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印象の変化
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頭を巡る様々な考えは二人の足を早め、気がつけば博物館のある大通りへと差し掛かっていた。道中で見かけた多くの施設は、ジルの想像していた通り飲食店やサービス業、音楽に関係のない施設を除き、警備隊によっていくつか閉鎖されていた。
「見て・・・やっぱり楽器店や呉服屋は閉鎖されてる」
「あぁ、だが全てじゃない。既に取り調べが済んだのか、或いはそもそも疑う余地すらなかったのか・・・。幸か不幸か、それが街の人達の目を欺くカモフラージュになっちまってる・・・」
事情を知っていれば違和感を感じるかもしれないが、何も知らなければ疑問にすら思うことはないだろう。それを狙ってやっているのか、はたまた偶然になった者なのかは分からないが、街を見て回れば回るほど二人の違和感は確信へと近づき、一度迷ってしまうと一気に引っ張られそうになる情報が流れ込んでくる。
そしてジルがカタリナと会い、彼女の素性を聞かされた博物館は、一際多くの警備隊と宮殿の者数名が出入りしているといった様子だった。
「警備隊だけじゃなくなってる?」
「宮殿からも情報収集に遣わされている人物がいるみたいだな。街の奴らも全然おかしいとも思ってないみたいだし、どうするよ・・・?」
「そうね・・・まずはさっき話してた通り、街の外がどうなっているかも見に行ってみましょう。もしかしたら閉鎖されてないかも・・・」
ジルの言葉はその希望的な内容とは裏腹に、全くと言っていいほど感情がこもっていなかった。かといって二人にできることは少ない。僅かでも望みがあるのなら、それを確かめる他、二人に現状を打開する術はなかったのだ。
恐らくアルバの街は出入りを制限、或いは禁止しているに違いない。考えうる悪い想像が二人の頭を支配していく。もしかしたら今のこの行動すら、警備隊によって怪しまれてしまっているのではないかと、その行動力すらためらわせるほどに。
「ちょっと待ってろ、今馬車を捕まえて来るから」
悪い想像をしているのか、これまでよりも足取りに力の入らないジルの様子を見て、レオンは街中を移動する馬車を探して捕まえる。そこで彼街の外へ向かいたいと馬車の主人に伝えると、今は来客の安全を考慮し人の往来を止めているのだと言われる。
物品に関してはチェックが行われた後に運び出すことなどが可能なようだが、二人が予想していた通りアルバは事実上の閉鎖状態になっている事が分かった。しかし他にも新たな情報として分かったのは、二人以外の他の者達にも共通して、アルバが閉鎖されているという認識はあるようだ。
他国の重要人物や音楽界隈での著名人が、護衛まで連れて訪れている事もあり、数日の間は仕方のない事だと割り切れるかもしれない。それに、式典が行われる事前にも、もしかしたら閉鎖されるかもしれないといった話は出ていたようで、今のところ大きな混乱も起こっていないようだった。
状況を聞かされたレオンは、馬車を諦めジルの元へと戻る。そして馬車の主人から聞かされた話を彼女に伝える。
「そう・・・やっぱりアルバは閉鎖されてるのね・・・」
普段から元気な方ではなかったが、言葉に力のないジルをなんとか前向きな思考に変えられないかと、レオンは必死に考えを巡らせる。そして彼が思いついたのは、二人が怪しまれずに動ける最後の行動として残されていた場所の候補についてだった。
「なぁ、学校や教会はどうだ?あそこなら何か聞かされてる奴がいるかもしれない。それに、学校や教会なら俺達でも怪しまれることはないだろ?」
するとジルは、まるで盲点だったかのように目に光を灯し、動力を失いかけていた身体に再び力が巡り出したように顔を上げた。
「そう・・・そうよね。確かに学校や教会なら、日頃出入りしてる私達を怪しむ事もないわ。司祭様達が残っているとは思えないけど、何か話を聞いている人ならいるかもしれないわね」
「あっあぁ、そうだな。まだ俺達だけって決まった訳じゃないんだ。気を落とすにはまだ早いぜ」
普段、学校でもそれほど会話をすることのなかった二人。特にレオンは、彼女をライバル視しているところもあり、あまり良い印象は抱いていなかった。それどころか、いつも成績はジルが上であった為、レオンが唯一ジルと音楽で渡り合えるのは演奏の技術面だけだった。
しかし、その技術面においても彼女は一流であり、レオンが勝ることはほとんどなかった。その為、音楽学校での成績はトップクラスでも、ゲッフェルト家の中では落ちこぼれと揶揄されていた。
