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恩師の息子
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急に話を振られたマティアスはクリスの件について尋ねられると表情を曇らせた。彼はクリスの家庭の事情を知りながら、自分の都合のいいようにクリスを召使のように使っているなどと言う噂もあった。
単純に立場の上の存在であるジークベルトが、マティアスの使いを借りてベルヘルムとの何らかの取引を行ったとも考えられるが、他所から来たシン達の一行に親切にしてくれた彼が、本当に噂通りの人物なのだろうか。
これまであまりマティアス司祭についての話は上がってこなかった。調査対象に含まれていなかった事もあるが、互いに疑いながら宮殿内で行動を共にする以上、彼の過去や狙い、アルバでの想いについて聞いておかねばならない。
マティアス司祭は観念した様子で息を吐くと、何故クリスがジークベルトの使いとして利用されたのか、その経緯を話し始めた。
「彼は・・・クリスの父親は才能のある音楽家でした。私がアルバで司祭としてその役割を担う前から、クリスの父親“ヨハネス“によく面倒を見てもらっていたのを今でも覚えています」
「・・・・・」
音楽に関して詳しくない一行はその名を耳にしても、ただの人の名前として聞き流していたが、ケヴィンはその名前に心当たりでもあるのか、僅かに眉を潜ませ真剣にマティアスの話に耳を傾ける。
クリスの父ヨハネスは、マティアスがアルバの司祭として就任する以前からその名を轟かせる有名な音楽家だったらしい。彼のその才能肖ろうと多くの者達が集まり、数多くの音楽家を世に放つ才ある人物だったようだ。
既にアルバの街でもその名を知らぬ者はいない程の有名人であり、多くの人々から慕われていたヨハネスは、司祭として就任したマティアスにもとても親切にしてくれたのだという。
それこそ教会の神父かのように、他所者だったマティアスを親身になって支えアルバの行く末を暗示、慈善活動や教団の働きにも協力的であったという。
暫くして、音楽家としての活動も落ち着いてきた頃から、ヨハネスは教団へ加入することとなり、作曲や演奏などを通して教団の名を広めるのに大いな活躍を見せた。
やがてクリスが生まれると、ヨハネスは拠点をアルバに戻し、後の音楽を育む為の活動に注力する。多くの弟子を抱える中で、息子のクリスにも音楽家として多大な期待が寄せられるのだが、クリスには父親ほどの音楽の才能はなかったのだ。
同じ弟子らと共にクリスを育てていたが、どうしてもクリスの覚えは他の弟子達に比べると劣ってしまっており、一刻も早く次のステップを望む弟子達からは影で疎まれていたそうだ。
そんな、クリスにとって辛い時期が続いていた時に、更なる不幸が彼らを襲った。ヨハネスは突然の病に倒れ、もはや一人で歩くのも困難なほどの重病に掛かってしまう。
動けぬ身体となったヨハネスの元を訪れた際に、マティアスは彼から息子の事を頼まれる。出来の悪い息子を立派な音楽家にしてやりたかった。それが生前ヨハネスから聞かされていた、マティアスの最後の記憶だったのだという。
ヨハネスの死後、マティアスは彼から頼まれていた通りクリスの面倒を見ることになるが、その後はシン達もアルバで噂話を聞いた通り、成績の伸び悩むクリスはマティアスの手伝いをすることで、何とか学校に留まっている。
才能ではなく媚を売って学園にしがみつく惨めな者として、周りの者達から見られるようになっていった。
マティアスがクリスを利用していると言う話は噂に過ぎなかった。だが実際にクリスは他の学生らほどの音楽の才能が無いのもあり、卒業後の進路が定まらずいつまでも学園に留まっているのも確かだった。
このままではいずれクリスの居場所はなくなってしまう。そんな折に飛び込んできたのが、教団の上層部の命でアルバへ大司教がやって来るという話が舞い込んでくる。
詳しいことはマティアスにも分からなかったが、音楽という世界一本に絞るのではなく、教団での働きに貢献することで、いずれ教団の音楽家として働くことができるかもしれない。
願わくば、その先の活躍によりヨハネスの願いであった音楽業界へ躍進することだって不可能ではないと考え、何とかジークベルトに取り繕えないかと模索するマティアスだったが、ジークベルトがアルバへやって来た目的は別のものだった。
フェリクスのカントル降板の件でそれどころではなくなってしまっていたマティアスの元へ、ジークベルト本人から教団の関係者でありながら教団自体に興味のない人物はいないかと尋ねられる。
そこでマティアスは、条件に合致する人物としてヨハネスから頼まれていたクリスの事を話すと、少しだけ彼を借りたいと頼まれる。大司教自らの頼み事に、クリスが良き働きをすれば名前や顔を覚えてもらえるかもしれないと考えたマティアスは、クリスのことを思いジークベルトと彼を引き合わせることにしたのだという。
「クリスが大司教に気に入ってもらえれば、私のところにいるよりもよっぽど彼の為になる・・・。そう思って二人を引き合わせました」
「なるほど、そういう事だったのですね・・・。その後の二人については私から話しましょう」
自身がクリスの為と思い送り出したことで、まさか事件の重要参考人として監禁されてしまう事になるなんて思っても見なかったマティアス司祭。場合によっては犯人でなくともクリスが大司教殺害の容疑で処刑されてしまう事態だってあり得なくはない。
