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手引きの依頼
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「ふふふっ、ごめんなさい。そうよね、音楽って本来そういうものですものね。長らく忘れていたような気がします」
口に手を当て、上品な素振りで笑った彼女は周りの評価や楽曲に合わせて感情をコントロールする、自身の音楽に対する向き合い方を滑稽だと笑い飛ばした。
シンには彼女が何を言ってるのか分からなかったが、彼女の質問に対する返答としては間違っていなかったようだ。何とかこの場を切り抜けようとして考えた割には、良い方向へ転がっていったのかもしれない。
それを証明するかのように、ジルの口から願ってもない話を持ちかけられる。現在シン達は、目標であるジークベルトのいるパーティー会場への潜入方法を探っていた。
スキルを使い忍び込むという方法もあるが、警備の者達が探知系のスキルを用いている可能性もある。寧ろ使ってない事の方が考えづらいだろう。護衛の者を連れて来ていることから、ジークベルトも何かしらの危険があるかもしれないと警戒しているに違いない。
何より、グーゲル教会でシンがジークベルトと謎の探偵との会話を盗み聞きした際に掴んだ情報の中に、ルーカスからの依頼であった護衛隊の隊長の名前と共にその異名も警戒する理由になっていた。
騎士団最強の盾と称される人物がいながら、潜伏系のスキルで守るべき対象者に見知らぬ者を近づけてしまったとあらば、最強の名が泣くことになる。そもそも教団の騎士団が大した事ないという考えもあるが、シンの潜伏を何故か看破していたあの探偵が讃えているというのが、侮れないという要因を生み出している。
「司祭様達とはお会いになって?」
「いえ、まだお会いできていません」
これはチャンスと話を合わせるシンに、ジルは彼の狙い通りに提案を持ち掛けてくれた。
「それならきっと、宮殿の三階にある祝宴の会場にいらっしゃると思うわ。この後、そちらへ向かう用事がありますのでお呼びしましょうか?」
ジルの提案は、シンの想像していた提案とは少し違っていた。てっきり彼女がその会場へ手引きしてくれるものだと思っていたが、考えてみればいくら成績優秀な音楽学校の生徒とはいえ、学生に過ぎない彼女に大司教との面会をこぎつけることは出来ないのかもしれない。
だが、ルーカスとの面会を果たせば彼の方から何か提案があるかもしれない。何とかして宮殿の三階にあるという祝宴の会場へ手引きしてもらえないかと、シンは彼女にルーカス司祭との面会を依頼する。
「それではルーカス司祭様に、“シンという者が来ている“とお伝え頂ければ幸いです」
「シン様ですね。失礼ですが証明書の方をお見せ頂けますか?」
本人であることを確認する為なのだろう。彼女の得体の知れない人物を司祭に説明する訳にもいかない立場にあるようだ。シンは入り口で新たに更新された顔写真入りのカードを彼女に見せた。
「えぇ、確かに確認いたしました。それでは今すぐにとはいきませんが、後ほどそのようにルーカス司祭様にお伝えしておきます」
「ありがとうございます、それでは・・・」
上手いこと約束をこぎつけたシンは、ジルと別れ仲間達のいるテーブルへと戻った。
その場には既に、ツクヨの指示でアカリがミアを連れ戻した事により全員が集まっていた。そこで一行はパーティー会場で得た情報の共有をする。
レオンの方へ向かったミアは、これといって新たな情報は得られなかったようだった。そしてツクヨの方は、アルバに到着したばかりに一行を寮へと案内し泊めてくれたクリスを見かけたと一行に伝える。
そして彼と話していた学生らの中に、ジークベルトがいるであろう会場へ立ち入る事のできるような話をしていた生徒がいた事を伝えると、そこへ辿り着く為にはという話になり、そこでシンがジルと話したことについて説明した。
