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もう一人の音楽家
しおりを挟む話を聞きながら二人の反応を注意深く観察するケヴィン。結局彼の期待するような反応はなく、操作の状況やどのように犯人を追っているのかなどの確認だけでこの場は終わった。
「さて、交流の意も込めてこの後食事でもどうだろう?君達も馴染みのある場所だ。同じところになってしまうのは申し訳ないが、シェフの腕は一流だ」
「それはいいですね。丁度お腹も減って来ましたし・・・。皆さんはどうですか?」
話の流れが夕食の方へと変わっていく。時間としても夕暮れ時となっており、窓から差し込む光もオレンジ色から真っ黒な夜へと移りかわろうとしていたくらいだ。
宮殿での一日目とは違い、二日目はひたすら待つ事を強要される一日だったと振り返って思い出す。新たな事件は起きたが、進展としては何もなく調査も滞り、結果として歩みを進めることのないまさに“静“の一日だったと言える。
ケヴィンに声をかけられた一行は、オイゲンらと共に宮殿の食堂へ向かう事にした。退屈な話にうたた寝していたツバキを起こし、部屋の警備の者にオイゲンが外室の理由を説明すると、流石は教団の隊長の信頼度といったところだろうか、すんなりと許可が降りる。
ずっと部屋に閉じ込められていたからか、今朝も通ったただの廊下が懐かしく感じる不思議な現象に見舞われる中、昨晩も食事をした食堂へと到着するとそこには見知らぬ男女が、向かい合って静かに食事をとっていた。
食堂に聞こえていたのは厨房での音と、その男女のテーブルから聞こえてくる食器の音だけという、とても厳かな雰囲気にあれが誰なのか、シン達はオイゲンらに尋ねる事もできなかった。
先導していたオイゲンとニノンが食堂を見渡し、人数分の席があるテーブルを探す。すると厨房の方から、昨晩すっかり仲を深めた料理長が一行の姿を見て歩み寄る。
「これはこれは、皆さんお揃いで」
「ディナーにしたいのだが、大丈夫か?」
「えぇ、勿論です。皆さんなら歓迎ですとも。では席へ案内いたしますので
こちらへ」
シン達へも視線を送った彼は目が合うと会釈をして、空いている席へ案内を始める。食堂の中央付近にあるそれなりの規模の席へ案内され一行は席に着いた。
案内された席が、先に食堂で食事を摂っていた男女と離れていたこともあり、ここでなら声が届くこともないだろうと思ったシンは、小声でケヴィンに対しああの席に座る男女が何者かを問う。
「ケヴィン・・・の方々は?」
「ん?あぁ、皆さんは面識がなかったのでしたね。彼は音楽家の“リヒトル・ワーグナー“氏です」
彼はブルースに続くシン達が面識のない、宮殿内で足止めを食らっている音楽家の一人。これまで一切その素性はわからなかったが、ここにきて漸くお目に掛かる機会を得る。
「おや?一緒にいるのは珍しいですね・・・」
「もう一人の女性か?」
「えぇ、彼女はリヒトル氏の妻である“イーリス・プラーナー“氏です。彼女は彼の手掛ける楽劇で女優を務めているんです」
リヒトルは他の音楽家達とは違って、護衛を側に置いていないようだった。ケヴィン曰く、リヒトルは普段から護衛や従者を連れて歩くことはしていないようで、今回アルバを訪れた際も必要最低限の人数でやって来たそうだ。
宮殿内には彼とその妻であるイーリス、そして信頼する護衛の者を一人連れているだけだった。食堂へやって来た様子から、今は夫婦だけの時間を満喫しているように見える。
「そういえばさっき“珍しい“って言ったな?夫婦なのに一緒にいるのが珍しいのか?」
「少なくとも、私がアルバに来てリヒトル氏とイーリス氏が二人きりになっているのを目にしたのは初めてですね」
実際、ケヴィンと行動を共にすることが多かったシンも目にしていなかったことから、事件が起きた後彼らがどんな行動をしていたのか、全く想像もつかなかった。
「アンタはどうなんだ?」
横で話を聞いていたミアが、オイゲンとニノンにリヒトルとイーリスのことを尋ねる。宮殿の監視や事件の捜査を取り仕切っている彼らなら、リヒトルらの動きについても調べ上げているに違いない。
