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時には必要なこと
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一通りの情報を集めたシンとミアは、酒場を後にしてツクヨのメッセージを確認する。そこには要件が済んだ後に連絡が欲しいと書かれていた。そして落ち合う宿屋の場所と名前が記されている。
アルバ行きの商人の馬車が出発するのは、少なくとも翌日以降になるとのこと。流石の段取りの良さを発揮するツクヨに感謝しつつも、二人はメッセージに送られていた宿屋へと向かう。
「ツクヨのおかげで野宿せずに済んでよかった」
「シンは心配し過ぎなんだよ。宿屋が埋まることなんてそうそう無いだろ?」
「いや、それはゲームの時はそうだろうけど、現実と似通ったこの世界だと分からなくないか?現にオルレラの街じゃ苦労したそうじゃないか」
「うっ・・・誰に聞いた、そんなこと」
「でも酒場で聞いた噂話。ドラゴンの件は分からないけど、隻腕の狼って・・・」
シンは酒場で聞いた噂話のことをミアに話し出した。その時は互いに、聖都の事件とは無関係であることを装う為に反応を抑えていた。だが恐らくシンもミアも、その話の中に出てきた人物が誰なのかは分かっていたに違いない。
その時どう思ったのか。シンは確認せずにはいられない気持ちでいた。彼の期待通り、ミアもシンと同じ人物を想像していたようだ。当然だろう。あの事件に深く関与していた人物であれば、シュトラールが死亡し聖都が不安定になった時に救おうとする者など大体は想像がつく。
「あぁ、アーテムだろうな、そんなことできんの。それよりアイツ・・・生きてたんだな」
「俺達の命の恩人でもある。アーテムがいなかったら、あの場で意識を失ってた俺達はシュトラールに殺されていたんだろうなって・・・」
死の危機に直面したのは、何もその時が初めてではなかった。メアとの死闘の時も、本来であれば死んでいてもおかしくないようなダメージを、二人とも受けていた。
その時は数日間の休養で目を覚まし、傷を癒すことが出来たが未だにその原理は分かっていない。WoFユーザーがこちらの世界で死ぬこと。現実の世界で死ぬことでどうなるのか。
未だにその謎は分かっていないが、少なくともシンは現実の世界で存在自体が消滅するということを知っている。初めにメアとの一件で出会った少女サラが、現実世界のアサシンギルドが掴んでいたサラという女性とどのような関係性があるのか、署の詳細は白獅らも把握しきれていなかったが、もし彼女がWoFのユーザーだとするならば、彼女の消滅はあのメアとの一件に関係していたのだろうか。
「まぁ少なくとも、この世界がWoFの中にしろ夢であるにしろ、死ぬのは御免だな。正直、私はもうこの生活に慣れてきている・・・。それが奪われようとしているのなら、私は許せない」
「うん・・・それは俺も同じ気持ちだ。現実も異世界も関係ない。今ここでこうしているのが、俺にとって今まで生きてきた中で一番充実してる。それを失いたくない・・・」
二人とも現実の世界に希望を見出せずにいた。故にここでの生活は、彼らの本当に望んでいたものを手にすることが出来る、まるで夢のような世界であるのは確かだった。
「じゃぁ危険なことを犯さず、静かに隠居でもするか?」
「・・・きっとそれは“許されない事“なんだと思う。あの黒いコートの連中。全員が俺達の敵って訳ではなさそうだけど、少なくともリナムルの地下研究所で会ったアイツは、俺達のような存在をこの世界の異物だと思っている・・・」
問題を起こす事なく隠れて過ごしていれば、ある程度現状の生活を維持する事は可能なのかもしれない。だが、リナムルやグラン・ヴァーグでのレースの時のように、黒いコートの者達はどうやっているのか、どこからともなく彼らの前に現れる。
詳しいことはまだ分からないが、隠れていてもいずれ見つけ出され、エラーということで消されてしまうかもしれない。そんな時に対抗し得る力がなければ、自分達が見つけた居場所が奪われるのを素直に受け入れる他なくなってしまう。
無抵抗でただ奪われるのは、二人とも望んでいない。少なくとも、今はシンやミア、そしてツクヨという同じ境遇にある仲間や、この世界での仲間もいる。一人でいるよりずっと心強いことだ。
それは戦闘面というよりも、心境的な面の方が大きいだろう。自分達を消そうとする存在を知ってしまった以上、その恐怖は根本を取り除くまで、永遠に彼らに付き纏うものだ。
逃げるだけではその恐怖に押しつぶされてしまう。戦う気持ちなどの前向きな感情でいなければ精神を病んでしまいそうだった。
「逃げるだけじゃ、いずれ俺達のこの生活も奪われる。そうなる前に・・・そうならない為に、できる限りのことはしておかないと・・・」
「私ももう奪われるのは御免だね。自分以外に自分の人生を左右されるなんてまっぴらだ。邪魔しようってんなら、その黒いコートの連中が何者だろうと、例えその戦いの中で死のうと私は争ってやるッ・・・今度こそ・・・必ず・・・」
ミアの言葉と表情にはただならぬ決意のようなものが垣間見える。自分の努力や費やしてきた時間。友人や家族との関係を削ってまで辿り着いた先が、立場を利用して他者を汚すような汚れた世界。
そんな報われない結末になるのが、ミアはどうしても許せなかったのだ。
「あ~ぁ、なんか湿っぽい話になっちまった。折角の酒も抜けちまったよ」
「俺達だけでいると、どうにも心配事が口に出ちゃうな」
「嫌な事を考えずに済むくらい、楽しく生きてやろうじゃないか!よし!宿に着いたらもう一度飲み直すぞ!」
「俺もたまには酒に溺れるかな。沈んだ気持ちのままじゃ、みんなに顔向け出来ないし」
何かに酔うというのは、必ずしも悪いことばかりではない。生きていれば必ず苦楽という場面がその人間の前にやってくることだろう。それをより楽しむ為に、時には忘れる為に気持ちを浮つかせたり、何かに一直線になるということも必要なことなのだ。
アルバ行きの商人の馬車が出発するのは、少なくとも翌日以降になるとのこと。流石の段取りの良さを発揮するツクヨに感謝しつつも、二人はメッセージに送られていた宿屋へと向かう。
「ツクヨのおかげで野宿せずに済んでよかった」
「シンは心配し過ぎなんだよ。宿屋が埋まることなんてそうそう無いだろ?」
「いや、それはゲームの時はそうだろうけど、現実と似通ったこの世界だと分からなくないか?現にオルレラの街じゃ苦労したそうじゃないか」
「うっ・・・誰に聞いた、そんなこと」
「でも酒場で聞いた噂話。ドラゴンの件は分からないけど、隻腕の狼って・・・」
シンは酒場で聞いた噂話のことをミアに話し出した。その時は互いに、聖都の事件とは無関係であることを装う為に反応を抑えていた。だが恐らくシンもミアも、その話の中に出てきた人物が誰なのかは分かっていたに違いない。
その時どう思ったのか。シンは確認せずにはいられない気持ちでいた。彼の期待通り、ミアもシンと同じ人物を想像していたようだ。当然だろう。あの事件に深く関与していた人物であれば、シュトラールが死亡し聖都が不安定になった時に救おうとする者など大体は想像がつく。
「あぁ、アーテムだろうな、そんなことできんの。それよりアイツ・・・生きてたんだな」
「俺達の命の恩人でもある。アーテムがいなかったら、あの場で意識を失ってた俺達はシュトラールに殺されていたんだろうなって・・・」
死の危機に直面したのは、何もその時が初めてではなかった。メアとの死闘の時も、本来であれば死んでいてもおかしくないようなダメージを、二人とも受けていた。
その時は数日間の休養で目を覚まし、傷を癒すことが出来たが未だにその原理は分かっていない。WoFユーザーがこちらの世界で死ぬこと。現実の世界で死ぬことでどうなるのか。
