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神代 コウ

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繋がりの意味

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 出会った時とはガラリと印象の変わったアズール。勿論、彼自身も変わったこともあるがこれほど印象の変わった人物は初めてだった。それ故か、彼に対する思い入れもシン達の中でより深いものとなっていた。

 「ありがとう。わざわざこんな大事な物まで届けてくれて・・・」

 「不思議だな。少し前ならこんな状況など考えられなかった」

 感慨深い様子で一行の顔を一人一人見渡していくアズール。その表情は優しく、最早種族の違いなど微塵も感じさせないくらいその場の雰囲気に溶け込んでいる。

 「人間と一緒に雑談なんかしてるなんて・・・ってか?」

 「ははは、そうだな。人間とは特に相容れぬものと思っていた。そもそも一連の事件は人間の仕業だと皆思い込んでいたからな。そうした印象も強かったことだろう」

 「誤解が解けたようで何よりだぜ!今度は人を疑っても人間全体を疑うようなことはすんなよなぁ?」

 「その通りだな・・・。こんな子供に諭されるとは、俺もまだまだ未熟者だったようだ」

 「ぉおッ!?ガキ扱いしやがったかぁ!?」

 ツバキの言うように、獣人族は人間という種族全体を疑い、長年敵視し続けて来ていた。それ故にリナムルに住む者達を追い出し乗っ取ることで、物資や資材、食料などを奪い自分達の拠点としていた。

 それは人間に対する抵抗でもあった。この森に近づけばタダでは済まない。そういう噂が広まれば、不用意に人間が近づいてくることもないだろうと。だがリナムルの外では、そういった噂は大して広まっておらず、逆に珍しい木材が採れるということで、一部では注目されてしまっていた。

 運が良かったのか悪かったのか。シン達はその噂に巻き込まれて商人の馬車に乗り、今回の一件に巻き込まれていった。

 聖都ユスティーチや海上レースのような、戦力的に到底敵わぬ相手というわけではなかったが、色々な要素が重なり命を落としかねない場面も幾つもあった。

 今後もそういった“異変“によって歪んだクエストに巻き込まれることもあるかもしれない。シン達の旅に同行するということは、そういった危険な場面に何度も直面するかもしれないということだ。

 「このスクロールは、あくまで我々獣人族からの礼と街を代表としての贈り物だ。俺がお前達を追って来たのは、お前達を無事に送り出す為なんだ」

 「送り出す為?」

 「このリナムルの森は、未だ安全とは言えない。無論、モンスターが湧くということもあるが、それ以上に研究所の残党がまだその辺を彷徨いているかもしれない。俺の感知能力があれば、誰よりも早くその気配を感知し、安全なルートで森を抜ける案内ができるだろう」

 「そりゃぁ心強いな」

 アズールは一行の乗る馬車の主人に、ここからは自分も同行し森を抜けるまでの間、護衛を務めると自ら申告した。彼らにとっても地の利があり、様々な裏道を知っている獣人族、それもその一族の長であり戦闘能力も随一となるアズールが護衛をしてくれるともなれば、これ以上心強い味方もいない。

 「そういえばダラーヒムの様子はどうなった?」

 「奴なら安心していい。身体にも精神にも異常はない。数日もすれば元気になるだろうという見立てだ。本人の調子も良くなってきたようだしな。回復するまでの間、我々の元で保護し続け治療を受けてもらうつもりだ。奴も情報を俺達に教えてくれた英雄の一人だからな」

 「アイツには恩を売っておいた方がいいぜ?後々役に立つかもしれないからな」

 「役に立つ・・・?」

 「ミア!?それ以上は・・・」

 あまり素性を明かそうとしなかったダラーヒム。自分が何者でどんな理由があってリナムルへやって来たのか。それはシン達しか知らない。本当の理由を隠しやって来たのも、彼や彼の所属する組織の理念を果たす為だった。

 海賊家業や裏組織といった様々な一面を持つギャング組織の彼らは、表立って活躍することは許されない。どこまでが彼らの開示できる情報なのか。それは彼らにしかわからない。

 協力関係にある彼らの信頼を失うことも出来ない為、後のことはダラーヒムに任せる方がいいと、シンはミアを止めに入る。しかし彼女もそんなことは分かっていた。

 「ケツァルが言ってただろ?他者との繋がりってのは、いずれ自分の力になるものだった。だからこれからは、その繋がりってのを大事にしていけよ?」

 「なるほど、ケツァルがずっと俺に言っていたのは、こういう事だったのか・・・。あぁ、勿論だとも。アイツが残してくれたものを、俺は受け継いでいかなきゃな」

 再びしんみりしてしまう空気を、ツバキが茶化して場を盛り上げる。そんな他愛のない時間が過ぎていく。道中はアズールの手を借りるような事態が起こることもなく順調に進んでいき、夜明けを迎えようとする陽の光が森の間を抜け彼らの道を照らす頃、馬車はリナムルの森の終わりへと到達しようとしていた。
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