1,242 / 1,646
矛盾と隠し事
しおりを挟む
引き続きVIPルームの盗聴を続けているシン達の元にツクヨがやって来る。暇そうにしていたミアが真っ先に彼の姿を捉えると、手を振って合図を送る。
「忙しいところごめん」
「いやぁ?そんなこともないぜ。そっちも暇だったろ?」
「ははは、まぁいい話を聞けたかなって感じかな。それでちょっとお願いがあるんだけど・・・」
ツクヨは申し訳なさそうに、一階のパーティー会場で行われている歌唱を聴きに行きたいと話す。当然ながら事情を聞かれたツクヨは、素直にその理由を語る。
先程、VIPルームから出てきた女性歌手のカタリナと話したこと。そして彼らの護衛から彼女の話を聞き、一階の会場で一般の客層向けに歌を披露するので是非聞きに来て欲しいと誘われた事を。
「お!そりゃぁいいな。じゃぁアタシがアカリと一緒に行ってくるよ」
「え?ミアがかい?」
「だってツバキはどうするんだ?それに女同士の方がずっと側にいれるだろ?トイレとかよ?」
「あぁ~・・・なるほど、確かにそうだね」
「まぁそういう訳だから、あとは任せたぜ?シン」
急に元気を通り戻したミアは、軽快に席を立ってその場を後にする。残されたシンは、引き続きケヴィンと共にジークベルトの動向を伺うとツクヨに伝え、彼もツバキの元へと戻って行った。
アカリとツバキの元にはミアが合流しており、ツクヨの帰りを待っていた。彼が到着すると二人は入れ違うように立ち上がり、歌唱を楽しんでくると言い残して一階へと降りて行った。
「ミアの奴、随分と楽しそうだったな」
「あっちは暇だったみたい」
「そっか。まぁあとはここの料理に飽きたとか?」
「それもあるかもね」
「なぁ、俺達はどうするよ?特にやる事ものねぇんだろ?このままってのも時間の無駄じゃねぇか?」
ツバキの言うことも一理ある。待機とは言うものの、実際にジークベルトの動向を伺っているのはシンとケヴィン。何か動きがあるにしろ、状況を把握している二人の方が動きやすく対応しやすいのも事実。
「そうだね・・・。宮殿の中でも見て回ってみようか?」
「おうこなくっちゃ!俺もじっとしてんのは性に合わねぇぜ」
「それじゃぁもう一回シンのところへ行ってこないと」
いちいち報告しなくてもいいのではとツバキは言う。だが別行動するとなればお互いが何をしているか、どこにいるかなど把握しておかないと、これだけ広い宮殿の中だと合流するのも難しくなってしまう。
そこでツクヨが思い出したのは、シンとミア、そしてツクヨの三人はWoFのユーザーであるが故のメッセージ機能があるという話だった。以前にもこの機能の事は聞いていたが、ツクヨから使うのは初めてだった。
視線を固定し、視界の中にメニュー画面を表示させると、そこからメッセージの項目を開きフレンドからシンの名前を選ぶ。
シンのところへ行くと言いながら、その場で立ち止まり物思いに耽っているかのようなツクヨの後ろ姿をツバキは黙って見ていた。暫くするとツクヨが振り返り歌唱の件を伝えた時に、自由にしてていいと言われた事を思い出したと彼は言い出した。
「ふ~ん、そっか・・・」
ツバキは特に反応する事もなく、その場の料理と皿を片付け出発の準備を整えると、最後に水を一気飲みしてその場を後にした。直接彼らに聞いたことはなかったが、ツバキは以前にもツクヨ達の不自然な行動や思考に違和感を覚えていた。
何かあるのではと最初に思ったのは、シンが一時的にパーティから離脱し現実世界へ戻った時の事だった。グラン・ヴァーグからの海上レースを終えホープ・コーストの街に到着した後、苦楽を共にした仲間が欠けているにも関わらず、そのまま後で合流するとだけ言い、次の街へと向かった行った。
初めはそういう距離感のパーティなのだと思っていたが、要所要所では今のように逐一連絡を取り合う様子を見せる。それほど重要なことではないから説明もないのだろうとツバキも彼らを信用し黙っていた。
オルレラの街でもリナムルでも、彼らのツバキを心配する様子や気持ちには嘘偽りなどは全く感じなかった。ツバキも彼らの大事な仲間の一人であるということが、彼らの行動や発言からも伝わってくる。
だから、今は説明がなくともいずれ話してくれる時が来るのかもしれないと、ツバキは彼らのそんな矛盾点には敢えて突っ込んだりはしなかった。
彼がそういった思考に至るのも、ウィリアムや同じ造船技師の仲間達、そして海賊などという男達の世界で育った事もあり、何でもかんでも聞くという行為が無粋であるという文化が身に染みていた事もあるのかもしれない。
「二階には何があるんだぁ?」
頭の中を過ぎる様々な思いを振り払うように、いつもの調子でツクヨに話しかけるツバキ。
「それを確かめるのも、探索の醍醐味じゃない?」
「それもそうだな!」
無邪気な笑顔を向けるツバキの表情に、ツクヨは彼がそんな思いを抱いていたなど微塵も感じる事はなく、二人はミアとアカリが降りていった階段へと向かい、宮殿の二階へと降りていく。
予想もしていなかったツクヨからのメッセージに、シンは驚きながらも彼に了解の返信をした。不意にシンの表情の変化と視線の動きが気になったのか、ケヴィンが心配して声を掛ける。
「どうかしましたか?」
「あぁ・・・いや、ちょっと目が疲れただけだよ」
「このカメラ、初めてって感じでしたもんね。長時間付き合わせてしまって申し訳ない・・・」
