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疑いの要素
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シン達が寮を出て後、部屋に残ったミアとアカリは昼食を取れる店を探しに行った彼らの帰りを待つ。ミアは銃の手入れと弾の調合を行っており、アカリは前の街で調達した薬品の調合をしながら、今後について話し合っていた。
「このまま街を離れるのですか?」
「もっと見て回りたいのか?」
「そうですね・・・もう少しゆっくり街の色んな所を巡ってみたい気持ちはあります」
それはアカリが失った記憶を取り戻すために、少しでも手掛かりが欲しいからなのか、それとも単純に楽しげな雰囲気を堪能したいのか。
「まぁアタシらの旅は急ぐモンじゃない。ここでゆっくりするのも有りっちゃぁ有りだが・・・」
「何か引っかかることでも?」
「噂のある街ってのは、大抵裏があるモンだ。ただ単にいい噂が一人歩きしてるだけならそれで良いんだが、どうにもきな臭いって言うか・・・な」
音が溢れる街。
ただそれだけの事なら、音楽に関する街というのであれば自然な事なのかもしれないが、流石に判断するには時間も情報も少な過ぎるといった様子のミア。
アルバの街でゆっくりするにも、もう少し情報が欲しいというのが彼女の思う所なのだろう。それだけオルレラやリナムルの一件で、散々な思いをしてきている。
いつの間にか何かしらのイベントやクエストの渦中に巻き込まれている事も十分あり得る。そうなればミア達のようなこの世界のイレギュラーを狙う黒いコート者達に目をつけられ兼ねない。
ツバキやアカリはその事について何も知らないし、巻き込まれる道理もない。自分達の都合で彼女らを危険に晒したくないというのが、ミアがアカリやツバキに抱いている感情だった。
すると、二人が留守を任された部屋に何者かがやって来る。聞こえて来る足音と寮の床が軋む音が、次第に大きくなり扉の前で止まる。そして数回ノックすると、若めの男の声で中にいるミアとアカリへ声をかけてきた。
「すみません、お客人。まだいらっしゃいますか?」
扉を突き破ったり、中の音を盗み聴くような素振りが無いことから、敵意のないただの来客であると安堵するミア。
「あぁ、いるよ。開いているから中へどうぞ」
「それじゃ失礼します」
部屋の中からの承諾を得て、外の男が扉を開きその姿を見せる。見た目はミア達を教会の寮へと案内したクリスに似ていた。若めの青年といった様子で、彼はクリスよりもちゃんとした服を着ていた。
「あなた方がクリスの言っていた・・・」
「アンタは?」
「あぁ、そうだ。僕はこの寮でクリスと相部屋の学生です。彼から伝言を預かって来ました」
入ってきた男は、クリスから聞き預かっていた伝言をそっくりそのまま二人の前で読み上げる。ポケットから出した紙には、クリスから頼まれた伝言が記されているのだろう。
《お疲れの様子だったので、声を掛けずに出掛ける事にしました。自分で誘っておきながら、案内もせずにほったらかしにしてしまい申し訳ありません。僕は教会のお手伝いがあるので先に寮を出ます。皆さんが出発される時は、寮の誰かにお声掛け下さい。話は通してあるのでスムーズに退室出来るかと思います。司祭様に確認したところ、そちらの部屋は暫く使う予定も無いそうなので、いくら泊まっても大丈夫だそうです。夕方以降に戻りますので、またお会いしたらよろしくお願いします》
「・・・だ、そうです」
そう言って男は手紙をたたみ、ミアの方へと差し出した。彼女はそれを受け取ると中身を確認し、もう一度クリスが書き残した手紙の文字の羅列に目を通す。
「じゃぁ伝えましたので、僕はこれで・・・」
「あっ!なぁ、ちょっといいか?」
「何でしょう?」
「ここはどういう所なんだ?」
寮の者とあらば、この街や教会についてそれなりに詳しい筈。気になっていた情報源に、思わずミアは彼を引き留めアルバがどんな所なのか、この寮は一体何なのかなどを含めて質問をする。
「どんな所?見ての通り観光地ですよ。音楽にゆかりのある地だから、その関係者も多く訪れますが・・・。あぁそれと、あまりクリスと関わらない方がいいですよ。彼にはあまりいい噂がないので・・・」
「ん?どういう事だ?」
「・・・すみません、余計なことを話してしまいました。忘れろとは言いませんが、彼にはご内密に・・・。他に宿があるなら、そっちに行った方がいいですよ。それじゃ」
「おっおい・・・」
彼は意味深な言葉を残して、ミア達の部屋を立ち去っていった。相部屋の彼が何故クリスの評判を落とすような事を言うのか。だが、どちらかというと初めから親切だったクリスよりも、あまり愛想のない先程の男の方が本心で言っていたようにも感じた。
アルバの街に対する漠然とした疑いを持っていたミアは、その対象を何かに向けていた訳ではなかったが、今の話を聞いて少しだけクリスの周りに、何かしらの手掛かりがあるのではないかと考え始めた。
「良くない噂って何でしょう?」
「さぁな・・・そんな印象はなかったが」
「私もそう思います。親切でしたし、そんな風には見えませんでしたけど・・・」
「だが、宿の件は彼の言う通りだろう。あまり長居したら迷惑になるし、今日中には別のところに移動しないとな」
教会が困っている人を見捨てないと言っても、何日もタダで世話になるのは心が痛むし、罪悪感のような申し訳なさも出てくる。泊まるならちゃんとした手順と段階を踏んで、正しく宿泊するのが筋だろう。
一行には昼食の他にも、今日中に決めなければならないものがある。今の内にある程度探しておけないかと、ミアはアカリに部屋の留守を任せ、寮の管理人がいるであろう部屋へと向かい、聞き込みをすることにした。
「このまま街を離れるのですか?」
「もっと見て回りたいのか?」
「そうですね・・・もう少しゆっくり街の色んな所を巡ってみたい気持ちはあります」
それはアカリが失った記憶を取り戻すために、少しでも手掛かりが欲しいからなのか、それとも単純に楽しげな雰囲気を堪能したいのか。
「まぁアタシらの旅は急ぐモンじゃない。ここでゆっくりするのも有りっちゃぁ有りだが・・・」
「何か引っかかることでも?」
「噂のある街ってのは、大抵裏があるモンだ。ただ単にいい噂が一人歩きしてるだけならそれで良いんだが、どうにもきな臭いって言うか・・・な」
音が溢れる街。
ただそれだけの事なら、音楽に関する街というのであれば自然な事なのかもしれないが、流石に判断するには時間も情報も少な過ぎるといった様子のミア。
アルバの街でゆっくりするにも、もう少し情報が欲しいというのが彼女の思う所なのだろう。それだけオルレラやリナムルの一件で、散々な思いをしてきている。
いつの間にか何かしらのイベントやクエストの渦中に巻き込まれている事も十分あり得る。そうなればミア達のようなこの世界のイレギュラーを狙う黒いコート者達に目をつけられ兼ねない。
ツバキやアカリはその事について何も知らないし、巻き込まれる道理もない。自分達の都合で彼女らを危険に晒したくないというのが、ミアがアカリやツバキに抱いている感情だった。
すると、二人が留守を任された部屋に何者かがやって来る。聞こえて来る足音と寮の床が軋む音が、次第に大きくなり扉の前で止まる。そして数回ノックすると、若めの男の声で中にいるミアとアカリへ声をかけてきた。
「すみません、お客人。まだいらっしゃいますか?」
扉を突き破ったり、中の音を盗み聴くような素振りが無いことから、敵意のないただの来客であると安堵するミア。
「あぁ、いるよ。開いているから中へどうぞ」
「それじゃ失礼します」
部屋の中からの承諾を得て、外の男が扉を開きその姿を見せる。見た目はミア達を教会の寮へと案内したクリスに似ていた。若めの青年といった様子で、彼はクリスよりもちゃんとした服を着ていた。
「あなた方がクリスの言っていた・・・」
「アンタは?」
「あぁ、そうだ。僕はこの寮でクリスと相部屋の学生です。彼から伝言を預かって来ました」
入ってきた男は、クリスから聞き預かっていた伝言をそっくりそのまま二人の前で読み上げる。ポケットから出した紙には、クリスから頼まれた伝言が記されているのだろう。
《お疲れの様子だったので、声を掛けずに出掛ける事にしました。自分で誘っておきながら、案内もせずにほったらかしにしてしまい申し訳ありません。僕は教会のお手伝いがあるので先に寮を出ます。皆さんが出発される時は、寮の誰かにお声掛け下さい。話は通してあるのでスムーズに退室出来るかと思います。司祭様に確認したところ、そちらの部屋は暫く使う予定も無いそうなので、いくら泊まっても大丈夫だそうです。夕方以降に戻りますので、またお会いしたらよろしくお願いします》
「・・・だ、そうです」
そう言って男は手紙をたたみ、ミアの方へと差し出した。彼女はそれを受け取ると中身を確認し、もう一度クリスが書き残した手紙の文字の羅列に目を通す。
「じゃぁ伝えましたので、僕はこれで・・・」
「あっ!なぁ、ちょっといいか?」
「何でしょう?」
「ここはどういう所なんだ?」
寮の者とあらば、この街や教会についてそれなりに詳しい筈。気になっていた情報源に、思わずミアは彼を引き留めアルバがどんな所なのか、この寮は一体何なのかなどを含めて質問をする。
「どんな所?見ての通り観光地ですよ。音楽にゆかりのある地だから、その関係者も多く訪れますが・・・。あぁそれと、あまりクリスと関わらない方がいいですよ。彼にはあまりいい噂がないので・・・」
「ん?どういう事だ?」
「・・・すみません、余計なことを話してしまいました。忘れろとは言いませんが、彼にはご内密に・・・。他に宿があるなら、そっちに行った方がいいですよ。それじゃ」
「おっおい・・・」
彼は意味深な言葉を残して、ミア達の部屋を立ち去っていった。相部屋の彼が何故クリスの評判を落とすような事を言うのか。だが、どちらかというと初めから親切だったクリスよりも、あまり愛想のない先程の男の方が本心で言っていたようにも感じた。
アルバの街に対する漠然とした疑いを持っていたミアは、その対象を何かに向けていた訳ではなかったが、今の話を聞いて少しだけクリスの周りに、何かしらの手掛かりがあるのではないかと考え始めた。
「良くない噂って何でしょう?」
「さぁな・・・そんな印象はなかったが」
「私もそう思います。親切でしたし、そんな風には見えませんでしたけど・・・」
「だが、宿の件は彼の言う通りだろう。あまり長居したら迷惑になるし、今日中には別のところに移動しないとな」
教会が困っている人を見捨てないと言っても、何日もタダで世話になるのは心が痛むし、罪悪感のような申し訳なさも出てくる。泊まるならちゃんとした手順と段階を踏んで、正しく宿泊するのが筋だろう。
一行には昼食の他にも、今日中に決めなければならないものがある。今の内にある程度探しておけないかと、ミアはアカリに部屋の留守を任せ、寮の管理人がいるであろう部屋へと向かい、聞き込みをすることにした。
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