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記憶に眠る元の音
しおりを挟む 「おかえり。どうだった?ライブの方は」
下から聞こえていた大喝采を耳にした者なら、ライブの大成功は疑う余地もない事だったが、レオンの浮かない表情を見てツクヨは、何か満足のいかない事でもあったのだろうかと心配し声を掛ける。
「えぇ、大方予定通りのものでしたよ。カタリナさんが予定よりも多くの曲を披露してくれたおかげで、楽しみにしていてくれた観客からしたらいいサプライズになったと思います」
「でも君は浮かない顔だったね」
「それは・・・」
レオンはツバキに依頼していた形見のヴァイオリンへ視線を向ける。どうやら彼はずっとそれが気になっていたようだ。だがそんな中でもきっちり演奏を成し遂げるのは、流石は技術力なら随一と言われるほどの優等生と言ったところだろうか。
「それで、その・・・修理の方はどうなりましたか?」
「それがねぇ・・・」
視線を落とし顔を背けるツクヨの様子を見て、作業の方は上手くいかなかったのかと思い、ツバキの方へと歩み寄るレオン。
「いや、いいんだ。元々直るなんて思ってなかったから・・・!」
座り込むツバキの肩にレオンがそっと手を乗せると、彼は励ますように声をかけるレオンの方を振り返りニヤリとツバキは笑った。
「なぁ~んてな!誰が直ってねぇなんて言ったよ?」
キョトンとしたレオンは、先ほどの発言と表情を確認するためにもう一度ツクヨの方を見ると、彼は両手を合わせながら片目で頭を下げていた。どうやら依頼されていた機械仕掛けのヴァイオリンの修理は完了していたようだ。
ただ、形状は直すことが出来たものの、それがちゃんと元通りの音色を出せるかどうかはツクヨやツバキには分からない。あくまで、破損した部位がどのような形であったのか、何処と何処が繋がっていたのかなどを確認しながら直しただけに過ぎないのだ。
何しろ、このヴァイオリンに関しては設計図や構造を確認できる物もなかったため、これまでの様々な機材や楽器などの修理や修復で身につけた知識と技術で、元の形状へと復元させるのが精一杯だった。
「ただ俺達じゃぁチューニングは出来ねぇ。あくまで“形だけは直った“ってところだ」
「十分だ。元々この楽器で演奏する気などない。ただ・・・形だけでも直しておきたかったんだ・・・」
「レオン・・・」
「これだけは、いくつになっても手放せない物なんだ。自分で壊しておいて、何言ってんだって話だが」
「安心しろ!俺もよく物を壊してたもんだ!だが“物“のいいところは、また直せばいいってところだぜ。また壊しちまったら俺に言ってくれよ!いつでも直してやっからよぉ!」
レオンがあまり気にしないように、ツバキが気を利かせてポジティブになれるよう声を掛けているのが、手にとるように伝わってくる。無論、レオンもそれを感じ取り、笑顔を見せながらその時はツバキに連絡しようと冗談混じりに話を合わせていた。
修復された機械仕掛けのヴァイオリンを手に取ったレオンは、試しに音を奏でてみる。四本の弦を弓で擦り合わせ音を出す。すると、彼の手元からはその見た目からは想像できない、通常の形状をしたヴァイオリンと変わらぬ高音域の音を奏たのだ。
ただ、元々ヴァイオリンだということもあり、ツクヨやツバキは他の修理修復してきたヴァイオリンと同じような音を奏でているのを聞いて、修理はうまくいったのだとホッと胸を撫で下ろしていた。
しかし、当の本人であるレオンは、そのヴァイオリンが奏る音を聞いて目を丸くして驚いていた。思わず手を止める彼の様子を目にして、二人は何か不備でもあったのかとレオンに問うと、楽器としての機能はちゃんとヴァイオリンとして機能しているのだと、何か周りくどく修復が出来ていることを口にする。
ならば何故レオンはヴァイオリンの音を聞いて驚いたのか。それは父に貰った、当時の音を聞いていた彼だからこそ分かる違いがあったからだった。試しに父が奏でた時は、普通のヴァイオリンとは違う、極めて先進的で新しい音楽の可能性を感じるよう衝撃的な物だったはず。
父のヴァイオリンの演奏技術を比喩したものなどではなく、文字通りこれまでの普通のヴァイオリンではなく、音自体が異質なもので、中にはそれがヴァイオリンとは呼べない玩具であると言う者もいるだろう。
要するに、様々な音色やリズム同時に演奏する事のできるエレクトーンのようなものだったようだ。父が演奏してくれた時には、とてもヴァイオリン一つで奏られる音楽とは思えない演奏だったと記憶していたレオン。だが、いくら練習しようといつになろうとも、その時の音をレオンが奏られる事はなかった。
「だがよぉ、壊れたところはちゃんと元通りに戻したはずだぜ?内部構造も複雑ではあったが、元々どんな感じだったのかは見りゃわかったんだ・・・」
「じゃぁ何でその機能が失われているんだろう?」
「俺には分からねぇって。どうなんだ?レオン。形とか、そもそも弦の数が違げぇとか、何か思い出せねぇのか?」
レオンは機械仕掛けのヴァイオリンをくるくると回しながら全体の様子を確認するも、音楽家を目指す彼であっても何もおかしなところは見つけられない。音色に関しても、弦の数や音域に異常は見られない。ツバキの修理は完璧な筈だった。
「分からない・・・。見た目も音も完璧に直ってる。直ってる筈なのに、昔聞いた音と違うのは何故なんだ・・・。まだ俺は演奏者として未熟だとでも言うのか?」
