World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,217 / 1,646

証明書の更新

しおりを挟む
 宮殿へ向かう客達の流れに乗って、一行はアルバに到着して以来誰も訪れていなかった宮殿と呼ばれる建造物の前までやって来る。

 「すっ・・・すげぇ建物だな・・・。何だか緊張してきた・・・」

 「わ・・・私も・・・」
 「ピィ~・・・」

 入場の手続きをする列に並びながら、ツバキとアカリはその仰々しい建物に圧倒されていた。シン達は聖都にて大きく広々とした城を見ているので、それほど大きな衝撃は受けなかった。

 遠目に見える受付では、何やら側に仮設された小さな衣裳室のようなものに、一人ずつ入っていっている。かといって、出てきた者が別の衣装に着替えている様子もなく、中で何が行われているのか皆目見当もつかない。

 「あれは何をやってるんだ?」

 「何だろう?持ち物検査とか?」

 ツクヨの予想になるほどと納得するシンだったが、持ち物検査にしては何故周りの目を避けるように個室に通されるのだろうか。衣服の下も検査されているのだろうか。

 厳重に検査するのも分かるが、それなら何故教会の時はそうしなかったのだろうと言う疑問が残る。それに、その仮設の個室に入ってからそんなに時間を置かずして出て来ている。

 何か他にも警備の為の検査が行われているのだろう。それでも後ろめたい物を持ち合わせている訳ではない一行は、何も不安や焦りといったものを感じる事もなく順番を待つ。

 宮殿で行われるパーティーがどんなものか話している内に、一行の順番がやってきた。最初に個室へ入る事になったのは、一番前に並んでいたシンだった。

 「カードをお見せ下さい」

 シンはしまっていたカードを取り出し受付の者に渡すと、個室の中へ入るように促される。中が全く見えないカーテンを開けると、中には写真を撮る装置のようなものが置かれていた。

 「そちらにお座り下さい。正面を向いて、どうぞ楽な姿勢でお待ち下さい」

 暫くすると、更に奥に区切られた奥の部屋から声がする。シンの前に部屋に入った人物がカーテンを捲り、彼の前を通り過ぎて外へと出ていった。その手にはグーゲル教会の受付で渡されたカードに、新たな項目が追加されているようだった。

 「次の方どうぞ」

 カーテンの向こう側から男性の声が聞こえると、側に立っていた者がカーテンを捲り中へとシンを誘導する。

 そこには天井に吊り下げられた大きなリング状の装置があり、様々なコードが床に敷かれていた。中央にはお立ち台のようなスペースがあり、機材の画面を見ていた男が、台の上に立って下さいと促す。

 何をされるのか困惑しながらもシンが台の上に立つ。すると、天井に吊り下げられていたリングが降りて来て、シンの身体をまるでスキャニングするように、全身に光を照射する。

 リングが足元まで降りてくると、男は台から降りるように指示する。すぐに済むとだけ伝え、シンは再び部屋の中にある椅子に腰掛けると、間も無くして新たな証明書のカードを渡された。

 そこには顔写真や識別ナンバーなど、最初のカードには記されていなかったより個人を特定する為の情報が記載されていた。

 「以上になります。お疲れ様でした」

 「ありがとうございます」

 「次の方どうぞ」

 一切の余韻もなく、まるで機械のように仕事をこなしていく男。シンの後ろに並んでいたのはミアだった。彼女の邪魔にならぬよう、そそくさと部屋を後にしたシンは、入れ違いで部屋に入ろうとするミアと目が合う。

 咄嗟に新たに更新されたカードを見せ、何も変なことはなかったと安全性をアピールした。彼女は何事もなくカーテンの向こう側へと消えていき、シンはそのまま仮設されたこじんりとした部屋を後にした。

 中から出てきたシンに、今だ列に並んでいたツクヨやアカリは興味津々だった。

 「おいシン!中で何されたんだぁ!?」

 「改造ですか!?それとも薬品投与ですか!?」

 どんな想像をしたらそんな事を思いつくのか。他にも色んな人が何事もなく出てきただろと言いつつ、シンは二人の羨望の眼差しを落胆へと変えるように真実を突きつけた。

 「ただのカードの更新だよ。ほら、さっきよりも情報が多く書き加えられてる」

 「んだよぉ、ちょっと乗っかれよなぁ!?」

 「えっ・・・色々測られるんですか?やだなぁ私・・・」

 プライベートな情報が記載されると思い不安がるアカリ。シンはもう一度カードをよく見てみるが、顔写真こそ載っているものの身長や体重、ウエストなどといった人がコンプレックスを抱きやすい情報は記されていなかった。

 恐らくはそういった情報はデータとしてカードの内部に記されているのだろう。本人確認が必要になれば、カードから記録したデータを抽出し本人であることを証明することができるのだろう。

 「大丈夫だよ。載ってるのは顔写真や、識別番号だけみたいだし、機械を通さないと誰にも見えないよ」

 「そうなんですか?よかったぁ~・・・」

 「お前は何を心配してんだよ・・・」

 「あら、ツバキさんのようなお子様にはレディの気持ちなんて分かりませんよ!」

 「んだぁ!?このぉ~!」

 不貞腐れた様子のアカリと、子供と言われたことに腹を立てるツバキがまたいつもの痴話喧嘩を始める。一行の最後に並んでいたツクヨが二人を軽く宥めると、不意に真顔になったツクヨがシンにそのカードの安全性を問う。

 「それ、私達の素性は?」

 彼の言う素性とは、シン達がこの世界の住人ではない事や、WoFというゲームのキャラクターであるなどといった現実的な情報の事だった。シンもすぐに彼の意図を汲み取り、小さく首を横に振った。

 安堵したツクヨは、再びいつもの調子に戻ると個室から後続の者を呼ぶ声が聞こえてくる。二人に気づかれる前に、ツクヨはツバキにお待ちかねの個室へさっさと入るように促した。

 「それじゃぁまた後で」

 「あぁ、すぐそこで待ってるよ」

 そう言い残し、シンは目立ちやすい宮殿の入り口付近で仲間達を待つことにした。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...