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本当の自分
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街の探索も慣れたもので、ゲームに不慣れだったツクヨもある程度分かってきたようだった。店に掲げられた看板に記されたマークを見て、そこがどんなところなのかを把握する。
フラスコのようなマークに緑の着色が施されている店を見て、ツクヨはすぐにそこがアイテムショップなのだと直感した。
「あった!あそこだね」
「お?ツクヨも慣れて来たじゃねぇか。案外早く見つかったな」
「これでもいくつも街を巡って来てるからね!それにここより広い街も経験してる。これくらい訳ないさ!」
「何を得意げに・・・ん?どうした、アカリ」
二人が楽しげに話すのを聞いて、紅葉を抱えながら少し寂しそうな表情を浮かべて黙り込んでしまうアカリ。つい先程まで口論していたツバキが、そんな彼女の変化に気づき心配する素振りを見せる。
「ぁ・・・いえ、いろんな街と聞いて、私もいくつもの街を巡れば私が何者なのか分かるのかしら。それでももし分からなかったら・・・」
「なんだ、そんなことかよ」
彼女の悩みを聞いて、寧ろ安堵した様子で鼻で笑う。
「そ、そんなことって・・・!」
「自分が何者か分からなかった時は、それまでの自分で生きていきゃぁいいじゃねぇか」
「そんな簡単な話じゃ・・・貴方には分からなッ・・・」
言葉を繋げようとするアカリを遮るように、ツバキは自身の過去について彼女に打ち明ける。何を隠そうツバキも、本当の出生は分かっていない。海賊だった頃のウィリアム・ダンピアに拾われ、造船技師として歩み始めた彼の元で同じく造船技師としての知識と腕を磨いていく。
本当の親ではないが、ツバキはウィリアムを育ての親、そして本当の親のように慕っていた。ツバキは自身の本当の出生などに興味はなかった。ただ自分が自分であると認識した時からが、本当の自分であるとアカリに伝えたかったようだ。
「そうだったのですね、貴方も・・・」
「だから気にする事はねぇって。お前が本当の自分を知りたいって言うのなら止めはしないが、どんなアカリだろうと俺達からしたら、“アカリはアカリ“だぜ!」
子供の発言には、時々驚かされるような真理とも取れる言葉が含まれている。ツクヨはツバキの話を聞いて、そんな現実の世界でもあるような出来事に驚くと共に、二人の成長をまさに親目線となって密かに嬉しく感じていた。
「あっありがとうございます。でも意外ですわ。貴方からこんなに心温まる励ましを貰えるなんて・・・」
「ばっ馬鹿言ってねぇで買い物だろッ!?ツクヨも何ニヤニヤしてんだ!!」
加減なしに殴りかかってくるツバキを宥め、一行はアイテムショップへと入っていく。中には多くの冒険者がおり賑わっている。棚には液体の入ったアイテムや現実世界の錠剤のようなカプセルに入ったもの。塗り薬やスプレー状のものまで様々な種類が取り揃えられていた。
「ひゃぁ~・・・いっぱいあって何買っていいか分からないなぁ」
「まぁ迷うのも無理もないわな。要は用途の違いや使い所の違いだろうな。戦闘中に使うものとか、戦闘後に使うもの。中には戦闘前に使うものなんかもあったりするから、持ち込めるだけ持ち込んでおきてぇよな」
「これだけいろんな種類があると、私の行きたいところの物も揃いそうですわ・・・」
人通りの多い街であるエレジアには、各国やいろんな地域から様々なものが流れ込んでくる。その為、ここだけでもそれなりにいろんなアイテムが手に入る。
故にツクヨの目的である旅の事前準備を整えるにはもってこいの場所だった。
「悩んでてもしょうがねぇから、俺が適当に見繕ってやろうか?」
旅の舞台は違えど、ツバキはウィリアムの造船所の元で海賊達の航海の準備を整えてきた経験がある。海では地上ほどアイテムや食料など、物資の補給が出来ない上に、積み込む荷物の重量も重要になってくる。
必要最低限の物を見極め、船の総重量を計算しながら余裕を持って物資を詰め込むという、意外にも大変な作業をこなしていたのがツバキだ。そんな彼であれば、地上の旅で必要な物を見繕うことなど造作もないことなのかもしれない。
その上ツクヨ達には、この世界の住人達にはない特殊な仕様であるアイテム欄などという場所を取らずにアイテムを保管できる機能も備わっている。だが勿論その仕様にも欠点はあり、先程の話にもあったように船の重量と同じく持ち運べる量には限りがある。
それこそ船のように多くを持ち運べる訳ではなく、重量に関しては個人個人のステータスによるところも大きい。力のステータスが高ければそれだけ多くを持ち運ぶことができる。
「先ずは基本的な状態異常回復のアイテムだな。リナムルでは色々やられたしな」
「そうだね。今後も何かあるといけないから、その対策をしておかないと」
基本的な状態異常とは、ゲームなどではお馴染みの状態異常である毒や麻痺、火傷や氷結などといったそれぞれの属性に由来するものもある。特にその機会が多いものとして毒があげられる。
