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出発と馬車の護衛
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「皆さん、お集まり頂けましたかな?準備ができたようなら出発しますよ」
アルバへ向かう馬車に集まったのは、シン達だけではなかった。これまでと同じように、アルバ方面に用事がある冒険者やギルドから依頼され、防衛の為に追従する事となる傭兵達。
移動に関して言えば、これだけの戦力が整っていれば大抵の問題が起きた時に対応できそうなものだ。リナムルの時のように再び襲われるのではないかという不安はあったが、今回の道中は森や渓谷のような視界が遮られたり、限られたスペースや道を強制されるようなことは無いようだ。
一行は馬車に乗り込み、エレジアの街を出発する。
ツバキは先日の作業が効いていたのか、心地のいい馬車の揺れに誘われるようにして、すっかり安心した様子で睡眠をとっていた。
アカリの方はというと、エレジアで仕入れた調合の知識を基に作られた食べ物を紅葉に与えていた。店主の調合書に載っていた調合を実践している途中で、紅葉が好んで食べようとしていた物があるらしい。
完成品ではなかったものの、紅葉があまりにも欲しがるため与えてみた所、それがすっかり好物になったそうだ。効能について尋ねると、デトックス効果や精神を安定させる効果のあるものらしい。
分類としては鳥類である紅葉に、そのような効果が効き目があるのかは甚だ疑問だが、接種しても身体に悪いものではない為、本人が喜んで食べるのなら今後はご褒美代わりに与えていこうかと、彼女は話していた。
アルバまでの道中はそれ程長くはないが、それなりに野生の危険生物やモンスターなどのいる道を通らなければならないようだ。故にエレジアとアルバ間の商人達の移動には、毎回ギルドの傭兵が派遣されるようだった。
それだけアルバに行っているのなら、一行が疑問に思っていた“音が溢れる“という事に関して、何か詳しいことが聞けるのではないかと、シン達はそのギルドの傭兵達に話を伺った。
「アルバという街には何度も行かれているんですか?」
「あぁ、仕事柄ね。ここいらは凶暴なモンスターが多く生息していてね、よく道行く行商人や力及ばずの冒険者が襲われる事例があるんだ」
「それでギルドに依頼を。モンスターは皆さんの手を借りても倒せない程のものなんですか?」
「いや、そういうわけではない。何度もギルドの者が退治しているんだが、どこで増えているのか、その時は無事に通過できても、次の時には新しいモンスターが現れるんだ。もしかしたら何処かに巣があるのかもしれないって、専らの噂だよ」
それだけ噂になっているのなら、巣の捜索や殲滅作戦は行われないのだろうか。だが、ゲームの世界でもモンスターが根絶されるような事はあまり聞かない。
何かの要因によって、自然現象のように発生してしまうのだろう。それがこの世界での自然なのだと解釈する他ない。
肝心のアルバの街のことについては、有力とまではいかないもののエレジアの酒場で聞いた情報と照らし合わせ、より好評な素晴らしい街であるという評価が固くなってきた。
「実際アルバはいい街だよ。俺も家族にお土産を頼まれていてね。娘が最近、楽器を鳴らし始めて我が家じゃ将来作曲家か!?って大騒ぎさ」
「わかります!わかりますとも!我が子の成長って、自分のことのように嬉しいものですもんね!」
子持ちの者同士、ギルドから派遣された男とツクヨは意気投合し、親馬鹿トークを繰り広げ始めてしまった。
だが、聞いているシン達も不思議と不愉快ではなかった。嬉しそうに語る彼らの表情や声色は、その場の空気を和らげ温かくしていた。いつモンスターに襲撃されるか分からない状況で、緊張し緊迫しているよりも遥かに居心地はいい。
幸い、ギルドの傭兵やある程度戦える冒険者が同行していれば、全滅するといった報告はないようで、そこまで気を張っておく必要もない道中らしく、一行の旅は順調にアルバへと歩みを進めていた。
「冒険者とギルドの傭兵の皆さん。そろそろ例の区域に突入します。護衛の程、頼みましたよ」
「おう!任せておけ!」
「じゃぁ俺は警戒に入るぜ。スキルを使うから、しばらくの間集中させてもらう」
ツクヨと話していたギルドの傭兵の仲間が、移動する馬車を中心にした気配の感知を行うスキルを展開する。目に見えるものではないが、傭兵の男曰く半径数十メートルにも及ぶ感知領域を展開しているらしく、スピードのあるモンスターが飛び込んできても、十分反応できる余裕はあるそうだ。
「コイツのスキルはギルドのお墨付きだ。信用してくれて構わない。何か感知したら方角と数、それに多少の戦闘能力であれば見破ることができるから、とりあえずはいつでも迎撃できる体勢を整えておいてくれ!」
気配の感知と聞き、口にすることはなかったがミアは徐にリナムルの時のように、獣人の力による気配感知を行ってみるが、全くと言っていいほど当時の能力は失われてしまっていた。
しかし彼女には、獣人の能力がなくとも狙撃手としての経験と獲物を探すスキルを持っている為、広範囲ではないが方角を定めることで、限られた範囲にのみ長距離の探知が行える。
ギルドの者達を信用していない訳ではないが、馬車の窓から視界に入る怪しいポイントを見定め、ミアはスナイパーライフルを構えてスコープを覗いていた。
シンにもアサシンとしての気配感知能力はあるが、それはあくまで潜入した際に壁の向こう側などの気配を探る程度のもので、開けた場所で役に立つようなものではなかった。
傭兵の男の号令がかかった事により、眠っていたツバキが目を覚ますと、近くにいたアカリから状況を聞き、徐に不敵な笑みを浮かべながら自身の荷物を漁り始めた。
アルバへ向かう馬車に集まったのは、シン達だけではなかった。これまでと同じように、アルバ方面に用事がある冒険者やギルドから依頼され、防衛の為に追従する事となる傭兵達。
移動に関して言えば、これだけの戦力が整っていれば大抵の問題が起きた時に対応できそうなものだ。リナムルの時のように再び襲われるのではないかという不安はあったが、今回の道中は森や渓谷のような視界が遮られたり、限られたスペースや道を強制されるようなことは無いようだ。
一行は馬車に乗り込み、エレジアの街を出発する。
ツバキは先日の作業が効いていたのか、心地のいい馬車の揺れに誘われるようにして、すっかり安心した様子で睡眠をとっていた。
アカリの方はというと、エレジアで仕入れた調合の知識を基に作られた食べ物を紅葉に与えていた。店主の調合書に載っていた調合を実践している途中で、紅葉が好んで食べようとしていた物があるらしい。
完成品ではなかったものの、紅葉があまりにも欲しがるため与えてみた所、それがすっかり好物になったそうだ。効能について尋ねると、デトックス効果や精神を安定させる効果のあるものらしい。
分類としては鳥類である紅葉に、そのような効果が効き目があるのかは甚だ疑問だが、接種しても身体に悪いものではない為、本人が喜んで食べるのなら今後はご褒美代わりに与えていこうかと、彼女は話していた。
アルバまでの道中はそれ程長くはないが、それなりに野生の危険生物やモンスターなどのいる道を通らなければならないようだ。故にエレジアとアルバ間の商人達の移動には、毎回ギルドの傭兵が派遣されるようだった。
それだけアルバに行っているのなら、一行が疑問に思っていた“音が溢れる“という事に関して、何か詳しいことが聞けるのではないかと、シン達はそのギルドの傭兵達に話を伺った。
「アルバという街には何度も行かれているんですか?」
「あぁ、仕事柄ね。ここいらは凶暴なモンスターが多く生息していてね、よく道行く行商人や力及ばずの冒険者が襲われる事例があるんだ」
「それでギルドに依頼を。モンスターは皆さんの手を借りても倒せない程のものなんですか?」
「いや、そういうわけではない。何度もギルドの者が退治しているんだが、どこで増えているのか、その時は無事に通過できても、次の時には新しいモンスターが現れるんだ。もしかしたら何処かに巣があるのかもしれないって、専らの噂だよ」
それだけ噂になっているのなら、巣の捜索や殲滅作戦は行われないのだろうか。だが、ゲームの世界でもモンスターが根絶されるような事はあまり聞かない。
何かの要因によって、自然現象のように発生してしまうのだろう。それがこの世界での自然なのだと解釈する他ない。
肝心のアルバの街のことについては、有力とまではいかないもののエレジアの酒場で聞いた情報と照らし合わせ、より好評な素晴らしい街であるという評価が固くなってきた。
「実際アルバはいい街だよ。俺も家族にお土産を頼まれていてね。娘が最近、楽器を鳴らし始めて我が家じゃ将来作曲家か!?って大騒ぎさ」
「わかります!わかりますとも!我が子の成長って、自分のことのように嬉しいものですもんね!」
子持ちの者同士、ギルドから派遣された男とツクヨは意気投合し、親馬鹿トークを繰り広げ始めてしまった。
だが、聞いているシン達も不思議と不愉快ではなかった。嬉しそうに語る彼らの表情や声色は、その場の空気を和らげ温かくしていた。いつモンスターに襲撃されるか分からない状況で、緊張し緊迫しているよりも遥かに居心地はいい。
幸い、ギルドの傭兵やある程度戦える冒険者が同行していれば、全滅するといった報告はないようで、そこまで気を張っておく必要もない道中らしく、一行の旅は順調にアルバへと歩みを進めていた。
「冒険者とギルドの傭兵の皆さん。そろそろ例の区域に突入します。護衛の程、頼みましたよ」
「おう!任せておけ!」
「じゃぁ俺は警戒に入るぜ。スキルを使うから、しばらくの間集中させてもらう」
ツクヨと話していたギルドの傭兵の仲間が、移動する馬車を中心にした気配の感知を行うスキルを展開する。目に見えるものではないが、傭兵の男曰く半径数十メートルにも及ぶ感知領域を展開しているらしく、スピードのあるモンスターが飛び込んできても、十分反応できる余裕はあるそうだ。
「コイツのスキルはギルドのお墨付きだ。信用してくれて構わない。何か感知したら方角と数、それに多少の戦闘能力であれば見破ることができるから、とりあえずはいつでも迎撃できる体勢を整えておいてくれ!」
気配の感知と聞き、口にすることはなかったがミアは徐にリナムルの時のように、獣人の力による気配感知を行ってみるが、全くと言っていいほど当時の能力は失われてしまっていた。
しかし彼女には、獣人の能力がなくとも狙撃手としての経験と獲物を探すスキルを持っている為、広範囲ではないが方角を定めることで、限られた範囲にのみ長距離の探知が行える。
ギルドの者達を信用していない訳ではないが、馬車の窓から視界に入る怪しいポイントを見定め、ミアはスナイパーライフルを構えてスコープを覗いていた。
シンにもアサシンとしての気配感知能力はあるが、それはあくまで潜入した際に壁の向こう側などの気配を探る程度のもので、開けた場所で役に立つようなものではなかった。
傭兵の男の号令がかかった事により、眠っていたツバキが目を覚ますと、近くにいたアカリから状況を聞き、徐に不敵な笑みを浮かべながら自身の荷物を漁り始めた。
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