World of Fantasia

神代 コウ

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音楽家の博物館

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 「ん?どうした、シン」

 「あぁ、いや・・・何でもない」

 ミアの位置からは見えなかったのだろう。視線を集中させていたシンに疑問を感じて声を掛けるミア。男に見ていることを気づかれるのを恐れたシンは、慌てて視線を逸らし、敢えて男の反応を窺うためアルバへやって来るという大司教の話題をミアに振った。

 「そういえば、近々来るっていう大司教様っていつ頃来るんだろうな?」

 シンの声に反応したのか、パイプタバコを吸う男の視線が一瞬だけシンの方へ向いた気がした。

 「さぁな・・・。だが教会関係の上層部ともなれば、その影響力は大きいだろう。問題はどのくらいの規模で式典とやらが行われるかだな。街総出で行われるのか。或いは教団関係者やそれに興味のある者達だけでひっそりと行われるのか・・・」

 教団がどういった組織なのか調べるに当たり、街全体が大司教の到着を総出で歓迎するとなると、全く知識のないシン達にとって動きづらい環境となる。どこで誰が見たり聞いたりしているか分からない場所で、言葉や行動の一つ一つが疑われる要素になり得る。

 無論、教団を敵に回すつもりはないが、もし反感を買って仕舞えば街の至る所から攻撃を受けるという最悪の事態になり兼ねない。

 「まぁ、これは予想だが街全体での歓迎ムードってのは無さそうだな」

 「それはどうして?」

 「見りゃ分かるだろ?アルバは観光客も多い。元からここに住んでる者達ならまだしも、他所から来た奴らが全員教団関係者や心酔しきってる連中とは考えられないだろ」

 「確かに・・・。それじゃぁ行動や言動に気をつけていれば、そんなに危険な事もないか」

 要するに、観光客らしく大人しくしていれば何も問題はない。それがミアの見解だった。変な聞き込みや詮索も必要ない。そこまでして教団の組織としての規模や指針に興味がある訳でもない。

 あくまで、何かの拍子で関与することになった際に、どれくらいの組織力を誇っているのかを知っておくくらいの重要度でしかないのだから。

 警戒心を抱いていたミアの考えと言葉に、シンは彼女もそこまで思い詰めていない様子だと悟り安堵すると同時に、そんな彼女の冷静な目と判断を信用できると思った。

 しかし、二人の気付かぬところで、先程シンが気にしていた男はテーブルに広げた書類を静かに片付け一服を終えると、暫く前に頼んでいた飲み物を一気に飲み干し、その場を去っていた。

 すっかりシンの意識の外にあった男は、次に彼が視線を向けた時にはいつの間にかいなくなっていた。怪しい人物ではなかったが、教団について調べようと思うのは何もシン達だけではないのかもしれない。

 暫くの間休憩したシンとミアは、当初の目的通り宿屋に残してきた三人の為に夕食探しを再開する。寮を立ち去る際のアカリの気遣いを見ていたミアは、なるべく匂いの残らなそうな物がいいと提案し、その日は野菜類を中心としたサラダとスープ系の物を買って帰ることにした。

 育ち盛りのツバキからはすこぶる評判が悪かったが、アカリやツクヨはさっぱりとした物が欲しかったと二人のチョイスに感心していた。ガッツリ腹を満たすとまではいかないものの、ある程度満足のいく夕食を済ませた一行は、部屋に設けられたシャワーでその日の疲れを洗い流し就寝した。

 翌日、街を散策したいと望んでいたアカリは、前日留守番とお守りを食らっていたツクヨと共に情報収集兼街探索へ出掛ける事となった。あまり外を出歩いていないツバキは、人混みが苦手だといって部屋でガジェットの組み立てに専念するといい、自ら留守番を志願。

 シンとミアは、そんなツバキを一人にさせられないと今回は宿屋に残ることに。今日の昼食は外で全員揃って食べようという話になり、ツクヨとアカリは街の散策がてらいい店があれば探して来ると、お昼前までに宿屋へ戻ってくる予定となった。

 「さて!まずは何処から巡ろうか」

 「ツクヨさんは何処か行きたいところはないのですか?」

 「ん~そうだねぇ・・・。歴史ある街みたいだから、博物館や美術館みたいなのがあれば行ってみたいかな?それに静かそうだしね」

 いつも自分よりも周りを優先するツクヨの性格を見抜いていたのか、アカリはそれならツクヨの行きたい博物館や美術館を探そうと言い、先ずは街で名所の聞き込みをすることにした二人。

 街の人の話によると、アルバにはとある音楽家の有名な博物館があるらしく、その他にも様々な音楽家の家がそのまま博物館となっていたり、今の技術を用いて当時の楽器や音色を再現するヴァーチャルルームなどもあるようだ。

 時間を費やすには事欠かない街で、ツクヨとアカリは早速その有名な音楽家の博物館を目指し歩みを進めるのだが、彼らの目指した博物館はそれまでアルバの街では見かけなかったような格好の、警備隊らしき者達によって封鎖されてしまっていた。
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