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神代 コウ

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もう一つの名刀

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 忙しそうに様々な人が馬車へと荷物を運んでいる。商人に集められた冒険者は道具の確認と武器の手入れを。街を出る商人達を護衛する為に派遣された獣人族も、森を出るまでの間は共について来てくれるようで、周囲への警戒にこれ以上のものはないだろう。

 そして荷物の積み込みや護衛の準備が整った商人達の馬車は、いよいよリナムルを発つ時間を迎える。多くの者達に外からの物資や応援を連れてくることを期待されながら、復興の架け橋となる希望の橋が架けられようとしていた。

 「すごい見送りだな」

 「外との繋がりを期待されているんだろうな。閉鎖的な文明では嘗ての過ちを繰り返しかねない」

 「それに色んな種族が暮らしているんじゃ、必要なものも多いだろうしね。他の国や街に応援を頼まないと。幸いにも、ここリナムルの木材は本当に不思議な性質を持っている物が多いみたいだし・・・」

 そういってツクヨは、密かに注文していたという武具を一行に見せる。

 「それは?」

 「地下の研究所にあった剣なんだけど、どうせ埋もれちゃうんだったらと思って持って来ちゃった」

 「大丈夫なのか?呪われたりしてんじゃねぇだろうなぁ?」

 冗談混じりにありそうな事を言うツバキに、ツクヨはよしてくれと内心ヒヤヒヤしながらその様変わりした剣の様子をまじまじと眺める。

 「柄がついてる・・・。あの時は刀身が剥き出しだったのに」

 「そう!でも獣人族とエルフ族、それに研究所の研究員が新しく切り盛りし始めたって言う加工屋に行ったら、柄と鞘をリナムルの特産でもある木材で拵えてくれたんだ」

 地下研究所で戦っていた際にツクヨが使っていた黒い刀身の刀。その柄には刀身に合わせたかのような黒い色素をした木材が使われていた。加工の段階で刀身に途方もない未知の魔力が込められていると知らされており、並の者ではその魔力に当てられ自らを滅ぼす恐ろしいものだと伝えられていた。

 そこでエルフ族の者が採用したのは、溢れ出る魔力を制御する性質を持つ黒い木材だった。ただ彼の話では、制御といっても限度があり、刀を使用する者への影響を抑えるだけで、刀身の方へと魔力を促すものであると説明されたそうだ。

 つまり、自身へ降り掛かる魔力の暴走の向きを刀身の方へ向けるよう加工してくれたようだ。獣人族の者はエルフ族から渡された加工の手順を元に柄と鞘を作成。研究所の研究員は、刀身自体に刀としての切れ味を保つ加工や特殊なコーティングを施したそうだ。

 ついでにメンテナンス用の薬品とリナムルの樹木から採取できるという特殊な油もいくつか渡されていた。それは研究所内でその刀を押さえ込むのに使われていたという油で、塗り込む頻度自体は高くないものの、忘れてしまうと力強い魔力というよりも不気味な魔力が刀身から溢れ出すのだという。

 「そんな物を持ち込んで大丈夫なのか!?」

 「大丈夫・・・とは断言できないけど、私が使っていた感じそんなものは一度も感じなかったんだ。それどころかこっちの、グレイスから貰った布都御魂剣によく似ている感じがするんだよ」

 「布都御魂剣といえば噂に聞く有数の名刀の内の一つだろ?そんな物と同じ感じがするって、余程の代物じゃないか」

 ミアは敢えて“日本神話に登場する刀“とは言わなかった。この世界の住人であるツバキやアカリがいる手前、彼らの聞いたことのない地名は避けるべきだと判断したのだろう。

 それを察したシンやツクヨも、互いに言葉には気をつけようという意思を持って会話を繰り広げる。

 「でもそんな物、よく持ってこれたよなぁ~。敵さんはそれの価値を知らなかったって事かぁ?」

 ツバキのいうように、普通ならそのような強力で珍しい代物を大切に保管したり強力な者に持たせていない方がおかしい。しかしその謎は、グレイスも布都御魂剣を彼らに渡した際に言っていた。

 どうやらこの世界の住人には、それらの強力な武具を扱えない場合があるのだということを。実際に、布都御魂剣はグレイスらには使いこなせず、ただの無力な刀剣でしかなかった。

 しかし、一度力に目覚めたツクヨがその一振りを使うと、とてつもなく強力で特殊な能力を発揮する凄まじい力を秘めた刀剣へと変わった。それこそ神話に名高い力を表しているかのように。

 要するに早い話が、これらの有名な武具は異世界からやって来たWoFのユーザー限定で装備できる特殊な物らしい。
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