「大丈夫、慣れてるから」
「?」
長時間のゲームには慣れている。シンは無意識にそんな返事で返してしまったが、ケヴィンにはシンの発言の意図を推察することなど出来なかった。慣れているのに目が疲れるとはどういう事なのか。そして映像を見続けることに慣れているとはどういう事なのか。
だが、実際問題ケヴィンも長時間映像を見続けていたことで疲れも溜まっていた。
「少し休憩も挟みますか」
「いや、それじゃぁ部屋の様子が・・・」
「休むと言っても二人同時ではなく交互に・・・ですね。私はまだ大丈夫なのでお先にどうぞ」
「そうか・・・ありがとう」
シンは耳に装着したデバイスをタップし、映像を一時遮断した。この間も音声だけは届いており、文字通り目だけを休ませることができる。ツクヨとのメッセージを誤魔化すためとはいえ、目が疲れていたのも事実。シンはそのままグッと目を瞑り、視線をぐるぐると動かして目を慣らし始めた。
「忙しいところごめん」
「いやぁ?そんなこともないぜ。そっちも暇だったろ?」
「ははは、まぁいい話を聞けたかなって感じかな。それでちょっとお願いがあるんだけど・・・」
ツクヨは申し訳なさそうに、一階のパーティー会場で行われている歌唱を聴きに行きたいと話す。当然ながら事情を聞かれたツクヨは、素直にその理由を語る。
先程、VIPルームから出てきた女性歌手のカタリナと話したこと。そして彼らの護衛から彼女の話を聞き、一階の会場で一般の客層向けに歌を披露するので是非聞きに来て欲しいと誘われた事を。
「お!そりゃぁいいな。じゃぁアタシがアカリと一緒に行ってくるよ」
「え?ミアがかい?」
「だってツバキはどうするんだ?それに女同士の方がずっと側にいれるだろ?トイレとかよ?」
「あぁ~・・・なるほど、確かにそうだね」
「まぁそういう訳だから、あとは任せたぜ?シン」
急に元気を通り戻したミアは、軽快に席を立ってその場を後にする。残されたシンは、引き続きケヴィンと共にジークベルトの動向を伺うとツクヨに伝え、彼もツバキの元へと戻って行った。
アカリとツバキの元にはミアが合流しており、ツクヨの帰りを待っていた。彼が到着すると二人は入れ違うように立ち上がり、歌唱を楽しんでくると言い残して一階へと降りて行った。
「ミアの奴、随分と楽しそうだったな」
「あっちは暇だったみたい」
「そっか。まぁあとはここの料理に飽きたとか?」
「それもあるかもね」
「なぁ、俺達はどうするよ?特にやる事ものねぇんだろ?このままってのも時間の無駄じゃねぇか?」
ツバキの言うことも一理ある。待機とは言うものの、実際にジークベルトの動向を伺っているのはシンとケヴィン。何か動きがあるにしろ、状況を把握している二人の方が動きやすく対応しやすいのも事実。
「そうだね・・・。宮殿の中でも見て回ってみようか?」
「おうこなくっちゃ!俺もじっとしてんのは性に合わねぇぜ」
「それじゃぁもう一回シンのところへ行ってこないと」
いちいち報告しなくてもいいのではとツバキは言う。だが別行動するとなればお互いが何をしているか、どこにいるかなど把握しておかないと、これだけ広い宮殿の中だと合流するのも難しくなってしまう。
そこでツクヨが思い出したのは、シンとミア、そしてツクヨの三人はWoFのユーザーであるが故のメッセージ機能があるという話だった。以前にもこの機能の事は聞いていたが、ツクヨから使うのは初めてだった。
視線を固定し、視界の中にメニュー画面を表示させると、そこからメッセージの項目を開きフレンドからシンの名前を選ぶ。
シンのところへ行くと言いながら、その場で立ち止まり物思いに耽っているかのようなツクヨの後ろ姿をツバキは黙って見ていた。暫くするとツクヨが振り返り歌唱の件を伝えた時に、自由にしてていいと言われた事を思い出したと彼は言い出した。
「ふ~ん、そっか・・・」
ツバキは特に反応する事もなく、その場の料理と皿を片付け出発の準備を整えると、最後に水を一気飲みしてその場を後にした。直接彼らに聞いたことはなかったが、ツバキは以前にもツクヨ達の不自然な行動や思考に違和感を覚えていた。
何かあるのではと最初に思ったのは、シンが一時的にパーティから離脱し現実世界へ戻った時の事だった。グラン・ヴァーグからの海上レースを終えホープ・コーストの街に到着した後、苦楽を共にした仲間が欠けているにも関わらず、そのまま後で合流するとだけ言い、次の街へと向かった行った。
初めはそういう距離感のパーティなのだと思っていたが、要所要所では今のように逐一連絡を取り合う様子を見せる。それほど重要なことではないから説明もないのだろうとツバキも彼らを信用し黙っていた。
オルレラの街でもリナムルでも、彼らのツバキを心配する様子や気持ちには嘘偽りなどは全く感じなかった。ツバキも彼らの大事な仲間の一人であるということが、彼らの行動や発言からも伝わってくる。
だから、今は説明がなくともいずれ話してくれる時が来るのかもしれないと、ツバキは彼らのそんな矛盾点には敢えて突っ込んだりはしなかった。
彼がそういった思考に至るのも、ウィリアムや同じ造船技師の仲間達、そして海賊などという男達の世界で育った事もあり、何でもかんでも聞くという行為が無粋であるという文化が身に染みていた事もあるのかもしれない。
「二階には何があるんだぁ?」