「ルーカスといえど、アタシらを会場に招き入れられるのか?」
「どちらにせよ私達だけでは潜入も難しいと思う・・・。ここは本人の意見も聞いてみて、それから別の方法を考える方が現実的じゃないかな?」
「めんどくせぇなぁ。シンのアレで一気に潜り込めねぇのかよ?」
「悪いがそれは難しいと思う・・・」
ツバキが言いたい事は、シンの能力を知っていれば誰しもが思う事だろう。それでもミアやツクヨがそれを口にしなかったのは、恐らくシンと同じ考えを持っていたからに違いない。
まどろっこしさを感じるツバキに、シンはスキルによる潜入が難しい理由について説明した。
「何だよ、あくまで予想だろ?やってみねぇと分からねぇじゃねぇか」
「それをやって騒ぎになればもっと大変な事になるのではありませんか?」
「アカリの言う通りだ。摘み出されるくらいならまだしも、そんな怪しげな方法で侵入したのがバレたら、その場で殺されるか拘束された上で処刑されるのがオチだ」
「おいおい・・・何だった俺達ぁそんな危ない橋を渡らなきゃならなくなったんだぁ?」
「大丈夫、渡らなきゃいけない訳じゃない。ルーカスさんも言ってたけど、危険と思ったら身を引いてくれて構わないそうだしね。つまり、橋を叩いてちょっとでも危ないと思ったら引き返していいんだよ。ルーカスさんの期待には添えられないけどね」
ツクヨの言うように、無茶をする必要はない。ルーカスも自ら念を押していたように、シン達が命を危険に晒してまでこなして欲しい依頼ではないと言っていた。それならそれで、彼には別の手段があると言う事なのだろう。
つまりシン達は安全に行える範囲で情報収集をすればいいのだ。その別の手段については想像がつかないが、それはジルがルーカスを連れて来てから直接本人に尋ねればいい。
今は兎に角、ジルがシンの頼みを聞き入れルーカスと面会する機会を待つしかない。それまでの間は、少しでも英気を養っておく為、パーティーの食事を楽しむ事にした。
口に手を当て、上品な素振りで笑った彼女は周りの評価や楽曲に合わせて感情をコントロールする、自身の音楽に対する向き合い方を滑稽だと笑い飛ばした。
シンには彼女が何を言ってるのか分からなかったが、彼女の質問に対する返答としては間違っていなかったようだ。何とかこの場を切り抜けようとして考えた割には、良い方向へ転がっていったのかもしれない。
それを証明するかのように、ジルの口から願ってもない話を持ちかけられる。現在シン達は、目標であるジークベルトのいるパーティー会場への潜入方法を探っていた。
スキルを使い忍び込むという方法もあるが、警備の者達が探知系のスキルを用いている可能性もある。寧ろ使ってない事の方が考えづらいだろう。護衛の者を連れて来ていることから、ジークベルトも何かしらの危険があるかもしれないと警戒しているに違いない。
何より、グーゲル教会でシンがジークベルトと謎の探偵との会話を盗み聞きした際に掴んだ情報の中に、ルーカスからの依頼であった護衛隊の隊長の名前と共にその異名も警戒する理由になっていた。
騎士団最強の盾と称される人物がいながら、潜伏系のスキルで守るべき対象者に見知らぬ者を近づけてしまったとあらば、最強の名が泣くことになる。そもそも教団の騎士団が大した事ないという考えもあるが、シンの潜伏を何故か看破していたあの探偵が讃えているというのが、侮れないという要因を生み出している。
「司祭様達とはお会いになって?」
「いえ、まだお会いできていません」
これはチャンスと話を合わせるシンに、ジルは彼の狙い通りに提案を持ち掛けてくれた。
「それならきっと、宮殿の三階にある祝宴の会場にいらっしゃると思うわ。この後、そちらへ向かう用事がありますのでお呼びしましょうか?」
