World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,179 / 1,646

ギルドの手際

しおりを挟む
 商人の馬車が止まって間も無く、追手のモンスター達は既にあらかた片付けられていた。余程ギルドの連携が成っているのだろう。先に飛び降りたナイトの男の動きに合わせ、他の馬車から飛び降りたギルドの傭兵達が手際よく群がるモンスターを狩っていき、あっという間にその数を減らした。

 ツクヨが馬車を降り、駆け付けた時には後続組のモンスターと鉢合わせる形になり、苦戦する事なくあっさりと撃退してしまった。

 「あっ・・・ツバキから貰った指輪試すの忘れてた・・・」

 「おう!さっきの兄ちゃんか。あの坊主の腕輪、助かったぜぇ」

 「ちゃんと効果があったんですか?」

 「そりゃぁ勿論!タンク役には丁度いいアクセサリーだぜ!んじゃぁ取り敢えず馬車の周りに陣形を展開して、周囲にモンスターの気配が無かった出発するぜぇ」

 一行は鉾を納め、足を止めた馬車の周りへと移動していく。中で周囲の気配を探知しているギルドの仲間に、追手を排除したことを伝え、周りに他の気配がないかどうかを探らせる。

 警戒はギルド側でやっておくとナイトの男が、同行する冒険者達に伝えると彼らだけ先に馬車へと乗り込む。

 「早かったな、ツクヨ」

 「うん、意気揚々と飛び出したのは良かったものの、到着する頃にはもうだいぶ片付いていてね・・・。ツバキのアクセサリーを試す暇もなかったよ」

 「まぁいいんじゃねぇの?ダメージを無効にするのは、あくまで限度がある。耐久値が無くなるとそのまま壊れちまうから、寿命が伸びたと思えばいい」

 弱いダメージを無効化するのにも、数値が設けてあるようで、それが上限の数値に達することでアクセサリーの耐久値が無くなり、消滅してしまうのだとツバキは語る。

 「それよりなんだよ?俺の作った物が信用ならねぇってのかぁ!?」

 「そうじゃないけど、試してみたくなるじゃないか。それにどんどん使ってくれって言ってくれたじゃないか」

 「焦る必要はねぇって。なんなら俺がぶん殴ってやろうか?」

 冗談を繰り広げるツクヨ達を尻目に、アカリは何やらモゾモゾと動いている紅葉を宥めていた。

 「ん?紅葉、どうかしたのかい?」

 「どうやらあの方の気配感知を真似ているようなんです。ただ、あんまり自由にさせておくと迷惑になっちゃうんじゃないかって・・・」

 申し訳なさそうにするアカリは、周囲の気配を探るギルドの傭兵の方へ視線を向ける。アカリとツクヨの声を聞いていたのだろう。男は片目だけ開いて彼らに声をかけた。

 「それぐらい大丈夫だよ、お嬢ちゃん。悪いね、窮屈な思いさせちゃって」

 「いえ、そんな事ありませんわ」

 アカリは少し困った様子で紅葉と顔を見合わせ、じっとしてるように言い聞かせる。

 暫くして、気配を探っていた男が突然ゆっくりと立ち上がり、馬車の外で待機するギルドの者達に声を掛ける。

 「大丈夫だ!近くに気配はない」

 「おう!そんじゃぁ出発するとしますかぁ!」

 降りていた者達が全員馬車に乗り込むのを確認した商人は、号令を出し一斉に動き始めた。商人の見込みでは、旅は順調に進んでいるそうだ。

 モンスターによる襲撃も、普段の時よりも少ないらしい。それに今回の護衛は数が多く戦力的にも心強い。彼らも心に余裕が生まれたのだろうか、一行の戦いぶりを見てすっかり安心しきった商人は、様々な街や村で経験した陽気な話を語り始めた。

 心地のいい揺れと、他愛のない商人の話がアクセントとなり彼らの眠気を誘う。何度も頭をカクカクと縦に揺らすアカリやツクヨ。シンとミアは眠気こそ感じてはいるものの、まだ意識は保っている。

 「眠かったら眠ってもいいんだぞ?」

 ナイトの男は腕を組みながら目をとしているが、目を休めているだけのようだった。他のギルドの人物達は、こういった馬車の旅に慣れているのか、思い思いに武器の手入れをしたり、暇潰しの道具で遊んでいた。

 「陸はどうにも慣れねぇぜ・・・。海の心地よさとはだいぶ違う」

 「ほう?坊主は海の出身か?」

 「あぁ、物心ついた頃から俺ぁ海と共にあった。潮風の匂いや海の味が俺を育てたようなもんだ」

 ツバキは一行の中でも最も睡眠をとっていた為、全くと言っていいほど眠気など感じていないようだった。その代わりと言ってはなんだが、慣れない馬車の旅に僅かながら酔いを感じているようだった。

 「それは?」

 シンはツバキが手元で見慣れない道具を使いながら、アクセサリーに何かしているのを目で追う。

 「暇だからよぉ。色々試作品を作ってんだ」

 「作業場が無くての作れるのか?」

 「それも付与する物や効果によって違うな。要はすんげぇ物が作りたかったら、それなりの機材や環境が必要ってこった。それに使う材料によっても変わってくる」

 「へぇ、色々あんだなぁ。それにしても器用なもんだ。こりゃぁ今後は一流の加工師かねぇ?」

 ギルドの男が感心してツバキの手元を眺めている。ウィリアムから学んだ手先の器用さを褒められ、気分が良くなったのかツバキは嬉しそうに続けた。

 「一流の加工師・・・ねぇ。それも悪くねぇが、それは俺にとって通過点だな」

 「ははは!これは恐れ入った!とんだビッグマウスっぷりだな、坊主!」

 「何回坊主って言うんだよ!」

 エレジアを出発したのは昼前。今はすっかり日も落ち、あたりは夕焼け空で真っ赤に染まっていた。

 「皆さん、今日の旅路はここまでにしましょう。近くに村があります。今日はそこで一夜を明かすとしましょう」

 馬車の中から外を覗くと、既に進路の先には明かりの灯る村が小さく見え始めていた。数日に及ぶ旅路。一行は無茶する事なく、安全を第一とし一時の休息を取る。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...