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急接近する気配
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街から離れた森の中はすっかり人の気配がしなくなり、危険性は下がったものの不気味な静けさと小さな音でも響いて聴こえるような、神経を研ぎ澄ましている感覚になる。
馬車を先導する者達や、警戒をしている冒険者がいるものの、物音がするとついつい中にいる者達までその音に反応する様子が何度もあった。調査隊の報告では獣の気配はなかったとされているが、全ての研究所の獣が滅んだという保証はない。
森の外へ向かうということで、獣人族やエルフ族の同行者はいない。それ程までの人員は割けなかったのだ。それに戦闘を行える者でもないと、帰りが危険であることは火を見るよりも明らかだろう。
すると、そんな彼らの警戒を知ってか知らずか、何やら大きな気配が一行の馬車の元へと近づいていた。
「ッ!?何か大きな気配が近づいてくるッ!!」
「何者だッ!?」
「分からない・・・。ただ、その辺のモンスターとは訳が違うぞッ!」
急に騒がしくなる外の様子に、馬車の中にいたシン達も何事かと外の様子を覗こうとする。ツバキが体勢を変え、馬車に取り付けられた窓から身を乗り出そうとしたところで、馬車を引いていた商人が正面の小窓から、乗り合わせているシン達に声を掛ける。
「皆さん、出番のようです!安全の為、馬車の進行を一時中断しますので、どうかお守り下さい!」
「なんだぁ!?例の獣の残党でも現れたってのかぁ!?」
「さぁ、分からないが乗せてもらってる務めを果たそう。アカリとツバキは馬車にいて!」
颯爽と飛び出して行ったミアとシン。それを追うように武器を手にするツクヨは、二人に馬車の中に残るよう指示する。しかし、彼らも何か力になりたいと言い出し、一緒に行かせてくれと願い出てきた。
「おい!俺も戦えるぜ!?足手まといみたいに言うなよッ!」
「私もッ・・・!戦えなくてもサポートなら出来る様になったつもりです!必ず役に立って見せます!」
「ピィィィ!!」
彼らの力強い表情とその言葉は本物だった。虚勢や不安を打ち消そうとするものではなく、本当に命を賭して戦う覚悟をしている者の目だった。だがツクヨは彼らを一緒には連れて行かなかった。
それは信頼していなかったからではない。彼らを馬車に残すのも、大事な護衛としての務めでもあったからだった。
「何言ってるの。皆んなで外に向かったら誰がこの馬車を守るんだい?」
「えっ・・・?」
「それは・・・」
ツクヨの突然の返しに混乱するような様子を見せる二人。その様子を見てどうしたのかと不思議そうに二人の表情を覗く紅葉。
「君達はここに残って馬車を守るんだ。リナムルへ向かう途中で、獣人族の襲撃を受けたのを覚えているだろ?あの時は不意を突かれて一辺に崩されたけど、今度は違う」
期待を向けるツクヨの目に、ツバキもアカリも目を輝かせながらも寄せられる期待に息を呑む。
「二人に馬車を任せるけど、私達は援護できない。大丈夫だね?」
脅しているつもりはなかったのだが、外で呼ばれているのも事実。焦る中で二人を立てながら責務を任せ、一人前賭して認めていることを強調するツクヨの言葉に、ツバキもアカリも力強く頷いた。
「よし!じゃぁ私も行ってくるから。後のことは頼んだよ!」
馬車の荷台に掛けられた布を捲り外へと飛び出していくツクヨ。しかしそこでは、動きを止めて注目を集めるミアとシンがいたのだ。身構えていたツクヨは、思っていた様子と違う現場に戸惑いながらもその場の流れを見定めていた。
「どっどう言うことだ?」
「だから違う。これは“アズール“の気配だ。敵じゃない」
ミアやシンには、僅かながらに獣人族の気配感知の能力が備わっている。これは捕らえられた際にケツァルの計らいによって与えられた、食事の中に混ぜられていた薬の効果だった。
本家のものには劣るものの、ある程度の気配なら感知することができるのだが、その能力が捕らえたのは紛れもなく獣人族の長であるアズールの気配だったのだ。
どうやら彼らの馬車に近づいてきていたのは、リナムルの街で行方をくらませていたアズールだとミアは言っているようだ。ミアの主張を助長するようにシンが同じものを感じると周りの者達に説明する。
だが、他の者達には大きな気配が近づいてくるだけで、それが何者の気配なのかなどわかるはずも無かった。
「リナムル英雄のアンタらが言うことだから、嘘じゃないんだっろうが・・・」
「それでも警戒はさせてもらう!俺達にはあれが何の気配なのか把握する術はないんだ」
「あぁ、それでいい。だが攻撃を仕掛けるのは、アタシとシンが接触した“後“だ。証明してやるから、必ずそれは守ってくれよなぁ!?」
自らの身を心配するのも無理もない。彼らは研究所の獣の恐ろしさを身をもって知っている。その速さと力は人間が一人で抑え切れるものではない。油断していると、一瞬のうちに頭を握りつぶされてしまうほどの恐怖を、彼らは今背負っているのだ。
だからこそ、そんな獣達を何体も相手にしてきたと言われるミアとシンが、今まさに彼らの元へ向かってくる大きな気配を受け止めると宣言し、彼らの気を逸らさせた。同時に、自ら発した言葉を証明すると言い、わざわざ分かり易く気配を放ちヘイトを稼いでいた。
