World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,290 / 1,646

危険な晩餐会

しおりを挟む
 一通り話を終えたシン達は、ベルヘルムに他に聞きたいことはないかと尋ねられ、現状これ以上掘り下げることもなくそこで対話が終わろうとしていた。すると最後にケヴィンは、自分達の前に何故アンドレイらが尋ねて来たのか、その理由について尋ねる。

 「それは答え兼ねる。質問に答えるのは、あくまで私のことに関してだけだ。他の者達が私の元を訪れた理由や何を話したのかに関して、他の者達に口外するつもりはない。まぁ本人達が話しても構わないと言うのであれば話してもいいが、今は確認のしようがないからな」

 「そうですか。でもベルヘルム氏が、見た目通り厳格な方で安心しました」

 そう言って胸を撫で下ろすように息を吐いたケヴィンの顔は、文字通り緊張から解放されたように柔らかな表情をしていた。それがベルヘルムにとって不思議だったようで、珍しく彼の方からケヴィンに対し質問が飛んだ。

 「安心した?どういう意味かね?」

 「いえ、貴方と話していて分かったことがあるのです。少々言葉に棘があるかも知れませんが、どうか機嫌を悪くしないで聞いて頂けたら幸いです」

 改まった言い方に、質問をしたベルヘルムもその答えを聞く為の姿勢を整える。

 「貴方と会う前は、裏の顔がある食えぬ人物かと思っていましたが、どうやら貴方はただ真っ直ぐな方だっただけのようですね」

 「・・・嘘をついているだけかも知れんぞ?」

 「ははは、それはないでしょう。少なくとも私はそう思います」

 ベルヘルムが何を試そうとしても、対話を経て印象を変えたケヴィンは、もはやベルヘルムを疑うことはなかった。それも探偵として身についた勘なのだろうか。それとも覆しようのない根拠を元に口にしているのか。

 「食えぬ奴とは、まさに君のような奴の事をいうのだな・・・。どちらにせよ、私は話すべきことは全て話した。信じるか信じないかは君達次第だ」

 「貴重な時間をありがとうございました、ベルヘルム氏。質問は以上です。私達はこれで帰りますが、貴方の方から他に質問はありますか?」

 「いや、私もこれ以上はない。後は探偵の腕を見込んで任せるとしよう。早くこの場から解放される事を祈っているよ」

 そういうと一行は席を立ち、会釈を交わしてベルヘルムの部屋を後にした。中にいた護衛に案内され、出口までやって来ると、中から扉を開こうとする前に外から扉が開かれた。

 「ん?話はもう終わったのか?」

 顔を覗かせたのは部屋の外で見張りをしていたプラチドだった。中にいた護衛が何かあったのかと彼に尋ねると、厨房から食事の誘いが来ているのだと伝える。

 見送りに来ていたベルヘルムが、会話の内容を聞いていたのか護衛方z寝るまでもなく返事を返す。食事は自分達で済ませる。疑いのある者達が作ったものは安心して口にすることは出来ない。それがベルヘルムの答えだった。

 そして彼曰く、ベルヘルムの連れてきた護衛の中には、食べ物の中に隠された毒素を感知できる能力を携えた者はいないのだそうだ。身内の者達しか信じられない現状では、彼の判断も致し方がないだろう。

 シン達は外で待たせていたミア達と合流すると、食事の誘いがあったという厨房へ戻るということで意見が一致し、再びきた道を戻ることになった。時刻もいつの間にか夕食時になっており、腹を空かせたツバキが早く行こうとせかしてくる。

 伝言を伝えにきたのは、厨房にいた料理人の内の一人らしく、一応宮殿内にいる一部を除いた全ての団体やチームに声をかけたのだそうだ。厨房の横には、全員がやって来たとしても収容できるだけのスペースがある、閑散としたレストランがある。

 一行の中では、アカリが毒の感知が可能であり、ケヴィンもマティアスも彼女やシェフを疑う様子はなかった。

 厨房へやって来ると、彼らの帰りをシェフが迎え入れ、料理の準備が出来ているとレストランの方へと通される。すると、そこに集まっていたのは、厨房で初顔合わせとなったアンドレイの一行だけだった。

 「おや?奇遇ですね。またお会いすることになるとは・・・」

 「こちらこそまたお会いできて光栄です、アンドレイ氏。ですが・・・この様子だと他の方々は警戒なさっておいでのようですね」

 「無理もありませんね。昨夜人が亡くなっている同じ場所で出される料理を口にするのですから。それに今、殺害の方法として有力視されているのは毒殺。余計に口にするものには注意していることでしょう」

 既に席についていたアンドレイが、ケヴィンに対し淡々と事実を口にしながら会話を始める。しかし、それならアンドレイらも警戒するべきなのではと思うシンだったが、いち早く毒素について調べにきていたのはアンドレイらが先だった。

 恐らく彼の護衛の中には、食事や食器、衣類や建物の至る所にある毒素を感知できる者がいるのだろう。故に何の疑いもなく、安心して宮殿の用意する食事を口にしようと思えるのだろう。

 「でも驚きました。正直なところ、私達以外にには誰も来ないのではと思っていましたので。あなた方の中にも、毒について知識のあるお方が?」

 「えぇ、こちらの女性が・・・」

 そう言ってアンドレイに見せるように道を開けたケヴィンは、後ろにいたアカリの姿をお披露目する。恥ずかしそうにする彼女の姿を見て、アンドレイらは少し驚いているようだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

婚約破棄された国から追放された聖女は隣国で幸せを掴みます。

なつめ猫
ファンタジー
王太子殿下の卒業パーティで婚約破棄を告げられた公爵令嬢アマーリエは、王太子より国から出ていけと脅されてしまう。 王妃としての教育を受けてきたアマーリエは、女神により転生させられた日本人であり世界で唯一の精霊魔法と聖女の力を持つ稀有な存在であったが、国に愛想を尽かし他国へと出ていってしまうのだった。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...