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代役にして重役
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アンドレイらの報告を受け、後は一行の元にマティアス司祭に代わる見張り役がやって来るのを待つのみとなっていた。
事件について何もわからなかった時とは比べ、届けられた報告に関して考察している間は時の流れは正午よりも遥かに早く流れた。気がつくと一行の部屋をノックする音が響き渡る。
特に慌てる様子もなく向かったツクヨが扉を開けると、そこには警備隊の者達とは別にもう一人恰幅の良い男が立っていた。どうやら彼こそがマティアス司祭の代わりにやって来た者らしい。
扉の前で説明を聞いている声を聞きつけ、シンとケヴィンが様子を見にやって来ると、そこにいた男を見て驚きを隠せなかった。
「え!?アイツ・・・あの人は!!」
「護衛隊の隊長のオイゲン氏ですね・・・」
「なんでオイゲンが俺達のところへ!?」
「他の方々と比べた際に、黒寄りに近いから・・・だと思います」
彼の言う“黒“とは言わずもがな事件の犯人としての疑いがあると言うこと。では一体何故そうなってしまったのか。話は簡単だ。要するにシン達が他の宮殿内に囚われている客人らと比べ、素性が最も明らかではなく功績やその人間性が見えてこないからだろう。
表面上、話を聞く限りとても理不尽で意図的なものを感じるかもしれないが、同様の状況自身が怪しい人物を挙げる立場にあったらどうだろうか。
容疑者として名の挙がる者達を並べた際に、怪しさの序列をつける基準は人それぞれだろうが、判断基準として各自どれだけ情報が公開されているかを確認する者が殆どだろう。
その中で一際情報がなく、何者か分からない者が混じっていたら、判断材料の少なさからどうしても怪しく見えてしまうのは仕方のないこととも思えるだろう。ケヴィンはそれを指摘したのだ。
説明を終えるとオイゲンは出迎えたツクヨを連れ、部屋の中へと入ってくる。一行の眼差しは歓迎のムードとはとても言えなかった。それはオイゲン自身もそのような雰囲気になるのを予想していたことだったようで、自分がここに配属となった理由と少し特例的な条件があることを一行に説明した。
「私は神園還教の騎士、オイゲン・フォン・エーレンフリートと言う。此度のジークベルト大司教の護衛を務める部隊の隊長を務めていた者だ」
「その大司教さんとやらは死んじまったがな・・・」
「・・・・・」
自己紹介を始めたオイゲンに対し、ツバキが辛辣な言葉を吐き捨てる。悪気があった訳ではないのだろうが、それを聞いたツクヨが思わず止めに入る。思わず口をつぐみ目を閉じるオイゲンに、部屋の空気は一気に凍りついたかのように冷え切る。
「歓迎されるなどとは思っていなかった。ただ私も敵対する為にここへやって来たのではない事を理解して欲しい」
「宮殿内を仕切ってる親玉が言うセリフじゃねぇな。自分達ばかり無実であると盲信して、他の連中を閉じ込めるアンタらをよく思っていない連中は多そうだな」
ツバキに続き、ミアもこれまで溜め込んでいた不満をぶつけるように鋭い言葉でオイゲンに迫る。
「ブルース殿の部屋でも同じことを言われたよ。あちらに比べればまだ、こっちの方が話が通じそうだが・・・」
「何?」
「いや、嫌味で言った訳ではないんだ。私も一人の人間だ。周りからいろんな事を言われれば愚痴の一つも出るというものだ」
ブルース・ワルター本人とは面識のないシン達一行。だがその護衛とは宮殿の廊下ですれ違っている。その中にいたバルトロメオという護衛に因縁をつけられた事もあり、印象は最悪だった。
故にオイゲンがブルースらと共にいると聞いた時は、その苦労も容易に想像でき今のオイゲンの様子からも、一悶着あったであろうことも当然と思えた。
彼曰く、ブルースらと行動を共にしていた時は何度も手を挙げられそうになったのだと語った。だがオイゲンがそれを遇らうくらいの実力があり、部隊の隊長を務める人格者であることもあるからか、それで彼らを疑うということもオイゲンはなかったのだと感心する部分もあった。
「私が君達の元へ来たのも、他の者達の疑いを晴らす為と思ってくれると助かる」
「そうですね、私もオイゲン氏が来てくださったことには感謝しています。これで我々への偏見が少しでもなくなれば、調査もしやすいですし護衛隊しか知り得ない情報も聞けるかもしれませんし・・・」
ただ監視されるだけ、疑われるだけでは済まさないというのがケヴィンの逞しいところだろうか。護衛隊の隊長が直々に目を光らせる状況をプラスに捉え、彼からも事件に関する情報を搾り取ろうと考えていたのだ。
「明かされるべき情報は明かされている。まぁ・・・確かに最新の情報には触れられるだろうが・・・。あぁ、それと私が君達と行動を共にするのは四六時中ではない事を先に伝えておく」
「ん?アンタがマティアスの代わりじゃないのか?」
「立場上では同じだが、現場の指揮や判断をしなければならない時は、私の信頼する同胞が代わりに君達と行動を共にする事になる。今回はその“彼女“を紹介するという目的もあった。もうすぐ到着すると思うのだが・・・」
