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二つの再会
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会場を見渡すとすぐにカールの姿が目に入った。一行はルーカスの後に続き、他の者達と談笑する彼の元へと向かう。
「カールさん」
「おぉ、ルーカス司祭様!探しましたぞ。先程会場を出て行かれたと聞いて、何か急用でも入ってしまわれたのかと・・・おや?そちらの方々は・・・」
カールはツクヨとアカリの顔を見て、どこかで会ったことがあるかのように記憶を辿り始める。そして間も無く、彼は式典が行われる前の博物館での出来事のことを思い出す。
「あぁ、あの時の!」
「その節はご親切にして頂き、ありがとうございました」
「またお目にかかれて嬉しいですわ」
「そうでした、そうでした。確か・・・ツクヨさんとアカリさんでしたかな?いやぁ~その節は申し訳ありませんでした。折角この街を見て回られたというのに、博物館へも入れず・・・」
職業柄だろうか、一度会っただけにも関わらず、それも大した出会いでもないのにカールは二人の顔と名前を覚えていたようだ。それもその時の状況や場面まで。
単純に記憶力がいいのか、或いはそもそもアルバの街へ外からやって来る人が多く、医者としての仕事以外で外からやって来た人と話す機会が少なく、記憶に残っていただけなのだろうか。
「いえいえ。おかげさまで恥をかかずに済みましたし、色々と見て回る時間も増えました」
「ははは、そう言っていただけて何よりです。他の方々はお仲間ですかな?」
カールの視線が一行の顔を一人一人捉えていく。シンとミアが順番に簡単な自己紹介とツクヨ達との関係性を答えると、少しかしこまったようにツバキも辿々しい自己紹介をする。
いつもの様子と違うツバキに、シン達は疑問を抱いたがすぐに彼がこの場に合わせて上品に振る舞おうと背伸びをしている事に気がつく。彼なりに目立った言動や行動に気をつけているのだろう。
しかし、造船技師として海賊達を相手に育った彼には、丁寧な口調というものは不慣れだったようだ。
「貴方は、こういう場は初めてかな?」
「は・・・はい。すっすみません、上手く喋れず・・・」
「なに、気にすることはありませんよ。最初から順応できる人の方が凄いのですから。少しずつ慣れていけばいいのです」
簡単な挨拶を終えると、カールはそれまで話していた者達と別れ、ルーカスと一行との会話を楽しもうとしていた。手始めにシン達がこの場にいる事についてルーカスへ尋ねるカール。
シン達は自分がこの祝宴の会場へ招待したと語るルーカスに、また教団への勧誘ですかと冗談混じりに話すカール。上手いこと話を進めるルーカスは、ツクヨ達にアルバの街の事や音楽の歴史について教えてあげて欲しいと言い残し、シンとミアは別の人物へ紹介するのだと、一時的にカールとの会話を終えその場を後にする。
カールもアルバに住んでいる要人の内の一人として、それなりに教団のことについては知っているようだ。ここからは別行動で、互いに成功を祈るようにして視線を合わせるツクヨとシン達。
会場を進み、入口の方から離れていくシン達は、今度は一体誰に自分達を紹介するのかとルーカスに問う。どうやら彼は、二人を手頃な音楽家の先生のところへ紹介しに向かおうとしていたようだが、その人物が見当たらないのだと語る。
暫く周囲を見渡しながら歩いていると、とある人物がそんな彼らの姿を見つけると声をかけて来たのだ。
「これはこれは。またお会いしましたね」
「ッ!?」
その人物はシンに向かって声を掛けてきた。ルーカスはその人物の顔を見るも何者なのか分かっていない様子だった。初見の反応はミアも同じだったが、僅かに見せたシンの動揺を察したミアは、この人物がシンの言っていた探偵なのではと察すると、ルーカスに個人的な知り合いだと話し、自分達は自分達でここから調査を行うと合図を出す。
ミアの合図を受け取ったルーカスは、それなら邪魔しては悪いと言い残しその場を後にした。残されたシンとミアは、話しかけてきた人物と対面する。
「またって・・・。アンタ一体何者なんだ?」
「おや?まだ名乗ってませんでしたっけ?私は“オーギュスト・ケヴィン“という者で、他の街でしがない探偵をしている者です」
「探偵・・・」
シンとミアはこの男こそ、今回の調査依頼で最も警戒すべき人物かもしれないと、その時直感で思った。こちらの行動を先読みしたり、理由もなく手引きをするような行動取るなど、全くと言っていいほどこの男の目的が分からない。
するとケヴィンは、名乗った覚えもない二人の名前を言い当てながら、カフェテリアやニクラス教会などでそう呼び合っているところから、誰がどんな名前なのかを推測したのだと語る。
「それで?その探偵さんとやらは、何だってアタシらの事を?」
ミアが単刀直入にケヴィンの目的について尋ねる。すると彼は、小さく周囲を確認すると、首をとある方向へ振ってついて来いと言わんばかりに歩き出した。
男の目的を探る為にも、シンとミアは警戒しながら男の後ろをついて行く。連れて来られたのは、会場の中央に開いた一階や二階の様子を見下ろせる席だった。
そこには誰もおらず、ケヴィンの荷物と思われる物だけがちょこんと椅子の上に乗せられていた。
「どうそお座りください。少し長い話になりますので・・・」
