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隠し事とカラクリ
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犯人はそれを理解した上でその方法を選び、昨夜それを実行に移したのだ。その事前の下調べと入念な計画は、前もって宮殿へ出入り出来なければ不可能だ。
それは立場上の話ではなく、物理的に日頃から宮殿内へ出入りできる者。つまり犯人はアルバの者で、自由に宮殿へ入れる立場にある者が、今回のジークベルト殺害の犯人ではないかとケヴィンは推理していた。
「更に言えば教団関係者なのではないかと、私は睨んでいます」
「そこまで絞れているのなら、大体の犯人像は想像がついているんじゃないか?」
話を聞いていたシンが思わず口を挟む。彼のいうように、そこまで絞れていたら何も宮殿内の人物をこれ程多く拘束しておく必要はないのではないかと考えるのが自然な流れ。
しかし、そう出来ないのはそれなりの理由があるからだ。それについてはケヴィンの方からも説明があった。
「私もできる限り、早く皆さんを解放したいと思いますが、今話したのは何の根拠もないただの私の個人的な推測に過ぎません。それを裏付ける証拠はどこにもないのです」
「有名な探偵であっても、そこはどうにもならない・・・?」
「勿論。地位や名声だけで身の潔白が保証されてしまうのなら、地位を勝ち取った人間は人の命でさえも自由に出来てしまう権利を得る事になってしまいますから」
苦笑いしながら浮かべる表情は、まるで何かを示唆しているかのようだった。大方の情報とケヴィンの推理を聞いたところで、一行はこれからのことについて話し始めた。
「他の部屋でも、おそらく今の私たちと同じような会話がされていることでしょう」
「全員が納得できるとも思えないなぁ」
「勿論、そうでしょうね・・・。言い争いになった部屋もあると伺っています。ですが、状況が見えてくるまでこの状態は変わりません。先ずは毒として使われたものの成分が判明し、それがどこで入手されたのか・・・。それがわからないことには、捜査は進みません」
「もう死因は毒ってことで固まってるのか?」
「それぐらいしかなさそうでしたからね・・・。部屋の隅々まで調査は行われましたが、これと言って手の込んだ仕掛けや装置があったという報告はありません。誰にも感知されないスキルがあり、それによって犯行が行われたとするならば、私にはそんなスキル、シンさんのスキルくらいしか思いつきませんよ?」
冗談で言っているつもりなのだろうが、ケヴィンの目は少なからずその可能性も視野に入れているといった様子で、シンの方を見ていた。
「まだ疑うか・・・。いいんだぞ?俺だってアンタを疑ってる」
「昨夜の例の件ですか?いいでしょう、ここにいる方々には話しておいた方がいいかも知れませんね」
そういうと、ケヴィンは隠すつもりもなかったかのように、昨夜自身がシンを使ってベルヘルムの部屋にカメラを持って行かせるよう指示したことを明かした。
驚きの表情と共に一行の視線がシンに集まる。
「シン!お前ッ・・・!いつの間にそんな事を!?」
「黙ってて悪かった・・・。何事もなければ、皆に余計な心配はかけたくなかったんだ・・・」
「結果として心配掛けちまってるじゃねぇか」
「そうですよシンさん!私達の間で隠し事はよくありません!」
「ごめん・・・」
仲間達の言葉責めがシンに降りかかる。だが彼と行動を共にしている彼らからすれば当然の反応だろう。これはシンだけの話ではない。彼が疑われれば、仲間達全員の信用に関わる事なのだから。
それを一言も相談されずに行動に移していたことに、皆は怒っているのだ。だが彼らの言葉責めはすぐに収まり、それよりもシンのその行動が他の者達にだれていないかどうかが気になっていた。
「それで?それは他に誰が知っている?」
「今はここにいる方々だけです」
「はぁ・・・何という事だ・・・。ケヴィン殿、私は話を聞いてしまった以上、公平な立場としてあなた方を疑わずにはいられませんな・・・」