未だにその謎は分かっていないが、少なくともシンは現実の世界で存在自体が消滅するということを知っている。初めにメアとの一件で出会った少女サラが、現実世界のアサシンギルドが掴んでいたサラという女性とどのような関係性があるのか、署の詳細は白獅らも把握しきれていなかったが、もし彼女がWoFのユーザーだとするならば、彼女の消滅はあのメアとの一件に関係していたのだろうか。
「まぁ少なくとも、この世界がWoFの中にしろ夢であるにしろ、死ぬのは御免だな。正直、私はもうこの生活に慣れてきている・・・。それが奪われようとしているのなら、私は許せない」
「うん・・・それは俺も同じ気持ちだ。現実も異世界も関係ない。今ここでこうしているのが、俺にとって今まで生きてきた中で一番充実してる。それを失いたくない・・・」
二人とも現実の世界に希望を見出せずにいた。故にここでの生活は、彼らの本当に望んでいたものを手にすることが出来る、まるで夢のような世界であるのは確かだった。
「じゃぁ危険なことを犯さず、静かに隠居でもするか?」
「・・・きっとそれは“許されない事“なんだと思う。あの黒いコートの連中。全員が俺達の敵って訳ではなさそうだけど、少なくともリナムルの地下研究所で会ったアイツは、俺達のような存在をこの世界の異物だと思っている・・・」
問題を起こす事なく隠れて過ごしていれば、ある程度現状の生活を維持する事は可能なのかもしれない。だが、リナムルやグラン・ヴァーグでのレースの時のように、黒いコートの者達はどうやっているのか、どこからともなく彼らの前に現れる。
詳しいことはまだ分からないが、隠れていてもいずれ見つけ出され、エラーということで消されてしまうかもしれない。そんな時に対抗し得る力がなければ、自分達が見つけた居場所が奪われるのを素直に受け入れる他なくなってしまう。
無抵抗でただ奪われるのは、二人とも望んでいない。少なくとも、今はシンやミア、そしてツクヨという同じ境遇にある仲間や、この世界での仲間もいる。一人でいるよりずっと心強いことだ。
それは戦闘面というよりも、心境的な面の方が大きいだろう。自分達を消そうとする存在を知ってしまった以上、その恐怖は根本を取り除くまで、永遠に彼らに付き纏うものだ。
逃げるだけではその恐怖に押しつぶされてしまう。戦う気持ちなどの前向きな感情でいなければ精神を病んでしまいそうだった。
「逃げるだけじゃ、いずれ俺達のこの生活も奪われる。そうなる前に・・・そうならない為に、できる限りのことはしておかないと・・・」
「私ももう奪われるのは御免だね。自分以外に自分の人生を左右されるなんてまっぴらだ。邪魔しようってんなら、その黒いコートの連中が何者だろうと、例えその戦いの中で死のうと私は争ってやるッ・・・今度こそ・・・必ず・・・」
ミアの言葉と表情にはただならぬ決意のようなものが垣間見える。自分の努力や費やしてきた時間。友人や家族との関係を削ってまで辿り着いた先が、立場を利用して他者を汚すような汚れた世界。
そんな報われない結末になるのが、ミアはどうしても許せなかったのだ。
「あ~ぁ、なんか湿っぽい話になっちまった。折角の酒も抜けちまったよ」
「俺達だけでいると、どうにも心配事が口に出ちゃうな」
「嫌な事を考えずに済むくらい、楽しく生きてやろうじゃないか!よし!宿に着いたらもう一度飲み直すぞ!」
「俺もたまには酒に溺れるかな。沈んだ気持ちのままじゃ、みんなに顔向け出来ないし」
何かに酔うというのは、必ずしも悪いことばかりではない。生きていれば必ず苦楽という場面がその人間の前にやってくることだろう。それをより楽しむ為に、時には忘れる為に気持ちを浮つかせたり、何かに一直線になるということも必要なことなのだ。
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