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別会場への道
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会場で聞き込みをする上で、ツクヨは相変わらずその面倒見の良さからツバキとアカリと行動を共にしていた。肉料理を中心に取り揃えるツバキと、野菜やスープ、デザートなどを食べ比べるアカリ。
互いに趣味趣向が極端に偏った食事を摂っているのを見て、それぞれに健康面で足りない栄養素の含まれるであろう料理を薦めるツクヨだが、折角普段では口にすることも出来ないような高い料理を今食べないでどうすると、子供の純粋で妙に正論っぽい言い回しで一蹴されてしまっていた。
「やれやれ・・・せめて食べ過ぎて体調を崩さないようにしてほしいものだね。・・・あれ?あの子は・・・」
そんなツクヨが自身の料理を取りに向かったところ、別の学生らと話しているクリスの姿を見かけた。ツバキらの居るテーブルからそれほど離れていないこともあり、ツクヨはシンとミアの言っていた情報収集のことを思い出し、クリスの会話をこっそりと聴いてみることにした。
「クリスの方はどうなんだ?この前言ってた新譜は完成したのか?」
「うん・・・でもまたダメだったよ。今はそんなことよりも技術を磨けって言われた・・・」
「なんか司祭様もそればっかだよなぁ。ちょっとくらい話を通してくれても良いと思うけどな」
「丁度式典の準備で忙しかった頃だろうし、仕方がないよ。それに司祭様の言う通りなのかもしれないし。まずは技術力で先生達に認めてもらわないと、合唱団や演奏すら任せてもらえない・・・」
「そりゃぁ俺達も一緒さ。お前は良くやってるよ。司祭様の手伝いをしながらだもんなぁ」
「そんな事ないよ。僕にはこれしか・・・」
クリスとその学生らは、先程グーゲル教会で行われた合唱や演奏にはいなかった。話を聞く限り、メンバーには選ばれなかったのだろう。彼らの世界も競争社会と同じで、技術力や才能のある者ほどどんどん先に行けるといった構図になっているのだろう。
より優秀な生徒ほどコンクールや式典のように大事な催し物での、演奏の機会を得ることができる。そしてそのメンバーを決めているのは、音楽学校の先生や教会の司祭などによる指名があるようだ。
クリスが他の学生らからあまりよく思われていないのは、その司祭の指名を貰うためにマティアス司祭の手伝いをしているのではないかと思われているからだった。
「正直、今の代はダメかもな・・・。ジルやレオンがいたんじゃ、嫌でもあいつらと比べられるし。それに実際あいつらは凄げぇもん・・・。練習して追いつけるもんなのかな?」
「・・・・・」
クリスは俯いたまま言葉を返さなかった。彼に変わり別の学生が、彼らの言う恐らく同年代の優等生であろうジルやレオンといった生徒には、練習だけじゃきっと追いつけないと語る。
所謂、才能やセンスといった生まれ持ったものが違いすぎるのだと、その学生らは卑屈になっていた。それを聞いたツクヨは、どこの世界も同じようなものなんだと、生きる上での窮屈さを感じさせられていた。
どんなに技術力や表現力を磨こうと、自分よりも能力の高い者は必ずいるものだ。努力や苦労を重ねた後に辿り着いた先には、それだけでは越えられない壁が待っている。
そういった現実を目の当たりにすることで、多くの人間は夢を見失ってしまう。まさに彼らもその壁の高さを目の当たりにし、その壁自体が取り払われるのを待つと言った話をしているといったところだろう。
「でも“カルロス“は今回の式典での演奏を辞退したんだろ?どうしてそんな勿体無いことを・・・」
「俺だって出られるもんなら出たかったさ。でも家の事情でな・・・どうしても間に合わなかったんだよ」
「そっか・・・ごめん」
「いいって別に。それにチャンスはまだあるだろうしな。またみんなで頑張ろうぜ!」
クリスと話していたリーダー格の青年は、周りの学生らから“カルロス“と呼ばれていた。