蚊帳の外だったマティアス司祭にとっては、不穏な行動をしていたということで、一気にケヴィンやシン達が何かを企てて行動をしていたようにしか見えなくなってしまった。
「安心してください、マティアス氏。この話は頃合いを見て私自ら皆さんにお話ししますよ」
「頃合いって・・・」
頭を抱えるマティアス司祭を尻目に、シンはケヴィンの発言からある疑問を思い出した。彼は先程、この話は“ここにいる方々だけ“が知っていると口にした。
だが、事情聴取の際にシンは教団の護衛隊隊長であるオイゲンに、必要以上に怪しまれていた。作業員に扮していたシンを名簿を見ながら照らし合わせていた。
しかし、結局オイゲンに怪しまれることはなかった。作業員の名簿にシンの顔などない筈なのに、あの時のアレは一体どういうカラクリだったのか。シンはそれをケヴィンに尋ねずにはいられなかった。
「そうだ、ケヴィン。俺は事情聴取の時、オイゲンに顔を確認された。昨夜も俺はオイゲンに顔を見られている。なのに何故疑われなかった?名簿に俺のことは載っていないはずだろ?」
「簡単な話です。事前にシンさんの情報を適当に見繕って、作業員名簿に加えていただけですよ」
「なッ!?」
ケヴィンはシンがこの話を承諾する前から、既に動き出していたのだ。シンの顔写真は受付で証明書を発行した際や、証明書の提示を求められた際などにそれを宮殿に仕掛けたカメラなどで撮影し抽出。
後は他の作業員名簿の人物達と同じように資料を作り、名棒に追加していたのだ。故にあの時、オイゲンはシンの顔を見ておきながらも怪しむことはなかったという訳だった。
「初めから俺が、この話を受けると思っていたのか・・・?」
「受けなかったら受けなかったで、後で処分しようと思ってましたが、どうやら役に立ったようで、私の苦労も徒労に終わらずよかったですよ」
にこやかに語る彼に、シンはこの男の行動力と判断力がこれまでに見た誰よりも侮れないと感じていた。だが、ケヴィンが犯人でないのなら、これはシン達にとって無実を証明する大きな力にもなる。
「さて、そろそろ鑑識の結果も出た頃でしょうか・・・。皆さん、一緒に確認しにいきましょうか!」
ケヴィンの侮れなさを再認識させられながらも、一行は彼のいう通り犯行現場から調べた様々な要素を元に調べ上げた結果を確かめに、全員揃って鑑識の元へと向かう。
それは立場上の話ではなく、物理的に日頃から宮殿内へ出入りできる者。つまり犯人はアルバの者で、自由に宮殿へ入れる立場にある者が、今回のジークベルト殺害の犯人ではないかとケヴィンは推理していた。
「更に言えば教団関係者なのではないかと、私は睨んでいます」
「そこまで絞れているのなら、大体の犯人像は想像がついているんじゃないか?」
話を聞いていたシンが思わず口を挟む。彼のいうように、そこまで絞れていたら何も宮殿内の人物をこれ程多く拘束しておく必要はないのではないかと考えるのが自然な流れ。
しかし、そう出来ないのはそれなりの理由があるからだ。それについてはケヴィンの方からも説明があった。
「私もできる限り、早く皆さんを解放したいと思いますが、今話したのは何の根拠もないただの私の個人的な推測に過ぎません。それを裏付ける証拠はどこにもないのです」
「有名な探偵であっても、そこはどうにもならない・・・?」
「勿論。地位や名声だけで身の潔白が保証されてしまうのなら、地位を勝ち取った人間は人の命でさえも自由に出来てしまう権利を得る事になってしまいますから」
苦笑いしながら浮かべる表情は、まるで何かを示唆しているかのようだった。大方の情報とケヴィンの推理を聞いたところで、一行はこれからのことについて話し始めた。
「他の部屋でも、おそらく今の私たちと同じような会話がされていることでしょう」
「全員が納得できるとも思えないなぁ」
「勿論、そうでしょうね・・・。言い争いになった部屋もあると伺っています。ですが、状況が見えてくるまでこの状態は変わりません。先ずは毒として使われたものの成分が判明し、それがどこで入手されたのか・・・。それがわからないことには、捜査は進みません」
「もう死因は毒ってことで固まってるのか?」