二人は男の誘いを警戒しつつも、互いに視線を交わし今は従っておこうと言われた通り席に着く。ケヴィンは自身の荷物を漁りながら、二人に世間ではあまり騒がれていない、アルバで起こっているというある不思議な事件について話し始めた。
「カールさん」
「おぉ、ルーカス司祭様!探しましたぞ。先程会場を出て行かれたと聞いて、何か急用でも入ってしまわれたのかと・・・おや?そちらの方々は・・・」
カールはツクヨとアカリの顔を見て、どこかで会ったことがあるかのように記憶を辿り始める。そして間も無く、彼は式典が行われる前の博物館での出来事のことを思い出す。
「あぁ、あの時の!」
「その節はご親切にして頂き、ありがとうございました」
「またお目にかかれて嬉しいですわ」
「そうでした、そうでした。確か・・・ツクヨさんとアカリさんでしたかな?いやぁ~その節は申し訳ありませんでした。折角この街を見て回られたというのに、博物館へも入れず・・・」
職業柄だろうか、一度会っただけにも関わらず、それも大した出会いでもないのにカールは二人の顔と名前を覚えていたようだ。それもその時の状況や場面まで。
単純に記憶力がいいのか、或いはそもそもアルバの街へ外からやって来る人が多く、医者としての仕事以外で外からやって来た人と話す機会が少なく、記憶に残っていただけなのだろうか。
「いえいえ。おかげさまで恥をかかずに済みましたし、色々と見て回る時間も増えました」
「ははは、そう言っていただけて何よりです。他の方々はお仲間ですかな?」
カールの視線が一行の顔を一人一人捉えていく。シンとミアが順番に簡単な自己紹介とツクヨ達との関係性を答えると、少しかしこまったようにツバキも辿々しい自己紹介をする。
いつもの様子と違うツバキに、シン達は疑問を抱いたがすぐに彼がこの場に合わせて上品に振る舞おうと背伸びをしている事に気がつく。彼なりに目立った言動や行動に気をつけているのだろう。
しかし、造船技師として海賊達を相手に育った彼には、丁寧な口調というものは不慣れだったようだ。
「貴方は、こういう場は初めてかな?」
「は・・・はい。すっすみません、上手く喋れず・・・」
「なに、気にすることはありませんよ。最初から順応できる人の方が凄いのですから。少しずつ慣れていけばいいのです」
簡単な挨拶を終えると、カールはそれまで話していた者達と別れ、ルーカスと一行との会話を楽しもうとしていた。手始めにシン達がこの場にいる事についてルーカスへ尋ねるカール。
シン達は自分がこの祝宴の会場へ招待したと語るルーカスに、また教団への勧誘ですかと冗談混じりに話すカール。上手いこと話を進めるルーカスは、ツクヨ達にアルバの街の事や音楽の歴史について教えてあげて欲しいと言い残し、シンとミアは別の人物へ紹介するのだと、一時的にカールとの会話を終えその場を後にする。
カールもアルバに住んでいる要人の内の一人として、それなりに教団のことについては知っているようだ。ここからは別行動で、互いに成功を祈るようにして視線を合わせるツクヨとシン達。
会場を進み、入口の方から離れていくシン達は、今度は一体誰に自分達を紹介するのかとルーカスに問う。どうやら彼は、二人を手頃な音楽家の先生のところへ紹介しに向かおうとしていたようだが、その人物が見当たらないのだと語る。
暫く周囲を見渡しながら歩いていると、とある人物がそんな彼らの姿を見つけると声をかけて来たのだ。
「これはこれは。またお会いしましたね」
「ッ!?」
その人物はシンに向かって声を掛けてきた。ルーカスはその人物の顔を見るも何者なのか分かっていない様子だった。初見の反応はミアも同じだったが、僅かに見せたシンの動揺を察したミアは、この人物がシンの言っていた探偵なのではと察すると、ルーカスに個人的な知り合いだと話し、自分達は自分達でここから調査を行うと合図を出す。
ミアの合図を受け取ったルーカスは、それなら邪魔しては悪いと言い残しその場を後にした。残されたシンとミアは、話しかけてきた人物と対面する。
「またって・・・。アンタ一体何者なんだ?」
「おや?まだ名乗ってませんでしたっけ?私は“オーギュスト・ケヴィン“という者で、他の街でしがない探偵をしている者です」
「探偵・・・」
シンとミアはこの男こそ、今回の調査依頼で最も警戒すべき人物かもしれないと、その時直感で思った。こちらの行動を先読みしたり、理由もなく手引きをするような行動取るなど、全くと言っていいほどこの男の目的が分からない。
するとケヴィンは、名乗った覚えもない二人の名前を言い当てながら、カフェテリアやニクラス教会などでそう呼び合っているところから、誰がどんな名前なのかを推測したのだと語る。
「それで?その探偵さんとやらは、何だってアタシらの事を?」
ミアが単刀直入にケヴィンの目的について尋ねる。すると彼は、小さく周囲を確認すると、首をとある方向へ振ってついて来いと言わんばかりに歩き出した。
男の目的を探る為にも、シンとミアは警戒しながら男の後ろをついて行く。連れて来られたのは、会場の中央に開いた一階や二階の様子を見下ろせる席だった。
そこには誰もおらず、ケヴィンの荷物と思われる物だけがちょこんと椅子の上に乗せられていた。
「どうそお座りください。少し長い話になりますので・・・」
二人は男の誘いを警戒しつつも、互いに視線を交わし今は従っておこうと言われた通り席に着く。ケヴィンは自身の荷物を漁りながら、二人に世間ではあまり騒がれていない、アルバで起こっているというある不思議な事件について話し始めた。
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