World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,166 / 1,646

旅の事前準備

しおりを挟む
 「何故そう思うんだ?ミア」

 「まぁ待て。今はもう少し比べる為の材料が欲しい。まだ確信とまではいってないんでな」

 意味深に言葉を濁すミア。彼女は続けて相席となった冒険者の二人に色々な質問をした。

 一方、シンとミアが酒場で情報を集めるのを見送ったツクヨ達は、エレジアの街で次の旅の為の準備を整えていた。リナムルの戦闘では不意に襲われる事が多く、手持ちのアイテムを消費する機会が多かった。

 その中で一行が感じていたのは、状態異常に対する準備が足りなかったという事だった。咄嗟のことで前もって準備しておく事など不可能に近い事だったが、ある程度の対策はしておくべきだなとつくづく感じていたようだ。

 「リナムルであった不意打ちは、今後も警戒しなきゃいけないね」

 「警戒っつったってなぁ・・・。あれは事故みたいなもんだっただろ?なら、どうしようってんだぁ?」

 「それを皆で考えるのですよ?ツバキさん。初めから答えを求めてはいけません」

 「お!アカリちゃん、流石いい事言う!」

 「あのなぁ・・・。まぁいいや、準備ってのは確かに必要だな。獣人の兄ちゃんに盛られた薬の効果も解けてきちまって、“気配“が感じ取れなくなってきてやがる・・・」

 囚われた際に獣人族のケツァル派の派閥の者達に分け与えられた食べ物に含まれていた、獣人族の特徴を与える薬。その効果によってツクヨ達は、本家の気配感知ほどではないが周囲に近づく者の気配を感じ取れるようになっていた。

 だがそれはあくまで薬による効果であって、パッシブスキルなどのように永続的なものではない。時間経過と共にその能力は失われていき、今ではすっかり感じ取れなくなってしまった。

 「アズールがくれた巻物があるじゃない?あれがあれば・・・」

 「あのなぁ、あれは無限に使えるようなものじゃないんだ。回数はあるだろうが、何度か使えば無くなっちまう。そんな貴重なもんをおいそれと使えねぇよ」

 「そういう物なのですね、あの巻物は」

 リナムルを出発し森から旅立とうとするシン達を追いかけやって来たアズール。そんな彼が持って来た獣人族の力を授けるというスクロール。そもそもスクロールという物は、WoFでは魔法やスキルを封印し、解除することで本来魔法やそのクラスでなければ使えないようなスキルを、誰でも使えるという消耗品のアイテムだ。

 種族の特徴である能力を、他の種族が永続的に使えるようになるスクロールなど存在しない。あくまで一時的にその能力を得られるだけの物に過ぎないのだ。

 ツバキの説明により、ツクヨとアカリ達はスクロールという物についての理解を深める。そのような大事な物を、ツバキの言うようにそう簡単に使うことはできない。

 状態異常に関する事前準備は、アイテムなどの購入によりできるが、黒いコートの人物らの事もあり、彼らに求められるのはそれ以上の警戒だった。

 「消えゆく薬の効果のことを考えていても仕方がない。私達は私達にできる準備をしよう!先ずはアイテムを買い込むところからかな?」

 「そうだな、手頃なところでいくとそんなところだろ。ただ俺は雑貨屋や機械なんかがあれば見ておきてぇなぁ」

 「あ!それなら私は植物や治療関係の物が置いてある場所に行ってみたいですわ」

 「皆行きたいところがバラバラだね。でももう別行動はもう無しね!行きたいところは順番に回って行くから」

 リナムルでは様々な事情から個別にそれぞれ行動を取っていた一行。だがそれではオルレラのように誰かが事件や問題に巻き込まれ、危険な目に遭いかねない。

 シンとミアとは既に分かれてしまったが、あちらはあちらでパーティを組んでいる状態にある。何より子供であるツバキやアカリを一人にすることはできないという、ツクヨの親心がそうさせていた。

 「何だよそれぇ!?じゃぁ俺が一番先でいいよな?」

 「貴方は少し協調性を持った方がよろしいのではないですか?何でも自分が最優先はよくないですよ!皆さんの要件をまとめ、効率的に回るのがいいと思います」

 「お前もすっかり悪知恵をつけたな・・・。まぁいいか、じゃぁその要件ってのを聞こうじゃねぇか」

 三人はそれぞれの場所へ向かう理由と必要性について話し合う。一行の今後の為になる準備として、有用性の高いものを優先し、先ずはツクヨのアイテムの買い物が最優先となった。

 アイテムは使う者を問わず誰でも使え、買い足せるものという使いやすさがある。手っ取り早い対策としてこれ以上のものはないだろう。

 ツバキやアカリの要件も、それぞれ旅をする一行に大切なことではあったが、そこにはツバキやアカリなど本人が必要不可欠な場合が殆どであり、優先度としては同列であった。

 そこでツクヨは彼らに現代の決めごとを決める時に用いる手法である、ジャンケンというものを二人に教え、勝敗をつけさせた。結果としてツクヨの用事の次に決定したのは、アカリの用事だった。

 少し不服そうではあったが、勝負の結果であるのなら仕方がないと納得したツバキを連れ、三人はアイテムを買いにショップを探すこととなった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】憧れの異世界転移が現実になったのでやりたいことリストを消化したいと思います~異世界でやってみたい50のこと

Debby
ファンタジー
【完結まで投稿済みです】 山下星良(せいら)はファンタジー系の小説を読むのが大好きなお姉さん。 好きが高じて真剣に考えて作ったのが『異世界でやってみたい50のこと』のリスト。 やっぱり人生はじめからやり直す転生より、転移。 転移先の条件としては『★剣と魔法の世界に転移してみたい』は絶対に外せない。 そして今の身体じゃ体力的に異世界攻略は難しいのでちょっと若返りもお願いしたい。 更にもうひとつの条件が『★出来れば日本の乙女ゲームか物語の世界に転移してみたい(モブで)』だ。 これにはちゃんとした理由がある。必要なのは乙女ゲームの世界観のみで攻略対象とかヒロインは必要ない。 もちろんゲームに巻き込まれると面倒くさいので、ちゃんと「(モブで)」と注釈を入れることも忘れていない。 ──そして本当に転移してしまった星良は、頼もしい仲間(レアアイテムとモフモフと細マッチョ?)と共に、自身の作ったやりたいことリストを消化していくことになる。 いい年の大人が本気で考え、万全を期したハズの『異世界でやりたいことリスト』。 理想通りだったり思っていたのとちょっと違ったりするけれど、折角の異世界を楽しみたいと思います。 あなたが異世界転移するなら、リストに何を書きますか? ---------- 覗いて下さり、ありがとうございます! 10時19時投稿、全話予約投稿済みです。 5話くらいから話が動き出します? ✳(お読み下されば何のマークかはすぐに分かると思いますが)5話から出てくる話のタイトルの★は気にしないでください

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

転生貴族の異世界無双生活

guju
ファンタジー
神の手違いで死んでしまったと、突如知らされる主人公。 彼は、神から貰った力で生きていくものの、そうそう幸せは続かない。 その世界でできる色々な出来事が、主人公をどう変えて行くのか! ハーレム弱めです。

【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~ 大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。 話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。 説明口調から対話形式を増加。 伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など) 別視点内容の追加。 剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。 2021/06/27 無事に完結しました。 2021/09/10 後日談の追加を開始 2022/02/18 後日談完結しました。 2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました ★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★ ★現在三巻まで絶賛発売中!★ 「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」 苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。 トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが―― 俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ? ※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...