すると、丁度オイゲンがもう一人の監視役の話をしたところで、再度入口の扉をノックする音が聞こえてくる。外からオイゲンを呼ぶ警備隊の声がし、彼が扉の方へ向かうと彼が紹介しようと思っていた人物が到着したという報告が入る。
事件について何もわからなかった時とは比べ、届けられた報告に関して考察している間は時の流れは正午よりも遥かに早く流れた。気がつくと一行の部屋をノックする音が響き渡る。
特に慌てる様子もなく向かったツクヨが扉を開けると、そこには警備隊の者達とは別にもう一人恰幅の良い男が立っていた。どうやら彼こそがマティアス司祭の代わりにやって来た者らしい。
扉の前で説明を聞いている声を聞きつけ、シンとケヴィンが様子を見にやって来ると、そこにいた男を見て驚きを隠せなかった。
「え!?アイツ・・・あの人は!!」
「護衛隊の隊長のオイゲン氏ですね・・・」
「なんでオイゲンが俺達のところへ!?」
「他の方々と比べた際に、黒寄りに近いから・・・だと思います」
彼の言う“黒“とは言わずもがな事件の犯人としての疑いがあると言うこと。では一体何故そうなってしまったのか。話は簡単だ。要するにシン達が他の宮殿内に囚われている客人らと比べ、素性が最も明らかではなく功績やその人間性が見えてこないからだろう。
表面上、話を聞く限りとても理不尽で意図的なものを感じるかもしれないが、同様の状況自身が怪しい人物を挙げる立場にあったらどうだろうか。
容疑者として名の挙がる者達を並べた際に、怪しさの序列をつける基準は人それぞれだろうが、判断基準として各自どれだけ情報が公開されているかを確認する者が殆どだろう。
その中で一際情報がなく、何者か分からない者が混じっていたら、判断材料の少なさからどうしても怪しく見えてしまうのは仕方のないこととも思えるだろう。ケヴィンはそれを指摘したのだ。
説明を終えるとオイゲンは出迎えたツクヨを連れ、部屋の中へと入ってくる。一行の眼差しは歓迎のムードとはとても言えなかった。それはオイゲン自身もそのような雰囲気になるのを予想していたことだったようで、自分がここに配属となった理由と少し特例的な条件があることを一行に説明した。
「私は神園還教の騎士、オイゲン・フォン・エーレンフリートと言う。此度のジークベルト大司教の護衛を務める部隊の隊長を務めていた者だ」
「その大司教さんとやらは死んじまったがな・・・」
「・・・・・」
自己紹介を始めたオイゲンに対し、ツバキが辛辣な言葉を吐き捨てる。悪気があった訳ではないのだろうが、それを聞いたツクヨが思わず止めに入る。思わず口をつぐみ目を閉じるオイゲンに、部屋の空気は一気に凍りついたかのように冷え切る。
「歓迎されるなどとは思っていなかった。ただ私も敵対する為にここへやって来たのではない事を理解して欲しい」
「宮殿内を仕切ってる親玉が言うセリフじゃねぇな。自分達ばかり無実であると盲信して、他の連中を閉じ込めるアンタらをよく思っていない連中は多そうだな」
ツバキに続き、ミアもこれまで溜め込んでいた不満をぶつけるように鋭い言葉でオイゲンに迫る。
「ブルース殿の部屋でも同じことを言われたよ。あちらに比べればまだ、こっちの方が話が通じそうだが・・・」
「何?」
「いや、嫌味で言った訳ではないんだ。私も一人の人間だ。周りからいろんな事を言われれば愚痴の一つも出るというものだ」
ブルース・ワルター本人とは面識のないシン達一行。だがその護衛とは宮殿の廊下ですれ違っている。その中にいたバルトロメオという護衛に因縁をつけられた事もあり、印象は最悪だった。
故にオイゲンがブルースらと共にいると聞いた時は、その苦労も容易に想像でき今のオイゲンの様子からも、一悶着あったであろうことも当然と思えた。
彼曰く、ブルースらと行動を共にしていた時は何度も手を挙げられそうになったのだと語った。だがオイゲンがそれを遇らうくらいの実力があり、部隊の隊長を務める人格者であることもあるからか、それで彼らを疑うということもオイゲンはなかったのだと感心する部分もあった。
「私が君達の元へ来たのも、他の者達の疑いを晴らす為と思ってくれると助かる」
「そうですね、私もオイゲン氏が来てくださったことには感謝しています。これで我々への偏見が少しでもなくなれば、調査もしやすいですし護衛隊しか知り得ない情報も聞けるかもしれませんし・・・」
ただ監視されるだけ、疑われるだけでは済まさないというのがケヴィンの逞しいところだろうか。護衛隊の隊長が直々に目を光らせる状況をプラスに捉え、彼からも事件に関する情報を搾り取ろうと考えていたのだ。
「明かされるべき情報は明かされている。まぁ・・・確かに最新の情報には触れられるだろうが・・・。あぁ、それと私が君達と行動を共にするのは四六時中ではない事を先に伝えておく」
「ん?アンタがマティアスの代わりじゃないのか?」
「立場上では同じだが、現場の指揮や判断をしなければならない時は、私の信頼する同胞が代わりに君達と行動を共にする事になる。今回はその“彼女“を紹介するという目的もあった。もうすぐ到着すると思うのだが・・・」
すると、丁度オイゲンがもう一人の監視役の話をしたところで、再度入口の扉をノックする音が聞こえてくる。外からオイゲンを呼ぶ警備隊の声がし、彼が扉の方へ向かうと彼が紹介しようと思っていた人物が到着したという報告が入る。
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