頭の中を過ぎる様々な思いを振り払うように、いつもの調子でツクヨに話しかけるツバキ。
「それを確かめるのも、探索の醍醐味じゃない?」
「それもそうだな!」
無邪気な笑顔を向けるツバキの表情に、ツクヨは彼がそんな思いを抱いていたなど微塵も感じる事はなく、二人はミアとアカリが降りていった階段へと向かい、宮殿の二階へと降りていく。
予想もしていなかったツクヨからのメッセージに、シンは驚きながらも彼に了解の返信をした。不意にシンの表情の変化と視線の動きが気になったのか、ケヴィンが心配して声を掛ける。
「どうかしましたか?」
「あぁ・・・いや、ちょっと目が疲れただけだよ」
「このカメラ、初めてって感じでしたもんね。長時間付き合わせてしまって申し訳ない・・・」
「大丈夫、慣れてるから」
「?」
長時間のゲームには慣れている。シンは無意識にそんな返事で返してしまったが、ケヴィンにはシンの発言の意図を推察することなど出来なかった。慣れているのに目が疲れるとはどういう事なのか。そして映像を見続けることに慣れているとはどういう事なのか。
だが、実際問題ケヴィンも長時間映像を見続けていたことで疲れも溜まっていた。
「少し休憩も挟みますか」
「いや、それじゃぁ部屋の様子が・・・」
「休むと言っても二人同時ではなく交互に・・・ですね。私はまだ大丈夫なのでお先にどうぞ」
「そうか・・・ありがとう」
シンは耳に装着したデバイスをタップし、映像を一時遮断した。この間も音声だけは届いており、文字通り目だけを休ませることができる。ツクヨとのメッセージを誤魔化すためとはいえ、目が疲れていたのも事実。シンはそのままグッと目を瞑り、視線をぐるぐると動かして目を慣らし始めた。
0
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説
Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~
神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!!
皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました!
ありがとうございます!
VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。
山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・?
それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい!
毎週土曜日更新(偶に休み)
転移先は勇者と呼ばれた男のもとだった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
人魔戦争。
それは魔人と人族の戦争。
その規模は計り知れず、2年の時を経て終戦。
勝敗は人族に旗が上がったものの、人族にも魔人にも深い心の傷を残した。
それを良しとせず立ち上がったのは魔王を打ち果たした勇者である。
勇者は終戦後、すぐに国を建国。
そして見事、平和協定条約を結びつけ、法をつくる事で世界を平和へと導いた。
それから25年後。
1人の子供が異世界に降り立つ。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。
一人暮らしのおばさん薬師を黒髪の青年は崇めたてる
朝山みどり
ファンタジー
冤罪で辺境に追放された元聖女。のんびりまったり平和に暮らしていたが、過去が彼女の生活を壊そうとしてきた。
彼女を慕う青年はこっそり彼女を守り続ける。
黙示録戦争後に残された世界でたった一人冷凍睡眠から蘇ったオレが超科学のチート人工知能の超美女とともに文芸復興を目指す物語。
あっちゅまん
ファンタジー
黙示録の最終戦争は実際に起きてしまった……そして、人類は一度滅亡した。
だが、もう一度世界は創生され、新しい魔法文明が栄えた世界となっていた。
ところが、そんな中、冷凍睡眠されていたオレはなんと蘇生されてしまったのだ。
オレを目覚めさせた超絶ボディの超科学の人工頭脳の超美女と、オレの飼っていた粘菌が超進化したメイドと、同じく飼っていたペットの超進化したフクロウの紳士と、コレクションのフィギュアが生命を宿した双子の女子高生アンドロイドとともに、魔力がないのに元の世界の科学力を使って、マンガ・アニメを蘇らせ、この世界でも流行させるために頑張る話。
そして、そのついでに、街をどんどん発展させて建国して、いつのまにか世界にめちゃくちゃ影響力のある存在になっていく物語です。
【黙示録戦争後に残された世界観及び設定集】も別にアップしています。
よければ参考にしてください。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
超文明日本
点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。
そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。
異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる