World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,258 / 1,646

功績への報酬

しおりを挟む
 式典があったこともあり、街は先日の賑やかな夜とは打って変わり静かで穏やかな一面を見せる。そこら中から聞こえていた美しい音色も、今夜はその形を潜め、代わりにアルバに到着してから頻繁に目にする音のでるシャボン玉のようなものだけが、ふわふわと漂っている。

 「昨日とは違って静かだな」

 「ふふ、アルバは初めてのようですね」

 「?」

 案内人の男はシン達の反応を見て、無垢な子供を見るように微笑ましい表情を浮かべる。彼曰く、アルバで式典や音楽祭といったイベントが行われると、その夜は記憶の中に残る音色を思い出し、静かに余韻に浸るのがアルバの風習のようになっている。

 「それに今夜行われた式典は、他所の街や国からの来客が多くいらっしゃっております。そんな中、いつものアルバのような賑やかさでは、些か落ち着かず余韻にも浸れなくなってしまうでしょう」

 「それは確かに・・・」

 「良い風習じゃねぇか。俺も今日は何だか疲れたぜぇ・・・」

 今回の功績の第一人者であるツバキは、眠そうに大きなあくびをしながら身体を伸ばした。慣れないキャラを演じ、あれだけの数の修理と修復、そして楽器の簡単な調整まで行っていたのだ。

 それまでのパーティーで楽しんだ分がチャラになるくらいの働きだったことだろう。宮殿まではまだもう少しある。宮殿にさえ到着すれば、最高のおもてなしが待っていると男はツバキを励ました。

 一行はが宮殿へと戻ってくると、その周りは最初に来た時とは大きく異なり、今から宮殿内へ入ろうとするものは作業員や要人達の護衛など、一部の人間しかおらず、前の通りも人通りが随分と少なくなっていた。

 帰り際に見た、証明書の更新の仮設された建造物なども無くなり、広々としていた。

 「最初に来た時と違って、随分と広々としたな」

 「あぁ、あの施設も入場が完了した時点で撤退作業が進んでいた見たいだ」

 宮殿の側に危惧していたケヴィンの姿は見当たらない。彼はまだ建物の中にいるのだろう。豪華な部屋が用意されている事に対し、気分の上がる一行の中でシンだけは内心ドキドキしていた。

 正面の入り口から入っていった一行は、片付けが行われている一階の会場を邪魔しないように通り抜け、上へ上がる階段の方へと向かい、二階に用意してあるという彼らの客室へと辿り着く。

 「皆様にあてがわれた部屋は、こちらになります。どうぞ」

 ドアのロックを解除し、扉を開けるスーツの男。室内は彼らが借りている宿屋の一室と比べ数倍の広さがあり、ここに来るまでに話していた男の部屋のイメージよりもずっと立派な部屋だった。

 「すっげぇ!良いのかよ!?本当にこんな部屋借りちまって!」

 「勿論です。大司教様も、その行いに対し妥当な報酬を・・・と申しておりましたので」

 部屋にやって来るやいなや、早速大きなベッドを見つけたツバキは全身で思いっきりベッドへと飛び込んだ。その小さな身体はまるで巨大な雲に埋もれるように飲み込まれた。

 「あ!またそうやってツバキさんは自分の場所を取るんだから!」

 「良い加減学べよなぁ?こういうのは早い者勝ちなのぉ」

 アカリもツバキの姿を見て小走りになり、彼が気持ちよさそうに横になるベッドに倒れ込む。すると、彼女の身体もツバキと同じようにふかふかのベッドの中へと飲み込まれていった。

 「それでは私はこれで。部屋の外には警備の者も巡回しておりますので、何かありましたら声をかけて下さい。それと、三階へは上がらないようにとのことです」

 シンがケヴィンと共に盗み聞いた話では、三階には要人達の泊まっている部屋があり、各自の護衛がそれぞれの部屋を警備し、尚且つ大司教が連れている騎士団までもが厳重な警備に当たっているとの事。

 案内を務めた男がいうように、宿泊という目的以外にはとても余計な事などできそうにないです体制が敷かれていた。ケヴィンは何か準備があると残っていたが、彼の思惑は上手くいったのだろうか。

 一行は案内人の男に感謝を告げると、彼はそのまま部屋を後にした。これで漸く堅苦しい演技と服装から解き放たれ、アルバの風習通り余韻に浸りながら眠る事ができると、各々はそれぞれに自分の時間を過ごし始めた。

 ミアは部屋に設けられた広いシャワールームへと向かい、完備されたシャンプーやボディソープなどを満喫し、ツクヨはキッチンで珍しいコーヒーを見つけると、シンにも飲むかと勧めていた。

 どうせなら一杯頂こうとツクヨに頼み、シンもツバキやアカリのようにベッドに横になりたい気分だったが、周囲を見渡して一番座り心地のよさそうな椅子を見つけると、そこに腰掛けて一息ついていた。

 「なぁシン。ミアの奴、シャワー浴びてんのか?」

 てっきりベッドに埋もれてそのまま眠ってしまったと思っていたツバキが身体を起こし、シンのいる方を向いて訪ねてきた。彼が言うように、確かにミアはシャワー室にいるようだ。中の様子は見れないが、水の流れる音が聞こえてくるのは確か。

 「あぁ、そうみたいだ」

 「よし!今の内に、さっきの機械でも見せて貰うかなぁ~?」

 「やめとけって。またミアにどやされるぞ?」

 「アイツが悪いんだろ?わざわざ俺にアレを見せびらかすんだから。そんな興味をそそられて、じっとしてられっかよ」

 揉め事にならないようにと、シンは一応形式上ツバキに止めた方がいいとだけ伝えた。だが当然ながら、口だけでツバキを止められる筈もなくツバキはミアの荷物から見えるケヴィンからもらった機械を手に取り、嬉しそうに操作を始めた。

 ふと、シンはひょんなことから宮殿に戻ってきてしまったが、ケヴィンはカメラを止めたのだろうかとデバイスを耳に装着し、映像の確認をしてみる事にした。

 すると、以前まであった会場のカメラやジークベルトの衣類に仕掛けたカメラにはアクセスできなかったものの、別のカメラへアクセスすることが出来るようになっていたのだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

処理中です...