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音の街の名探偵
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細身で平均よりもやや低めのその男は、燕尾服やテールコートと呼ばれる礼服を身に纏っていた。裾が燕の尾のように見えることからそう呼ばれるようになったのだという。
「ジークベルト氏も人が悪い。このような紹介ではまるで私が悪者のようだ・・・」
「いずれ知られることなんだ。ならば隠さず話した方が良心的ではないか。私は嘘が嫌いなのだよ」
冗談で言っているつもりなのだろうが、マティアス司祭とフェリクスは煽られているかのような表情を浮かべている。
「初めてお目に掛かります。私“アルミン・ニキシュ“と申します」
言葉とは裏腹に、フェリクス達の前では申し訳なさそうな表情と態度を見せながらも、その瞳は自信家のよう雰囲気さえ感じるほどだった。悪気もなく握手を求めるアルミンに、フェリクスは意外にも大人の対応を見せた。
「フェリクスです」
「・・・マティアスと申します」
「監督の引き継ぎは、今夜の式典の後になる。フェリクス君はそこがアルバでの最後の指揮になるだろうからね。引き継ぎの方もしっかり頼むよ?」
「・・・えぇ、ご心配なく。やるべき事はしっかりやりますとも。それではアルミン殿、また後ほど・・・」
「えっ!?ちょっとフェリクス!?」
挨拶を終えたフェリクスは教会の外へと向かって歩き始めた。それを追うようにマティアス司祭も、ジークベルトとアルミンの前から退場する。不安な様子で二人を見送ったアルミンは、どういう思惑があって自身がアルバの音楽監督に選ばれたのかを、ジークベルトに問う。
「良かったのですか?これで・・・」
「どういう意味かね?」
「私のような者が、フェリクス氏に代わってアルバの音楽監督など・・・。果たして務まるのでしょうか?」
アルミンもフェリクスの評判は知っているようだ。それ程までに名の知れた音楽家であるフェリクスの後釜が自分であることに、少なからず不安はあるようだった。
「大丈夫だよ。君は十分才能を持っている。それは音楽に通ずる者であればすぐに分かる事だろう。それに先程も彼らに説明した通り、教団の決定なのだよ。今更私には覆しようの無いことだ。なぁに、そんなに気を張らずともよい。皆、君に協力してくれるから、ただ君は自分の力を存分に振るってくれるだけでいい」
「わかりました。ジークベルト氏を信じます」
「さて、マティアス君が席を外してしまったからねぇ。戻ってくるまでは私がここにいるしかないか・・・」
フェリクスを追って出て行ってしまった司祭の代わりに、大司教である彼が教会に残り仕事を引き受けようとしたところで、クリスが教会の奥から現れた。
彼はマティアス司祭の手伝いをしている音楽家の学生だ。今日もまたマティアスの手伝いで教会に来ていたのだろう。一般人の立ち入りは禁止されているようだが、関係者の付き人なら入ることができるのだろうか。
「何かお困りですか?」
「君は・・・あぁ、マティアス君の手伝いをしているというのは君か。それがマティアス君がフェリクス君を追いかけて教会を出て行ってしまってね。困ったものだよ」
「そうでしたか。なら私が呼び戻してきます。少々お待ち頂けますか?」
「おぉ!それは助かる。是非頼めるかね?」
「はい!それではそれまでの間、教会をお願いします」
クリスの提案を受けたジークベルトは笑顔で教会を任される。小走りで教会を後にしたクリスは、いなくなってしまったマティアスを連れ戻しに、二人の出て行った入口から街中へと消えていった。
「あの・・・彼は?関係者以外立ち入り禁止になっているのでは?」
「彼はマティアス君が面倒を見ている学生だよ。彼の父上が教団の関係者で、アルバに来てからマティアス君が代わりに面倒を見ているんだ。無下に出来ない人物だったからねぇ・・・彼の父上は」
マティアス司祭から話を聞いていた通り、クリスの父親が教会関係者であるのは確かなようだ。ただ、あまり快く思われていなかったのか、ジークベルトは彼の父親を目の上のたんこぶといった様子で話していた。
「なるほど、色々と事情があるようで・・・。そうか、学生も教会で音楽を学んでいるのでしたね。それなら私は、先に合唱団の子達や今後お世話になる学生達に挨拶でもしてきますか」
「それがいい。長い付き合いになるだろうからね。また、新しい才能を持った音楽家を育てれば、君の立場も更にいいものとなるだろう」
「ははは、それは夢がありますね」
思いもよらぬ会話を聞いてしまったシン。だが、お目当ての護衛の隊長である人物の名前は聞けなかった。
無駄足になってしまったかとため息を吐くシン。しかし、そんなところへ神からの施しと言わんばかりに幸運が訪れる。それは教会の入り口を開け、外の光を背に受けた様子が、まるで後光のように指すシルエットで一行の前に現れた。
「やっと見つけましたよ、ジークベルト大司教」
その男は、シンが影のスキルで潜入していた博物館で受付の人物と話していた男だった。ジークベルト大司教を探していた彼もまた、シンと同じくグーゲル教会へ辿り着いた。
「おぉ、これはこれは。名探偵と名高い“ケヴィン“君が、何故こんな街に?」
