World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,188 / 1,646

街の司祭様

しおりを挟む
 アルバの街中で昨日までは見なかった、噂に聞く目に見える音というものを発見したシン達は、他の者達がその音に触れているのを見て害が無さそうであると知ると、今度は自分達で実際に触れてみる事にした。

 「なんて無茶なことを・・・。何かあったらどうするつもりだったんだ?」

 「あんなにそこら中にあるものが何か実害を出していたら、それこそ騒ぎになっているんじゃないか?」

 シンの言うことにも一理あったが、ミアは他の者達に聞こえぬようシンに寄り、小声で一つの可能性について話した。

 「私達にだけ何かがあるものだったかもしれないだろ?」

 「ユーザーであるが故ってこと?」

 あまり長く二人で話していると怪しまれると思ったのか、ミアはすぐに元の自分の位置へと戻り何事もなかったかのように話を続けた。

 「それが何かの術の発動の合図や、引き金だったかもしれないだろ?今回は何もなかったからよかったものの、今後はもうちょっと慎重にだな・・・」

 心配するミアに、シンは自分なりに考えがあっての事だったと彼女に伝える。それは、万が一ミアの言うように何かの罠だったとしても、誰よりも信用のできる仲間の証言と症状を獲得できること。加えて、二手に分かれていることから、シン達が何らかの術に陥っても、ミアとアカリは正常な状態でいられる状況だったからだと伝える。

 確かに街で聞く噂というのは、信憑性に欠けるものが多く必ずしも当てになるものではない。それならば、仲間の誰かが実際に体験しその後の経過を見守ることで新たな発見と真実が見えてくるというもの。

 上手いことシンに納得のいく話をされてしまったミアは、珍しくそれ以上追求することはなくただ純粋に心配したことだけを伝え、その場は収まった。

 「それで?音のシャボン玉とやらを割って、何が起きた?」

 「おう!それがよぉ、ただ短い音楽が流れたり色んな音が聞こえるだけで、それ以上のことは何もなかったんだ。でもよでもよ!街中じゃ聞けないような海の音とか潮の匂いまで感じたんだ!すげぇぜ、ありゃぁ!アカリも後でやってみろよ」

 「私が聞いたところで、何の音なのかわかりますでしょうか?」

 「何だよ、じゃぁ俺が一緒に聞いて何の音なのか教えてやる!旅の中でその音の答え合わせをする楽しみも増えるじゃねぇか」

 アカリに目に見える音の体験を進めるツバキ。それぞれの状態の検証という意味でも、ミアとアカリはその目に見える音の影響を受けないようにし、暫くシン達との違いを探りたかったが、ツバキの言うように記憶のないアカリにとって、世界中の音を体験できるというのは魅力的であり、旅の目的の一つにもなり得る。

 「アカリはどうしたいんだ?影響を受けていないのはワタシら二人だけだ。どっちかが影響を受けていなければそれでいい」

 「いいのですか?」

 「遠慮することはない。アカリがそうしたいと思うのならしていいんだぞ?」

 「私は・・・御免なさい!やっぱり私も体験してみたいです!」

 アカリは自分の内から込み上げてくる好奇心を抑え込むことができないといった様子で、ミアに素直な気持ちを打ち明ける。ミアもそれでいいと思っており、抑圧されるような生活を送って欲しくないとも思っていたので、寧ろ灯りが自身の気持ちを打ち明けてくれたことが嬉しかったようだ。

 「それじゃぁしっかり食って、英気を養わなきゃな」

 「あれ?じゃぁ今度は二人が出掛けるのかい?」

 「出掛けるっていうか、宿屋を見つけなきゃだろ」

 泊まる所なら既にあるだろと言わんばかりの表情を浮かべる街に出ていた三人。いくらでも泊まっていいと言われたからとはいえ、他にも困っている人々の面倒を見ている教会に迷惑は掛けられないと伝える。

 厚意に甘え続けるのも悪いと、三人も納得しその後に控える宿屋探しにそれまで明るかった表情が、一気に不安の形相へと変わる。

 一行はシン達が買ってきた食事を寮内で堪能し、出発の為荷物をまとめる。その中でアカリは、自分の荷物から取り出した植物の葉を使って何やら作業を始めていた。

 「何してるんだ?」

 ミアが覗き込むと、彼女の手元には現代で言うところアロマのような物が置かれていた。様々な植物やハーブのエキスを抽出し、匂いのキツくない自然な香りで部屋の消臭を行うのだという。

 時間経過と共にエキスの染み込んだ綿で出来た棒が入れ物の中へと消えていき、最終的にはそのままエキスごと土に撒けば肥料にもなるという、一石二鳥の物を置き土産にしていた。

 「お食事で匂いがついてしまったかもしれません。換気も必要ですが、少しでも居心地の良い部屋になるようにと、お礼を込めて残しておこうと思いまして・・・」

 「そうか、ありがとうな。そこまで気が回らなかったから助かるよ、アカリ」

 「いえいえ、とんでもないです」

 荷物をまとめ、部屋をできるだけ元の状態へと戻した一行は、アルバでの第一夜を明かした部屋に別れを告げ、寮の出口である受付の方へと向かっていった。

 お世話になった寮を出ていくことを受付の男に伝え、紹介してくれたクリスへ感謝の言葉を伝言として残していく。受付の男は、司祭様さえ許せばまた来いよと笑顔で送り出してくれた。

 「先ずは教会に行って、寮を貸してくれたことのお礼を言いに行かなきゃな」

 「司祭様、マティアスさんって言ったっけ?」

 「あぁ、クリスが手伝いをしているという司祭のマティアス・ルター。昨日の人の良さそうな感じの人だな」

 「教会だったらクリスの奴もいそうだな。伝言を残す必要もなかったんじゃねぇの?」

 「まぁ会えたら会えただ。彼にも世話になったからな、直接言えなかったにしろ、一言ぐらい残していかないと悪いだろ?」

 「それもそっかぁ。あ~あぁ、また宿屋探しかよ。こんなんばっかだな」

 「でも今回はお昼から探せるからね!時間帯的になら、今まで以上に予約は取りやすいと思うよ」

 寮を出た後は、話にもあった通り教会へと向かう一行。グーゲル教会の司祭を務めているマティアス・ルターとは、昨夜にクリスに紹介されて面識がある。その時にはあまりじっくり話を聞いたり、どんな人物なのかを探ることは出来なかったが、司祭と直接話す機会も中々ないだろう。

 お礼を伝えるついでに、街のことをよく知っている立場であろうマティアスに、彼しか知らない街の事情などを聞けないかと目論みを立てるミアだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

だらだら生きるテイマーのお話

めぇ
ファンタジー
自堕落・・・もとい楽して生きたい一人のテイマーのお話。目指すのはスローライフ!

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...