下から聞こえていた大喝采を耳にした者なら、ライブの大成功は疑う余地もない事だったが、レオンの浮かない表情を見てツクヨは、何か満足のいかない事でもあったのだろうかと心配し声を掛ける。
「えぇ、大方予定通りのものでしたよ。カタリナさんが予定よりも多くの曲を披露してくれたおかげで、楽しみにしていてくれた観客からしたらいいサプライズになったと思います」
「でも君は浮かない顔だったね」
「それは・・・」
レオンはツバキに依頼していた形見のヴァイオリンへ視線を向ける。どうやら彼はずっとそれが気になっていたようだ。だがそんな中でもきっちり演奏を成し遂げるのは、流石は技術力なら随一と言われるほどの優等生と言ったところだろうか。
「それで、その・・・修理の方はどうなりましたか?」
「それがねぇ・・・」
視線を落とし顔を背けるツクヨの様子を見て、作業の方は上手くいかなかったのかと思い、ツバキの方へと歩み寄るレオン。
「いや、いいんだ。元々直るなんて思ってなかったから・・・!」
座り込むツバキの肩にレオンがそっと手を乗せると、彼は励ますように声をかけるレオンの方を振り返りニヤリとツバキは笑った。
「なぁ~んてな!誰が直ってねぇなんて言ったよ?」
キョトンとしたレオンは、先ほどの発言と表情を確認するためにもう一度ツクヨの方を見ると、彼は両手を合わせながら片目で頭を下げていた。どうやら依頼されていた機械仕掛けのヴァイオリンの修理は完了していたようだ。
ただ、形状は直すことが出来たものの、それがちゃんと元通りの音色を出せるかどうかはツクヨやツバキには分からない。あくまで、破損した部位がどのような形であったのか、何処と何処が繋がっていたのかなどを確認しながら直しただけに過ぎないのだ。
何しろ、このヴァイオリンに関しては設計図や構造を確認できる物もなかったため、これまでの様々な機材や楽器などの修理や修復で身につけた知識と技術で、元の形状へと復元させるのが精一杯だった。
「ただ俺達じゃぁチューニングは出来ねぇ。あくまで“形だけは直った“ってところだ」
「十分だ。元々この楽器で演奏する気などない。ただ・・・形だけでも直しておきたかったんだ・・・」
「レオン・・・」
「これだけは、いくつになっても手放せない物なんだ。自分で壊しておいて、何言ってんだって話だが」
「安心しろ!俺もよく物を壊してたもんだ!だが“物“のいいところは、また直せばいいってところだぜ。また壊しちまったら俺に言ってくれよ!いつでも直してやっからよぉ!」
レオンがあまり気にしないように、ツバキが気を利かせてポジティブになれるよう声を掛けているのが、手にとるように伝わってくる。無論、レオンもそれを感じ取り、笑顔を見せながらその時はツバキに連絡しようと冗談混じりに話を合わせていた。
修復された機械仕掛けのヴァイオリンを手に取ったレオンは、試しに音を奏でてみる。四本の弦を弓で擦り合わせ音を出す。すると、彼の手元からはその見た目からは想像できない、通常の形状をしたヴァイオリンと変わらぬ高音域の音を奏たのだ。
ただ、元々ヴァイオリンだということもあり、ツクヨやツバキは他の修理修復してきたヴァイオリンと同じような音を奏でているのを聞いて、修理はうまくいったのだとホッと胸を撫で下ろしていた。
しかし、当の本人であるレオンは、そのヴァイオリンが奏る音を聞いて目を丸くして驚いていた。思わず手を止める彼の様子を目にして、二人は何か不備でもあったのかとレオンに問うと、楽器としての機能はちゃんとヴァイオリンとして機能しているのだと、何か周りくどく修復が出来ていることを口にする。
ならば何故レオンはヴァイオリンの音を聞いて驚いたのか。それは父に貰った、当時の音を聞いていた彼だからこそ分かる違いがあったからだった。試しに父が奏でた時は、普通のヴァイオリンとは違う、極めて先進的で新しい音楽の可能性を感じるよう衝撃的な物だったはず。
父のヴァイオリンの演奏技術を比喩したものなどではなく、文字通りこれまでの普通のヴァイオリンではなく、音自体が異質なもので、中にはそれがヴァイオリンとは呼べない玩具であると言う者もいるだろう。
要するに、様々な音色やリズム同時に演奏する事のできるエレクトーンのようなものだったようだ。父が演奏してくれた時には、とてもヴァイオリン一つで奏られる音楽とは思えない演奏だったと記憶していたレオン。だが、いくら練習しようといつになろうとも、その時の音をレオンが奏られる事はなかった。
「だがよぉ、壊れたところはちゃんと元通りに戻したはずだぜ?内部構造も複雑ではあったが、元々どんな感じだったのかは見りゃわかったんだ・・・」
「じゃぁ何でその機能が失われているんだろう?」
「俺には分からねぇって。どうなんだ?レオン。形とか、そもそも弦の数が違げぇとか、何か思い出せねぇのか?」
レオンは機械仕掛けのヴァイオリンをくるくると回しながら全体の様子を確認するも、音楽家を目指す彼であっても何もおかしなところは見つけられない。音色に関しても、弦の数や音域に異常は見られない。ツバキの修理は完璧な筈だった。
「分からない・・・。見た目も音も完璧に直ってる。直ってる筈なのに、昔聞いた音と違うのは何故なんだ・・・。まだ俺は演奏者として未熟だとでも言うのか?」
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