1,241 / 1,646
自分の為のお節介
しおりを挟む
カタリナという女性歌手の背景を知り、博物館での態度の裏にはそういった思いがあったのかと、一行は言葉が出てこなかった。
「少し長くなってしまったかな。中には俺の誇張もあったと思うが、彼女はああ見えて苦労人なんだよ。それを知ると、もっと応援したい気持ちになるんだ」
「うん、それは分かります。雑誌で見るような有名な方々が、条件はあるとはいえ一般の人達に特別な演奏や歌を披露してくれるのを、単なる仕事や売名くらいに思ってました」
「勿論それもあるだろう。彼らもきっとそれは否定しない。だが名を売らなければ、届けたい思いすら届かないんだと、俺は解釈しているよ」
「そうですね・・・」
才能を見出され、異例のデビューをしたりあまり深くない知識の中で突然有名になった人物を見かけると、何がそんなに凄いのか、大したことないのに名ばかり売れてと偏見の目を向けられることもあるだろう。
きっとその活動によって嫌いになってしまう人もいるかもしれない。しかし、それでも多くの人々の目を集めることで脚光を浴びた者が、真にその実力を問われるのはその後の本人の力に違いない。
堕落する者はそこで有頂天になり、不祥事を起こしたりボロが出る。また、周りの努力で注目を浴びていただけで、いざ一人で活動するとなると何も成果を出せない、謂わば偽りの演者になるということも少なくない。
そんな中でも、カタリナが耐えることなく脚光を浴び続けたのは、他ならぬ彼女の実力とその精神力にあるのだろう。
「さて、俺はそろそろ彼女の護衛に戻るよ。他の仲間達においしい思いばかりさせていられないからな。よかったらアンタ達も彼女の歌を聞いて見てくれよ!絶対損はしないから!」
「えぇ、是非とも。お話ありがとうございました。カタリナさんについて知るいい機会になりました」
「なんのなんの。俺ぁただ彼女のファンを増やしたいだけだからよ!じゃぁな」
陽気な護衛の者は、ツクヨ達に手を振りながら下の階層へ続く階段を降りていく。カタリナ・ドロツィーアという歌手の情報が彼らにとって重要となるかは分からないが、影響力を持つ人物の人柄を知っておくのは損ではないはず。
宮殿でなすべき事は果たしている三人は、手持ち無沙汰が故にカタリナ本人からもファンだという護衛からもお薦めされた、一階の会場で披露されるという舞台を見にしようと、中央の下を見渡せる席へと移動した。
「こっからでも十分見えそうだな」
「音も・・・辛うじて聞こえるって感じですかね。ですがこれでは・・・」
「シン達に相談してみようか?ただ待機してるだけなら、一階にいても三階にいても変わらないだろうし。なんならアカリだけでも・・・」
「いえ!そこまでして頂くわけには・・・」
自分だけ好き勝手は出来ぬと、ツクヨの申し出を断ろうとするアカリだったが、彼女にせっかくの宴を楽しんでもらおうと、ツクヨはアカリの事をツバキに任せ少しだけ二人の側を離れ、シン達のいるテーブルへと向かった。
「別にそこまでしなくてもいいのに・・・」
アカリがボソッと口にした言葉は、ツバキの耳にも届いていた。アカリよりもツクヨとの付き合いが長いツバキは、彼の面倒見の良さをよく知っている。自分だけではなくアカリも仲間として同行することになり、ツクヨのそんな一面は更に如実になったとツバキは感じていた。
きっとそれはツクヨにとって苦になっている訳ではなく、寧ろ彼が無意識に押さえていた部分が表に出てきて、本来のツクヨらしくなってきたのではないかとツバキは思っていた。
そしてそんなツバキの考えはあながち外れていた訳でもなく、ツクヨはアカリの姿に僅かながら自身の娘の姿を重ねていたのだ。同じ子供ならツバキの方が先にいたが、どちらかというと性格的にはアカリの方が似ており、何よりその容姿や振る舞いがアカリの方が女らしくあったのも要因となっていた。
「まぁ、ツクヨのしたいようにさせてやんな」
「え?それは一体どういう事です?」
「記憶を無くしてるお前に、少しでも楽しんでもらいてぇんだろ。それは気を遣ってるとこじゃなくて、ツクヨがお前の為に何かしたいんだ。結果それがツクヨの為にもなるんだよ」
「・・・どうしてそうなるんです」
「さぁ・・・なんとなくだがよ、ツクヨの様子を見てカタリナっていう人の話を聞いて、なんかスイッチでも入ったんじゃねぇかなって思っただけだ。ここは少し大人になって、ツクヨのお節介に付き合ってやんな」
「それでツクヨさんが喜んで頂けるのなら・・・」
ツバキの話を聞いて、先程のツクヨの様子を思い浮かべるアカリ。確かに彼のいう通り、ツクヨの表情は明るく見えた。いつも面倒を見てもらう側の立場にいたアカリは、それが皆んなへの負担になるのでは思っていたが、大人しくそれに付き合うのもツクヨの為だと先輩であるツバキ教わったアカリは、理解を深める為にもツバキの言う通り、ツクヨのお節介を受け入れる。
「少し長くなってしまったかな。中には俺の誇張もあったと思うが、彼女はああ見えて苦労人なんだよ。それを知ると、もっと応援したい気持ちになるんだ」
「うん、それは分かります。雑誌で見るような有名な方々が、条件はあるとはいえ一般の人達に特別な演奏や歌を披露してくれるのを、単なる仕事や売名くらいに思ってました」
「勿論それもあるだろう。彼らもきっとそれは否定しない。だが名を売らなければ、届けたい思いすら届かないんだと、俺は解釈しているよ」
「そうですね・・・」
才能を見出され、異例のデビューをしたりあまり深くない知識の中で突然有名になった人物を見かけると、何がそんなに凄いのか、大したことないのに名ばかり売れてと偏見の目を向けられることもあるだろう。
きっとその活動によって嫌いになってしまう人もいるかもしれない。しかし、それでも多くの人々の目を集めることで脚光を浴びた者が、真にその実力を問われるのはその後の本人の力に違いない。
堕落する者はそこで有頂天になり、不祥事を起こしたりボロが出る。また、周りの努力で注目を浴びていただけで、いざ一人で活動するとなると何も成果を出せない、謂わば偽りの演者になるということも少なくない。
そんな中でも、カタリナが耐えることなく脚光を浴び続けたのは、他ならぬ彼女の実力とその精神力にあるのだろう。
「さて、俺はそろそろ彼女の護衛に戻るよ。他の仲間達においしい思いばかりさせていられないからな。よかったらアンタ達も彼女の歌を聞いて見てくれよ!絶対損はしないから!」
「えぇ、是非とも。お話ありがとうございました。カタリナさんについて知るいい機会になりました」
「なんのなんの。俺ぁただ彼女のファンを増やしたいだけだからよ!じゃぁな」
陽気な護衛の者は、ツクヨ達に手を振りながら下の階層へ続く階段を降りていく。カタリナ・ドロツィーアという歌手の情報が彼らにとって重要となるかは分からないが、影響力を持つ人物の人柄を知っておくのは損ではないはず。
宮殿でなすべき事は果たしている三人は、手持ち無沙汰が故にカタリナ本人からもファンだという護衛からもお薦めされた、一階の会場で披露されるという舞台を見にしようと、中央の下を見渡せる席へと移動した。
「こっからでも十分見えそうだな」
「音も・・・辛うじて聞こえるって感じですかね。ですがこれでは・・・」
「シン達に相談してみようか?ただ待機してるだけなら、一階にいても三階にいても変わらないだろうし。なんならアカリだけでも・・・」
「いえ!そこまでして頂くわけには・・・」
自分だけ好き勝手は出来ぬと、ツクヨの申し出を断ろうとするアカリだったが、彼女にせっかくの宴を楽しんでもらおうと、ツクヨはアカリの事をツバキに任せ少しだけ二人の側を離れ、シン達のいるテーブルへと向かった。
「別にそこまでしなくてもいいのに・・・」
アカリがボソッと口にした言葉は、ツバキの耳にも届いていた。アカリよりもツクヨとの付き合いが長いツバキは、彼の面倒見の良さをよく知っている。自分だけではなくアカリも仲間として同行することになり、ツクヨのそんな一面は更に如実になったとツバキは感じていた。
きっとそれはツクヨにとって苦になっている訳ではなく、寧ろ彼が無意識に押さえていた部分が表に出てきて、本来のツクヨらしくなってきたのではないかとツバキは思っていた。
そしてそんなツバキの考えはあながち外れていた訳でもなく、ツクヨはアカリの姿に僅かながら自身の娘の姿を重ねていたのだ。同じ子供ならツバキの方が先にいたが、どちらかというと性格的にはアカリの方が似ており、何よりその容姿や振る舞いがアカリの方が女らしくあったのも要因となっていた。
「まぁ、ツクヨのしたいようにさせてやんな」
「え?それは一体どういう事です?」
「記憶を無くしてるお前に、少しでも楽しんでもらいてぇんだろ。それは気を遣ってるとこじゃなくて、ツクヨがお前の為に何かしたいんだ。結果それがツクヨの為にもなるんだよ」
「・・・どうしてそうなるんです」
「さぁ・・・なんとなくだがよ、ツクヨの様子を見てカタリナっていう人の話を聞いて、なんかスイッチでも入ったんじゃねぇかなって思っただけだ。ここは少し大人になって、ツクヨのお節介に付き合ってやんな」
「それでツクヨさんが喜んで頂けるのなら・・・」
ツバキの話を聞いて、先程のツクヨの様子を思い浮かべるアカリ。確かに彼のいう通り、ツクヨの表情は明るく見えた。いつも面倒を見てもらう側の立場にいたアカリは、それが皆んなへの負担になるのでは思っていたが、大人しくそれに付き合うのもツクヨの為だと先輩であるツバキ教わったアカリは、理解を深める為にもツバキの言う通り、ツクヨのお節介を受け入れる。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる