World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,201 / 1,646

監督降板

しおりを挟む
 ミアやツクヨ達がそれぞれ護衛隊の会話から情報を集めている一方、シンは自らの潜伏スキルを活かし、怪しまれず近づく事さえ難しい場所にいる護衛達の会話を盗み聞いていた。

 しかし、内容的には博物館の周辺で情報を集めていたミア達の様子とほとんど変わらない。それらしい名前は上がるが、護衛隊の隊長である可能性としたはあまり高いとは言えにない。

 「クソッ・・・!せっかくここまで潜入したのに。早くしないと時間が・・・?」

 折角の能力も、結局情報の入手には繋がらず手をこまねいていたシンは、博物館の中で見覚えのある男を見つける。その男は受付で何やらシン達と同じように聞き込みをしているようだった。

 「えぇ、それで今ジークベルトさんはどちらへ?」

 「グーデル教会へ向かうと仰られていました。ですが、恐らくそちらも暫くの間封鎖されているかもしれませんよ?」

 「先程までのこちらと、同じ理由ですか?」

 「はい。まぁあくまで教会ですから、私用で封鎖はないのかもしれませんが・・・」

 「それに今、教会は式典で披露する合唱のミーティングの最中では?」

 その男が言うように、グーゲル教会では今まさに式典で披露する合唱団の最終調整が行われていた。シンとミアがお礼で訪れた際に、合唱団の雰囲気がピリピリしていたのも頷けるというもの。

 偶然新たな手掛かりに繋がりそうな情報を得たシンは、すぐに護衛隊の護衛対象である大司教が向かったというグーゲル教会へと向かった。最重要人物の側ともなれば、目的の護衛隊隊長が居るのは必然。

 また別のところへ移動される前に彼の名前を突き止めなくてはならない。咄嗟のことで早る気持ちが仲間達への連絡を疎かにさせてしまい、シンはすぐに影の中へと入り込み、博物館を抜け出していく。

 受付で話をしていた男は僅かに視線を逸らすと、大司教の行方についての会話を終え、彼も出口の方へと歩み出した。

 建物の影となっている裏口の方から、建物を抜け出したシンが姿を現すと、グーゲル教会へ向けて目立たぬ程度に走って向かった。教会への距離はそれほどでもなかった為すぐに辿り着くことが出来たが、入り口は護衛隊の者達によって封鎖されてしまっていた。

 「クソッ・・・!正面からは入れない。どこか物陰から・・・」

 シンは陽の光が作り出す教会の影が最も濃い方角を探し、ここからはより慎重に目立たぬよう歩いて向かう。走って疲れた息遣いを、呼吸を繰り返すことで徐々に落ち着かせる。

 人目に付かぬところを見つけると、周りの通行人の目を盗み速やかに影の中から教会内部へと入り込む。偶然物陰に出ることができたシンは、周囲の気配を探りながら、息を殺して音を立てないように影から身体を乗り出す。

 「どういう事だ!?ジークベルト大司教!」

 突然、男の声が教会に響き渡る。思わず自分がバレたかのように視線すら固まってしまうシン。だが、シンの潜入がバレた訳ではなく、教会内で何者かがジークベルトと呼ばれる人物と話しているようだ。

 「言葉の通りだよ、フェリクス君。君にはグーゲル教会・・・延いてはアルバの街の音楽監督から降りて貰う」

 フェリクスとは、シンとミアがクリスら学生達が泊まる寮を借りたお礼に教会を訪れた際、合唱団を指揮していた男の事だった。マティアス司祭との会話中も、後ろで学生らに厳しい声を飛ばしていたのが印象的だった。

 「おっお待ち下さい!大司教様。彼は私が無理を言ってお越し頂いた、世界でも屈指の音楽家です!必ずやアルバの発展に必要となりましょう!」

 フェリクスに続き、教会内で声を張り上げて大司教へ訴え掛けるのは、グーゲル教会のマティアス司祭だった。どうやら音楽監督であるフェリクスが、アルバの音楽監督を降板させられようとしているようだ。

 マティアス司祭の立場的にも、様々な手を回しやっとの思いでアルバへ招くことのできた有名な音楽家が降板されるとなれば、司祭としての立場がなくなる。

 二人は何とかしてその決定が覆らないかと言葉を連ねるが、ジークベルト大司教は目を閉じて首を横に振るばかりだった。

 「これは教団の決定なのだよ・・・。すまないがこの決定が覆ることは無いと思ってくれたまえ。それと、アルバの音楽監督を降りてもらうにあたって、空いたその空席に座る新たな音楽監督を連れて来ている。さぁ、こちらへ・・・」

 ジークベルトと呼ばれる教団の大司教は後ろを振り返り、椅子に座らせていた人物を近くへと呼び寄せる。二人の鋭い視線に晒され、申し訳なさそうにその男は一行の前に現れた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...