「もう近くまで来ているぞ!」
「アンタ達を信じる。初手を引き受けてくれると言うのなら、誰も文句はないだろう」
「分かってるよ。任せておきな!」
そう言ってミアは前線へと身を乗り出し、武器も持たずに近づいてくる大きな気配を迎え撃つ。
馬車を先導する者達や、警戒をしている冒険者がいるものの、物音がするとついつい中にいる者達までその音に反応する様子が何度もあった。調査隊の報告では獣の気配はなかったとされているが、全ての研究所の獣が滅んだという保証はない。
森の外へ向かうということで、獣人族やエルフ族の同行者はいない。それ程までの人員は割けなかったのだ。それに戦闘を行える者でもないと、帰りが危険であることは火を見るよりも明らかだろう。
すると、そんな彼らの警戒を知ってか知らずか、何やら大きな気配が一行の馬車の元へと近づいていた。
「ッ!?何か大きな気配が近づいてくるッ!!」
「何者だッ!?」
「分からない・・・。ただ、その辺のモンスターとは訳が違うぞッ!」
急に騒がしくなる外の様子に、馬車の中にいたシン達も何事かと外の様子を覗こうとする。ツバキが体勢を変え、馬車に取り付けられた窓から身を乗り出そうとしたところで、馬車を引いていた商人が正面の小窓から、乗り合わせているシン達に声を掛ける。
「皆さん、出番のようです!安全の為、馬車の進行を一時中断しますので、どうかお守り下さい!」
「なんだぁ!?例の獣の残党でも現れたってのかぁ!?」
「さぁ、分からないが乗せてもらってる務めを果たそう。アカリとツバキは馬車にいて!」
颯爽と飛び出して行ったミアとシン。それを追うように武器を手にするツクヨは、二人に馬車の中に残るよう指示する。しかし、彼らも何か力になりたいと言い出し、一緒に行かせてくれと願い出てきた。
「おい!俺も戦えるぜ!?足手まといみたいに言うなよッ!」
「私もッ・・・!戦えなくてもサポートなら出来る様になったつもりです!必ず役に立って見せます!」
「ピィィィ!!」
彼らの力強い表情とその言葉は本物だった。虚勢や不安を打ち消そうとするものではなく、本当に命を賭して戦う覚悟をしている者の目だった。だがツクヨは彼らを一緒には連れて行かなかった。
それは信頼していなかったからではない。彼らを馬車に残すのも、大事な護衛としての務めでもあったからだった。
「何言ってるの。皆んなで外に向かったら誰がこの馬車を守るんだい?」
「えっ・・・?」
「それは・・・」
ツクヨの突然の返しに混乱するような様子を見せる二人。その様子を見てどうしたのかと不思議そうに二人の表情を覗く紅葉。
「君達はここに残って馬車を守るんだ。リナムルへ向かう途中で、獣人族の襲撃を受けたのを覚えているだろ?あの時は不意を突かれて一辺に崩されたけど、今度は違う」
期待を向けるツクヨの目に、ツバキもアカリも目を輝かせながらも寄せられる期待に息を呑む。
「二人に馬車を任せるけど、私達は援護できない。大丈夫だね?」
脅しているつもりはなかったのだが、外で呼ばれているのも事実。焦る中で二人を立てながら責務を任せ、一人前賭して認めていることを強調するツクヨの言葉に、ツバキもアカリも力強く頷いた。
「よし!じゃぁ私も行ってくるから。後のことは頼んだよ!」
馬車の荷台に掛けられた布を捲り外へと飛び出していくツクヨ。しかしそこでは、動きを止めて注目を集めるミアとシンがいたのだ。身構えていたツクヨは、思っていた様子と違う現場に戸惑いながらもその場の流れを見定めていた。
「どっどう言うことだ?」
「だから違う。これは“アズール“の気配だ。敵じゃない」
ミアやシンには、僅かながらに獣人族の気配感知の能力が備わっている。これは捕らえられた際にケツァルの計らいによって与えられた、食事の中に混ぜられていた薬の効果だった。
本家のものには劣るものの、ある程度の気配なら感知することができるのだが、その能力が捕らえたのは紛れもなく獣人族の長であるアズールの気配だったのだ。
どうやら彼らの馬車に近づいてきていたのは、リナムルの街で行方をくらませていたアズールだとミアは言っているようだ。ミアの主張を助長するようにシンが同じものを感じると周りの者達に説明する。
だが、他の者達には大きな気配が近づいてくるだけで、それが何者の気配なのかなどわかるはずも無かった。
「リナムル英雄のアンタらが言うことだから、嘘じゃないんだっろうが・・・」
「それでも警戒はさせてもらう!俺達にはあれが何の気配なのか把握する術はないんだ」
「あぁ、それでいい。だが攻撃を仕掛けるのは、アタシとシンが接触した“後“だ。証明してやるから、必ずそれは守ってくれよなぁ!?」
自らの身を心配するのも無理もない。彼らは研究所の獣の恐ろしさを身をもって知っている。その速さと力は人間が一人で抑え切れるものではない。油断していると、一瞬のうちに頭を握りつぶされてしまうほどの恐怖を、彼らは今背負っているのだ。
だからこそ、そんな獣達を何体も相手にしてきたと言われるミアとシンが、今まさに彼らの元へ向かってくる大きな気配を受け止めると宣言し、彼らの気を逸らさせた。同時に、自ら発した言葉を証明すると言い、わざわざ分かり易く気配を放ちヘイトを稼いでいた。
「もう近くまで来ているぞ!」
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