ジルの提案は、シンの想像していた提案とは少し違っていた。てっきり彼女がその会場へ手引きしてくれるものだと思っていたが、考えてみればいくら成績優秀な音楽学校の生徒とはいえ、学生に過ぎない彼女に大司教との面会をこぎつけることは出来ないのかもしれない。
だが、ルーカスとの面会を果たせば彼の方から何か提案があるかもしれない。何とかして宮殿の三階にあるという祝宴の会場へ手引きしてもらえないかと、シンは彼女にルーカス司祭との面会を依頼する。
「それではルーカス司祭様に、“シンという者が来ている“とお伝え頂ければ幸いです」
「シン様ですね。失礼ですが証明書の方をお見せ頂けますか?」
本人であることを確認する為なのだろう。彼女の得体の知れない人物を司祭に説明する訳にもいかない立場にあるようだ。シンは入り口で新たに更新された顔写真入りのカードを彼女に見せた。
「えぇ、確かに確認いたしました。それでは今すぐにとはいきませんが、後ほどそのようにルーカス司祭様にお伝えしておきます」
「ありがとうございます、それでは・・・」
上手いこと約束をこぎつけたシンは、ジルと別れ仲間達のいるテーブルへと戻った。
その場には既に、ツクヨの指示でアカリがミアを連れ戻した事により全員が集まっていた。そこで一行はパーティー会場で得た情報の共有をする。
レオンの方へ向かったミアは、これといって新たな情報は得られなかったようだった。そしてツクヨの方は、アルバに到着したばかりに一行を寮へと案内し泊めてくれたクリスを見かけたと一行に伝える。
そして彼と話していた学生らの中に、ジークベルトがいるであろう会場へ立ち入る事のできるような話をしていた生徒がいた事を伝えると、そこへ辿り着く為にはという話になり、そこでシンがジルと話したことについて説明した。
「ルーカスといえど、アタシらを会場に招き入れられるのか?」
「どちらにせよ私達だけでは潜入も難しいと思う・・・。ここは本人の意見も聞いてみて、それから別の方法を考える方が現実的じゃないかな?」
「めんどくせぇなぁ。シンのアレで一気に潜り込めねぇのかよ?」
「悪いがそれは難しいと思う・・・」
ツバキが言いたい事は、シンの能力を知っていれば誰しもが思う事だろう。それでもミアやツクヨがそれを口にしなかったのは、恐らくシンと同じ考えを持っていたからに違いない。
まどろっこしさを感じるツバキに、シンはスキルによる潜入が難しい理由について説明した。
「何だよ、あくまで予想だろ?やってみねぇと分からねぇじゃねぇか」
「それをやって騒ぎになればもっと大変な事になるのではありませんか?」
「アカリの言う通りだ。摘み出されるくらいならまだしも、そんな怪しげな方法で侵入したのがバレたら、その場で殺されるか拘束された上で処刑されるのがオチだ」
「おいおい・・・何だった俺達ぁそんな危ない橋を渡らなきゃならなくなったんだぁ?」
「大丈夫、渡らなきゃいけない訳じゃない。ルーカスさんも言ってたけど、危険と思ったら身を引いてくれて構わないそうだしね。つまり、橋を叩いてちょっとでも危ないと思ったら引き返していいんだよ。ルーカスさんの期待には添えられないけどね」
ツクヨの言うように、無茶をする必要はない。ルーカスも自ら念を押していたように、シン達が命を危険に晒してまでこなして欲しい依頼ではないと言っていた。それならそれで、彼には別の手段があると言う事なのだろう。
つまりシン達は安全に行える範囲で情報収集をすればいいのだ。その別の手段については想像がつかないが、それはジルがルーカスを連れて来てから直接本人に尋ねればいい。
今は兎に角、ジルがシンの頼みを聞き入れルーカスと面会する機会を待つしかない。それまでの間は、少しでも英気を養っておく為、パーティーの食事を楽しむ事にした。
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