彼らは隠す様子もなく話したのだが、しかしほとんどリヒトルについての情報は得られなかった。それもその筈。彼らはジークベルト大司教が亡くなった後、ほとんど部屋を出ていなかったのだと語った。
「さて、交流の意も込めてこの後食事でもどうだろう?君達も馴染みのある場所だ。同じところになってしまうのは申し訳ないが、シェフの腕は一流だ」
「それはいいですね。丁度お腹も減って来ましたし・・・。皆さんはどうですか?」
話の流れが夕食の方へと変わっていく。時間としても夕暮れ時となっており、窓から差し込む光もオレンジ色から真っ黒な夜へと移りかわろうとしていたくらいだ。
宮殿での一日目とは違い、二日目はひたすら待つ事を強要される一日だったと振り返って思い出す。新たな事件は起きたが、進展としては何もなく調査も滞り、結果として歩みを進めることのないまさに“静“の一日だったと言える。
ケヴィンに声をかけられた一行は、オイゲンらと共に宮殿の食堂へ向かう事にした。退屈な話にうたた寝していたツバキを起こし、部屋の警備の者にオイゲンが外室の理由を説明すると、流石は教団の隊長の信頼度といったところだろうか、すんなりと許可が降りる。
ずっと部屋に閉じ込められていたからか、今朝も通ったただの廊下が懐かしく感じる不思議な現象に見舞われる中、昨晩も食事をした食堂へと到着するとそこには見知らぬ男女が、向かい合って静かに食事をとっていた。
食堂に聞こえていたのは厨房での音と、その男女のテーブルから聞こえてくる食器の音だけという、とても厳かな雰囲気にあれが誰なのか、シン達はオイゲンらに尋ねる事もできなかった。
先導していたオイゲンとニノンが食堂を見渡し、人数分の席があるテーブルを探す。すると厨房の方から、昨晩すっかり仲を深めた料理長が一行の姿を見て歩み寄る。
「これはこれは、皆さんお揃いで」
「ディナーにしたいのだが、大丈夫か?」
「えぇ、勿論です。皆さんなら歓迎ですとも。では席へ案内いたしますので
こちらへ」
シン達へも視線を送った彼は目が合うと会釈をして、空いている席へ案内を始める。食堂の中央付近にあるそれなりの規模の席へ案内され一行は席に着いた。
案内された席が、先に食堂で食事を摂っていた男女と離れていたこともあり、ここでなら声が届くこともないだろうと思ったシンは、小声でケヴィンに対しああの席に座る男女が何者かを問う。
「ケヴィン・・・の方々は?」
「ん?あぁ、皆さんは面識がなかったのでしたね。彼は音楽家の“リヒトル・ワーグナー“氏です」
彼はブルースに続くシン達が面識のない、宮殿内で足止めを食らっている音楽家の一人。これまで一切その素性はわからなかったが、ここにきて漸くお目に掛かる機会を得る。
「おや?一緒にいるのは珍しいですね・・・」
「もう一人の女性か?」
「えぇ、彼女はリヒトル氏の妻である“イーリス・プラーナー“氏です。彼女は彼の手掛ける楽劇で女優を務めているんです」
リヒトルは他の音楽家達とは違って、護衛を側に置いていないようだった。ケヴィン曰く、リヒトルは普段から護衛や従者を連れて歩くことはしていないようで、今回アルバを訪れた際も必要最低限の人数でやって来たそうだ。
宮殿内には彼とその妻であるイーリス、そして信頼する護衛の者を一人連れているだけだった。食堂へやって来た様子から、今は夫婦だけの時間を満喫しているように見える。
「そういえばさっき“珍しい“って言ったな?夫婦なのに一緒にいるのが珍しいのか?」
「少なくとも、私がアルバに来てリヒトル氏とイーリス氏が二人きりになっているのを目にしたのは初めてですね」
実際、ケヴィンと行動を共にすることが多かったシンも目にしていなかったことから、事件が起きた後彼らがどんな行動をしていたのか、全く想像もつかなかった。
「アンタはどうなんだ?」
横で話を聞いていたミアが、オイゲンとニノンにリヒトルとイーリスのことを尋ねる。宮殿の監視や事件の捜査を取り仕切っている彼らなら、リヒトルらの動きについても調べ上げているに違いない。
彼らは隠す様子もなく話したのだが、しかしほとんどリヒトルについての情報は得られなかった。それもその筈。彼らはジークベルト大司教が亡くなった後、ほとんど部屋を出ていなかったのだと語った。
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