シンが午前中にミアと訪れたカフェテリア。そこで彼の目を惹きつけた人物で、仲間達と共に護衛隊の隊長の手掛かりを掴む為に向かった博物館で、大司教の行方を聞いていた男。その人物こそ、今まさにシンの前に現れ、ジークベルトから“名探偵“と呼ばれたケヴィンという人物だったのだ。
「ジークベルト氏も人が悪い。このような紹介ではまるで私が悪者のようだ・・・」
「いずれ知られることなんだ。ならば隠さず話した方が良心的ではないか。私は嘘が嫌いなのだよ」
冗談で言っているつもりなのだろうが、マティアス司祭とフェリクスは煽られているかのような表情を浮かべている。
「初めてお目に掛かります。私“アルミン・ニキシュ“と申します」
言葉とは裏腹に、フェリクス達の前では申し訳なさそうな表情と態度を見せながらも、その瞳は自信家のよう雰囲気さえ感じるほどだった。悪気もなく握手を求めるアルミンに、フェリクスは意外にも大人の対応を見せた。
「フェリクスです」
「・・・マティアスと申します」
「監督の引き継ぎは、今夜の式典の後になる。フェリクス君はそこがアルバでの最後の指揮になるだろうからね。引き継ぎの方もしっかり頼むよ?」
「・・・えぇ、ご心配なく。やるべき事はしっかりやりますとも。それではアルミン殿、また後ほど・・・」
「えっ!?ちょっとフェリクス!?」
挨拶を終えたフェリクスは教会の外へと向かって歩き始めた。それを追うようにマティアス司祭も、ジークベルトとアルミンの前から退場する。不安な様子で二人を見送ったアルミンは、どういう思惑があって自身がアルバの音楽監督に選ばれたのかを、ジークベルトに問う。
「良かったのですか?これで・・・」
「どういう意味かね?」
「私のような者が、フェリクス氏に代わってアルバの音楽監督など・・・。果たして務まるのでしょうか?」
アルミンもフェリクスの評判は知っているようだ。それ程までに名の知れた音楽家であるフェリクスの後釜が自分であることに、少なからず不安はあるようだった。
「大丈夫だよ。君は十分才能を持っている。それは音楽に通ずる者であればすぐに分かる事だろう。それに先程も彼らに説明した通り、教団の決定なのだよ。今更私には覆しようの無いことだ。なぁに、そんなに気を張らずともよい。皆、君に協力してくれるから、ただ君は自分の力を存分に振るってくれるだけでいい」
「わかりました。ジークベルト氏を信じます」
「さて、マティアス君が席を外してしまったからねぇ。戻ってくるまでは私がここにいるしかないか・・・」
フェリクスを追って出て行ってしまった司祭の代わりに、大司教である彼が教会に残り仕事を引き受けようとしたところで、クリスが教会の奥から現れた。
彼はマティアス司祭の手伝いをしている音楽家の学生だ。今日もまたマティアスの手伝いで教会に来ていたのだろう。一般人の立ち入りは禁止されているようだが、関係者の付き人なら入ることができるのだろうか。
「何かお困りですか?」
「君は・・・あぁ、マティアス君の手伝いをしているというのは君か。それがマティアス君がフェリクス君を追いかけて教会を出て行ってしまってね。困ったものだよ」
「そうでしたか。なら私が呼び戻してきます。少々お待ち頂けますか?」
「おぉ!それは助かる。是非頼めるかね?」
「はい!それではそれまでの間、教会をお願いします」
クリスの提案を受けたジークベルトは笑顔で教会を任される。小走りで教会を後にしたクリスは、いなくなってしまったマティアスを連れ戻しに、二人の出て行った入口から街中へと消えていった。
「あの・・・彼は?関係者以外立ち入り禁止になっているのでは?」
「彼はマティアス君が面倒を見ている学生だよ。彼の父上が教団の関係者で、アルバに来てからマティアス君が代わりに面倒を見ているんだ。無下に出来ない人物だったからねぇ・・・彼の父上は」
マティアス司祭から話を聞いていた通り、クリスの父親が教会関係者であるのは確かなようだ。ただ、あまり快く思われていなかったのか、ジークベルトは彼の父親を目の上のたんこぶといった様子で話していた。
「なるほど、色々と事情があるようで・・・。そうか、学生も教会で音楽を学んでいるのでしたね。それなら私は、先に合唱団の子達や今後お世話になる学生達に挨拶でもしてきますか」
「それがいい。長い付き合いになるだろうからね。また、新しい才能を持った音楽家を育てれば、君の立場も更にいいものとなるだろう」
「ははは、それは夢がありますね」
思いもよらぬ会話を聞いてしまったシン。だが、お目当ての護衛の隊長である人物の名前は聞けなかった。
無駄足になってしまったかとため息を吐くシン。しかし、そんなところへ神からの施しと言わんばかりに幸運が訪れる。それは教会の入り口を開け、外の光を背に受けた様子が、まるで後光のように指すシルエットで一行の前に現れた。
「やっと見つけましたよ、ジークベルト大司教」
その男は、シンが影のスキルで潜入していた博物館で受付の人物と話していた男だった。ジークベルト大司教を探していた彼もまた、シンと同じくグーゲル教会へ辿り着いた。
「おぉ、これはこれは。名探偵と名高い“ケヴィン“君が、何故こんな街に?」
シンが午前中にミアと訪れたカフェテリア。そこで彼の目を惹きつけた人物で、仲間達と共に護衛隊の隊長の手掛かりを掴む為に向かった博物館で、大司教の行方を聞いていた男。その人物こそ、今まさにシンの前に現れ、ジークベルトから“名探偵“と呼ばれたケヴィンという人物だったのだ。
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