「それぐらいしかなさそうでしたからね・・・。部屋の隅々まで調査は行われましたが、これと言って手の込んだ仕掛けや装置があったという報告はありません。誰にも感知されないスキルがあり、それによって犯行が行われたとするならば、私にはそんなスキル、シンさんのスキルくらいしか思いつきませんよ?」
冗談で言っているつもりなのだろうが、ケヴィンの目は少なからずその可能性も視野に入れているといった様子で、シンの方を見ていた。
「まだ疑うか・・・。いいんだぞ?俺だってアンタを疑ってる」
「昨夜の例の件ですか?いいでしょう、ここにいる方々には話しておいた方がいいかも知れませんね」
そういうと、ケヴィンは隠すつもりもなかったかのように、昨夜自身がシンを使ってベルヘルムの部屋にカメラを持って行かせるよう指示したことを明かした。
驚きの表情と共に一行の視線がシンに集まる。
「シン!お前ッ・・・!いつの間にそんな事を!?」
「黙ってて悪かった・・・。何事もなければ、皆に余計な心配はかけたくなかったんだ・・・」
「結果として心配掛けちまってるじゃねぇか」
「そうですよシンさん!私達の間で隠し事はよくありません!」
「ごめん・・・」
仲間達の言葉責めがシンに降りかかる。だが彼と行動を共にしている彼らからすれば当然の反応だろう。これはシンだけの話ではない。彼が疑われれば、仲間達全員の信用に関わる事なのだから。
それを一言も相談されずに行動に移していたことに、皆は怒っているのだ。だが彼らの言葉責めはすぐに収まり、それよりもシンのその行動が他の者達にだれていないかどうかが気になっていた。
「それで?それは他に誰が知っている?」
「今はここにいる方々だけです」
「はぁ・・・何という事だ・・・。ケヴィン殿、私は話を聞いてしまった以上、公平な立場としてあなた方を疑わずにはいられませんな・・・」
蚊帳の外だったマティアス司祭にとっては、不穏な行動をしていたということで、一気にケヴィンやシン達が何かを企てて行動をしていたようにしか見えなくなってしまった。
「安心してください、マティアス氏。この話は頃合いを見て私自ら皆さんにお話ししますよ」
「頃合いって・・・」
頭を抱えるマティアス司祭を尻目に、シンはケヴィンの発言からある疑問を思い出した。彼は先程、この話は“ここにいる方々だけ“が知っていると口にした。
だが、事情聴取の際にシンは教団の護衛隊隊長であるオイゲンに、必要以上に怪しまれていた。作業員に扮していたシンを名簿を見ながら照らし合わせていた。
しかし、結局オイゲンに怪しまれることはなかった。作業員の名簿にシンの顔などない筈なのに、あの時のアレは一体どういうカラクリだったのか。シンはそれをケヴィンに尋ねずにはいられなかった。
「そうだ、ケヴィン。俺は事情聴取の時、オイゲンに顔を確認された。昨夜も俺はオイゲンに顔を見られている。なのに何故疑われなかった?名簿に俺のことは載っていないはずだろ?」
「簡単な話です。事前にシンさんの情報を適当に見繕って、作業員名簿に加えていただけですよ」
「なッ!?」
ケヴィンはシンがこの話を承諾する前から、既に動き出していたのだ。シンの顔写真は受付で証明書を発行した際や、証明書の提示を求められた際などにそれを宮殿に仕掛けたカメラなどで撮影し抽出。
後は他の作業員名簿の人物達と同じように資料を作り、名棒に追加していたのだ。故にあの時、オイゲンはシンの顔を見ておきながらも怪しむことはなかったという訳だった。
「初めから俺が、この話を受けると思っていたのか・・・?」
「受けなかったら受けなかったで、後で処分しようと思ってましたが、どうやら役に立ったようで、私の苦労も徒労に終わらずよかったですよ」
にこやかに語る彼に、シンはこの男の行動力と判断力がこれまでに見た誰よりも侮れないと感じていた。だが、ケヴィンが犯人でないのなら、これはシン達にとって無実を証明する大きな力にもなる。
「さて、そろそろ鑑識の結果も出た頃でしょうか・・・。皆さん、一緒に確認しにいきましょうか!」
ケヴィンの侮れなさを再認識させられながらも、一行は彼のいう通り犯行現場から調べた様々な要素を元に調べ上げた結果を確かめに、全員揃って鑑識の元へと向かう。
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