1,283 / 1,646
紅茶の証明
しおりを挟む
思わず立ち尽くす一行を、護衛達に支持し席へと案内させるベルヘルム。
「立ち話で済むほど手短な話でもなかろう?何か飲みながらでも話そうじゃないか。何かお好みはあるかね?いろんなものを取り揃えているぞ?」
意外にも受け入れムードであることに言葉を失うシン。マティアスは先程のクリスとの話をしていた事もあり、随分と大人しくなってしまっている。これではとてもベルヘルムの話をちゃんと聞ける状態ではない。
頼りのケヴィンは変わりない様子で席につき、ベルヘルムとの会話を代表して請け負ってくれている。すると、狙ってのことかベルヘルムは突然核心に迫るような事を口走る。
「そうだ、紅茶なんてどうかね?丁度珍しい茶葉を頂いてね・・・。中々店でも扱っていない代物らしいんだよ」
「紅茶・・・」
「あぁ、あの“ジークベルト“氏から頂いた物なのだが・・・君達もどうかね?」
冗談のつもりで言っているのか。どうやらベルヘルムは、ジークベルトの死因と思われている紅茶と同じ茶葉を保有していたのだ。それをあろうことか、自分の部屋を訪れた客人に振る舞おうとしている。
彼の持つ茶葉にも、ジークベルトの遺体から検出されたものと同じ毒素が含まれているのかは分からないが、安易にベルヘルムの部屋を訪れた一行を驚かすには十分な挨拶となった。
「ジークベルト氏の茶葉をお持ちなのですか・・・」
反応を伺うように凝視してくるベルヘルムに負けじと、ケヴィンは何かうまい返しはないかと思考するが、如何に彼であっても考えもしなかった先制攻撃に思わず怯んでしまっているといった様子だった。
緊迫する状況の中、先に口を開いたのは先に仕掛けてきたベルヘルムの方だった。
「その様子だと、既に彼の死因について調べにいったようだな」
「えぇ・・・ジークベルト氏の遺体からは、僅かながらですが毒素となるものが検出されました。人体には影響のない量だったようですが、それは彼が口にしていたと思われる紅茶から出てきました・・・つまり・・・」
言葉を止めると同時に、ベルヘルムとケヴィンの視線がぶつかり合う。静かな腹の探り合いが繰り広げられる中、護衛の者が飲み物を持って一行のテーブルへとやってくる。
如何にも高価な食器からは湯気が立ち上り、甘い刺激的な香気が漂ってくる。初めにベルヘルムの前に置かれたカップに、一行の視線が集まる。中には明るい真紅色をした紅茶が注がれており、ケヴィンの前に置かれたカップにも同じものが注がれていた。
近くで嗅ぐとよりはっきりとした甘い香りを実感できる。事前にジークベルトの死因となったと思われていた紅茶について調べていたせいか、目の前の甘い香りを放つ美味しそうな紅茶が、まるで黄泉の国へと誘っているかのように、一行の意識を持っていった。
思わず固唾を飲む一行に対し、そんな彼らを尻目に真っ先にカップへと手を伸ばしたのはベルヘルムだった。静止画のように動きの止まった空間で、唯一動きを見せる彼の手に自然と視線が引っ張られる。
そして彼は躊躇うことなくカップを顔の前へと運んでいくと、香りを堪能した後にその芳しくも怪しい紅茶を口にした。
「あっ・・・!」
まるでジークベルトの死に際が再現されるのかのように、一行の脳裏にベルヘルムが倒れる映像が流れる。思わずその行為を止めようと言葉が漏れるシンに対し、紅茶は静かにベルヘルムの喉を通る。
確実に紅茶を口にしたベルヘルムは、何事もなかったかのように顔を下ろし、カップをテーブルの上に静かに下ろした。彼の様子からは異変は伺えない。ただ美味しい紅茶を口にしただけ。それが一行の前に現れた光景だった。
「その通り・・・。紅茶から毒素こそ検出されようと、到底死に至ることはない。今君達の目にしているものこそ、その証明だ」
「・・・・・」
椅子から腰の浮いたシンの身体が、力が抜けたように再び椅子の上に落下する。頬を流れる冷や汗の感覚が遅れて彼らの身体を伝う。
「ジークベルト氏の持ち込んだ紅茶の茶葉には、人を毒殺するような成分量は含まれていない。それこそ吐くほど飲んだとしても、この紅茶によって死に至ることはあり得ない」
「なっなるほど、ですが驚きました。まさか貴方がこのようなパフォーマンスをご披露なさるような方だったとは思いませんでした」
漸くいつもの調子に戻ったのか、ケヴィンの言葉にも普段通りの活気が戻ってくる。
「君達も疑っていたのだろう?ジークベルト氏が毒殺されたかもしれないと。それで現場検証からでた毒素の反応から、紅茶が淹れられたであろう厨房へ行き、紅茶を淹れた人物が怪しいのではと至った」
「えぇ・・・」
「だが、どうやら紅茶から検出された毒素が原因ではない事が分かり、捜査が難航していた。私はね、そこから君達が何故私の元へとやって来たのかに興味があるんだ」
