World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,302 / 1,646

強硬手段

しおりを挟む
 大方、想像通りの反応を見せるカルロス。他の者達に宮殿での事件のことを話しても、きっと同じような反応が帰ってきた事だろう。ただ一つ違うのは、彼も二人のように、宮殿で何かが起こっているのであろうと疑っていると言う点だ。

 「何だよそれ・・・。だとしたら、やけに静かじゃねぇか?大司教が死んだとなりゃぁもっと騒ぎになりそうなもんだが・・・」

 「ちょっと!もうちょっと声を押せてよ」

 「騒ぎによる民衆の混乱と、街が機能しなくなることを予想して情報操作を行ったんだろう。おかげで本当のことを知ってる俺達が、それを真実であると言えない状況になっちまってる」

 レオンの言うように、静かな街中で彼らのように真実を知る者が騒ぎ立てれば、すぐにその場所や人物は警備隊の耳に入るだろう。波の立たぬ状況を作り出すことで、僅かな変化にも気がつけるよう姿の見えぬ犯人を捕らえる包囲網を敷いていたということなのだろうか。

 「誰も信じねぇだろ、そんな話・・・」

 「だからお前に話たんだ。今まで会ってきた人間の中で、お前だけが唯一この状況に違和感を感じていたんだからな」

 「しかし、一体どうしてお前らはそんな情報を手に入れたんだ?だって誰も知らねぇんだろ?」

 「俺はフェリクス先生の、ジルはカタリナさんが警備隊に質問され、拘束される様子をこの目で見たからだよ」

 「何だよそれ!?じゃぁ真実を知っていてもどうしようもねぇって事か!?」

 カルロスの質問に、二人は口をつぐんでしまう。それもその筈。彼という疑問を抱く者が現れるまで、二人はそのことを誰にも話せず、気づかれないように細心の注意を払って行動していた。

 「これから二人はどうしようとしてたんだ?」

 「学校へ行って、他に何か知ってる者がいないか探そうと思っていたんだ。教会や学校なら俺達が多少動いたところで、怪しまれることもないだろうからな」

 すると、どうやらカルロスが既に学校での聞き込みをしていたようで、宮殿から帰らぬ者達の事については何も情報が得られなかったと語る。大司教の件もそうだが、彼の調べていた件も内容としては同じこと。

 この後二人が学校へ行ったところで、カルロスと同じように有益な情報を得ることは出来ないだろう。

 「学校へ行っても同じだろうぜ?教師の連中も、フェリクス先生の事に関しては何も知らない様子だったし、生徒達も宮殿まで行ってた連中はまるで何も知らないって感じだったからな」

 「まさに八方塞がりって状況か・・・。このまま動きがあるまで待つしかないって事か?」

 「でも、このままフェリクス先生やカタリナさんを待ち続けて良いのかしら?二人ともパーティーで大司教と会ってる筈でしょ?警備隊のあの様子・・・普通じゃなかった。変な疑いをかけれらてなければいいけど・・・」

 不安そうにするジルに、レオンもカルロスもかける言葉が見つからなかった。事件の起きた渦中の宮殿の外では、得られる情報に限りがある。やはり宮殿の中にいる者でなければ、真相に触れることすら出来ない。

 すっかり静まり返る中、ただじっと事態の収束を待っているだけなど出来ぬと声を上げたのはカルロスだった。彼は自ら宮殿の警備隊の元へ向かい、抗議しに行くと言い出したのだ。

 「そんなことをしたところで、ろくに話など聞けないだろう。それに余計な騒ぎを起こせばお前だって・・・」

 「そうだよ、騒ぎを起こすのが目的さ。お前らから聞いた事件の話を持ち出せば、奴らだって俺を放っておかないだろ?」

 ただ騒ぎを起こすだけでは、宮殿ではなくアルバの警備隊に事情聴取されるだけになってしまう。だが、恐らく外部に漏らしていないであろう大司教の件を知っているとなれば話は別だ。

 どこからその情報を手に入れたのだと、彼らもカルロスを放っておかないだろう。カルロスは二人かこの話を聞いたとは言わないと言っているが、警備隊も犯人探しに躍起になっている。

 怪しい人物に情報を吐かせる為なら、例え学生であろうと容赦はしないだろう。

 「よせ、カルロス。変に騒ぎを起こせばお前も無事では済まないだろう。それに警備隊のあの様子・・・只事ではなかった。最悪、お前と接触している俺達だって・・・」

 「お前らのことは絶対言わねぇよ。少しは俺を信じろ。それに蚊帳の外の俺達が犯人であるなんて誰が思うよ?俺が宮殿に入って情報を掴んできてやる。だからお前らは外で待ってろ」

 席を立ち、今にも宮殿へ向かおうとするカルロスを止めるレオン。彼は隠されている事実を口にすることがどんなに危険なことであるか分かっているのだろうか。

 「待てって!お前、本当にどんなことをしようとしているのか分かってるのか?」

 立ち去ろうとするカルロスの腕を掴むレオン。そんな彼に対し、カルロスは二人が直接宮殿へ向かえない本当の理由について、彼ら自身も口にできなかった言葉を容赦なく浴びせる。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...