その事もあり彼女に対して苦手意識を持っていたレオン。感情表現が上手いジルのことを、自分よりも優れた能力を持つサイボーグのように思っていたが、実際に二人っきりで話すことにより、レオンの中で彼女の印象は徐々に変わりつつあった。
「見て・・・やっぱり楽器店や呉服屋は閉鎖されてる」
「あぁ、だが全てじゃない。既に取り調べが済んだのか、或いはそもそも疑う余地すらなかったのか・・・。幸か不幸か、それが街の人達の目を欺くカモフラージュになっちまってる・・・」
事情を知っていれば違和感を感じるかもしれないが、何も知らなければ疑問にすら思うことはないだろう。それを狙ってやっているのか、はたまた偶然になった者なのかは分からないが、街を見て回れば回るほど二人の違和感は確信へと近づき、一度迷ってしまうと一気に引っ張られそうになる情報が流れ込んでくる。
そしてジルがカタリナと会い、彼女の素性を聞かされた博物館は、一際多くの警備隊と宮殿の者数名が出入りしているといった様子だった。
「警備隊だけじゃなくなってる?」
「宮殿からも情報収集に遣わされている人物がいるみたいだな。街の奴らも全然おかしいとも思ってないみたいだし、どうするよ・・・?」
「そうね・・・まずはさっき話してた通り、街の外がどうなっているかも見に行ってみましょう。もしかしたら閉鎖されてないかも・・・」
ジルの言葉はその希望的な内容とは裏腹に、全くと言っていいほど感情がこもっていなかった。かといって二人にできることは少ない。僅かでも望みがあるのなら、それを確かめる他、二人に現状を打開する術はなかったのだ。
恐らくアルバの街は出入りを制限、或いは禁止しているに違いない。考えうる悪い想像が二人の頭を支配していく。もしかしたら今のこの行動すら、警備隊によって怪しまれてしまっているのではないかと、その行動力すらためらわせるほどに。
「ちょっと待ってろ、今馬車を捕まえて来るから」
悪い想像をしているのか、これまでよりも足取りに力の入らないジルの様子を見て、レオンは街中を移動する馬車を探して捕まえる。そこで彼街の外へ向かいたいと馬車の主人に伝えると、今は来客の安全を考慮し人の往来を止めているのだと言われる。
物品に関してはチェックが行われた後に運び出すことなどが可能なようだが、二人が予想していた通りアルバは事実上の閉鎖状態になっている事が分かった。しかし他にも新たな情報として分かったのは、二人以外の他の者達にも共通して、アルバが閉鎖されているという認識はあるようだ。
他国の重要人物や音楽界隈での著名人が、護衛まで連れて訪れている事もあり、数日の間は仕方のない事だと割り切れるかもしれない。それに、式典が行われる事前にも、もしかしたら閉鎖されるかもしれないといった話は出ていたようで、今のところ大きな混乱も起こっていないようだった。
状況を聞かされたレオンは、馬車を諦めジルの元へと戻る。そして馬車の主人から聞かされた話を彼女に伝える。
「そう・・・やっぱりアルバは閉鎖されてるのね・・・」
普段から元気な方ではなかったが、言葉に力のないジルをなんとか前向きな思考に変えられないかと、レオンは必死に考えを巡らせる。そして彼が思いついたのは、二人が怪しまれずに動ける最後の行動として残されていた場所の候補についてだった。
「なぁ、学校や教会はどうだ?あそこなら何か聞かされてる奴がいるかもしれない。それに、学校や教会なら俺達でも怪しまれることはないだろ?」
するとジルは、まるで盲点だったかのように目に光を灯し、動力を失いかけていた身体に再び力が巡り出したように顔を上げた。
「そう・・・そうよね。確かに学校や教会なら、日頃出入りしてる私達を怪しむ事もないわ。司祭様達が残っているとは思えないけど、何か話を聞いている人ならいるかもしれないわね」
「あっあぁ、そうだな。まだ俺達だけって決まった訳じゃないんだ。気を落とすにはまだ早いぜ」
普段、学校でもそれほど会話をすることのなかった二人。特にレオンは、彼女をライバル視しているところもあり、あまり良い印象は抱いていなかった。それどころか、いつも成績はジルが上であった為、レオンが唯一ジルと音楽で渡り合えるのは演奏の技術面だけだった。
しかし、その技術面においても彼女は一流であり、レオンが勝ることはほとんどなかった。その為、音楽学校での成績はトップクラスでも、ゲッフェルト家の中では落ちこぼれと揶揄されていた。
その事もあり彼女に対して苦手意識を持っていたレオン。感情表現が上手いジルのことを、自分よりも優れた能力を持つサイボーグのように思っていたが、実際に二人っきりで話すことにより、レオンの中で彼女の印象は徐々に変わりつつあった。
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