今度は逆に不思議そうな表情を浮かべながらベルヘルムが顎に手を添えると。すると、その質問の答えを聞き出そうと鋭い視線をケヴィンへと向けた。ケヴィンがベルヘルムを疑ったのは、仕掛けたカメラの映像と音声による記録からだった。
だがそのようなものを、ベルヘルムを疑った要因として提出するにはまだ事件の真相が明らかになっていない。現状でそのような如何わしい物が宮殿内に仕掛けられてたと知られれば、一気にケヴィンらへの疑いの目が向けられることになるだろう。
「立ち話で済むほど手短な話でもなかろう?何か飲みながらでも話そうじゃないか。何かお好みはあるかね?いろんなものを取り揃えているぞ?」
意外にも受け入れムードであることに言葉を失うシン。マティアスは先程のクリスとの話をしていた事もあり、随分と大人しくなってしまっている。これではとてもベルヘルムの話をちゃんと聞ける状態ではない。
頼りのケヴィンは変わりない様子で席につき、ベルヘルムとの会話を代表して請け負ってくれている。すると、狙ってのことかベルヘルムは突然核心に迫るような事を口走る。
「そうだ、紅茶なんてどうかね?丁度珍しい茶葉を頂いてね・・・。中々店でも扱っていない代物らしいんだよ」
「紅茶・・・」
「あぁ、あの“ジークベルト“氏から頂いた物なのだが・・・君達もどうかね?」
冗談のつもりで言っているのか。どうやらベルヘルムは、ジークベルトの死因と思われている紅茶と同じ茶葉を保有していたのだ。それをあろうことか、自分の部屋を訪れた客人に振る舞おうとしている。
彼の持つ茶葉にも、ジークベルトの遺体から検出されたものと同じ毒素が含まれているのかは分からないが、安易にベルヘルムの部屋を訪れた一行を驚かすには十分な挨拶となった。
「ジークベルト氏の茶葉をお持ちなのですか・・・」
反応を伺うように凝視してくるベルヘルムに負けじと、ケヴィンは何かうまい返しはないかと思考するが、如何に彼であっても考えもしなかった先制攻撃に思わず怯んでしまっているといった様子だった。
緊迫する状況の中、先に口を開いたのは先に仕掛けてきたベルヘルムの方だった。
「その様子だと、既に彼の死因について調べにいったようだな」
「えぇ・・・ジークベルト氏の遺体からは、僅かながらですが毒素となるものが検出されました。人体には影響のない量だったようですが、それは彼が口にしていたと思われる紅茶から出てきました・・・つまり・・・」
言葉を止めると同時に、ベルヘルムとケヴィンの視線がぶつかり合う。静かな腹の探り合いが繰り広げられる中、護衛の者が飲み物を持って一行のテーブルへとやってくる。
如何にも高価な食器からは湯気が立ち上り、甘い刺激的な香気が漂ってくる。初めにベルヘルムの前に置かれたカップに、一行の視線が集まる。中には明るい真紅色をした紅茶が注がれており、ケヴィンの前に置かれたカップにも同じものが注がれていた。
近くで嗅ぐとよりはっきりとした甘い香りを実感できる。事前にジークベルトの死因となったと思われていた紅茶について調べていたせいか、目の前の甘い香りを放つ美味しそうな紅茶が、まるで黄泉の国へと誘っているかのように、一行の意識を持っていった。
思わず固唾を飲む一行に対し、そんな彼らを尻目に真っ先にカップへと手を伸ばしたのはベルヘルムだった。静止画のように動きの止まった空間で、唯一動きを見せる彼の手に自然と視線が引っ張られる。
そして彼は躊躇うことなくカップを顔の前へと運んでいくと、香りを堪能した後にその芳しくも怪しい紅茶を口にした。
「あっ・・・!」
まるでジークベルトの死に際が再現されるのかのように、一行の脳裏にベルヘルムが倒れる映像が流れる。思わずその行為を止めようと言葉が漏れるシンに対し、紅茶は静かにベルヘルムの喉を通る。
確実に紅茶を口にしたベルヘルムは、何事もなかったかのように顔を下ろし、カップをテーブルの上に静かに下ろした。彼の様子からは異変は伺えない。ただ美味しい紅茶を口にしただけ。それが一行の前に現れた光景だった。
「その通り・・・。紅茶から毒素こそ検出されようと、到底死に至ることはない。今君達の目にしているものこそ、その証明だ」
「・・・・・」
椅子から腰の浮いたシンの身体が、力が抜けたように再び椅子の上に落下する。頬を流れる冷や汗の感覚が遅れて彼らの身体を伝う。
「ジークベルト氏の持ち込んだ紅茶の茶葉には、人を毒殺するような成分量は含まれていない。それこそ吐くほど飲んだとしても、この紅茶によって死に至ることはあり得ない」
「なっなるほど、ですが驚きました。まさか貴方がこのようなパフォーマンスをご披露なさるような方だったとは思いませんでした」
漸くいつもの調子に戻ったのか、ケヴィンの言葉にも普段通りの活気が戻ってくる。
