World of Fantasia

神代 コウ

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過去を無きものに

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 音楽とは太古のより猛獣を遠ざけるために使ったり、部隊を鼓舞する為に用いられたりしていた。人間の他にも、生物によっては音楽を目的を持って利用している生物も存在する。

 WoFの世界ではモンスターでもそれらを用いる種族や個体がいるのも事実。仲間や同種の生物達を鼓舞すること特化した生物もいる程だ。それだけ音楽というものは、生物の生き死ににも関わり、時には癒しや安らぎをもたらす非常に密接な文化となっている。

 シンも現実の世界において、何度も音楽に救われてきた。それは大きな意味でなくとも、気分が乗らない時や落ち込んだ時に、気持ちを前向きにする為に用いてきた。

 他者の視線や声、言葉に恐怖にも似た感情を抱いていたシンは、自分の世界に篭れる音楽というものが、もはや生きていく上で必要な生活の一部と化していた。

 「音楽が大事なものだってのは・・・分かる気がする」

 「話が早くて助かります。故に彼らが音楽家や作曲を手掛ける人材は各国で重宝されています。音楽の文化も日々進化しており、ただ一曲だけ作ればいいというものではありません。“慣れ“というものは時に残酷で厄介なものです。同じ音楽をずっと繰り返し聞いていれば、いずれ“飽き“がやってきます」

 お気に入りの曲を何度もリピートしき聞き続けたりする事もあるだろう。それは歌ったり演奏する為だったり、常に気分を上げて維持する為だったりと目的は様々だろう。

 だがケヴィンのいうようにずっと同じ曲や歌だけ聞き続けるのは難しいだろう。中には苦にならない者もいるだろうが、全員が全員そうはいかない。時代の流れや流行によって音楽の流行り廃りもガラリと変わる。

 「音楽による恩恵を常に維持し続ける為にも、新たな音楽を生み出していく彼らの存在は大きいという訳です」

 「なるほど。それは護衛も強力になる訳だ」

 シンがケヴィンから音楽家の重要性や、歌や曲によるバフ効果についての話を聞いていると、ジークベルトは話をしていたベルヘルムに、何やら怪しげな話を振り始めた。

 「ところでベルヘルム氏。例の件はどうでしたかな?」

 「確証はありませんが、貴方の推測していた通りといった印象はありますね。私も正直驚いているくらいです。まさかあの方がそんなことを・・・。おい、アレを・・・」

 ベルヘルムが自身の護衛に向けて手を伸ばすと、その護衛は懐から現代でいうところのスマートフォンのような掌サイズのデバイスを取り出し、画面の操作を行なった後、デルヘルムへと手渡した。

 それを確認したベルヘルムは、デバイスをジークベルトへと渡す。

 「こちらを・・・」

 「ふむ・・・。確かに一見しておかしなところは見受けられないが、我々からしたらそう見えなくもない・・・か」

 ジークベルトはベルヘルムから渡されたデバイスに注目しながら、時折画面をスライドし何かを確認している。

 「ん?何を見ているんだ・・・?」

 「大司教のカメラから確認できないのか?」

 「周りにこれだけの人数がいる中でカメラを移動させては、カメラの存在に気づかれてしまいます。音声は私が拾っておきますので、シンさんは別のカメラで彼らが何を見ているのか確認できるか確かめて見てください」

 シンはケヴィンの指示に従い、VIPルームに仕掛けてあるというカメラを切り替え、ジークベルトの持つデバイスの画面を映し出せるカメラを探す。しかし、何個かあるカメラを切り替えズームしても、その手元を鮮明に映し出すことは叶わず、ベルヘルムのデバイスを確認し終えたジークベルトは、それを彼に返してしまった。

 「クソッ・・・!ダメだ、画面を確認できるカメラは無かったぞ」

 「音声も聞いていましたが、重要なことは口にしていませんでした・・・。なかなかボロを出しませんね。彼らも警戒しているという事でしょうか。恐らくジークベルトはアルバを訪れる前から、ベルヘルム氏に何かを依頼していたのでしょう」

 二人の会話からその内容を把握することは出来なかったが、ケヴィンは徐に資料を引っ張り出し何かを確認し始めた。シンが何をしているのかと彼に問うと、その手元の資料には微かに何者かの写真が添付されているのに気がつく。

 「ベルヘルム氏がアルバへやって来る前に滞在していた国や街を確認していました。その中にジークベルト大司教に関することはないかと思ったのですが・・・なるほど、そういう事でしたか・・・」

 彼は何かに気づいたかのようにな反応を見せる。一人で納得している彼に、シンは何が分かったのかと聞くと、どうやら直接ジークベルトに関与していた訳ではなく、彼が邪魔に思っていた存在である彼の過去を知る人物であるルーカスがいたという街にいたことが分かったのだと言う。

 「つまり、ジークベルト大司教はベルヘルム氏にルーカス司祭の事を調べてもらっていたのではないかと推測できます。先程何らかの情報をデバイスから確認していたのは、恐らくその事についてでしょう。やはり彼はルーカス司祭の事を・・・」

 「過去を消しにきた・・・そういう事か?」

 「なくは無い話ですが・・・」

 大司教の思惑に想像を膨らませる中、二人はジークベルトは護衛の一人に何やら指示を出しているところを目にする。するとその護衛は彼の元から離れていき、VIPルームを後にした。

 「何か動きがあるみたいです。シンさんはあの護衛の方を追って下さい」

 「分かった」

 「この場で何かすることはないでしょうが・・・念の為です。ルーカス司祭はまだ三階にいるでしょうか・・・」

 VIPルームの映像を確認しながら、不安そうな表情を浮かべて顔を上げるケヴィン。彼の指示通り、シンはカメラを切り替え自分達のいる三階の会場を映し出しているカメラへと切り替える。
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