己の冒した選択のミスにより、恩師の息子を危険な目に合わせてしまったマティアスは、酷く心を病んでしまっていた。もはやケヴィンやシン達を疑っている場合ではないほどに、後悔の念に押しつぶされそうになっていたということを、一行の前で涙を浮かべながら暴露した。
単純に立場の上の存在であるジークベルトが、マティアスの使いを借りてベルヘルムとの何らかの取引を行ったとも考えられるが、他所から来たシン達の一行に親切にしてくれた彼が、本当に噂通りの人物なのだろうか。
これまであまりマティアス司祭についての話は上がってこなかった。調査対象に含まれていなかった事もあるが、互いに疑いながら宮殿内で行動を共にする以上、彼の過去や狙い、アルバでの想いについて聞いておかねばならない。
マティアス司祭は観念した様子で息を吐くと、何故クリスがジークベルトの使いとして利用されたのか、その経緯を話し始めた。
「彼は・・・クリスの父親は才能のある音楽家でした。私がアルバで司祭としてその役割を担う前から、クリスの父親“ヨハネス“によく面倒を見てもらっていたのを今でも覚えています」
「・・・・・」
音楽に関して詳しくない一行はその名を耳にしても、ただの人の名前として聞き流していたが、ケヴィンはその名前に心当たりでもあるのか、僅かに眉を潜ませ真剣にマティアスの話に耳を傾ける。
クリスの父ヨハネスは、マティアスがアルバの司祭として就任する以前からその名を轟かせる有名な音楽家だったらしい。彼のその才能肖ろうと多くの者達が集まり、数多くの音楽家を世に放つ才ある人物だったようだ。
既にアルバの街でもその名を知らぬ者はいない程の有名人であり、多くの人々から慕われていたヨハネスは、司祭として就任したマティアスにもとても親切にしてくれたのだという。
それこそ教会の神父かのように、他所者だったマティアスを親身になって支えアルバの行く末を暗示、慈善活動や教団の働きにも協力的であったという。
暫くして、音楽家としての活動も落ち着いてきた頃から、ヨハネスは教団へ加入することとなり、作曲や演奏などを通して教団の名を広めるのに大いな活躍を見せた。
やがてクリスが生まれると、ヨハネスは拠点をアルバに戻し、後の音楽を育む為の活動に注力する。多くの弟子を抱える中で、息子のクリスにも音楽家として多大な期待が寄せられるのだが、クリスには父親ほどの音楽の才能はなかったのだ。
同じ弟子らと共にクリスを育てていたが、どうしてもクリスの覚えは他の弟子達に比べると劣ってしまっており、一刻も早く次のステップを望む弟子達からは影で疎まれていたそうだ。
そんな、クリスにとって辛い時期が続いていた時に、更なる不幸が彼らを襲った。ヨハネスは突然の病に倒れ、もはや一人で歩くのも困難なほどの重病に掛かってしまう。
動けぬ身体となったヨハネスの元を訪れた際に、マティアスは彼から息子の事を頼まれる。出来の悪い息子を立派な音楽家にしてやりたかった。それが生前ヨハネスから聞かされていた、マティアスの最後の記憶だったのだという。
ヨハネスの死後、マティアスは彼から頼まれていた通りクリスの面倒を見ることになるが、その後はシン達もアルバで噂話を聞いた通り、成績の伸び悩むクリスはマティアスの手伝いをすることで、何とか学校に留まっている。
才能ではなく媚を売って学園にしがみつく惨めな者として、周りの者達から見られるようになっていった。
マティアスがクリスを利用していると言う話は噂に過ぎなかった。だが実際にクリスは他の学生らほどの音楽の才能が無いのもあり、卒業後の進路が定まらずいつまでも学園に留まっているのも確かだった。
このままではいずれクリスの居場所はなくなってしまう。そんな折に飛び込んできたのが、教団の上層部の命でアルバへ大司教がやって来るという話が舞い込んでくる。
詳しいことはマティアスにも分からなかったが、音楽という世界一本に絞るのではなく、教団での働きに貢献することで、いずれ教団の音楽家として働くことができるかもしれない。
願わくば、その先の活躍によりヨハネスの願いであった音楽業界へ躍進することだって不可能ではないと考え、何とかジークベルトに取り繕えないかと模索するマティアスだったが、ジークベルトがアルバへやって来た目的は別のものだった。
フェリクスのカントル降板の件でそれどころではなくなってしまっていたマティアスの元へ、ジークベルト本人から教団の関係者でありながら教団自体に興味のない人物はいないかと尋ねられる。
そこでマティアスは、条件に合致する人物としてヨハネスから頼まれていたクリスの事を話すと、少しだけ彼を借りたいと頼まれる。大司教自らの頼み事に、クリスが良き働きをすれば名前や顔を覚えてもらえるかもしれないと考えたマティアスは、クリスのことを思いジークベルトと彼を引き合わせることにしたのだという。
「クリスが大司教に気に入ってもらえれば、私のところにいるよりもよっぽど彼の為になる・・・。そう思って二人を引き合わせました」
「なるほど、そういう事だったのですね・・・。その後の二人については私から話しましょう」
自身がクリスの為と思い送り出したことで、まさか事件の重要参考人として監禁されてしまう事になるなんて思っても見なかったマティアス司祭。場合によっては犯人でなくともクリスが大司教殺害の容疑で処刑されてしまう事態だってあり得なくはない。
己の冒した選択のミスにより、恩師の息子を危険な目に合わせてしまったマティアスは、酷く心を病んでしまっていた。もはやケヴィンやシン達を疑っている場合ではないほどに、後悔の念に押しつぶされそうになっていたということを、一行の前で涙を浮かべながら暴露した。
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