カルロス・オルブライト。音楽家の家系らしく、ジルヴィアやレオンハルト程ではないにしろ、それなりに音楽家としての才能や技術力はあるようだ。その証拠に、彼も式典での演奏メンバーに選ばれていたようだが、何らかの家の事情により参加することは出来なかったらしい。
見た目は髪を後ろへ掻き上げたオールバックで強面だが、他の学生らから爪弾きにされるクリスにも何の気兼ねなく話しかけ元気づけるような、男気の良さを持った好印象を受ける青年だった。
「まぁこの後、その件で司祭様やフェリクス先生に謝りに行かなきゃなんねぇけどな」
「そっか、カルロスの家系はあっちにも出入り出来るんだっけ?いいよなぁ~」
「んな良いことばかりじゃねぇけどな。プレッシャーとか勝手な期待とか。そういうの裏切った時は、本当に押し潰されそうになるくらい凹むし・・・。それで兄弟達も何人か精神的にまいっちまったところを見てるからな」
彼らの言う司祭とはマティアスやルーカスの事だろう。言われてみれば、今ツクヨ達のいる会場に彼らの姿はない。それどころか、ジークベルトやアルバの街の要人達の姿も見えない。
要するに会場が分けられているのだ。彼らのような一般客や音楽学校の学生、そしてある程度身分の高い家系などの参加できるパーティー会場と、限られた者達しか参加することの出来ない会場があるようだ。
そして、カルロスという青年の家系は、そのジークベルトらがいるであろうもう一つのパーティー会場に出入りする事のできる人間らしい。
別室で行われているパーティー会場への移動は、宮殿の入り口で更新したカードの提示を求められるので、正面から入り込む事はできない。たまに開閉される扉の向こう側には、警備の者達が多く配置されているのが伺える。
恐らく窓や通気口といったところから忍び込むのも一苦労するだろう。カードには写真もある以上、偽造することも出来ない。
カルロスの移動に合わせ、付き添いとして共に警備の目を抜けることはできないだろうか。何にせよ、この会場にも別室で行われているパーティー会場へ出入りできる身分にある人物もいるようだ。
何とかして彼らの手を借り、ジークベルトに近づくことはできないだろうかと、ツクヨはクリスと学生らから聞いた情報を持ち帰り、ツバキ達のいるテーブルへと戻った。
互いに趣味趣向が極端に偏った食事を摂っているのを見て、それぞれに健康面で足りない栄養素の含まれるであろう料理を薦めるツクヨだが、折角普段では口にすることも出来ないような高い料理を今食べないでどうすると、子供の純粋で妙に正論っぽい言い回しで一蹴されてしまっていた。
「やれやれ・・・せめて食べ過ぎて体調を崩さないようにしてほしいものだね。・・・あれ?あの子は・・・」
そんなツクヨが自身の料理を取りに向かったところ、別の学生らと話しているクリスの姿を見かけた。ツバキらの居るテーブルからそれほど離れていないこともあり、ツクヨはシンとミアの言っていた情報収集のことを思い出し、クリスの会話をこっそりと聴いてみることにした。
「クリスの方はどうなんだ?この前言ってた新譜は完成したのか?」
「うん・・・でもまたダメだったよ。今はそんなことよりも技術を磨けって言われた・・・」
「なんか司祭様もそればっかだよなぁ。ちょっとくらい話を通してくれても良いと思うけどな」
「丁度式典の準備で忙しかった頃だろうし、仕方がないよ。それに司祭様の言う通りなのかもしれないし。まずは技術力で先生達に認めてもらわないと、合唱団や演奏すら任せてもらえない・・・」
「そりゃぁ俺達も一緒さ。お前は良くやってるよ。司祭様の手伝いをしながらだもんなぁ」
「そんな事ないよ。僕にはこれしか・・・」
クリスとその学生らは、先程グーゲル教会で行われた合唱や演奏にはいなかった。話を聞く限り、メンバーには選ばれなかったのだろう。彼らの世界も競争社会と同じで、技術力や才能のある者ほどどんどん先に行けるといった構図になっているのだろう。
より優秀な生徒ほどコンクールや式典のように大事な催し物での、演奏の機会を得ることができる。そしてそのメンバーを決めているのは、音楽学校の先生や教会の司祭などによる指名があるようだ。
クリスが他の学生らからあまりよく思われていないのは、その司祭の指名を貰うためにマティアス司祭の手伝いをしているのではないかと思われているからだった。
「正直、今の代はダメかもな・・・。ジルやレオンがいたんじゃ、嫌でもあいつらと比べられるし。それに実際あいつらは凄げぇもん・・・。練習して追いつけるもんなのかな?」
「・・・・・」
クリスは俯いたまま言葉を返さなかった。彼に変わり別の学生が、彼らの言う恐らく同年代の優等生であろうジルやレオンといった生徒には、練習だけじゃきっと追いつけないと語る。
所謂、才能やセンスといった生まれ持ったものが違いすぎるのだと、その学生らは卑屈になっていた。それを聞いたツクヨは、どこの世界も同じようなものなんだと、生きる上での窮屈さを感じさせられていた。
どんなに技術力や表現力を磨こうと、自分よりも能力の高い者は必ずいるものだ。努力や苦労を重ねた後に辿り着いた先には、それだけでは越えられない壁が待っている。
そういった現実を目の当たりにすることで、多くの人間は夢を見失ってしまう。まさに彼らもその壁の高さを目の当たりにし、その壁自体が取り払われるのを待つと言った話をしているといったところだろう。
「でも“カルロス“は今回の式典での演奏を辞退したんだろ?どうしてそんな勿体無いことを・・・」
「俺だって出られるもんなら出たかったさ。でも家の事情でな・・・どうしても間に合わなかったんだよ」
「そっか・・・ごめん」
「いいって別に。それにチャンスはまだあるだろうしな。またみんなで頑張ろうぜ!」
クリスと話していたリーダー格の青年は、周りの学生らから“カルロス“と呼ばれていた。
カルロス・オルブライト。音楽家の家系らしく、ジルヴィアやレオンハルト程ではないにしろ、それなりに音楽家としての才能や技術力はあるようだ。その証拠に、彼も式典での演奏メンバーに選ばれていたようだが、何らかの家の事情により参加することは出来なかったらしい。
見た目は髪を後ろへ掻き上げたオールバックで強面だが、他の学生らから爪弾きにされるクリスにも何の気兼ねなく話しかけ元気づけるような、男気の良さを持った好印象を受ける青年だった。
「まぁこの後、その件で司祭様やフェリクス先生に謝りに行かなきゃなんねぇけどな」
「そっか、カルロスの家系はあっちにも出入り出来るんだっけ?いいよなぁ~」
「んな良いことばかりじゃねぇけどな。プレッシャーとか勝手な期待とか。そういうの裏切った時は、本当に押し潰されそうになるくらい凹むし・・・。それで兄弟達も何人か精神的にまいっちまったところを見てるからな」
彼らの言う司祭とはマティアスやルーカスの事だろう。言われてみれば、今ツクヨ達のいる会場に彼らの姿はない。それどころか、ジークベルトやアルバの街の要人達の姿も見えない。
要するに会場が分けられているのだ。彼らのような一般客や音楽学校の学生、そしてある程度身分の高い家系などの参加できるパーティー会場と、限られた者達しか参加することの出来ない会場があるようだ。
そして、カルロスという青年の家系は、そのジークベルトらがいるであろうもう一つのパーティー会場に出入りする事のできる人間らしい。
別室で行われているパーティー会場への移動は、宮殿の入り口で更新したカードの提示を求められるので、正面から入り込む事はできない。たまに開閉される扉の向こう側には、警備の者達が多く配置されているのが伺える。
恐らく窓や通気口といったところから忍び込むのも一苦労するだろう。カードには写真もある以上、偽造することも出来ない。
カルロスの移動に合わせ、付き添いとして共に警備の目を抜けることはできないだろうか。何にせよ、この会場にも別室で行われているパーティー会場へ出入りできる身分にある人物もいるようだ。
何とかして彼らの手を借り、ジークベルトに近づくことはできないだろうかと、ツクヨはクリスと学生らから聞いた情報を持ち帰り、ツバキ達のいるテーブルへと戻った。
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