「君達も疑っていたのだろう?ジークベルト氏が毒殺されたかもしれないと。それで現場検証からでた毒素の反応から、紅茶が淹れられたであろう厨房へ行き、紅茶を淹れた人物が怪しいのではと至った」
「えぇ・・・」
「だが、どうやら紅茶から検出された毒素が原因ではない事が分かり、捜査が難航していた。私はね、そこから君達が何故私の元へとやって来たのかに興味があるんだ」
今度は逆に不思議そうな表情を浮かべながらベルヘルムが顎に手を添えると。すると、その質問の答えを聞き出そうと鋭い視線をケヴィンへと向けた。ケヴィンがベルヘルムを疑ったのは、仕掛けたカメラの映像と音声による記録からだった。
だがそのようなものを、ベルヘルムを疑った要因として提出するにはまだ事件の真相が明らかになっていない。現状でそのような如何わしい物が宮殿内に仕掛けられてたと知られれば、一気にケヴィンらへの疑いの目が向けられることになるだろう。
0
お気に入りに追加
310
あなたにおすすめの小説
バランスブレイカー〜ガチャで手に入れたブッ壊れ装備には美少女が宿ってました〜
ふるっかわ
ファンタジー
ガチャで手に入れたアイテムには美少女達が宿っていた!?
主人公のユイトは大人気VRMMO「ナイト&アルケミー」に実装されたぶっ壊れ装備を手に入れた瞬間見た事も無い世界に突如転送される。
転送されたユイトは唯一手元に残った刀に宿った少女サクヤと無くした装備を探す旅に出るがやがて世界を巻き込んだ大事件に巻き込まれて行く…
※感想などいただけると励みになります、稚作ではありますが楽しんでいただければ嬉しいです。
※こちらの作品は小説家になろう様にも掲載しております。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

転生貴族の異世界無双生活
guju
ファンタジー
神の手違いで死んでしまったと、突如知らされる主人公。
彼は、神から貰った力で生きていくものの、そうそう幸せは続かない。
その世界でできる色々な出来事が、主人公をどう変えて行くのか!
ハーレム弱めです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】憧れの異世界転移が現実になったのでやりたいことリストを消化したいと思います~異世界でやってみたい50のこと
Debby
ファンタジー
【完結まで投稿済みです】
山下星良(せいら)はファンタジー系の小説を読むのが大好きなお姉さん。
好きが高じて真剣に考えて作ったのが『異世界でやってみたい50のこと』のリスト。
やっぱり人生はじめからやり直す転生より、転移。
転移先の条件としては『★剣と魔法の世界に転移してみたい』は絶対に外せない。
そして今の身体じゃ体力的に異世界攻略は難しいのでちょっと若返りもお願いしたい。
更にもうひとつの条件が『★出来れば日本の乙女ゲームか物語の世界に転移してみたい(モブで)』だ。
これにはちゃんとした理由がある。必要なのは乙女ゲームの世界観のみで攻略対象とかヒロインは必要ない。
もちろんゲームに巻き込まれると面倒くさいので、ちゃんと「(モブで)」と注釈を入れることも忘れていない。
──そして本当に転移してしまった星良は、頼もしい仲間(レアアイテムとモフモフと細マッチョ?)と共に、自身の作ったやりたいことリストを消化していくことになる。
いい年の大人が本気で考え、万全を期したハズの『異世界でやりたいことリスト』。
理想通りだったり思っていたのとちょっと違ったりするけれど、折角の異世界を楽しみたいと思います。
あなたが異世界転移するなら、リストに何を書きますか?
----------
覗いて下さり、ありがとうございます!
10時19時投稿、全話予約投稿済みです。
5話くらいから話が動き出します?
✳(お読み下されば何のマークかはすぐに分かると思いますが)5話から出てくる話のタイトルの★は気にしないでください
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

ちょっと神様!私もうステータス調整されてるんですが!!
べちてん
ファンタジー
アニメ、マンガ、ラノベに小説好きの典型的な陰キャ高校生の西園千成はある日河川敷に花見に来ていた。人混みに酔い、体調が悪くなったので少し離れた路地で休憩していたらいつの間にか神域に迷い込んでしまっていた!!もう元居た世界には戻れないとのことなので魔法の世界へ転移することに。申し訳ないとか何とかでステータスを古龍の半分にしてもらったのだが、別の神様がそれを知らずに私のステータスをそこからさらに2倍にしてしまった!ちょっと神様!もうステータス調整されてるんですが!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる