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態度の変化
しおりを挟む彼は鋭い視線は一行の前にいる可愛らしい女性に向けられている。睨みつけるように一点にジルを見つめたままレオンが歩み寄ってくる。彼を真正面に迎えたジルは、数秒ほど彼との睨み合いに付き合うと、すぐにカールやツクヨ達の方を向くと挨拶を交わし、その場を去っていってしまう。
「待てよ!同学年とのお話は苦手か!?」
背後に彼の挑発の言葉を受けながら、ジルは会場を後にした。突っかかろうとした標的を失い、行き場の無くなってしまった気持ちを一行の方へと向けた。
「失礼、お見苦しいところをお見せしました」
「いや、構わないよレオン。それで?どうして君はここに?」
「フェリクス先生を探していました。下の会場にはいらっしゃらなかったので、こちらにいるのかと・・・」
「フェリクス君かい?」
レオンは式典での演奏の評価を聞きたかったようで、彼ら音楽学校の教官も務めていたフェリクスを探しに三階にまでやって来たようだ。どうやら一階にフェリクスの姿はなかったらしい。
すると、彼らの視界の中にマティアス司祭と共に何処かへと向かおうとするフェリクスの姿が飛び込んでくる。
「フェリクス先生!探しました、此度の式典での演奏の評価なのですが・・・」
「すまないレオン。今は急な呼び出しを受けてしまっていてね・・・。話はまた後で聞こう。パーティーの後の予定は?」
「いえ、忙しいのであればまた別の日にでも・・・」
忙しい様子を見せるフェリクスに、レオンは日を改めてと口にすると、彼の表情は曇り視線を下の方へと落としてしまう。何か良からぬことにでも触れてしまったかと心配するレオンに、フェリクスは自分がアルバにいられる時間がそう長くないかも知れないとも取れる発言を残していく。
「いや、今日がいいだろう。次はいつになるか分からない・・・。そもそも次があるのかさえ分からないんだから・・・」
「え・・・?」
言葉を続けられなくなるフェリクスに、先を急ぐと声を掛けたのはマティアスだった。彼はシン達がVIPルームを盗聴していた際に、ジークベルト大司教からフェリクスを連れてくるようにと言われていた。
今まさに、彼らは呼び出した大司教の待つVIPルームへと向かっている途中だったのだろう。
「フェリクス、そろそろ・・・」
「あぁ、すまない。レオン、私の用事が済み次第連絡をする。話はその時に」
「はい・・・分かりました」
そそくさと廊下の方へと消えていってしまった二人。それを見送ったカールは、何かフェリクスの様子がおかしいことに気がついていた。同じくレオンも、いつもなら別の日にとあしらわれるはずが、今日しかないと言った口ぶりで語ったフェリクスに違和感を感じていたようだった。
「何か急用かな?それにいつものフェリクス君らしくなかったな・・・」
「えぇ・・・何かあったのでしょうか」
何か違和感を感じている様子の二人とは違い、何かおかしいところなどあったのかと、寧ろ今のカールとレオンに疑問を抱いていたツクヨ達。そんな声を代弁するように、ツバキが敢えて無知を演じて二人に尋ねた。
「何かおかしなところでもあった・・・ありましたか?」
「ん?あぁ、すまない。君達はフェリクス君のことはあまり知らなかったね」
「先生はお忙しい方なので、あまり感想をいただく機会がないのです。今回は後夜祭ともなるパーティーが開かれておりますので、もしかしたら感想をお聞かせ頂けるかと思いましたが・・・」
先程のフェリクスの様子を見て、再び考え込んでしまったレオンに代わりカールがフェリクスという人の人物像について説明してくれた。
「彼は非常にめんどくさがり屋でね。学生への個人的な指導や質問への対応は殆どしないそうなんだ。実際、彼が多忙であるのは確かなのだけれども、それでも自分が請け負っている学生なのだから、少しは時間を取ってあげてもいいのではと思うのだけれどねぇ」
「でも、先ほどはこの後時間はあるのかと尋ねていましたよ?」
「そう!それなんだよ。いつもの彼ならまずあり得ない対応だ。少なくとも私は彼のそんな話を聞いた覚えはない。重ねて言うが、別に私は彼を批判したいのではないからね。ただいつもの彼とは、あまりに様子が違うから妙だなと思ったんだ」
「アンタ・・・あぁ・・・レオンさんも何か変だと?」
「そうですね・・・。先生はとても音楽に対して厳格なお方です。それこそ当たり前の質問をしようものなら、何が足りないのか自分で考えろといった感じで突っぱねられてしまいます。それが感想を伺える上に、先程カール医師もおっしゃっていた通り、この後すぐにお伺いできるとは思ってもいませんでした・・・」
すっかり神妙になってしまった雰囲気に、ツバキは何とも子供らしい率直な感想を述べると共に、ある提案を二人にした。
「そんな考え込むようなことかね・・・。そんなに奇妙に思うのなら、調べに行けばいいんじゃないですかねぇ?」
「調べに?一体どうするおつもりで?」
「そりゃぁ後をつけるとか・・・」
だがカールもレオンも、そんな失礼なことはできないとこれを拒否位する。しかし、フェリクスの様子が気になるのも事実。何か彼についてする者はいないだろうかと言う話になる。
フェリクスがマティアス司祭と共に向かったのは、宮殿の三階にあるビップルームなのではないかとカールは推測する。長い廊下の先には他国や他の街から来たという要人達が案内されていた。向かったとするならそこしか考えられない。
だがVIPルームへは特別な許可を得た者しか入れない。カールなら入れるかもしれないが、すぐに後を追っていってしまってはついて来たのがバレてしまう。
より安全に彼の事について調べるなら、誰かに話を聞くのが一番だろう。教団関係者であればあ何か知っているかもしれないが、マティアス司祭は彼と共にVIPルームへ向かってしまったので不可能として、一行が思いつく人物で何か知っていそうな人物といえば、アルバのもう一人の司祭であるルーカスとなる。
早速ルーカス司祭に話を聞いてみれば何か分かるのではと、カールとレオンに話しかけようとしたところで、レオンが会場で忙しそうにしているある人物に目をつける。
「彼なら・・・何か聞いてるかもな」
その視線の先にいたのは、マティアス司祭の手伝いをしている彼らと同じ音楽学校の生徒であるクリスだった。
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