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神代 コウ

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薬草の知識

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 薬草とは、薬用に用いる植物のことを指し、そのまま用いる場合や加工などを施し、薬として効き目のある成分を抽出するのに使われる。この場合、植物の草の部分や葉の部分だけを用いる事が多いのだが、知識として樹木本体の成分も含めて考えられる為、学術的には薬草というよりも“薬用植物“と表記される。

 薬草として主に用いられるものは、薬効成分が多く含まれるとされる根皮や樹皮、葉や花の部分が多く医薬として使用せずとも、民間療法としての利用されることも少なくない。

 しかし、よく耳にする民間療法とは科学的根拠に基づく医師の医療に含まれない為、症状が悪化するケースや詐欺などに遭う被害が多く報告されている。だが、民間療法とはリスクを伴うものばかりではなく、科学的に成分や原理が明かされていない場合のものもこれに該当し、現実の効力を認めざるを得ない事例も存在しているのが現状だ。

 また、薬草は様々な加工を経て使用することもあり、その文化的文脈や用法で分類すると、中国で伝わる中薬や日本で伝わる漢方薬、そしてヨーロッパのハーブやスパイスなどに分類される。

 今、アカリ達の訪れている店の棚には、そういった様々な薬草がそのままの状態から加工された状態、エキス剤や漢方製剤として用いられた状態で並べられている。

 謂わばこれも用途の違いや、使用者の好みによって飲むタイプのものや塗り込むタイプのもの。患部に貼り付けておくものなど、素人には一見して分かるものではなかった。

 「なんか、いろんな状態で並べてあるね」

 「あぁ、俺には何が何やらさっぱりだぜ・・・」

 「ははは、なぁに簡単な事さ。症状や身体の状態や体質に応じて、その説明文に当てはまるものを使えばええ」

 説明を見ても、難しい文言が並んでおり理解するまでに時間のかかるツクヨとツバキ。しかし、一人真剣に説明文を読みながら商品を手に取るアカリは、その内容が理解できているのか、感心している様子で頷いている。

 「それぞれの薬草の成分まで分かっていらっしゃるのですね!これなら症状や怪我の状態に合わせてすぐに組み合わせられそうですわ」

 「アンタ、調合が出来るのかい?」

 「はい、少しだけですけれども・・・」

 「ならいい物があるよ。ついて来な」

 アカリが薬剤や調合の知識があることを知ると、店主の女性は彼女を店の奥へと連れて行く。特に危険な様子もなく、何かあれば紅葉も付いていると、店の奥へ向かうアカリを見送る二人。

 「俺達がこれを見ててもしょうがねぇよな?」

 「う~ん・・・でもいつか役に立つ時が来るかも知れないから、読むだけ読んでおいてもいいかも知れないよ?」

 「げぇ~・・・俺そういうのパス。興味のねぇ事には頭が回らないんだよなぁ~」

 ツクヨの勧めを断り、ツバキは店内にあった椅子に腰掛ける。彼の座った椅子は足が半円状の弧を描いた形をしており、体重をかけると前後に揺れていた。その揺れが心地よかったのか、ツバキは嬉しそうに椅子を揺らしながらそのまま眠ってしまいそうな勢いだった。

 アカリと店主が戻ってくるまでの間、暇になったツクヨは商品のところに記載されている成分や用途、効能などを読み少しでも知識として身につけようと熟読していた。

 だが彼の努力は、ツバキの発明を組み立てていた時と同じく徒労となった。いくら知識を身につけようとしても、、それが彼の力となることはない。学んで身につくのはあくまでこの世界の住人だけ。

 WoFのユーザーである彼らは、自分の就いているクラス以外の知識を身につけたところでスキルを入手することはできない。ツクヨが不器用だから組み立てられないのではない。ツクヨに教養がないから調合の知識が身につかないのではない。

 アイテム欄やメッセージ機能、現実世界とWoFの世界を行き来するログインログアウトなど、こちらの世界にはない便利な機能が備わっている反面、彼らには彼らなりの不便な面も多く存在している。

 無意識にそんな超えられない壁を取り払おうというのか、ツクヨは自分に身に付かないものを認めたくないのか、その手を止めることはなかった。

 店の奥に案内されたアカリは、多くの書物が積み重なる部屋へと案内されていた。店内に入った時と同じく、薄暗い室内で店主がベルを鳴らす。すると先程と同じく音に反応した精霊が室内を照らし出し、その全貌を明らかにする。

 「すごい量の本・・・これ、全部集めたのですか?」

 「私の親や先祖の物が殆どだけどね。私にはそれほど漢方や薬剤師としての才能はなかったんだよ」

 「・・・そんな事・・・」

 自分を卑下する店主に、そんなことはないとフォローを入れるアカリ。そんな彼女の優しさに店主の女性は笑みを浮かべる。

 「・・・ありがとね。それで、アンタに見せたい物があるんだよ。ちょっとだけ待っててくれるかい?」

 「えぇ、それは勿論」

 店主の女性は積み上げられた書物の道へと足を踏み入れていき、次第に姿が見えなくなる。暫くして戻ってきた彼女の手には、一冊の古びた本が握られていた。
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