野生の動物や虫、モンスターの多くが毒を持っている。なので、特に毒を回復するアイテムは他の状態異常を回復するアイテムに比べ、多く持ち運ぶことになるだろう。
フラスコのようなマークに緑の着色が施されている店を見て、ツクヨはすぐにそこがアイテムショップなのだと直感した。
「あった!あそこだね」
「お?ツクヨも慣れて来たじゃねぇか。案外早く見つかったな」
「これでもいくつも街を巡って来てるからね!それにここより広い街も経験してる。これくらい訳ないさ!」
「何を得意げに・・・ん?どうした、アカリ」
二人が楽しげに話すのを聞いて、紅葉を抱えながら少し寂しそうな表情を浮かべて黙り込んでしまうアカリ。つい先程まで口論していたツバキが、そんな彼女の変化に気づき心配する素振りを見せる。
「ぁ・・・いえ、いろんな街と聞いて、私もいくつもの街を巡れば私が何者なのか分かるのかしら。それでももし分からなかったら・・・」
「なんだ、そんなことかよ」
彼女の悩みを聞いて、寧ろ安堵した様子で鼻で笑う。
「そ、そんなことって・・・!」
「自分が何者か分からなかった時は、それまでの自分で生きていきゃぁいいじゃねぇか」
「そんな簡単な話じゃ・・・貴方には分からなッ・・・」
言葉を繋げようとするアカリを遮るように、ツバキは自身の過去について彼女に打ち明ける。何を隠そうツバキも、本当の出生は分かっていない。海賊だった頃のウィリアム・ダンピアに拾われ、造船技師として歩み始めた彼の元で同じく造船技師としての知識と腕を磨いていく。
本当の親ではないが、ツバキはウィリアムを育ての親、そして本当の親のように慕っていた。ツバキは自身の本当の出生などに興味はなかった。ただ自分が自分であると認識した時からが、本当の自分であるとアカリに伝えたかったようだ。
「そうだったのですね、貴方も・・・」
「だから気にする事はねぇって。お前が本当の自分を知りたいって言うのなら止めはしないが、どんなアカリだろうと俺達からしたら、“アカリはアカリ“だぜ!」
子供の発言には、時々驚かされるような真理とも取れる言葉が含まれている。ツクヨはツバキの話を聞いて、そんな現実の世界でもあるような出来事に驚くと共に、二人の成長をまさに親目線となって密かに嬉しく感じていた。
「あっありがとうございます。でも意外ですわ。貴方からこんなに心温まる励ましを貰えるなんて・・・」
「ばっ馬鹿言ってねぇで買い物だろッ!?ツクヨも何ニヤニヤしてんだ!!」
加減なしに殴りかかってくるツバキを宥め、一行はアイテムショップへと入っていく。中には多くの冒険者がおり賑わっている。棚には液体の入ったアイテムや現実世界の錠剤のようなカプセルに入ったもの。塗り薬やスプレー状のものまで様々な種類が取り揃えられていた。
「ひゃぁ~・・・いっぱいあって何買っていいか分からないなぁ」
「まぁ迷うのも無理もないわな。要は用途の違いや使い所の違いだろうな。戦闘中に使うものとか、戦闘後に使うもの。中には戦闘前に使うものなんかもあったりするから、持ち込めるだけ持ち込んでおきてぇよな」
「これだけいろんな種類があると、私の行きたいところの物も揃いそうですわ・・・」
人通りの多い街であるエレジアには、各国やいろんな地域から様々なものが流れ込んでくる。その為、ここだけでもそれなりにいろんなアイテムが手に入る。
故にツクヨの目的である旅の事前準備を整えるにはもってこいの場所だった。
「悩んでてもしょうがねぇから、俺が適当に見繕ってやろうか?」
旅の舞台は違えど、ツバキはウィリアムの造船所の元で海賊達の航海の準備を整えてきた経験がある。海では地上ほどアイテムや食料など、物資の補給が出来ない上に、積み込む荷物の重量も重要になってくる。
必要最低限の物を見極め、船の総重量を計算しながら余裕を持って物資を詰め込むという、意外にも大変な作業をこなしていたのがツバキだ。そんな彼であれば、地上の旅で必要な物を見繕うことなど造作もないことなのかもしれない。
その上ツクヨ達には、この世界の住人達にはない特殊な仕様であるアイテム欄などという場所を取らずにアイテムを保管できる機能も備わっている。だが勿論その仕様にも欠点はあり、先程の話にもあったように船の重量と同じく持ち運べる量には限りがある。
それこそ船のように多くを持ち運べる訳ではなく、重量に関しては個人個人のステータスによるところも大きい。力のステータスが高ければそれだけ多くを持ち運ぶことができる。
「先ずは基本的な状態異常回復のアイテムだな。リナムルでは色々やられたしな」
「そうだね。今後も何かあるといけないから、その対策をしておかないと」
基本的な状態異常とは、ゲームなどではお馴染みの状態異常である毒や麻痺、火傷や氷結などといったそれぞれの属性に由来するものもある。特にその機会が多いものとして毒があげられる。
野生の動物や虫、モンスターの多くが毒を持っている。なので、特に毒を回復するアイテムは他の状態異常を回復するアイテムに比べ、多く持ち運ぶことになるだろう。
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