戻れないと言うので諦めて細々と身の丈に合った生活をして過ごそうと思っていたのに心配性な方々が守護霊として付いてきた所為で静かな暮らしになりそうもありません。
登場してくる神の性格などでツッコミや苦情等出るかと思いますが、こんな神様達が居たっていいじゃないかと大目に見てください。
追記 小説家になろう ツギクル でも投稿しております。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜
FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio
通称、【GKM】
これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。
世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。
その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。
この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。
その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

前代未聞のダンジョンメーカー
黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。
けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。
というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない?
そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。
小説家になろうでも掲載しております。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる