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神代 コウ

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 潜入の際と同じように周囲の警戒と共に、道行く人々の視線に気を付けながら教会を出たシンは、物陰から表通りへ自然な流れを装って移動すると、観光客に紛れその場を後にした。

 その道中、シンは見慣れた顔に遭遇する。それはどこから情報を得たのか、ツクヨとアカリがジークベルト大司教を見掛けたという博物館から、グーゲル教会へと向かっている途中だったようだ。

 「シン!?どこへ行ってたんだ!」

 「ごっごめん!でも急を要していたから、みんなに知らせる余裕がなかったんだ」

 黙って現場を離れたことを問い詰められたシンは、皆に事情を説明すると共にグーゲル教会で得た情報を共有する。

 「本当かい!?じゃぁこれで依頼は成功ってこと?」

 「まだ確定じゃない。とりあえずルーカス司祭に隊長の名前を告げに行こう」

 「そういえば、ミア達はどうやってここへ?」

 博物館内部へ潜入したシンは、探偵と呼ばれていたケヴィンという男の動きによって情報を得ることでグーゲル教会に大司教がいることを掴んだ。

 その後、あまり時間を置かずしてミア達も建物の周囲に配置されていた護衛隊の者達から、大司教がグーゲル教会にいるという情報を得た一行は、全員にその事を共有するも、シンと連絡が取れなくなった。

 いつ大司教が移動しまうかわからない以上、先ずは大司教への接近を図ろうと移動している途中だったのだという。これまでの経緯を説明していると、ツバキがこの依頼にはタイムリミットがあったのだということを思い出させるように口を開く。

 「なぁ!時間ねぇんだろ?その名前で合ってるにしろ外れてるにしろ、先ずは報告しに行かねぇか?」

 「あら?珍しく最もな事を言うのね」

 「あぁ!?珍しくってのは余計だよ!」

 「何はともあれ、ツバキの言う通りだ。名前が分かったのならルーカスの居るニクラス教会へ戻ろう」

 グーゲル教会へ向かっていた一行は、反転しアルバのもう一つの教会にして、依頼を出した張本人であるルーカス司祭の元へと急いだ。夕刻までにはまだ時間がある。タイムリミットには十分間に合うが、万が一隊長の名前をはずしてしまった場合、次の調査を行う時間はかなり限られてしまうだろう。

 街中の護衛隊には僅かに動きが見られた。慌ただしいものではなく、静かに移動を開始し配置場所を変えているように動き出していた。これまでに居なかった場所に集まっていたり、多く集まっていたシン達が張っていた博物館のような場所には一切見当たらなくなる。

 恐らくジークベルト大司教の方に動きがあったのだろう。教会から動き出したのなら、最早ジークベルトの向かう先など知る由もない。だが大方の予想はつく。時間的にも彼らは式典に参加する準備へと動き出したのだろう。

 ニクラス教会に着いた一行は、扉を開け中にいるルーカスにジークベルト大司教から聞いた護衛隊長の名前を告げる。するとルーカスは驚いたような表情を見せた後、彼は不敵な笑みを浮かべた。

 「これは驚いた。まさか本当にやってのけるとは・・・」

 「じゃぁこの名前は・・・」

 「えぇ、勿論本物です。よくぞやってくれました。約束通り皆さんには式典への推薦状を出しましょう」

 どうやら一行の手に入れた護衛隊長の名前は、ルーカスが依頼した名前と一致していたようだ。誰かに聞いたのかなど、確認しないのかとミアが問うとルーカスはそれには至らないと笑顔で答えた。

 そもそも街の者達は、教団の護衛隊隊長が誰なのかを知らないのだと彼は語る。これはシンがジークベルト大司教と探偵ケヴィンの会話を聞いていた時に言っていた、“今回の“というのが鍵になっていた。

 教団の重要人物を護衛する役割を与えられるのは、毎回同じ人物達ではないのだ。その都度護衛隊の構成は違い、それをまとめる隊長も変わる。今回の護衛隊長であるオイゲンは、アルバで表立った活躍や任務を行ったことがない為、その名を知る人物も多くはなかったのだ。

 街医者のカールのようにアルバで知名度のある人物であっても、それは同じことだと言える。別の街の別の事件や任務に興味を持ち、注意深く調べでもしていない限り彼の名を知っていることなどあり得なかった。
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